| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

エターナルトラベラー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

外伝 シンフォギアGX編

ピッピッピと潜水艦のコンソールを弾く少女。

言わずもがな、ミライだ。

装者のメディカルデータをチェック中。

「暖かいもの、どうぞ」

「暖かいもの、どうも。あおいさん」

「それで、どうなの?」

自分のマグカップに口をつけてからあおいさんが問いかけた。

「まず、マリア、調、切歌の三人のLiNKER投与による後天的適合者の三人ですが…」

「何かあったの?」

「適合係数が大幅にアップしていますね。しかも、ここ最近LiNKERを投与していないと言うのに」

彼女達に投与されていたリンカーのレシピはウェル博士謹製のもの。彼が居ない為に製造は不可能になっていた。

「ちょっとまって、後天的と言う事は奏ちゃんと一緒と言う事。リンカーの投与なしでシンフォギアとの同調なんて…」

「出来ないはず…なんですけどねぇ…どうやら、わたしが渡した裏技がまだ生きているみたいですねぇ」

「裏技?」

「わたしが使う二重聖詠はもともとの装者の権能を用いるもの。その一部をあのフロンティア事件の時に受け渡したのですが…思いのほか相性が良かったみたいで…受け渡した力の一部が馴染んじんで変質しちゃったみたいですねぇ。彼女達の波形パターンが以前とは違いますから」

「それ、大丈夫なの?」

「さぁ?何にせよ前例がありませんからね。体に変調をきたしていませんし、バイタルも安定しています。特に害があるような物では無いとは思うのですが…」

「つまり、彼女達三人は制限時間の無い正規適合者並と言う事?」

「並と言うか、翼やクリスの以前の適合係数より高いですね」

「それは…」

「で、次は翼とクリス。この二人には肉体活性が見られますね。五感が鋭くなったり、集中力が増したり。かなりまずい傾向です」

「どうして?」

「権能に馴染みすぎてます。権能の大元は確かにまだわたしの方にあります。だけど…」

「だけど?」

「もう一度、譲渡すればおそらく…」

「おそらく…?」

ミライはそれには答えずに次いで未来のデータを出す。

「これは?」

「未来のデータです。彼女も後天的適合者でした。しかし、自らの聖遺物を取り込んだことで聖遺物が体と融合。わたしの血を取り込んでいたことにより最適化。完全に融合してしまっている」

胸の中心に神獣鏡の破片。そこから体組織全体に霊ラインを形成。聖遺物の波動は骨を伝って体全体へと流れていっていて、もはや摘出は不可能だった。

「これはまだ過渡期かと」

「どうして?」

「これです」

次に出されたのは響のデータだ。

「体の隅々まで聖遺物の擬似的霊ラインが形作られ、骨格は既に聖遺物…いえ、シンフォギアそのもの。これではまるで…」

「まるで?」

もう一枚出されたデータ。

「これは…?」

「わたしです」

「っっ…」

あおいさんが息を呑む。

見比べるとそのデータの差異が殆ど見当たらない。

「ここまで来るともう人間じゃない…寿命があるかどうかも分らない」

「そんな…」

「本来なら、…完全覚醒したわたしならどんな事になろうとも元に戻せます…だけど…」

「だけど?」

「エクリプスウィルス。これが厄介です…」

「エクリプスウィルス?」

と、あおいさんが問う。

「わたしの中で進化したこれが自身を強化するもの以外の干渉を弾こうとする。血液感染でうつる事は無いと思ってたのですが、症状が出ないだけだったのかも…もしくは彼女達が元からエクリプスウィルスに適合しやすい体質だったのか…まぁ理由は分りませんが、これの所為で干渉が難しい」

「つまり?」

「どうにも出来ません。響はどこか分っている雰囲気ですし…未来は…彼女は響に置いて行かれるのを良しとしないでしょうから」

「未来ちゃんはギアを使わなければこれ以上の進行はしないのかしら?」

「どうでしょうね…わたしの見立てでは…」

と言ってから一拍置く。

「もう、手遅れ…ですよ」


フロンティア事件はとりあえずの終息を見せたとはいえ、起こした事変の責任を誰が取るのか。

一応マリア達に指示を出していたナスターシャ博士は先の事件でフロンティアの一部事宇宙空間に漂い連絡が取れなくなっている。

彼女のメディカルデータや、その他の環境を鑑みるに生きてはいまい。

首謀者であることには違いは無い為に罪状の殆どを彼女にかぶってもらう事にした。

マリア達は反対していたが、うら若き女子の青春を牢獄で過ごせと言うのもいかなものか。

結果として彼女達の行いで世界が救われたと言う事実はあるのだから。

そして幸いな事に、彼女達が起こした変事が全て日本国内であった事が他国からの介入を極力遮断できていた。

そもそものこの事件の大本はNASAが月の公転軌道のデータを偽った事が問題だ。月の落下を知っていて手をこまねいていた米国政府。その事実を突いてやれば、そんな事実は無かったと言う事になり、逆説的にF.I.Sの暴走も無かった。そんな組織すら無いと手のひらを返したのだ。

ナスターシャ博士の遺体の回収と、先史文明期の遺産の回収をと打ち上げられた国連所属のスペースシャトル。そのシャトルが回収活動を終え帰還しようとすると、システムトラブルに見舞われ、このままでは地球の引力に引かれるままに落下してしまうと言う緊急事態が起きた。

この事態を好転させることが出来るのはシンフォギア装者達だけ。しかし、色々な法律の問題に手をこまねいていたが、ギリギリの所で許可が下りたようで、響、翼、クリスの三人が現場に急行する事に。

未来は装者としての日がまだ浅く、メディカル的にNG。成層圏での活動はミライがストップさせた。

マリア、調、切歌は今はまだ拘束中。

「ミライくんが行けなかったのが痛いな」

とスキニルブリッジの弦十郎。

ミライはブリッジでコンソールを叩いていた。

「搬入途中で装者搬送用ミサイルはあの一機だけでしたからね」

あのポッドでは三人しか乗れない。

響達はシャトルに取り付くと腰のブーツター等を燃焼させて減速させたが…初期計算の街への落下こそ免れたが、未だ山脈への激突コースだ。

「あーあ、派手にやる…」

カラコルム山渓、K2の山頂付近をシンフォギアの力で強引に切り開き、落下するシャトルを通る隙間を作った。

しかし、K2に不時着したシャトルは船体を擦りながら滑り落ちて行き…その先に有るのは小さな村。

「あちゃぁ…これはやばいか?」

「響…」

街のメインストリートをシャトルがスライドしていき…終点には大きめの建物。

「なげた…」
「なげたね…」

響がシャトルの正面に回りこみ、シンフォギアの力でシャトル全体を包み込みコーティングし強度を上げると、尖塔を支点にして放り投げたのだった。

ギリギリのところでシャトルと建物の衝突は回避され、シャトルは建物を背もたれにするように垂直に止まった。

「まったく響は…わたしの想像を軽く超えてくれるわ」

「うん、でもそれが人助けに全力の響らしい」

「そうかもね」

なんて事件が尾を引いて、特異災害対策二課は国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース『S.O.N.G.』(Squad of Nexus Guardians)として再編され、シンフォギア装者はそこに組み込まれる事になった。

英語で書かれた誓約書に目を通す。

響、未来、翼、クリスと書かれている事の意味が分らないと言った表情。

まぁ条件設定の段階で弦十郎さんがこちらの不利益になうような事は出来るだけ無いように気遣っているだろうが…

『よろしければ、こちらにサインを』

と英語で勧める国連所属の外交官。

『はっ』

と、ミライは鼻で笑ってその契約書を切り刻んだ。

「ミライ?」
「ミライちゃんっ!?」

『君はいったいなにを…』

『俺らは兵器じゃない。それを手前勝手にいいように出来るような契約書にサインなんか出来るかよ』

『くっ…』

『行動の自由及びプライバシーの確保。国家同士、または民族同士の戦争に対する非介入。災害救助も拠点から駆けつけれる範囲に限定する。また、先史文明の遺産や超常現象に関する事例に限りいかな法令も遵守しない。他にも幾つか細かく詰めますが、とりあえずこの位ですか。これが守れるならば、新しくわたしが誓約書を用意しましょう』

そう言ってミライが出した誓約書。当然、それにサインするのは国連の方だ。

『バカなっ、そんな事が認められるはずがないっ!』

外交官は大激怒。

『認めてもらってきてください。それがあなたの仕事でしょう?』

『小娘が、バカにして』

『後ろの娘達は出来ませんが。俺は世界を破壊しつくすのに七日も掛かりませんよ?』

ダンっと机を殴りつけると激昂して退出する外交官。

「よかったのか?」

と、クリス。

「いいんですよ。一度再考させるくらいで」

その後、どう言う取引があったのか分からないがミライの要望は全て通る事になった。

その裏側でミライの暗躍があったのは言うまでもない。

マリア、調、切歌はその活動に従事する事で各国の追及をかわす事に成功。割と平穏な生活を手に入れていた。

ただ、矢面に立っていたマリアの扱いだけが難しく、国連直属のスパイであったと言う建前で、国連のプロパガンダとしてアイドル活動に戻っていった。


何事も無く三ヶ月が過ぎる。

変わった事と言えば何故かミライがリディアン音楽院に編入されていた事だ。

どうやら調と切歌の編入に当たりようやくミライが未就学だと言う事実を思い出したようだ。


マンションの一室を借りる算段になって、なぜかクリスとルームシェアする事に。

だったらとフロア丸ごと借り切ろうと画策して物件を探している調と切歌もついでとばかりに同じマンションでとなるのは道理。

すると生活力が皆無な三人の面倒を見るのはミライの役目。隣の部屋の壁をぶち抜いてスイートへと改装。その改装の段階になってどうしてか反対側の壁もぶち抜かれていた。

「響…」

「だって、わたし達だけ除け者みたいで…ねぇ?未来」

「私は止めたんだよ?でも響が勝手に」

「えええっ!?」

未来の裏切り。

大所帯になったそこは一種の合宿所のよう。

「で、家事担当が全てわたしってのはどうなの?」

ぐでーとくつろぐ面々。

「いやぁ…たはは…ミライちゃんの傍にいるとどうしても…」

と響。

「ミライさんの傍にいるとどうしても安心するというか…」

「つい、甘えたくなるのデース」

調と切歌だ。

「ミライのメシが一番うまいからな」

とはクリスだ。

今日は遠くイギリスで翼とマリアの復活のコラボライブの日で、LIVEで見ようと言う約束に、クラスメイトを数人誘っていた。

「うわ、何これ、はちゅねって本当に料理が得意なんだね」

「はちゅねって呼ぶな」

変なあだ名で呼んだのはミライが編入したクラス…まぁ響と未来のクラスだが、そこのグループにミライが入る形で知り合ったクラスメイトの創生(くりよ)だ。

「でも本当…」

「やりすぎ…」

と突っ込んだのは仲良し三人組の残り二人、詩織と弓美だった。

オードブル、にぎり寿司、スイーツとブュッフェ形式で並んでいた。

「でも、本当、すごいね。どうしたのこれ?」

と未来が問いかけた。

「えっと、久しぶりに起きたあの人が…」

「ああ、あの人…」

やれやれとため息を疲れたあの人とはミライの中で眠っているアオの事だ。

普段は眠っているのだが、ミライが大きな力を使うときなどにはちょいちょい出てくるらしい。

今日、たまたまマンションに呪術的補助を入れる段になって入れ替わったようだが、その時夜のおさんどん担当になったと言う調と切歌が泣きついてきた。

彼女達の料理の腕は…カップラーメンの湯の量を調節する事に掛けては天下一品かもしれないが、家政の授業など今初めて受けているだろう彼女達の力量など押して知るべくもない。

本当はミライに泣きついたのだが、残念。入れ替わっていたアオが困りながらも暴走した結果が目の前の料理だ。

「キッチンがリフォームされているんだけど…」

と、未来。

「古代ウルクの英雄王から下賜されたものらしいです…」

「なっ!?それって、完全聖遺物てー事なのか?」

聞き捨てなら無い言葉が出てクリスが叫ぶ。

「包丁一本からキッチン全てが宝具らしいですよ」

「なんてあぶねーもんを…」

「とは言え、劣化しない、切れ味最高の調理道具には変わりない訳でして…シンフォギアに改造できる訳でもないからねぇ」

それからは楽しく翼とマリアのライブを鑑賞。

二人の歌を鑑賞した後、解散の予定だったのだが…

しかし、大きな力は大きな力を惹きつけるのか、再び事件は起ころうとしていた。

発端は横浜の災害事件。

遠地に居る翼を除き日本に居たシンフォギア装者に出動命令がくだった。

建物が立て並ぶ横浜ビル群での火災。

ヘリで現場に移動すると各人散開して救助に当たる。

「未来、大丈夫?」

「大丈夫だよ。響は心配性だな」

「でも…」

「私にも手伝わせて、響の人助け」

未来の現場介入は実はこれが初めてで、メディカルチェックでようやく落ち着いたからとミライがOKを出したのだ。

先発は響とクリス、そして浮ける未来が担当し、残りの三人は避難民の誘導に当たる。

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

二人がヘリからダイブして落下すると、その途中でギアを纏い火災現場へと走る。

「それじゃぁ、あたしも行ってくる」

と、今度は着地したヘリはクリスを降ろすと再び上空へ。

カンッカンッ

何かがヘリにあたる音がしたかと思うと突如としてヘリの舵が聞かなくなった。

「っ!?」
「なんなのデェス!?」

「二人とも、こっちっ!」

ミライは二人の手を握ると操舵師諸共にショート転移で間一髪飛び出した。

目標を余り決めずに飛び出した所為か、クリスから結構離れた所に出てしまったようだ。

辺りを見渡せばどこかの湾岸。

「状況はっ!?」

『クリスちゃんが未確認の敵性勢力と交戦中…これは…』

『ノイズだとぉ!?』

あおいさんの管制の後に弦十郎の驚きの声がイヤホンに響く。

「あらあら、今回私の出番は無いと思ってたんだけどぉ」

バシャと水流を巻き上げて現われた誰か。それは明らかに常軌を逸していた。

そのシルエットは人間の少女だが、全体的に人形のような印象を与える。

「調と切歌はクリスの所に」

バレリーナのようなポージングのまま水柱の上に立っている少女を前にしてミライが言う。

「わたしたちも」
「戦うデース」

「こっちよりもあっちが心配だよ。ノイズが出ているらしいし。お願い」

「っ…」

「わかったデス」

駆け出していく調と切歌。

「あらん、逃げられると思ってるの?」

方陣が出現し、水流が二人を襲う。が、しかし…

「Aeternus Naglfar tron」

割って入ったミライの聖詠。

ギア展開時のエネルギーを障壁代わりに弾いて見せた。

「ちぃっ、あんたに用事は無いんだけれどぉ?」

いきなり口悪くどやされた。

「そう言わずに。わたしに付き合ってくれてもいいんだよ?」

ギアが高鳴る。

両腕に光線銃型のアームドギアを装備すると少女に向けてぶっ放す。

「あはっ!残念っ」

ぶち当たった少女は水と崩れた。偽者だったらしい。

その奥から水流がミライを襲う。

それをスタイリッシュにロール回避すると光線銃で狙い撃つ。

少女はまたも水分身で幻影を作り出す。

分身と言っても質量を持ったそれは放置できない脅威だ。

着地して地面を蹴ってダイブするとまず正面の少女に四発。そのまま逆さになって両手を広げるとスラスターを調整。回転しながら乱射。水分身を吹き飛ばした。

「でもざんねんでした。これでぇっ!」

水流の撃槍がミライを直撃。かわせずに貫かれたミライ。

「あっけなーい」

「残念、わたしも偽者を作るのは得意なんだ」

ポワンと消える影分身。

「なにっ!?」

ミライは少女の真後ろから銃を突き付けて三連射。

ドンドンドンと確かに弾は貫通したのだが…

血すら出ずに多々良を踏む少女。

「やはり、人間ではないね」

「てめー、殺す、ぜってー殺すっ」

青い人形の少女は手に何か宝石みたいな物を取り出し地面にばら撒いた。

しかし、地面に付く前にミライは光線銃をフルバースト。

その全てを撃ち砕いて見せた。

「化け物めっ!」

「胴体に風穴開けてピンピンしているやつに言われたくないな」

さてと、とミライ。

「後は本部で聞かせてもらおう」

と最後通告をするミライだが、突如湾内の海水が盛り上がり巨大な何かが迫り出した。

「いいいいいいっ!?」

それは巨大な何かの上半身だ。

質量は威力とばかりに振り上げた手のひらを打ち付けるその巨人。

ミライはすぐさまスサノオを纏うと返す刀で真っ二つに振りぬいた。

ズシャーンと水しぶきを上げて海面に倒れこむ巨人。

「しまった」

と辺りを見れば青い少女の姿はどこにも無くなっていた。

巨人の回収は二課のメンバーに任せミライは本部を兼ねたスキニルブリッジへと移動。

するとそこに響とクリスの姿は無い。メディカルチェックを受けているという。

クリスは現われた敵に翻弄されてギアを壊されたらしい。響と未来も現われた敵に返り討ちにあったとか。

聞けば現場に現われた新型ノイズにやられたらしい。位相空間の中和がうまく行かず防御フィールドを抜かれた結果、胸元にあったシンフォギアのコアを破損したそうだ。

しかしそれは海を隔てた翼とマリアも襲われ同様の事態に陥ったらしい。

この事件でクリスの増援に向かった調と切歌に保護された一人の少女が敵性勢力の情報をもたらしてくれた。

エルフナインと名乗った少女は事件の首謀者であるキャロル・マールス・ディーンハイムと言う数百年を生きる錬金術師の元で作られたホムンクルスとして大掛かりの装置の建造に携わっていたらしい。

その建造物が世界を分解するものだと知るとこの危機を知らせるべく逃走、ついでにドベルグ=ダインの遺産と呼ばれる聖遺物、ダインスレイブの欠片を持ち出したらしい。

「錬金術。俄かには信じがたいが…」

と弦十郎。

ブリッジの面々の視線がミライに向く。

「なんでそこでわたしを見ますか…」

「いや…なんとなく、ミライちゃんなら説明してくれるかなぁ…なんて」

とはぐらかすあおいさん。

「まぁいいですけど…」

と言って続ける。

「錬金術の本来の意味としてのそれはいいでしょう。映像データからみて金を練成する技術ではないのは明らかです」

キャロルが放った攻撃はもはや魔法のそれだ。

「元々ある物を分解、解析して再構成。現象として置換する技術って所ですかね」

まぁ…と続けるミライ。

「魔法が使える人間と言う認識で良いかと」

「そんなんで良いの?」

「魔法と違ってその手順に方法や順序があるだけで結果が変わらないなら魔法で良いじゃないですか」

とミライ。

「それと問題はこのオートスコアラーと言うらしい自動人形と新型ノイズ…アルカ・ノイズの方でしょうね」

そう言うとミライは破損したクリスのギアを取り出して見せた。

「破損ならわたしの魔法で直ります」

と言うと一度手で隠したギアは傷ひとつ無い状態へと戻った。

「それ、どうやってるの?」

とあおいさん。

「ひみつです」

とにっこり笑って誤魔化すミライ。

「ただ、今の現状ではこちらのシンフォギアは相手の位相を中和しきれず、さらには相手の攻撃に対して余りにも無防備だ」

シンフォギアをも分解するアルカ・ノイズの攻撃にしてやられたのが先の戦いだ。

「それについてはボクから提案があります」

と保護されたエルフナインが言う。

彼女の提案とは彼女の錬金術の知識を用いシンフォギアをダインスレイフの力で強化すると言うものだ。

ダインスレイフの力で暴走を促し、それを制御する事で莫大な力を得ると言うもの。

「どう思う?」

と弦十郎。

「わたしは反対です」

「何故?ギアの改修は急務のはずだ」

「敵の目的が不明瞭だからです」

「と言うと?」

「何故敵は執拗にクリス達のギアを狙ってきたのか。別の場所で同時に襲われ、両者ともギアの破損に留まって敵が退散している。この二つが偶然とは思えない…これではまるで…」

「ギアを改修させたがっている、と?」

そう言うと視線がエルフナインへと向いた。

「そんな、ボクは…」

「わたしは君が親切心で言っているという事を否定している訳じゃないよ」

「それじゃぁ…」

「それでも、君の行動を操っている存在が居る事を疑っている。君の自由意志だとしても、ね」

「そんな…」

涙ぐむエルフナイン。

「破壊されたシンフォギア。そこに改修できる存在とダインスレイフを送り込む…」

と一人呟く弦十郎。

「しかし、こちらを強化させてどう言うつもりだ?」

「さて、それはわたしには分かりませんよ…」

ただ、と言ってミライはエルフナインに近づくと手に抱えていた小箱を取り上げた。

「あっ」

と抗議するエルフナインを無視してミライは小箱を開けた。

中に入っていた壊れた刀身の一部を引っつかむとミライは空中へと放つ。

それは見る見るうちに刀身を延ばし、鍔が現われ、持ち手が形成された。

「なっ!?」

驚きの声を上げるエルフナイン。

「魔剣の中でもランクの低いこのダインスレイフ。でも…」

ミライとエルフナインを抜かしてブリッジに居た面々に異常をきたした。

「すごい怖い顔をしていますよ」

とミライが弦十郎に言うとどうにか彼は正気を取り戻した。

「俺は…いったい…」

「ダインスレイフに魅入られましたね」

ミライは一条自身の手のひらを切るとダインスレイフに血を吸わせ、すぐさま着ていた服の上着で刀身を隠すと他の面々も上がった動悸を整えるように深呼吸。

平静が戻るまでに時間を要した。

「一度鞘から抜けば血を吸わぬ限り鞘に戻せない魔剣、ダインスレイフ。こんなもので強化したシンフォギアがどんなものになるか…」

「俺は聖遺物の欠片から復元させてしまうミライくんの方がおっかないがな…」

「あらら、警戒させてしまいましたか。でもこれはランクの低いダインスレイフだから出来た事。神が手にした神剣魔剣を復元できるかと言われれば難しいでしょうね」

出来ないとは言っていないミライだった。

「あなたはいったい…」

問いかけるエルフナインに対する答えはいつもの物だった。

「わたしは魔法使いなんだよ」

と。

「しかし、ギアの改修に別のアプローチを試みないといけないのも事実ですね…どうするか…」

少し考え込むミライ。

「シンフォギアは一つの完成されたシステムですね。しかし、聖遺物からのフィードバックに装者が傷つかないように億単位でセーフティが掛かっている」

実際に3億165万5722ものロックが施されているのだ。

エクスドライブですらこの内の幾つかが解除されただけに過ぎない。

「単純にこのロックを外せれば良いだけなのですが…わたしじゃ経験が足りないので…代わりますね」

「おい、ミライくんっ」

弦十郎の戸惑いをよそにミライは奥底に引っ込んだ。

「たく、マル投げかよ…」

「君は…アオくんだったか?ミライくんの前世の」

「前世と言うか、ミライ本人だ。まぁ人格の問題でアオと呼んでもらっても構わない」

「状況は把握しているのか?」

「程ほどに。パワーアップが急務だって事だろ?」

「あなたは誰ですか?」

とエルフナインの問いかけ。

「ミライだよ、一応ね」

「でも…」

「細かい事は後で良いだろ。面倒だがミライから託されたからね」

「何かプランがあるのか?」

と弦十郎。

「セーフティ解除されたシンフォギアが装者に扱いきれないのなら扱えるものを用意すればいいんだよ」

と言うとアオはブリッジを出る。

「ほら、そこの幼女。お前も来い」

「ボク…も?」

「俺一人じゃきついだろ。それに錬金術の知識も必要だ」

「はっはいっ!」

必要にされて表情をほころばせたエルフナインがアオに続いた。

「大丈夫なのでしょうか…」

と、あおいさん。

「今は信じるしかない…か」



アオは途中でスキニルの動力炉へと寄ると扉の外にエルフナインを待たせ中に入るとダインスレイフを突き入れた。

そこは動力炉にして聖遺物デュランダルの保管庫でもあった。

「出力ゲージは…」

デュランダルから発せられる陽のエネルギーとダインスレイフから放たれる陰のエネルギーとを合成。

初めてスキニル内の全兵装が使える状態にシフトしたようだ。

「さて、改修作業に移りますかね」

エルフナインが持ち込んだ計画はダインスレイフによる暴走の制御。

だが、ミライは暴走の完全制御に成功している。

通常時と暴走制御時のデータを見比べればどれをどれだけロックを解除すればいいかは一目瞭然だろう。

素体はスキニルからコピーしてクリス達の戦闘データを入力する。

「あの…ボクは何をすれば…」

二三日暇を持て余していたエルフナインが足をプラプラさせながらアオに問いかけた。

「順次出来上がるが…とりあえず出来上がったこれとギアを繋げてくれ」

「分りましたっ!」

ぱぁと明るい表情で受け取ると作業台に移動。ようやく役に立てると勢い勇んで作業を開始した。

イチイバルと天羽々斬の二機をまず仕上げる。

ブシューとラボラトリの扉が開く音。

「まだ終わらないの?」

入ってきたのは未来だ。

「もうちょっとって所」

とアオが答える。

「はい、これ」

と渡されたのは学校のプリントだろうか。

「家のミライの部屋に置いておいて、後でミライにやらせるから」

「そう?と言うか、ホント人格が違うのね。こうして話しているとあなたからは見かけは変わらないけれど男っぽさを感じるわ」

そう未来が言う。

「それは俺には男だと言う自覚が有るからね。…服装の関係で今はミライのままだけど」

とアオ。

「ミライは言ってないと思うけれど」

と前置きをしてアオが言葉を続けた。

「未来の体、安定していると言うのは良い事じゃない」

「…うん、何となくだけど分ってる」

「君の中の聖遺物が君の体と同化していっている。これ以上ギアを使わなければ人としての一生を迎えられるだろう…」

「うん…で、それで響は?」

「俺から謝っておくよ。彼女はもう手遅れだ。彼女の体はその骨格までもシンフォギアで形成されている。もう分離は不可能なくらいだ。こうなると彼女はもう人では無いし、彼女に寿命があるのか、歳を取るのかさえも分らない。…予想を立てるなら、おそらくどちらも無いだろうね」

「それは成長もしないし歳も取らないって事?」

「おそらくね…」

と言ってアオは困った顔をした。

「じゃああなた…ううん、ミライは?」

「彼女は俺だ。その身は既に人では無いよ。例え聖遺物が埋め込まれていなかったとしてもね」

とさびしそうに笑う。

「そう。…だったら私は、私の身に起きた奇跡を幸運だと思うわ」

「未来?」

「だって、ずっと響と…それとミライと一緒に居られると言う事でしょう?」

「それ、ミライに言ってやりなよ」

「イヤよ。恥ずかしいもの…」

未来はそう言うとプイっと横を向いてしまった。

「あなたは…どうなの?」

「俺か?…俺はこれが終わったらまた寝てるさ。あんまり可愛い女の子と仲良くなっていると次に生まれ変わったときに嫁達にぶん殴られそうだ」

「嫁…たち?あなた、何人お嫁さんがいるのよっ」

と言う未来の問いに指折り数えたのがいけなかった。

「この、女ったらしっ!」

バシンと頬にイイものを貰った。

「いったっ!」

未来はフンとそっぽを向くとラボラトリを出て行った。

「何しにきたのでしょうか?」

「さて、ね?」

エルフナインの言葉にとぼけることしか出来ないアオだった。

イチイバルと天羽々斬の改修でスキニルに閉じこもっている間に響が襲われ、ガングニールを折られてしまった。

その時のダメージで響はメディカルルームへと移送されている。

「響、無事?」

「やーやー…ご心配をお掛けしましたぁ」

次々に入室する装者の面々。

「このバカっ!なに調子ぶってんだっ」

とはクリスだ。怒っている風だが全力で心配しているのだ。

「いや、でもこの通り、すっかりさっぱり怪我は無い訳でして」

「そんなこと…」

「あるわけ無いデス…」

と調と切歌が言うが実際に響の体に外傷は見当たらない。

「どう言うこと?」

とマリア。

「まさか…ミライ…じゃなかった、アオっ!」

そう翼が振り返りざまに呼びかけ詰め寄った。

「立花の胸のガングニールはどうなっている。最近のメディカルチェックをしていたのはお前だろうっ」

と。

「まぁまぁ翼さん落ち着いて」

「落ち着けるかっ」

響がなだめるが効果は無い。

アオは観念して答えた。

「彼女の胸にガングニールの欠片はもう無いよ」

「どう言うことだっ」

「響の体内に埋まっていたガングニールは彼女と完全に溶け合って融合している。体の自然治癒能力が高いのもその為だ」

「そんな…」

とショックを受けた翼。

「立花は知っていたのか?」

「何となくですが…」

「おい、まて、それじゃあ小日向も…」

とクリスが言う。

「はい。私にも響と同種の症状が見られますからね」

「どうして…どうして黙っていたんだっ!」

「人じゃなくなったかも知れないけど、生きている事には変わりないのだし、いいかなって…」

と響。

「もう元には戻らないのか?」

「早い段階なら未来の神獣鏡の力で除去できたかもしれないが…既に不可能だ」

とアオが言った。

「立花はそれでいいのか?」

「良いんですよ。人じゃないと言うのはちょっと怖いけど、これでミライちゃんを一人にしなくて済むって考えればそんなに悲観することも無いかなって。皆忘れているかもしれないけれどミライちゃんだって融合症例なんですよ?」

「そう言えば」

「そうだったな…」

忘れていたと翼とクリス。

余りにもミライが自然体だったからだろう。

「そう言えば、ギアの改修ってどうなってるの?」

と響が話題を変えたことでこの話の追及はお流れとなった。

「エルフナインも頑張ってくれているが、イチイバルと天羽々斬はもう少しって所だな…他の改修はそれの結果を受けてと言う事になる」

とアオが答えた。

「とりあえず、てめーはそこで少し安静にしていろっ!」

と額を小突いてクリスは退出。つられるように皆戻っていった。


執拗に装者のギアを破壊して回っていたオートスコアラー達は日本の突如電力発電施設を同時に襲い始めた。

しかし、急行するよりも先にスキニルが停泊している港にも現われるオートスコアラー。

これを受けて響、未来、マリア、そして調と切歌の五人が現場に急行、対処に当たることになったのだが、旧型のギアではアルカ・ノイズに対する不利は覆らず苦戦を強いられていた。

「っ…」

「くそ、まだギアの改修は終わらねーのかよ」

モニターを見て焦れ始めたのは翼とクリスの二人だ。

「きゃっ」

「調ーっ!」

まず調のギアがアルカ・ノイズの攻撃で壊され、それを庇いに行った切歌のギアも壊された。

響と未来は表に出ているギアを壊されても聖遺物自体は体内にある為にギアが解除されるだけで済んでいたが、再度纏う隙を見つけるのが難しい。

自然、残りはマリア一人となっていた。

「まだなのかっ!」

と焦れたクリスが叫ぶ。

その時ブリッジの後ろのドアがスライドし、アオが現われた。

「ほら、お待ちどう」

「アオっ!」
「おせぇっ!」

吼える二人にギアを投げ渡した。

「あと、これを響に」

もう一つ投げ渡すのはガングニールのギアだ。

「わかった。いくぞ、雪音」

「ちょ、ちょっと待てよ、センパイっ」

翼とクリスの二人はギアを手に艦内を走っていった。

「ミライくんも…」

と呼びかける弦十郎だが、その彼女は倒れこむように中央に設置してあるソファで寝息を立てていた。

「寝てる…だと?」

「あら」

あおいさんが毛布をかけた。

「仕方ありません。彼女、改修を始めてから一睡もしていませんから…」



戦場はオートスコアラーである全体的に青い少女、ガリィ・トゥーマンと赤い少女、ミカ・ジャウカーンの二人が大立ち回り、多数のアルカ・ノイズを使役したその戦いに響たちが劣勢だった。

「くっ…ここまでだと言うの…」

ついにマリアのギアも壊された。

「マリア…」

「マリア…」

調と切歌のギアはすでに破損していて生身を現していて、しかしマリアの傍に駆け寄った。

「マリアさんっ!」

響は再び纏ったガングニールでアルカ・ノイズに攻撃を繰り返すが相手の解剖器官を前にやはり苦戦を強いられていた。

意識をマリアに取られた瞬間に延ばされたアルカ・ノイズの解剖器官。

「響っ!」

未来が響を庇う形で自身のギアで受け、しかしもたずに響のギアも分解されてしまう。

「きゃっ!?」

「未来っ!」

維持できず生身に戻った未来を支える響。

「そんな、…こんなのヤダよぉ…ミライーーーーーーっ!」

迫るアルカ・ノイズ。しかしそれらは空中からの無数の攻撃が打ち砕いた。

「あたしらじゃぁ役不足ってか?」

「ふん、仕方あるまい。お前も同じ状況では誰を叫ぶ?」

「……そりゃぁ…って、今はそんなこたーいいんだよ」

「翼さん、クリスちゃんっ!」

「遅いご登場。ちったーやれるようになってるのかしら?」

とガリィ。

「期待はずれだと街も、人も、全部解剖しちゃうぞっ」

ミカも煽る。

「ミライが、アオが打ち直してくれたこの剣、そうやすやすと折れると思うなっ!」

力強く宣言すると翼は周りのアルカ・ノイズを蹴散らし始めた。

延ばされる解剖器官に当たってもギアの分解が起こらない。

エルフナインががんばって相手の特性に合わせてプロテクターを強化したお陰だ。

「響っ」

ひょいっとペンダントを投げるクリス。

それを両腕で受け取りいぶかしむ。

「これは?」

壊されたはずのガングニールのギアだった。

「アオからのお土産だっ!」

そう言うとクリスもアルカ・ノイズの殲滅へと回る。

アルカ・ノイズを殲滅し終えると翼とクリスがミカとガリィに攻撃を加える。が、しかし…

「残念、まだまだね」

「よわっちーゾっ!」

ガリィとミカの攻撃に距離を離されてしまう翼とクリス。

「ならば受けるかっ!我らの新しい力をっ」

「どうやらあっちも準備が整ったようだしなっ!」

とクリスが言うと後方から聖詠が聞こえた。

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

響の力強い聖詠が響くと再びギアを纏う。

「未来はここで待ってて」

「ひびき…」

付いていきたい、と未来は思った。しかし、響に渡されたギアはおそらく彼らに対抗する手段を付け加えたもの。それのない今の未来では足手まといになってしまう。それが分るから未来は響を止めることは出来なかった。

「大丈夫、ちょっと行ってくるから」

そう言うと響は地面を蹴って翼たちの元へとジャンプ。

「行くか、立花、雪音」

「はいっ」

「負けっぱなしは性に合わねーからな。借りはきっちり返すタイプだ」

三人はそれぞれ見合ってから頷く。

「「「コード・イグナイト」」」

カチッと胸のギアを左右から押した。

『『『スタンバイレディ・セットアップ』』』

電子音声が流れると外されていくシンフォギアのロック。

ギアから黒い本流が迸るとギアを変形させていく。

ブーストユニットは伸びて尻尾のよう。ギアの各部も鋭さを増していった。

パリンッと黒が晴れるとそこには獣性の増したフォルムを纏った響たちがいた。

ギアから発せられる力の本流は鋭さを増してあたりへと吹き荒れる。

三人の口から歌がこぼれる。

狂暴なまでに力強い歌だ。

「ちょぉっと何それ、聞いてないんだけどぉっ」

と愚痴りながら宝石をばら撒き、大量のアルカ・ノイズを生み出すガリイ。

『大量のアルカ・ノイズの反応を検知…母艦級まで…』

空に現われた巨大なアルカ・ノイズから小型のアルカ・ノイズがばら撒かれる。

『その数三千っ』

「たかだか三千っ!」

高らかに歌う響。

拳の一突きで数十を、刀の一振りで数百を、重火器の一斉射で千を屠る。

「これは…」

「私達の意志をギアが感じ取ってくれている?」

「ちげぇ、誰かがあたしたちに合わせてくれてやがんだっ」

響、翼、クリスがギアの変化を感じていた。


「わわわっ!これってもしかしてピンチってやつぅ?」

とガリィ。

「これは、ちょっと面白い事になってきたゾ」

そうミカが呟く。

「何を遊んでいる」

戦場に転移してきた女性は紫色のローブを纏っていた。

『これは、アウフヴァッヘン波形?いえ、違います、でも…』

焦ったようなあおいさんの声。

『ダウルダヴラ・ファウストローブ…あれはキャロルです…』

その、以前のデータよりもかなり成長した姿の女性を指して、エルフナインが冷静な声で言う。

「キャロルちゃん、なの?」

と面識の有る響が問いかけた。

「なんだ、それは…」

キャロルは獣のようなフォルムのギアを纏う響達をみて言った。

「ふん、何でも良い。ガリィ、ミカ、お前達は戻れ。やつらのギアは私が直々に再び砕いて見せよう」

とファウストローブに付いていた琴を鳴らす。

ガリィとミカはキャロルに言われて転移で戻っていった。

左右に二つ、魔法陣が浮かぶとそこから水流と炎が迸る。

「友の思いのこもったギア…。防人の刀は折れぬと知れっ!」

翼が臆さず駆けると刀は嵐を纏い撃ち出された水流を切り裂き炎を掻き消した。

「何恥ずかしいセリフ言ってんだよっ!センパイっ」

クリスはプシュと赤面するとその感情の発露とばかりにミサイルが飛ぶ。

しかし、巨大なミサイルはキャロルの操るファウストローブの弦に切り裂かれ爆発した。

「友の思いなんかでぇっ!」

キャロルの魔法攻撃。

「なんかじゃないっ!」

響はたからかに宣言するとギアの出力を限界まで振り絞るとその両腕のギアを合わせた。

「思い、思われる世界をわたしは守ってみせるっ!だからっ」

右手に一つに纏まったギアが回転すると、溢れ出たフォニックゲインが炎に変換された。

「戯言をっ!」

炎を纏った響は撃ち出されるキャロルの魔法に臆さず突撃、切り裂いた。

「…ふっ」

しかし裂いた先に待っていたのは弦で編みこんだ掘削機(ドリル)

「負けない、絶対にっ!そしてどうして世界を壊そうとするのか、ちゃんと答えてもらうからっ!」

ぶつかるキャロルのドリルと響の右拳。

「はあああああっ!」

「なっ!馬鹿なッ!」

ドリルを打ち砕くと響は跳躍、バーニアを吹かし自重を入れて蹴りを叩き付けた。

「かはっ…」

衝撃に転がっていくキャロル。いつしかファウストローブの制御が出来なくなったのか分離しその体は幼女に戻っていた。

「ふふっあははっ!そうか、そうかぁ!!変わらぬ、何も変わらぬっ…あははははっ!」

「キャロルちゃん、もうやめよう…」

降り立つ響が最後通告。

「お前達はまだ何も分っていない…そのまま踊るといい、道化のように…」

「キャロルちゃんっ!?」

末期の言葉に呪いを吐くとキャロルは炎に包まれてその命を自ら絶ったのだった。




後味は悪かったが、敵のボスは亡くなり事件は解決したのか、一時平穏な時間が訪れる。

しかし、オートスコアラーを倒したわけではない。いつなんどき何があるかとシュルシャガナ、イガリマ、アガートラームの改修も忘れない。

それらを調、切歌、マリアに渡し、最後に未来にもペンダントを渡す。

「私にも?」

自分のギアはミライや響と同じく胸の内に融合している。今更ギアなど必要があるのかといぶかしんだようだ。

そしてミライも自分の胸元のペンダントを見せる。

「じゃぁ、ちょっと変わるね?」

と言うとミライの雰囲気が変わる。

「説明の為だけに呼び出すなよな…たく…」

と、二つにしていたツインアップテールをほどいたミライ。

「アオ、さん?」

「まぁ、そうだ。あのバカが説明をマル投げしやがったんでな、仕方ないから説明しよう」

と言うと幾つものウィンドウが空中に浮かんだ。

「改修したそれらのギアはインテリジェンスタイプに改修してある」

「インテリ…?」

「何かイヤな感じの言葉になったな。まぁ言葉としては一緒だが…」

と響の突っ込みに返す。

「スキニルから複写したAIを搭載し、ギアを制御する機能を与えてある」

「つまりAIが私達の戦闘補助をしてくれる、と言う事か?」

そう翼が問う。

「そうだ」

「なんだそれ、そんなの大丈夫なのか?戦闘に他人の意思が介在すると言う事だろう?」

とクリス。

「ああ。だからこれは使用者を選ぶシステムだが…」

「それでも搭載したと言う事はそれ相応のメリットが有るのよね?」

マリアが問う。

「使いこなせれば最高の相棒になる。戦闘も格段に安定するだろうよ」

「だからこそ、特訓だっ!」

いつの間にかそこに居た弦十郎が後ろから声を張り上げて宣言した。

「「「「特訓っ!?」」」」
          「デェス?」

筑波にある異端技術機構にてフロンティアから回収したナスターシャ博士の解析データを受領する任務のついでに修行をとなった。

「降り注ぐく太陽」

「突き抜ける空」

「青く透き通った海」

「白く輝く砂浜」

「目の前の鬼コーチ…」

保養所を賛美する言葉は最後の一言で崩れ去った。

筑波にあるビーチに着いてからというもの、アオが用意したトレーニングメニューをこなす装者の面々。

まずはウォームアップの走り込みから始め、今はそれぞれ砂浜に倒れこみクールダウン中だった。

青かった空が色を失っていく。

アオが封時結界を使用して空間を隔離したからだ。

「さて、体もほぐれた所で、模擬戦と行こう。ギアを纏え」

「鬼…」
「デェス…」

「何か言った?」

ニコリと言えば調と切歌の二人はぶんぶんと首を振った。

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Killiter Ichaival tron」

「Seilien coffin airget-lamh tron」

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

装者達が一斉にシンフォギアを身に纏った。

アオも胸元からクリスタルを取り出すと、一度空中に放り投げる。

落下する最中に幾つかの魔法陣を潜り、キャッチしたそれを再び掲げた。

「Aeternus Naglfar tron」

アオもギアを身に纏う。

さて、それじゃあと両腕のギアを光線銃に変えて構えるアオ。

「かかっておいで」

「七対一で戦うつもりだってのかよっ!」

と吼えたのはクリス。

「こっちは何年研鑽を積んできたと思っているんだ。生まれて二十年経ってないやつが生意気言ってるんじゃねえよ」

とアオはワザと彼女達を挑発した。

「ほう、面白い。防人の剣、どれほどか、受けてみろっ!」

と先陣を切ったのは翼だ。

手に持つ刀を振り回し、果敢に攻める翼。

アオは適度に光線銃をばら撒いて牽制。

まずは純粋に剣術から、と言う事なのだろう。放出技は使っていない。

だが、そんな攻撃がアオに通じるわけも無く…

ヒラリヒラリ、舞うように避けると肩をねじ込んで至近距離攻撃(デッドアプローチ)

「なっ!」

翼を鉄山靠(てつざんこう)で吹き飛ばす。

「翼っ!」

「翼さんっ!」

叫んだのはマリアと響だ。

「きりちゃん」

「OKデェス」

翼の次に思い切りが良かったのは調と切歌の二人。

二人はアームドギアを変化させると左右から挟撃する。

「ふっ」

まず調が幾条かのノコギリを飛ばし牽制し、それをアオが光線銃で撃ち落した所に横から切歌がその大きな鎌で斬りかかる。

「はぁっ!」

アオは地面を蹴って錐揉みするように回避すると回避しながら光線銃を連射。

目標を失った切歌の大鎌は砂浜に深々と刺さっている。

「わわっわ!?」

「きりちゃんっ」

ミライの攻撃に調がインターセプト。自身のノコギリ型のアームドギアを巨大化させ、盾代わりにして防いだ。

パラパラパラ

着地するよりも速く銃弾がアオを襲う。

クリスのバルカン砲だ。

「クリスちゃん、やりすぎだよぉ」

とは響。

「バカ、これくらいでアイツがどうにかなるかってんだっ!」

アオは宙を蹴ってバック転、銃弾を回避した。

一回、二回、三回と宙を蹴って回避する間にアオも光線銃を乱射。クリスを回避行動に移らせる。

しかし、確実に二丁の光線銃はクリスの回避行動の先を読んだように先回りされ、追い詰められていく。

「危ないっ!」

あわや直撃と言ったとき、クリスの前に一枚の鏡が現われてその光線銃の攻撃を受けきった。

未来が両腕を突き出す形でクリスを守っていたのだ。

「わりぃ、助かった」

「はいっ」

砂浜に着地すると、今度挟撃してきたのは響と翼だ。

「はっ!」
「やぁっ!」

マリアは連結刃を延ばし攻撃。

翼も巨剣を空から撃ち下ろしてアオを攻撃する。

「はぁっ!」

それを避けると三人目、影から現われた響の拳がアオへと迫る。

完全に響は銃の射程の内側に入られていた。

「ふっ!」

アオはそれを体を捻ってヒールで響の拳を撃ち落し地面を蹴ると上半身を反転させ、多々良を踏む響に頭上から光線銃を乱射した。

「ひびきーーーーーっ!」

未来の叫び声。

アオが距離を取ると粉塵が晴れる。

「なに、これ…」

粉塵が晴れたその中に、右手を突き出した響がフォニックゲインを束ね、バリアのようなもので身を守っていた。

「君のギアに搭載されたAIが自己判断で響のアームに貯蔵されたフォニックゲインを束ね、爆発、拡散して防御フィールドを張ったのだろう」

「自分の隙を埋めてくれた。守ってくれた。これが共に戦うと言う事…」

響の口角が少し上がった。

「響?」

と、未来。

「さて、しかしそろそろ体も暖まっただろう?次のステップと行こうか」

そう言うとアオは胸元のギアを左右から押した。

「コード、イグナト」

『スタンバイレディ・セットアップ』

その電子音で胸元から黒い塊が噴出し、制御されるとギアが獣性を増す。

アオのその変貌に特訓が次のステージに上がった事を誰もが悟ったようで、皆が一斉に胸元のギアを押す。

「「「「「「「コード・イグナイトっ!」」」」」」」

『『『『『『『スタンバイレディ・セットアップ』』』』』』』

それぞれのギアが凶暴性を増し、変貌を遂げていた。

「まずは貴様に剣を抜かせて見せるっ」

と鞘走る翼は、跳ね上がった機動力で刀を振るった。

それは残像を残すほど。

キィンっ!

流石にそれにはアオも堪らずと光線銃をネギに変えて受け止めた。

「舐めるなっ!」

振りぬかれる翼の刀。

「くっ…」

その段になって初めて今まで見せた事の無い、アオの刀が現われた。

パリンとネギを割って現われたのは一本の日本刀だ。しかし、所々おかしく、最大は鍔の先にリボルバーが付いている所か。

「ようやく、抜いたか…だが…」

そう言う翼は不服そうだ。

キィンキィンと一合、二合と打ち合う翼とアオ。

「マリアっ!」

「わかったわよっ!」

翼がマリアを呼ぶと、剣を持ったマリアが翼の隙を埋めるように斬りかかる。

右手の刀は翼の刀を受けている。マリアの剣を受けれる状態ではなかった。

アオは観念したかのように左手にもう一振りの日本刀を現す。

キィンと金属音が響きわたった。

「なっ!二刀流っ!?」

「ようやくかっ!」

驚くマリアと対象的に翼は嬉しそうだった。

「イグナイトで限定解除されたのか、ようやく念話機能が使えるようになったみたいだね」

「これもお前が仕組んだものなのか?」

と、刀を打ち合わせながら問いかける翼。

「まぁね。ギアにつけたAIの補助があればシンフォギア装者間ならギアの発動なしでも使えるだろうよっ!」

と言って翼とマリアを弾き飛ばした。

直後にアオは砂浜を蹴って転がった。

背後から切歌のアンカーが打ち込まれたからだ。

アンカーを避けた先にはノコギリを構える調。

キュィーーーンと回転する刃をアオは日本の刀をクロスさせて受け止めた。

「か、硬い…」

「いやいや、これ実は裏技使ってるからっ!じゃないとぽっきり逝っているからっ!」

「今デェスっ!」

正面で調のノコギリを受けている。背後から迫る切歌の攻撃、これはかわせない。

だが…

アオの尻尾の様になった腰のバーニアがカシャカシャカシャと節ができるように伸びると連結部が出来た事により自由可変可動が可能になった尻尾で叩き落とす。

「デェスっ!?」

「きりちゃんっ!?きゃぁっ」

一瞬切歌が吹き飛ばされたことで気が散ったのだろう一瞬をアオは見逃さずに調を打ち払った。

「いくぞぉ、おらぁ!」

「はいっ!」

クリスが両手に持ったクロスボウでアオに向けて大量のエネルギー矢を放つ。

当然、直射されたそれをアオは難なくかわしたわけだが、かわしたはずのそれが背後からアオを襲う。

「っ!」

アオはそれを刀で切り伏せたが、それは一本だけではなく、かわした矢全てがアオに再度向かってきているようだ。

見ればアオを取り囲むように展開された未来の無数の鏡。それがクリスのエネルギー矢を弾き返しているのだ。

「オラオラオラっ!」

撃ち出すクリスの攻撃を跳ね返す力で援護する未来。

「やりづらいっ!」

なかなか相性のいいコンビネーションだった。

反射する未来は当然の事、撃ち出すクリスの狙いも正確なことからAI補助が見て取れた。

「うまくやるっ!でもっ!」

一気に脚部に力を入れると囲いを突破しクリスへと駆ける。

「何で当たらねーんだよっ!」

距離が近づくごとに相対速度は上がっていくはずなのにクリスの攻撃を難なく避けていた。

アオが振りかぶり、振り下ろすと割り込んできた響が右手を突き出していた。

「やぁっ!」

ギィンッ

「わりぃ、助かった」

その隙に転がるように逃げるクリス。

右手の先にフォニックゲインを集中させてアオの攻撃を受けきる響。

そのこう着を上空から巨大な剣が突き刺さり双方引いたことで破られた。

「翼さんっ!」

パラパラパラ

この隙を見逃せるかとクリスが放つガトリングの弾丸を避けると剣の上に乗っていた翼が飛び降りその手に持った刀を振るう。

「はぁっ!」

ギィンギィン

ぶつかる鋼は二振り四本。

翼は両手に刀を持っていた。

「二刀かっ!」

「見よう見まねだがなっ!」

荒削りだが、その太刀筋は確かにアオに通じるものがある。根底にあるのは御神流だ。

「…なるほど、それじゃぁ!答え合わせといこうっ」

振るわれた刀を刀で返し、乱打が続く。

翼の一心不乱の攻撃に周りの援護が入れられない。

翼の攻撃は鋭さ、速さが加速度的に上昇している。

「これは…後一押しかな?」

キィン

翼の攻撃を受けてアオは確信する。

いい感じに翼の集中力が上がっていた。ならば…

アオは殺気を迸らせる。

「臆するなっ!」

「っ!!」

目にも留まらぬアオの四連撃。

「くぁ…」

翼は突き飛ばされるように後退し、その両腕の刀をへし折られてしまった。

「はぁ…はぁ…はぁ…今の…は?」

荒い息を整える翼。

しかし、それを見てアオは笑う。

「ようこそ。神速の領域へ」

「神速…?」

「集中力の極地。肉体の限界突破。修練の先にある、一つの答えだ」

刀は折れたがアオの神速での攻撃を防いで見せた翼は確かに神速の世界に入門してきたのだ。

「さあ、翼は限界を超えて見せたぞ」

他はどうなのだ?と挑発。

その後、日が暮れるまで訓練に明け暮れた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

荒い息が聞こえる。

「まぁ、良いだろ。がんばったね、お疲れさん」

アオが訓練終了を告げると皆地面に座り込んだ。

「まさか、七人がかりで善戦すら出来ないなんて…」

とマリア。

「化け物…」

「デェス…」

そう調と切歌が続ける。

息も絶え絶えに、皆ギアを解除していた。

「後は自由時間と言う事で」

「どこへ行くの?」

と、響。

「弦十郎に呼ばれてるから、ちょっと行って来る」

そう言うとアオは一人踵を返した。


スキニルのコンソールで筑波の研究所から預かってきたデータを見る。

「たく、俺はそろそろ眠りたいと言うのに…いつまでもミライを寝かしている訳にもいかんだろ」

だから普段アオはミライの中で寝ているのだ。

「それは分ってはいるが…これをどう思う?」

と現われたのは光る球体のデータ画像。

「いや、分るだろこんなの。分からん方が変じゃないか。原寸サイズに直してみろよ」

アオの見ていたそれは縮尺データだった。

「というと?」

「地球の大きさとほぼ同じだろ。と、言う事はこれは地球儀だ」

「そう言われても意味がわからん」

アオはメンドくせーと呟いて続ける。

「ガイア理論では地球も一つの生命体と考えられているだろう?生きているという事は循環するという事でも有る。と、言う事は地球も循環している。これはその流れを記録したもの、エネルギーの循環経路。レイライン。つまり…」

「龍脈かっ!?」

「だろうね」

ふあっとあくびをするアオ。




ビービーッ

スキニルの警報が鳴る。

「アルカ・ノイズの反応を感知。これは…すぐそこですっ。響ちゃんたちが交戦中。ですが…」

「どうしたっ」

と弦十郎。

「響ちゃんたち、敵勢力を圧倒しています」

そうあおいさんが言う。

『はっはっは、ちょせい、ちょせい、ちょせいっ!』

『ふっ、いかにアルカ・ノイズが居ようと今の我らの敵ではないっ!』

クリスと翼の喚起の声。

『アオさんのしごきに比べたら…』

『いかほどの事もないのデェスっ!』

調と切歌が愚痴る。

「ほ、ほう…」

『調ちゃん、切歌ちゃん、きっとアオさん通信を聞いてるよ?』

と響。

『うぇえぇええっ!?』

『や、やばいのデェス…』


『確かに、あのしごきは…』

『鬼ね…』

マリアと未来。

『ちょっとちょっと、何これ、聞いてないんだけどっ!?』

アルカ・ノイズを引き連れたガリィが悪態をついた。

「イグナイトを使いこなしてる?しかし、どうして…?」

「ランナーズハイと同じような現象が起きているね。興奮物質の過剰分泌。弦十郎さんなら感じた事あるんじゃない?何でも出来る、世界の全ては自分の思いのままと感じ取れる万能感」

「ああ…」

「今の彼女達なら、あの位の相手、敵にならないよ」

「しかし、彼女達の歌、アオくんに対する怨嗟が強すぎないか?」

共感がシンフォギアに共鳴し、彼女達の歌が互いのギアを高めあっていた。

七人の必殺技がガリィを襲う。

『一番乗りぃ…でもっこんなの許容量オーバーぁあああああっ!?』

歓喜の声を上げてガリィは爆散した。

敵を倒した響たちはばたりばたりと倒れこんむ。

「まぁ、かなり無茶をしたからか、だが…」

その顔はやりきった表情だった。

夜はやりきった彼女達の為にアオが直々にその腕を振るったBBQ。

とは言え、付け合せなどはアオがスキニルの厨房で作ったものだった。

「どうして、男のあなたがここまで料理が上手なのかしら…女の尊厳を壊さないでくれないかしら…」

「その意見には甚だ同感だ」

と、マリアと翼。

「うう、でもいつか…」

「絶対上回って見せるのデェス」

調と切歌が言う。

「あたしはそんな面倒なことはしない」

「だったらどうするのデス?」

「食べたくなったらミライの…アオの所に行けば良いだけじゃねぇか」

クリスが言う。

「それはレベル高いかも…」

と調が突っ込んだ。

「しかし、おせーな。響達」

「たしかに、花火の買い足しにしては少し遅いかも…」

クリスの言葉に調も同意した。

「お、帰って来やがった。しかし、未来がいねぇな」

タッタッタッと砂浜を走る響はBBQの現場には目もくれず走り去っていった。

「立花、何か様子がおかしかったな…」

「翼、あとは頼む」

アオはそう言ってクシの番を翼に譲ると響を追いかけた。

「お、おいっ!私はこう言うのは…きゃーーーーっ!火が、燃えてるっ!?」

何故か炎が肉を包み炎上していた。

翼の絶叫をBGMにアオは走る。

しばらく走った所で砂浜でうずくまる響を発見した。

「へいき、へっちゃら、へいき、へっちゃら…」

呪文の様に繰り返す独り言。

「全然平気そうな顔をしていないな」

うつろな顔で見上げた響はようやくアオを捉えた。

「アオ…さん?」

響はその時、何を考えたのか、どう思ったのか、頭が真っ白になっていた響は立ち上がると勢い良くアオに抱きついた。

抱きつかれたアオはそれを抱きとめることなく抱きしめると砂浜に倒れこむ。

「うあぁあああぁああぁぁぁぁ、うあぁぁぁぁぁぁああああああっ」

アオは後ろ頭をポンポンとなでるだけだった。

しばらく、響は泣き続け、ようやく観念したのか、それとも恥ずかしさからか正気に戻ったようだ。

「ああああ、あのっ!その…ごめんなさい…」

「いいさ。子供をあやすのは得意な方だ」

「子供っ!?」

「忘れているかもしれないが。俺は君達よりもずっと年上だ」

「そ、そうでしたね…」

それからしばらく響は黙ったまま、アオは根気良くその沈黙に耐えていた。

「何も聞かないんですね…」

「俺は優しくないからさ。誰も彼も救う事は出来ないし、しないんだ」

「そうなの?」

そして沈黙。

それからポツポツと響は語りだした。

「お父さんに、会ったんだ…」

と。

「二年位前に、わたしノイズに襲われて、怪我をして、奏さんのおかげでどうにか生き残る事ができたんだけど。一人生き残ったわたしに周りの人間は冷たかったんだ。それはもう、ものすごい誹謗中傷をうけた。わたしは元気になれば元通りになるって必死にリハビリをして、帰って来たそこはもう、元通りと言う訳にはいかなかったんだ」

なるほど、とアオは納得した。そして父親が居ない理由も。

「男ってさ」

とアオが言う。

「男ってさ、弱くてかっこ悪い生き物だから、困難にぶつかるとすぐ逃げてしまうんだ」

「何それ…アオさんでも?」

「ああ、俺なんかすぐに逃げるよ」

「えええぇえぇええ!?」

アオの告白がとても意外だったらしい。

「でもね、そんな俺が何とか困難に立ち向かえるのは、いつも強い女性が俺を後押しするからだ」

アオが遠くを見つめていた。

「奥さん、いっぱいいたんでしたっけ?」

「あはは…まぁね…いたたた、何でつねる?」

「何となくですっ」

「強い女性がそばにいるとさ、男は格好よくならざるを得ない。これは男の悲しい習性なんだよ。だから、まず響が強くならないと」

「強く?」

「でも、それは武力が強いって事じゃない。心も強くならなければダメだ。真に強い女性じゃないと男は見栄を張りとおせないからね」

「くすくす、なんですか?それ」

でも、と響。

「女は好きな人がいると強くなるみたいです」

そう言ってギュって抱きしめる力を強めた。

「そっか…ふぁ…じゃぁ俺は寝るわ。ミライに変わるよ」

と言うと彼の雰囲気が変わり、放つオーラがやわらかさを増した。

「もう、勝手なんだからっ!」

アオが聞いていれば勝手はお前だと言っていただろうが、どちらも本人。詮無いことだった。

「ミライちゃん…」

「響。わたしもあの人が言っている意味なんかよく分らないけれど…」

「ううん、大丈夫。伝わったよ、わたしにはちゃんと」

「そう?」

「ミライちゃんもだけど、やっぱり同一人物なんだなって思うよ、アオさんは。本当にズルイ」

「ええええ!?」



……

………

筑波での襲撃、それの撃破は成されたが、それはつまり敵はまだ活動しているという事を現実のもとした。

響の調子は表面上は元に戻ったが…


地下深くある電送線が何ものかの襲撃を受ける事件が発生した。

そんな所を襲う組織は今の所キャロル一派しか考えられず、装者達が急行する手はずとなった。

一番近くに居たのは調と切歌。そして少し離れて響だ。

ミライは一番遠くスキニル管制ブリッジで今全速力で本部ごと急行している所だ。

しかし、先に突入した響の様子がおかしい。いつもの調子が出ていない。

結果、会敵したミカに一撃を貰って戦闘不能に陥った。

「響っ!」

戦闘管制していたブリッジで叫ぶ。

ミカが強烈な炎を撃ち放ち、しかしそれを調がノコギリを巨大化、盾代わりにして防いだ。

しかし押され始める調。

「ちょっと、行ってきますね」

「ミライくん?」

ミライは宣言するとスイッチ。

フっとその姿を消した。

「ダメ、もう…」

「二人とも、がんばったな」

「「え?」」

調と切歌は居る筈の無い人影を見て驚きの声を上げた。

ドコンッと爆発、粉塵が舞う。

ミライの突き出した右手の先に幾重もの防御フィールドが構築され、爆炎を遮っていた。

「だれだ?お前は。シンフォギア装者、なのか?」

と、ミカ。

「ミライ、さん?」

「いえ、この人は…」

「まだミライは権能(けんのう)の制御は俺より上手くないからな。咄嗟では難しいからと引っ込みやがった」

「アオ、さん…でも」

「どうやってデスか?」

「こうやってだ」

そう言ったアオは高速移動ではなく、まるで瞬間移動したかのようにミカの後ろに現われまわし蹴り。

「な!?きゃわっ!」

蹴られて吹き飛ぶ赤いオートスコアラーのミカ。

「ソルっ!」

『スタンバイレディ・セットアップ』

アオが胸元から宝石を取り出すと銀色の竜鎧が現われる。その手には刀型のアームドデバイス。

「それは、そのすがたは…」

「俺がシンフォギアを使うとこいつが拗ねちゃってね」

と言って刀を持ち出したアオ。

そこには待った宝石がピコピコと抗議するように明滅した。

「でも、位相差障壁がっ!」

と調。

ヒュンヒュンヒュンとアオが刀を振るうと切り裂かれ賽の目に散るアルカ・ノイズ。

「神をも殺した事があるんだぜ?今更位相差などに遅れは取らないよ」

「銀に輝く…左腕?」

「まさか、マリアのっ!」

「アガート…ラーム…」

とは言っても、シルバーアーム・ザ・リッパーで位相差ごと切り裂くという力技だった。

「きょわっ!?人間がアルカ・ノイズを倒せるなんて聞いてないゾ!?」

といいつつ両手のひらに有る発射口から高熱のカーボンロッドを撃ち出しアオをけん制。

「それは、勉強不足だったなっ!」

アオはそれを切り裂くと中に詰まったエネルギーをも切り刻んだ。

「にょわわっ!」

そのままアオはソルを振り抜く。

それを手にしたカーボンロッドで受けるミカだが、均衡すら許さず切り裂かれた。

斬と右腕を切り裂かれたミカは不利を悟ったのか懐から小瓶を取り出し割り砕く。

「今日の所は撤退だゾっ!」

「ああっ、転移してしまうデス」

と切歌が焦ったように言う。逃がしてなるものかと思ったのだろう。

「知っているか?日本の格言にこんな物がある」

「なんデス?」

「魔王からは逃げられない…」

「「は?」」

調と切歌の間抜けな声が揃った。

パリンと転移陣がはじけ飛ぶ。

「なにっ!?」

ボテっとアスファルトに着地するミカは驚きの表情を浮かべた。

「これはやばいゾ、奥の手を使うしかないかもだゾ」

と言うと後ろにクルクルと巻いていた髪の毛からバーニアを噴射し、それに伴い出力の上がったミカがアスファルトを蹴ってカーボンロッドでアオに襲い掛かる。

「土遁・土流壁」

アオが印を組み上げて地面に両手を突くと、アスファルトを突き抜けて何枚もの巨大な土壁が現われミカの進路を塞ぐ。

「ちょ、ちょっと、それは卑怯だゾっ!」

それでも止まらずと力の限り土の壁を貫通するミカ。

「NI…NINNJAっ!?」
「DETHっ!?」

驚きのあまりキャラ崩壊をしていた調と切歌をよそに最後の土壁が破られた。

「へっ!?」

ヒュンと何かが一条通り過ぎるとミカの左腕が斬り飛ぶ。

そのままアオはミカの頭を掴むと思い切りアスファルトに叩き付けた。

ドゴンっ

「ぐもぉっ!?」

「つよい…」

「デェス…」

勝敗は付いた。しかし、最後のあがきか、ミカの内部でエネルギーが暴走を始めた。

「まさか…」

「自爆デスかっ!?」

「きゃわっもう遅いゾっ」

「邪気の無いやつは躊躇いもないかっ!」

アオは悪態を吐くと思いっきりミカの胸部に右腕をもぐりこませた。

「ぐはっ!?」

その右腕はコアを直接に握り上げ…そして支配した。

収まっていく発熱。それに伴ってミカの瞳から意思が抜けていった。

ジャラジャラとミカの懐からアルカ・ノイズを生み出す宝石が零れ落ちる。

零れ落ちたそれをアオは拾い上げ、ひと思いに砕き壊した。

「あ…」

「貴重なサンプルなのデスが…」

「解析する、と言う事は同じものが作り上げられるという事だが。必要か?」

ブンブンと首を振る二人。

「響の容態も気がかりだ。はやくメディカルルームへ」

コクリと二人は頷くと撤退を開始した。

先に行った調と切歌は見ていなかったが、ミカの体はアオが回収していたのだった。

響はそのまま検査入院となり、未来が付き添っている。

送電線の破壊から何を手に入れようとしていたのかと言う疑問は、意外と簡単に思いつかれた。

電力の優先供給先を調べていたのだろう。

優先的に電力が供給されるのは国の重要施設。しかし、これは隠された優先施設が明らかになってしまうと言う事実だった。

「と言う事でいいのかな?ミカちゃん」

「いいと思うゾっ!」

コンソールに座ったミライの膝に座っていた誰かがピコンと右手を上げてその通りと言ったのは九歳ほどの赤い髪をした少女だ。

「なっその子っ」

「オートスコアラーっ!?」

ようやくその存在に気がついたのはマリアと翼だ。

「クリスークリスー、おなかへったゾ」

「なっ!?ちっ、これでも食ってろ」

とクリスは飴玉を投げ渡した。

ガリガリと噛み砕くミカ。

「足りないゾっ!もっとっ!」

「もうねーよっ!」

「飴玉ならわたしのを上げるデス」

「きりちゃん…」

「わーい、ありがとうなんだゾ」

と言うと再びボリボリとかじっていた。

「指令っ!」

どう言うことだと翼は弦十郎に詰め寄った。

「アオくんが我々には良く分からない技術で復活させた、オートスコアラーだったミカ・ジャウカーンくんだ」

「オートスコアラー…だった?」

そうマリアが問う。

「見れば分るとおり、以前の彼女のデータと差異が大きすぎます。前者が人形チックだったと言う事実を踏まえて比べてみれば、活動が人間のそれと遜色ないレベルです。微々たる物ですが、経口摂取によるエネルギーの補給まで備えています」

答えたのはエルフナインだ。

「武装の殆どは取り払われ、両腕のギミックも見ての通り、普通の人間と変わりません」

以前の彼女は鉤爪のようだった。

「それで、なんで縮んでいるのかしら?」

とマリア。

「エネルギー消費を抑える為でしょう。もともとミカはオートスコアラーの中で一番燃費の悪い機体でしたし」

「そもそもどうやって動いているんだ?エルフナインの説明ではミカ・ジャウカーンには自身で他者の思い出を奪う機能は備わってないはずだ」

そう翼が問う。

「それは彼女に聞いた方が…」

と、視線を向けられたのはミライだ。

「わたしが供給しているんだよ」

「自身の思い出を削ってかっ!?」

そう怒鳴る翼。彼女の記憶は二年分しかない事を知っていたからだ。

「まさか、そんな事しませんよ」

と首を振って続ける。

「えっと…わたしの中にあるリンカーコアと呼ばれる器官の一部を剥離させミカちゃんのコアに移殖。その体に念字を刻んで霊的パスをつなげて自然に回り始めたリンカーコアにわたしのオーラを割譲させて輝力を合成。それを代替エネルギーに変換させているんです」

「意味がわからない…」

「その子、敵だったのよ?危険はないのかしら」

とマリアが問いかけた。

「使い魔の契約術式も使って復活させてますからね。自由意志を縛るほどにキツクしてませんが…基本、わたしの言葉に逆らえませんし、出力の問題で戦闘行為すらまともに行えません」

「哀れわたしは囚われのお人形になったのだゾ」

「ぜんぜん哀れに見えないのは気のせいだろうか…」

「ミカ・ジャウカーンに分けられたキャロルの人格は無邪気。邪気がない分考えが幼いのかもしれません」

「ほう…では先達が厳しく教育してやらねばならんと言う事か」

と翼が目をギラつかせた。

「しかし、なぜそんな危ないものを復活させたのかしら?」

「相手の目的を聞き出す為だったようだが…ここまでの処置は必要だったのか、俺にもわからん」

と弦十郎。

「それで、指令。肝心の目的とは?」

「オートスコアラーの目的は呪われた旋律の収集、だそうだ」

「呪われた旋律の…」

「収集?」

とマリアと翼。

纏めれば、まず装者のギアを壊し、それをダインスレイフの力を持って改修させ、のろいの混ざった呪歌を自身の身に受け壊される事で譜面として刻み込むと言う事らしい。

それが世界を壊す計画の内容の一部らしい。彼女達オートスコアラーも自分の役割以上の事は分らないそうだ。

「と言う事は…」

と視線がエルフナインに向かう。

「いつか、誰かが言っていた。自由意志であろうが、その行動を操っているかもしれないと。今回の事ではっきりした訳だが…」

「でも、わたしはダインスレイフでのシンフォギア強化を行っていませんっ」

とエルフナイン。

「もう、スコアは完成しているのだゾ」

「何故だっ!話では一人一人収集すると言う事ではなかったのか?」

とミカに問い詰める弦十郎。

「ガリィのヤツが一人で集めきったようなのだゾ。ガリィが爆散した時の呪歌はとてもすばらしいものだったと言う事なのだゾ」

「それは、いったいどうして…」

「コード・イグナイト…モードビーストも結局は制御されてはいますが暴走を基にしたもの。ダインスレイフが放つ闇も聖遺物由来と言う事かな」

とミライが言う。

「そんな中、最高調にアドレナリンを分泌させてハイな状態の七人が一斉にガリィに必殺技を放てば…」

「それで十分だった…と言う訳か…」

「だけど、ワールドデストラクターはまだ発動していません。譜面が揃っているだけじゃダメと言う事なのでは?」

とエルフナイン。

「どうなんだ?」

弦十郎がミカに問う。

「計画の最終段階はキャロル自らが行う計画なんだゾ」

だから知らないとミカ。

「だが、キャロルはもう…」

「キャロルの予備躯体はもう一機あるのだゾ。もうすぐ記憶のインストールが完了する頃合なのだと思うゾ」

「なんだとっ!」

吼える弦十郎。

「敵の親玉はまだ健在と言う事かよ…」

とクリスが独り言の様に締めた。

そして、調査内容から割り出した次の襲撃予測値点は二つ。

一つは異端技術の絶対封印場所として深海に設置されている深淵の竜宮と呼ばれる建物。

そしてもう一つは東京にあるレイラインの最後のくびきがある風鳴邸だ。

この事実を前に弦十郎はチームを分け装者を防衛にあてる事を決定した。

「ミライくんは…」

「あー…はいはい。霊的守護の再配置ですね」

「頼めるか?」

「と言うか、わたし以外には出来ないでしょうねぇ」

「すまん、頼む」

「頼まれたゾっ」

「お前が返事をするなっ」

とクリスがミカに突っ込んでそれぞれ行動を開始する。

ミライが要石の再建に掛かりっきりになっていると、東京都庁直上の空が割れた。

「うにゃっ?きたみたいだゾ」

「ミライさんっ!」

ミカと付き添っていた緒川さんが異変に気がつきミライを呼んだ。

「装者達、皆都庁に向かったようです」

と緒川さん。

「もうちょっと…だから…」

お願い、響…がんばってて。

「わわっ何かヤバイのが来たゾっ」

「ミカ、緒川さんこっちにっ!」

「了解したゾ」

「ミライさんっ」

光の壁が屹立して押し寄せ、触れた物を分解する。

寸での所でミライは二人を連れてジャンプ。どうにか巻き込まれずに済んだようだ。

「しかし、これは…間に合わなかったようですね…」

緒川さんがミライに付き添って補修したくさびはここ一箇所のみ。

だが…

「いえ、全部終わってますよ」

「え?」

レイラインにくびきを穿たれ、東京都庁から穿たれた滅びの光は流れきる事が出来ず逆流する。

「どうやって?」

「どうって…全部の場所に行けばいいだけですよ」

と言ってウィンクをして見せた。

都内の別の寺院にて空を見上げて呟くだれか。

「まったく、我ながら人使いが荒らい」

そう言うとその誰かはボワンと消えた。


都庁直下にて。

「何が、何が起きているっ!?」

ダウルダブラ・ファウストローブを着込んだキャロルが叫ぶ。

対峙する響たち装者の面々も戸惑い顔だ。

「わたしが再び打ち込んだ楔に行き場をなくしたその力が逆流しているんだよ」

「誰だっ!」

「ミライ、ちゃん?」

響が突然上空に現われたミライを見て言った。

「チフォージュ・シャトーが…」

キャロルが嘆くその目の前で、逆流した力で分解して果てていった。

「ああ、父から託された命題が…私の使命が…」

どれだけ彼女が嘆こうが、世界分解の阻止がS.O.N.Gの勤め。

「もうやめよう、キャロルちゃん…」

と響が憐憫の声を掛けた。しかし、それは逆効果。キャロルが激昂する。

「やめようだとっ!?数百の年月を俺はこれだけに費やしてきたのだぞっ!それをっ」

ガクリとキャロルの四肢から力が抜けた。

「…もういい…もう、目の前の全て、消えてしまえっ!」

高まった力をぶっ放すキャロル。

「響っ!」

距離が開いていた為にミライは直撃をのがれたが、響たちは真正面から受けてしまっていた。

「S2CA…ジェネレイトっエクスドラーーーーーーイブっ!」

「まったく…響は…」

ドンとフォニックゲインが渦を巻く。

「まさか、俺の放ったフォニックゲインを利用しただとっ!?」

フォニックゲインの渦が晴れると、中からはエクスドライブモードの響たちが現われた。

「みんな、無事っ!?」

と飛んで駆け寄るミライ。

「まったく、立花は無茶をする」

「えへへ、ごめんなさい」

と翼の叱責にてへへと笑う響。

「エクスドライブ。これ以上はもう…あぁ…えっと」

啖呵を切った割りに尻すぼみになるクリス。

「私達はエクスドライブモードにチェンジしたけれど…」

「ミライさんが…」

と未来と調が言う。

「はっ何を心配してやがる。このバカが一人エクスドライブに置いていかれるようなへまはしねーだろ」

と、クリスが言う。

「自前で限定解除するのは結構疲れるんだけど…」

「疲れるだけで出来るのね…」

とマリアが呆れた。


「しかし、どうやって限定解除に必要なフォニックゲインを集めるのだ?」

そう翼が問う。

「フォニックゲインとは、聖遺物に宿る呪力と大気中を漂う魔素の合成エネルギーの事」

「まて、それは理屈が通らねぇ。フォニックゲインは人間なら誰もが微量ながら持っている物だ」

と、クリス。

「この世界の人間は、先天的に小さなリンカーコア…魔素を貯蔵する器官を持つようです。ランクにすればF。魔導師とも言えない、魔法の一つも使えないくらいの小さなものです。…響たち装者はこれが他の人よりは大きいですね」

と言って続けるミライ。

「呪力とは生命エネルギーの事でもあります。これは人間なら誰でも持っている物。これが少しのきっかけで混ざり合い、共鳴したものが先日のフロンティア事件の時の大量のフォニックゲインの正体です」

では、とミライ。

「シンフォギアとは、呪力の塊である聖遺物に魔力を通し合成させ、爆発力のある第三のエネルギー、フォニックゲインへと変換した力を使う技術。ですが…」

ふっと力を抜く。

「そんな技術。わたしは…いいえ、アオと言う人物は数千年も昔に習得済みです」

「出来るなら、早くやるデス。敵さんはいつまでも待ってくれないのデス」

切歌が急かした。

ミライの背後に何かの文様が現われた。

「輝力合成。紋章を強化っ!合成した輝力を限定解除にっ」

『モード・エクスドライブ』

胸のギアから電子音が発せられるとカシャカシャカシャとミライのギアが変形する。

「コンプリートっ!」

変化を終えると何故か四方からの視線。

「な、なに…?」

「ううん、わたし達が一生懸命限定解除したのをこうもあっさりやってのけられると、ねぇ?」

「うむ…いささか理不尽を感じてならない」

「でも、ミライは理不尽の塊みたいなものですし…」

響、翼、未来が言う。

「ひどっ!ちょっと酷くないっ!?」

「いまさら奇跡などで俺を止められると思おうなっ!」

キャロルが大量の宝石を撒き散らすと大小さまざまなアルカ・ノイズが現われた。

空には母艦タイプまで現われている。

「解剖器官に特化しすぎて位相差障壁は薄い、と言う事は…」

ミライを中心に世界が色を失い、反転していく。

「これは…空間ごと位相をズラしたというのかっ!?」

「正解。わたしたちとアルカ・ノイズだけを取り込んで、世界から切り離した。本来のノイズとは違い、位相干渉能力は低いから出ることは出来ないでしょう」

「バカにしてーーーーーっ!」

キャロルの掛け声と共に母艦から大量のノイズが投下された。

一斉に解剖器官を延ばして攻撃してくるアルカ・ノイズたち。

「征くかっ」

「ええ、いきましょう」

と二人頷き合うと剣を手に突き進む翼とマリア。

「わたし達もっ」

「私達の合体攻撃を見せ付けるのデスっ!」

ギアが巨大化し、元々1柱の武器。合体すると巨大なノコギリと鋏を纏いアルカ・ノイズを切り刻む。

「それじゃ、あたしらもいくとするかっ」

「はいっ」

クリスの両腕のクロスボウが巨大化し、大口径のレーザーを照射する。

それを未来が鏡を操り反射、拡散させてアルカ・ノイズを駆逐していった。

「わっはぁ、負けてられないね」

「わたしは別に負けててもいいのだけれど…」

と言うと右手にあらわしたグングニールを響に投げ渡す。

ドドドンドドドンと何千と居たアルカ・ノイズが爆散していく。

「なぜだ、何故俺の邪魔をするっ!」

キャロルが叫ぶ。

「子供のかんしゃくで世界を壊されちゃ堪らない。しかってやるから頭をだせっ」

ミライの発言が彼女らしくなくなった。

「子供だと?数百を生きる私を子供と、その行為をかんしゃくだと言うお前は何様のつもりだっ」

「数百くらいで粋がるなよ。数千を生きてから言ってみろ」

「数百年の苦しみを子供と言うのなら、もう何もいらない、この記憶も、思い出もっ何もかもっ!だがっ」

バッと取り出した金属の破片のような小さな何か。

「せめて、目に見える範囲だけでも無に帰させようっ!」

ガンとその金属片を胸元へと埋め込んだキャロル。

「キャロルちゃん、何をっ!?」

響が叫ぶ。

「これは魔剣、グラムの欠片。この欠片にて増幅される俺の怒りの憎悪がこの世界を焼き尽くすっ!」

中央からどす黒いオーラが噴出し、キャロルを包み込んだ。

「俺の思い出の全てを焼却して燃やし尽くして力に変えて世界を壊すっ!」

ドンッと衝撃が空間を走り、支配した。

ファウストローブは闇に染まり巨大化。竪琴は巨大な唾さえと、帽子は巨大なアギトへと変わりその質量を増していく。

見る見るうちにその姿を黒い巨大な翼を持った獅子へと変貌させた。

「グラアアアアアアアアアアアアッ」

ドンッ

アギトの先に巨大な黒球が現われる。それは一目見ただけでもかなりのエネルギーを内包させているのが分るほど。

「まずいっ!」

ミライは飛び上がると聖詠をつむぐ。

「Aeternus Hrymr tron」

つむいだ聖詠がギアを変化させると、背中の羽のようなギアをパージ。四方に飛ばす。

結界に張り付いたギアが結界を強化。強固にする。

放たれたソレは新宿の街並みをことごとく破壊し、そして着弾。

「くぅっ…」

フラっと、飛行を維持しきれずに落下していくミライ。

「ミライちゃんっ!」

一番近くに居た響が駆け寄り抱きかかえた。

先ほどの砲撃が合図だったのか、他の皆が攻撃を開始した。

斬り、刻み、撃つ破っても相手の再生速度の方が速い。

「くそっ化け物かってんだよっ」

焦るクリス。

しかもその動きは巨体に似合わず俊敏だ。

クリスの巨大ミサイル攻撃もビルの影に入り込み誘爆を誘うしまつだ。

「ぐぁっ」

「きゃぁっ!」

翼、マリアと吹き飛ばされ。

「マリアっ!」

「マリアっ」

駆け寄ろうとしていた調と切歌も巨獣の尻尾が叩きつけられると巨大化したギアを削られて吹き飛ばされた。

べちょん、べちょんとアギトから漏れる黒いよだれがいつの間にか沼を作り、波紋の様に広がっていっている。

「なんだこれはっ」

パラパラとバルカンを撒くクリスの足元へと迫る黒い澱。

「だめだっ!触れるなっ!」

「クリスさんっ」

未来が横からクリスを抱えて飛び上がった。

ミライは輝力を振り絞ると印を組み上げた。

「木遁秘術・樹海降誕」

アスファルトをぶち抜いて巨木が乱立し、しなるようにして巨獣を追い掛け回し、ついに拘束。そのまま巨木が多い重なるようにして完全に拘束した。

「やったのか?」

と飛びよってきた翼が問いかけにフルフルと首を横に振った。

「あの黒い澱みは何っ!」

マリアが叫ぶように聞く。

「アレはキャロルの溢れる憎悪が呪いとなって漏れ出たもの。そんなものに普通の人間が触れたら一瞬で発狂します」

「それはシンフォギアを纏っていてもデスか?」

調と共に駆けつけた切歌が聞き返す。

「欠片程度の聖遺物じゃ飲み込まれてしまう。それに…」

「それに、なんだ?」

「適合者には聖遺物との隔たりがやはりある。触れればたちまち侵食されてしまうよ」

「なら、わたしは?」

「…私も」

「二人は…」

響や未来はミライと変わらない。完全融合者だ。

「でも、その問答はもう不要」

ミライはいつの間にか左右に剣を持っていた。金色と黒色、二振りの剣だ。

「デュランダル?」

「そっちのは何だ…おぞましい気配を感じるが…」

クリスと翼が問いかけた。

「ダインスレイフ。エルフナインが持ち込んだ欠片から復元したもの」

「それをどうするつもりだっ」

「まさかっ!」

「ネフィリムの時と同じように…」

マリア、切歌、調と声を洩らす。

「だめっ!まだあの中にはキャロルちゃんがっ!」

「何かの犠牲無しに何かを成しえる事はこの世界中どこを探しても有りはしない。これはあの人が数千年を生きて得た真実だ」

誰かの為にと差し伸べたその手の裏側で、結局誰かが泣いている。

「そんな悲しい事言っちゃだめだよミライちゃん。今回の場合はわたしがもっともーっと頑張ればまだキャロルちゃんを救えるかもしれないじゃない」

「響…私も一緒に」

響の言葉に未来が呟いた。

「けど無理。響と未来だけじゃ例え二重聖詠したとしても…お願いだから」

諦めてと言うミライの言葉は翼の言葉で遮られた。

「ならば、そこに私と雪音が入ればどうだ?」

「だから、それは例えわたしが権能を渡したとしても融合者でもなければ権能を十全に使いこなす事は出来ない」

「いつか、私はミライに問うたな。究極の選択を突きつけられてもお前は第三の選択をする、と」

「そうだけど、でも…」

「力が足りないのなら私達がいる。お前は一人じゃない。もっと私達を頼れ」

「かっこいい事いってるけれど、翼じゃ何も出来ないっ」

スパンッ

乾いた音が響き渡る。

「っ!?」

次いで唐突の翼のキス。

「わわわっ!?」

周りが慌てた声を上げる中、翼は唇をその舌で割り入り、反射的に絡めた舌を翼は歯で切りつけ、ゴクリを何かを嚥下した。

「翼、君は何をしたのかわかってるのかっ!」

「分っているとも。ミライの血液を飲み込んだ。お前の血液には強化するものを取り込む性質があるらしいな」

「でも、それは毒だっ!」

「分っているさ、常態ではただの毒だろう。だが、生命の危機には率先して宿主を生かそうとする性質がある…だから…」

そう言った翼は振り上げた拳を思いっきり振り下ろし、胸の中心のギアを叩き壊した。

パリンとギアが解除される。

「翼っ」

「翼さんっ!」

「せ、センパイっ!」

皆が一斉に声を上げた。

ドプドプと胸から血液が滴り落ち…

「あああああああああああっ!?」

ギシギシと全身が軋む音が聞こえる。

埋め込まれた聖遺物が急速に励起、体中を侵食しているのだ。

「バカ、翼っ!」

駆け寄るミライだが、それを翼の手が制した。

「もう、血も流れていない。大丈夫だ…」

「そんな訳…体が作り変えられる痛みだぞっ!それにそれは人をやめると言う事。わたしは翼を犠牲になんてしたくなんてなかったのにっ…」

「これが犠牲だと思うのか…?」

「翼…?」

「これは福音だ。おまえと、ずっと肩を並べて生きていく為のな。つまりは、愛だっ!」

「なぜそこで愛っ!?」

ミライが写輪眼で視ると、もはや手遅れ。完全になじんでしまっていた。

「ち、センパイだけにかっこいい所もっていかせるかってんだ」

「クリス?」

「やり方は分かったんだ。歯ぁ食いしばれっ!」

「クリスちゃん?」

響の制止の声も聞かずにグーパンが炸裂する。

「ぐぅ…んっ!?」

ズギューンとクリスの熱烈なキス。

ゴクリと嚥下する音が聞こえた。

入れ替わりに左右から調と切歌がミライを拘束した。

「ちょ、ちょっと?二人とも…?」

「傷が治りきらないうちに」

「え?」

「それとも、イガリマとシュルシャガナに切り刻まれたいデスか?」

「それはちょっと…と言うか、わたしの血を飲むと言う事は人間をやめるって事だよ?寿命もきっと普通の人間とは違うし、普通の恋愛も出来なくなる」

考え直そうと、ミライ。

「恋愛ならもうしてる」

「このチャンスを逃したらその人に置いていかれるかもしれないデスよ」

「それって…んっ…」

調と切歌に唇を交互に塞がれた。

「それじゃぁ…マリア…」

「マリアが最後デスよ」

パリンパリンとギアを打ち砕き解除した二人が言う。

「私は、あなたが聖遺物をその体に埋め込まれていく所をモニターで見ていた」

「え?」

もう六年も前の話よ、とマリア。

「記憶を無くす前のあなたに私はとても懐いていて、セレナと二人でどちらがお嫁さんになるんだって喧嘩ばかりしていた。でも、あなたはあの実験で暴走。私達の手を振り切って逃亡してしまった…」

そして、と。

「再び出会ったあなたは、もう以前のあなたでは無かったけれど、きっと魂の形が一緒なのね。…だから…」

ぐっとマリアはミライの体に抱きつくと鯖を折るように力いっぱい抱きしめその唇を奪う。

「今度は絶対に離れないわっ」

バリンと自分のギアを打ち壊すマリア。

「みんな、バカばっかだよ…」

「うん、でもそれはミライちゃんだからみんなバカになれるんだよ」

と言ってにははと響は笑った。

再び纏ったギアはエクスドライブの上に権能の二重詠唱。

「これで本当に打ち止め、限界駆動って事だっ」

と吼えるクリス。

目の前の黒い澱みは樹海を侵食、焼き尽くし焦土に変えていた。

「来る…」

「グラアアアアアアアアアアアっ!」

咆哮が一面の空気を揺るがすと樹木は吹き飛ばされ中から凶獣が現われた。その姿は多頭多尾。色々な動物が交反対側にじり合う終焉の獣だった。

「トライヘキサとでも言おうかな」

「何をのんきな…」

と未来が呆れた。

更に黒いよどみから現われる多種多様な生き物達。それは神話に出てくる悪魔のよう。

「あれは呪いが形を持った、動く呪い。殺戮の権化そのもの…」

「つまり?」

と翼が問う。

「遠慮は要らない。ぶっ飛ばしてっ」

「そう言う分りやすいのを待ってたっ!」

クリスがトリガーハッピーばりに銃を、ミサイルを乱射する。

「きりちゃん」

「調、いくのデスっ」

調と切歌が呪いを切り裂いていく。

撒き散らかされる呪いより、彼女達に分け与えた権能の方が呪力が強い。光り輝くシンフォギアの輝きがキャロルの呪いを真っ向から跳ね返していた。

「キャロルちゃんを助ける為にはどうしたらいいのっ!?」

と響。

「わたしはここから動けない」

ミライは足元に巨大な船を作り出すとデュランダルとダインスレイフを格納した。

「エネルギーの集束と、結界の維持が限界。だからっ」

だからっ!

「まっすぐに、最短で、全ての障害物を切り伏せ、降し、排除してあのトライヘキサに風穴をあけて助け出せっ!キャロルは獣の心臓部にいるはずだっ」

「なるほど、確かに分りやすいっ!」

響が駆け出す。

「響が槍なら私は盾。この船は絶対に死守してみせる」

と未来が力強く宣言すると鏡で船体を覆った。

「マリアっ」

「ええ、わかっているわ」

翼とマリアが剣を横に一振りすると暴風と閃光が駆け抜け、一瞬相手の動きが止まる。

「「はあああああああああああああああああっ!」」

ギンギンギン

二人の持つ刀と剣が巨大化。

振り下ろされるとクロスするようにトライヘキサを襲う。

グルンと地面に零れ落ちていた呪いの澱を球体に流動させて防御するが、振り下ろされた刃の日本が吹き飛ばし、それに留まらず本体の一部をもぎ取った。

「ギャオオオオオオオ」

苦しそうにいななくトライヘキサ。

「調っ」

「うん、きりちゃん」

怯んだ一瞬に切歌がアンカーを射出、その体を拘束し反対側で受け取った調と共にその巨体を止め置く。

「ザコの露払いはしてやるっ!」

ドドンドドンとクリスはもてる全ての重火器でフルバースト。響の道を削り開ける。

「あああああああっ!」

翼が、マリアが、調が、切歌がそしてクリスが切り開いた道を一直線に突き進む響。

「グラララララララッ」

ドンとアギトの前に黒球を現し撃ちだすトライヘキサ。

「わあああああああああああっ!」

響はその黒球に臆さずに右腕を突き出した。

「みな、立花に力をっ!」

と言う響の声で利き手を突き出すとギアがパージして響を覆い、巨大化。

「なぜ止まらぬ、なぜ一直線に俺の所へと向かってくる…お前は…お前はいったい何だ、何なんだっ!」

キャロルが堪らず絶叫。

「認めない、認めない、こんな結末、奇跡などと…認めるもかーーーーーーーっ!」

思い出の全てを焼却し、力に、そして呪いに変化させるキャロル。

「奇跡なんかじゃないっ!我がままなわたしに皆が力をくれるっ、最短で、最速で、一直線に向かえと。だから今の私は…体も、心も、全てっ…」

衝突したトライヘキサの攻撃と響の突撃の均衡が崩れる。

「必中っガングニーーーーールだあああああああっ!」

一振りの巨大な槍となって黒球を切り裂き、その刃はトライヘキサを貫いた。

トライヘキサの体を貫通して空中で止まった響の腕の中には幼女にまで戻ったキャロルが気絶していた。

心臓部(キャロル)を穿っても形成された呪いの澱みは塞がらない。

むしろくびきをなくして暴走を始めた。

「みんな、どいてっ!」

と言うミライの言葉に一斉に離れ、ミライの後ろまで飛んでくる。

ミライの前に二つのキューブが浮かぶ。

「最終セーフティ、解除」

二つのキューブが赤く染まった。

「対消滅砲、D×D…発射っ!」

ドウッと白と黒の光が左右の砲塔から発せられると混じりあり錐揉みじょうに螺旋を描くとトライヘキサを貫通。収縮して爆散した。



……

………

ピッピッピとスキニルのコンソールを弾くミライ。

「あたたかいもの、どうぞ」

「あたたかいものどうも、あおいさん」

「それ、魔法少女事変(アルケミックカルト)の事件報告ファイル?」

ミライの開いていたファイルを流し読みしたあおいが問いかけた。

「世界の崩壊を企てていたキャロル・マールス・ディーンハイムは先の事件で死亡。かくして事件は誰の責任かを追及されることも無く…」

カシュっとブリッジの扉が開いて小さな人影が走り入る。

「こ、こらっ!廊下は走ってはいけないのだゾ?」

と後ろから赤い髪の少女が静止する声も聞かずにその誰かはミライに飛びついた。

「パパっ!」

「キャロル…わたしは女性でパパじゃないと何回も言ってるのだけど…」

「……?」

不思議な表情で首をかしげるのはあの事件の首謀者たるキャロルだった。

「思い出のほぼ全てを焼却、力に練成した反動で今のキャロルちゃんには思い出と言う記憶が何にも無い状態だものね…そんな彼女に罪を問える訳がない…」

とアオイさん。

「人としては完全に死んでいましたからね。助け出されたキャロルは歩く事も、考える事も何もかも出来ない状態でしたし」

外装は無事でもそれを動かす基盤が壊れハードディスクも初期化されたパソコンみたいなものだ。

「エルフナインちゃんから思い出の複写技術を用いて最低限人間の生活が出来る程度の記録をインストールしただけの状態ですからね。キャロル自身は何も覚えていませんし、知りませんよ」

「う?」

さわりとキャロルの髪をなでる。

「あ、ずるいゾっ!わたしもなでてほしいゾっ」

と言ってミカも頭を突き出した。

「はいはい」

と言って二人の頭を撫でているとゾロゾロと響達とエルフナインが入ってきた。

「ああっ!?またミライちゃんが二人をかどわかしているよっ!」

「かどわっ…響、変な事言わないでよ…」

「でも事実じゃない」

と未来が冷たく言う。

「いや、これは多分あの人の呪いだよ」

「呪い、だと?」

と翼。

「そう、あの(アオ)はどう言う訳か幼女に好かれる特技を持っていたからね。まあ好かれるというか憑かれるというか…」

「どんな特技だよ…」

そうクリスが嘆息する。

「得意技は光源氏。あぁ自分で言っていて最低ですね…」

「ヒカルゲンジって何?」

生粋のアメリカ人のマリアは分らずと首をかしげる。

「きりちゃん、知ってる?」

「F.I.Sに居た私達が日本の慣用句なんて知る分けないのデス」

調と切歌もハテナ顔。

「なっ…」

実は頭の良いクリスはその言葉自体は知らなかったが、光源氏の物語を思い出して赤面した。

「っ…」

響と未来はどうやら知っていたようでほのく赤い。

「ヒカルゲンジー?」

「……?」

ミカとキャロルは全く分らないと言う顔を浮かべる。

知らない者の視線が一番年長のあおいさんに向くのは仕方が無い事だ。

「えっと…その…そのね?…うーんと…簡単に言えば…」

と前置きを大きく取って続ける。

「可愛い女の子を自分好みに育て上げて、結局自分のものにしてしまう現代日本の隠語の一つなのよ…」

それを聞いてミカとキャロル以外の面々は赤面。

「ヘンタイっ!」

マリアが代表したかのよう非難した。

「あはは…言われてもしょうがないほど彼の奥さん達を思い出すと…ですねぇ…」

「たち?」

「あはは…どうせ、責められるのはわたしじゃ有りませんし白状すると、あの人の奥さんの数は片手じゃ足りません」

「なっ!?」

その言葉に皆絶句する。

「この浮気者がっ!」

「はうっ!?」

翼のデコピンをミカとキャロルを抱えている為に避けること叶わず。

「そんなに奥さんがいて、奥さんどうし喧嘩しなかったの?」

と未来。

「さあ?」

「さぁって…」

「だって、それはあの人の主観ですからね。当事者同士がどう思っていたかなんて分りませんよ。ただ…」

「ただ?」

「家族、ですからね」

と言うミライの言葉に未来とあおいさん以外が顔を曇らせた。

他の誰一人として家庭環境が充足しているとは言いがたい生き方をしてきたからだ。

「まぁあの人の話はここまでにして、響たちの現状の報告と行きましょう」

とミライは話を変えた。

コンソールを弄りモニターに映し出されたのはそれぞれのパーソナルデータ。

比較するとそれぞれに誤差は少数しか確認されないが…

「正しく異常な状態です」

はぁとミライがため息を吐く。

「聖遺物の欠片は既に完全融合して消え果て、骨格がシンフォギアそのものとなっている。更に体全体にパスが形成され細胞一つ一つが…」

「ごめん、ミライちゃん…簡単に言って?」

と、響。

「人を超越した何か。聖遺物が欠片になっても劣化していない事を考えればおそらく寿命も無い。ついでに今のわたしでは元に戻す事は不可能。これはわたしの血の中にあったウィルスのせい」

「ふーん」

「え?感想それだけ?」

「つまりそれってミライちゃんを一人にしなくてもいいって事でしょ?」

と響。

「そうだな、お前一人が皆に置いて行かれる宿命を背負わせる訳にもいくまい」

翼が言う。

「一人ぼっちの苦しみは知っているからな…」

とクリス。

「あなたが皆を気に掛けてくれているのと同じように」

「私達もあなたを気にかけているのデス」

調と切歌。

「観念しなさいよね。こんなに大勢から思われているのだから」

とマリア。

「みんな…」

「でも、正妻は私です」

だが、最後に未来が爆弾を投下。

「ええええっ!?」

驚く響。

「小日向、それについては向こうで話し合おうか」

翼が剣呑な表情で言う。

「構いませんよ。でも私、譲りませんからね」

「あ、おい、ちょっと待てよ二人ともっ」

「あああ、二人とも落ち着いてっ」

と言ってクリスと響が行く。

「調は行かないのデス?」

「わたしはこの隙を逃すつもりは…」

と言ってミライに近づこうとして…

「ほら、私達も行くわよっ、乗り遅れると後でどうなる事か」

マリアが切歌と調を連れて行く。

「セーサイってなんだ?」

「たべもの…かな?」

「二人はしばらくそのままでいて…」

ミライは疲れた顔をしてしばらく二人に癒されていたのだった。 
 

 
後書き
と言う訳でGX編終了です。書きたいもの、やりたかった物は実は大方無印とG編で回収してるんですよねぇ…
原作も無印からGXまでで、暴走→絶唱→エクスドライブで巨獣討伐と言う風に完全にパターン化してますしねぇ…
で、やはりスルーされているウェル博士…入れるところが無かったんです。GXの彼大好きなんですけどね?
今回は二課メインルートでの話でした。二次小説では一番多い所でしょう。後は横道にそれたりFISに居たりとかでしょうか。本来変化球な話が多いこの作品、だけどシンフォギア二次って余り見かけませんしねぇ…と言う訳で今回はこんな感じに。
しかし、シンフォギア名言の一つ、「なぜそこで愛っ!?」が使えたから満足です。
外伝ミライ編は…次はシンフォギア四期が終わってからですかね?もしくは何かとクロスか…まぁいつもの如く全く書いてもいないんですけどね…
シンフォギア三期を見終わった勢いのまま書き上げたので完全燃焼中です。次はいつになるやら…
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧