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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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喪失-ロスト-part3/閃光の背信

作戦会議はルイズとワルドの結婚式の後に執り行うことになった。それが決まり次第、サウスゴータの拠点にて待っている友軍と合流し敵との決戦に臨む。これが今のところの王軍の方針だった。
とはいえ、進軍と作戦会議の準備の関係や、さすがに5000もの兵が全員参加できるほど教会は広くないのであまり出席者は多くない。炎の空賊団も軍備の手伝いの関係上、一人も出席していなかった。結婚式でいきなり刃を向けてくるような野暮な奴はいないだろうと、グレンもウェールズの身に万が一のことはないだろうと思って、軍備の方に向かったため参加しなかった。
「大使、ラ・ヴァリエール嬢とワルド子爵の結婚式か。今日の決戦の舞台を前にこのような晴れ舞台を目にするとは、死んでも悔いなしというものですな」
「これこれ、我々は叛徒たちからこの国を取り戻すべく戦っているのだ。いきなり死んだときのことを考えるものじゃないぞ」
出席者たちは早く始まらないかと、たまらずわくわくしていた。
サイトは、昨日ルイズに叩かれた頬の痛みをこらえたまま出席した。内心では、昨日彼女のぶたれた理由がわからず不満に近いもどかしさを抱いていた。ルイズとワルドが結ばれると言う現実を見ることにどうしてかあまりいい気分じゃなかった。念のためだが、デルフも持参している。刃物をこのようなめでたい儀式に持ち込むのは本当はいけないことなのだが、使い魔は主を守るのが務めだからとウェールズから特別に許可をもらったのだ。
「本当にこれでよかったのかい、相棒?」
小声で、デルフがサイトに話しかけてきた。いいのかって?そんなの答えは決まっているじゃないか。
「いいに決まってるだろ、大人しくしとけ、皆」
静かにしろと、鞘に無理やりデルフを仕舞い込み、黙らせた。
「だめよ、ものは大切にしなきゃ。ましてや心を持ってる剣なんだからなおさらよ?」
横からキュルケがサイトに忠告を入れてきた。彼女と同様この旅に半ば無理やり同行してきたギーシュとタバサもまたこの結婚式に同席していたのである。
「ふむ、ルイズの花嫁衣裳か。僕もいつか素敵なレディとこのような舞台に立つために、日々精進しなくては!」
一人意気込むギーシュと、いつも通り本を静かに読み続けているタバサ。ギーシュ、頼むから騒ぐなよ?それとタバサ、式中では本は閉じとけ。心の中でサイトは二人に注意した。
「でも、デルフリンガーじゃないけど…ダーリン、あたしも本当によかったのか疑問だわ」
「なんでだよ?ルイズって、あいつとは婚約者同士で、ワルドのこと昔から好きだっただろ?」
突然デルフと同じことを言ってきたキュルケに対し、サイトは何を言っているんだと首を傾げた。
「…いえ、それはないわね」
「え?」
「この経験ある『微熱』のツェルプストーから見れば、あの子はワルドに恋をしているとは思えないわね。ただの憧れ。それは恋や愛とは全くの別物よ。それに、あたしとしてはこの結婚は勧められないわね」
「どうしてだい?あのワルド子爵だぞ。魔法衛士隊グリフォン隊隊長にして『閃光』の二つ名を持つワルド子爵。女性からすれば、あのような殿方を結婚できるルイズは幸せ者じゃないか」
サイトと同様、意味がが分からないとギーシュが言ったが、キュルケはこれだから…と呆れたようにため息を漏らした。
「そもそも、あの男の目は情熱を知らない、冷たい氷のようなものよ。あんな奴から歯の浮く言葉を聞いたところで、全然燃えてこないわね。そんなのにまんまと引っかかるルイズや、結婚を勧めたヴァリエール家の連中も、相変わらず男を見る目がないわね」
それはキュルケの価値観から見てのことじゃないのか?とサイトとギーシュは突っ込みたくなる。
「って、あたしが聞きたいのはルイズのことじゃないの、ダーリンのことよ」
キュルケは自分の隣に座るサイトを見て言った。その目は、決しておどけた目つきじゃなかった。一人の人間としてまっとうな言葉を待っている目立った。
「ダーリンは、ルイズとワルドが結婚しても言いわけ?」
「…いいって言ってんだろ。もうすぐ式が始まるんだから大人しくしとけよ」
あ、そう…。そう言ってキュルケはサイトに何も言わなくなった。
教会内にてウェールズは王家の紫色のマントを羽織り始祖ブリミル像の前に立っていた。
すると礼拝堂の扉が開かれ此度の新郎と新婦、ワルドとルイズがその姿を見せた。ワルドは変わらず魔法衛士隊の服装だたが、ルイズはアルビオン王家から借りた純白のマントと、白い花とレースのあしらえた冠を身に纏っていた。
綺麗だ…。舞踏会の時と同じようにサイトはそう思った。あの時の、本当に綺麗なお嬢様としての姿を見せたルイズに目を奪われてしまったものだ。
でも、彼女の今の姿は、ワルドのためにあしらえたもの。そう考えると、どうしてかあまり穏やかな気持ちではいられなかった。



二人がウェールズの前まで歩いてくると、ワルドはウェールズに一礼した。
「ではこの私、ウェールズ・テューダーが始祖ブリミルの名において詔を唱えさせて頂く」
二人の結婚式はついに始まった。ウェールズとしては、愛するアンリエッタの友人をこうして祝福できることを嬉しく思っていた。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
一方で、ウェールズが詔を読み上げるなか、ルイズは上の空だった。憧れの人との結婚。自分と彼の父親たちに決めてもらった、幼い頃ろからの結婚の約束。心のどこかで思い描いていた未来が現実になろうとしている。
(それなのに、どうしてこんなに気持ちが沈んでいるの…?)
湧き上がる疑問に、彼女はその理由を求めた。ワルドは確かに優しくて強い。嫌いじゃないし、結婚する相手としては決して悪い人間じゃない…そのはずなのに…。
もしかしたら、今式場にいる王軍の人たちが死に向かうかもしれないから?…いや、違う。それもあるかもしれないけど、そうじゃない。
サイトは、どうして自分が結婚すると聞いても、ただ「おめでとう」の一言しか言ってこなかった?…わかっている。自分はご主人様でサイトはあくまで使い魔だ。その関係を押し付けるだけ押し付けていた。だからサイトが昨日、自分とワルドが結婚してもいいのか?とサイトに言っても、自分は使い魔でワルドは婚約者なのだと、すでに分かっていることを言ってきた。
どうして、ワルドと結婚してもいいのか?なんて、そんな言葉を口にしたのだろうか。

…そうだ、止めてほしかったのだ。サイトに。どうしてか?

その理由に気づいて、ルイズは顔を赤らめた。
これまで、サイトは自分のために、目の前の危機に果敢に立ち向かっていた。学院が謎の円盤から攻撃を受けたときは逃げ遅れた人を助けに火中に飛び込み、フーケ事件の時は、怪獣にやられそうになった自分を助けてくれた。貴族がなんだ、死んだらお終いだろと言っているくせに、自ら危険の中に飛び込む。その理由は、誇りとか名誉のためじゃないのはわかる。それは……サイトには強い正義感と優しさが備わっているから。それ故に他の誰かが傷ついて行くのを見たくなかった。だから、自分は彼に助けられてきた。普段は犬だの使い魔だのと罵倒している一方で、ルイズはサイトの戦う姿を記憶に焼き付け、その戦う姿の根源たる心を知った。
だからだろうか?自分が昨日、サイトの胸に飛び込んだのは。

(私は…本当はサイトのことを…?)

「………ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とする事を誓いますか」
ルイズはハッとした。いつの間にか式は誓いの言葉を口にする段階まで進んでいた。ウェールズがルイズに誓いの言葉への返答を尋ねる。だが、ルイズは俯いたまま答えない。

そのためか、この結婚式の出席者たちもいったいどうしたのだろうとざわつき始めた。サイトたちも立ち上がって様子がおかしいルイズたちを見た。
「一体どうしたんだねルイズは?」
ギーシュが思わず声を漏らす。一方でキュルケは目つきを変えてルイズたちを見ていた。その真剣な眼差しに、何か鋭いものをその目に宿していた。
(ルイズ、一体どうしたんだ?)
ふと、サイトは自分の身に異変を感じた。違和感を感じたのは左目だ。
「どうしてぇ相棒?」
デルフが顔を出してきて尋ねてきた。
「左目が変なんだ。なんか別の景色が見える」
左目に映る光景。視界にはワルドとウェールズが飛び込んでくる。だが、おかしいのは、右目だと自分が座っているここから少し遠くに小さく見えるはずの二人の姿が、左目ではずいぶん近くに見える。ワルドのやけに焦っている顔が目に映っていたのだ。
「ひょっとしたらガンダールヴの能力かかもな。使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるからな。ルーンだって光ってるじゃねーか」
デルフに言われて、彼は自分の左手を見た。確かに、左手のルーンが光っている。
「もしかしてこれ、ルイズの視線なのか?逆なこともあるんだな」
でも、どうして急に彼女の視線が見えたのだ?ふと、タバサがサイトの袖を引っ張っていた。なんだろうと思ってタバサを見下ろすと、彼女はデルフを持ち上げてサイトに渡そうとしている。
「気を付けて」
物静かで消えそうな声。しかし、その声には確かに今の彼女が強く抱いている感情が見え隠れしていた。



「ルイズ?」
「どうかしたかね新婦?」
二人が話しかけと、ルイズは意を決したように顔を上げた。
「皆さま…大変失礼を致しまして申し訳ありません!ご無礼をお許しください!」
「どうしたのかね新婦?日が悪いなら改めて」
「気分がすぐれないのかい?だったら少し休んで……」
ルイズは目を閉じワルドの言葉に首を横に振った。
「違うのそうじゃない、そうじゃないの」
怪訝な顔をするワルドを、ルイズは改めて見つめなおし、己が決めた答えを口にした。



「ワルド…ごめんなさい。私、あなたと結婚できない」



それを聞いた途端、式場中がさらに騒然となった。ルイズは罪悪感を抱いた。せっかくの結婚式を喜んでくれた王軍の皆にこんな残念な思いを抱かせることを。せっかく結婚を迫ってくれたワルドの願いを断ること。いくつもの罪悪感が板挟みとなった。だがそれでも、言わなければならないと自分の心が叫んでいた。
「し、新婦はこの結婚を望まぬか?」
「はい、わたくしはワルドとの結婚を望みません。皆さまには大変申し訳ありませんが……」
ルイズは心から謝罪して頭を下げた。ウェールズは哀れみながらワルドに話かけた。
「子爵。お気の毒だが新婦が望まぬ以上、式を続ける事は―――」
するとワルドはウェールズが話し終える前にルイズの両肩を掴み、恐ろしい形相で迫った。
「緊張しているんだろルイズ!?君が僕の求婚を拒むはずがない!」
しかしルイズは申し訳なさそうに首を横に振り続けた。
「ごめんなさいワルド。確かにあなたの事は憧れてたわ、でも…それはあくまで『憧れ』であって『恋』じゃなかった。本当にごめんなさい」
もっと早く気付くべきだったかもしれない。そうすれば、自分のためにこんな晴れ舞台を擁してくれたウェールズやワルド、そしてこの結婚式に祝いに来てくれたみんなに恥をかかせるようなことはなかったのに…。
しかし、そんな罪悪感も次からのワルドの行動で露と消えるなど、誰が予想しただろうか。
ワルドは腕を掴む力を強めた。
「ルイズ!僕には君が必要なんだ!」
「いい加減にしたまえ子爵、君は振られたのだ。男らしくここは潔く―――」
「黙れ!!」
見かねたウェールズが止めようとワルドの腕を掴むが、彼は鬼気迫る顔でウェールズの腕を振り払った。その様子にルイズは困惑した。
これがあの優しかった、自身が憧れだったワルドなのか?幼いころ、池の小舟の上で泣いていた自分を優しく慰めてくれた、あのワルドなのか?彼女に向き直ったワルド、まるで狂気に取付かれたかのように叫んだ。


「世界だルイズ!僕はいずれ世界を手にいれる!その為に君の力が必要なんだ!!君の中に眠る力が!!いつか言っていただろう、君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジになる!まだその才能に気づいてないだけなんだ!」


その言葉にルイズはようやく納得がいった。俯き、絞りだすように呟く。寧ろ、踏ん切りがついたと思えるくらいだった。それ以上に、豹変したワルドへの怒りが込み上げてきた。

――――力ですって?

「………放して」
ここではっきりした。ワルドがこの旅で執拗に自分にアプローチしてきたのは、ルイズ自身に、惹かれていたからじゃない。


聞いていたサイトも、ワルドに対して顔の血管を膨れさせた。なんだよ…それ。ルイズが好きだったから婚約者やってきたんじゃなかったのかよ…!!!
「ルイズ、僕には君が必要…!!」
「放しなさい!!」
ルイズは自身を掴むワルドを睨み付けながら叫んだ。
「ふざけないで!あなたは私の事なんかちっとも愛してないじゃない!あなたが本当に欲しているのは、あなたが私の中にあると思い込んでいる、ありもしない力じゃない!!酷いわ、そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!!
こんな結婚、死んでも嫌よ!」
「なんという侮辱だ!!ヴァリエール嬢の言うとおりだ、ワルド子爵!その手を離したまえ!でなければ我が魔法が君を貫くぞ!」
「そうだそうだ!子爵、何という無礼を働いたのだ!」
「こんなブ男のために、我らはこの結婚式に出席したと?我らにはラ・ヴァリエール嬢のお気持ちが痛いほど理解できたぞ!!」
「まずい酒を飲まされた気分だ!折角のめでたい式を台無しにしおって!」
ウェールズをはじめとして、出席者のメイジたちはワルドに杖を向ける。
「やっぱりあたしの読みが当たっていたようね!!力ですって?ルイズがゼロなのかどうかはさておき、そんなことでルイズと結婚だなんて男の風上にも置けないわ!」
「なんてことだ…子爵!!この青銅のギーシュ、正直言ってあなたには失望しましたぞ!!ルイズを今すぐ放したまえ!!」
キュルケもそうだが、ワルドに憧れていたあのギーシュでさえ怒りを露わにしていた。タバサも表情はほとんど変えてないように見えて、その目はわずかに吊り上っていた。
見事にワルドに裏切られたことに対する怒りが、式場を覆い尽くそうとしていた。
「僕がこんなに頼んでるのにダメなのかい、僕のルイズ?」
「気安く『僕の』ルイズだなんて呼ばないで!誰があなたなんかと!」
もうこの時には、ルイズどころか、もう式場の皆が自分とルイズの結婚を許してくれないに違いない。
「…そうか…ならば、仕方ないな。目的達成のためだ。強硬手段と行こうか」
すると途端、ワルドは手を離し優しげな顔になった。しかしその目にはかつてのような暖かさはない。
「目的?」
訳が分からないという風に呟くルイズ。ワルドはそんな彼女に目もくれず続ける。
「この旅の目的…一つ目はルイズ、君を手に入れる事。二つ目はアンリエッタの手紙の入手。そして…」
「!」「貴様!」
手紙と言う言葉に二人は反応し、ウェールズは魔法を詠唱する。
「三つ目は貴様の命だ、ウェールズ・テューダー!!!!」
その前に、ワルドが彼の胸を貫こうと、マントの下に隠していたレイピア状の杖を抜き、突き刺そうとしてきた。しかし!
「やめろおおおおおおおおおおお!!!」
まさに電光石火。デルフを鞘から引き抜いたサイトは自分の前の客席の背もたれを踏み台代わりに飛び立ち、ウェールズを貫こうとしているワルドの杖に向けてデルフを投げつけた。まるでかの伝説のウルトラ兄弟の一人、ウルトラセブンの武器である『アイスラッガー』のように回転しながら、デルフリンガーはワルドに襲いくる。
「ち!」
舌打ちしたワルドはとっさに後方に避けてサイトの斬撃を回避した。しかし、追撃にワルドに向けてタバサが風の魔法〈エア・カッター〉を放って彼を切り裂こうとする。サイトの攻撃を避けた直後のため、対応が遅れたワルドの頬に切り傷が刻まれた。
「ナイスアシストだぜ、タバサ!」
「何がナイスだっての。酷えじゃねえの相棒!?急に投げつけるとかよぅ。俺っちは投擲じゃねえんだぜ!」
サイトはウェールズの前に着地し、急に投げつけられて床に突き刺さったデルフを引き抜く。もちろん彼の文句については一切無視した。
「皇太子さま、ルイズ、怪我は!?」
「あ、ああ…ありがとう。君のおかげで命拾いした」
「ええ…大丈夫よ。けど…」
二人を見て、サイトは怪我がないかを確認すると、二人は頷いて見せた。サイトたちの元に、キュルケ・タバサ・ギーシュの三人も杖を構えて駆けつける。
「貴様…レコンキスタの回し者だったのだな!」
怒りを積み隠さず、ウェールズが詰問すると、ワルドは冷たく感情のない声で認めた。
「その通りだ。俺はアルビオンの貴族派レコンキスタの一員だ」
「なぜ、グリフォン隊隊長で、トリステイン貴族の鏡ともいえるあなたが!?」
ギーシュからの問いに、ワルドはギーシュがつい昨日まで自分に対して抱いていた憧れの感情を嘲笑うように答えた。
「我々レコンキスタに国境はない。ハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟なのだからね。我々の手でハルケギニアを一つにまとめ、始祖ブリミルが降臨せし聖地を取り戻すと言う崇高な目的のため、我々は戦うのだ」
「昔のあなたは、そんなふうじゃなかったわ!何があなたを変えてしまったの!?」
ルイズがわななくようにワルドに怒鳴りつけた。
「時は人を変える、それが君の知る俺を変えた。まあ、そんなことはどうでもいいさ。話せば長くなるからね」
「そうだな…どうだっていい!」
デルフを構えなおし、ガンダールヴのルーンを輝かせながらサイトはワルドを睨み付けた。
「許せないのは、あんたを信じたルイズを騙し傷つけたってことだ!絶対…許さねえ!!」
「使い魔君、僕も力を貸そう!この恥知らずな逆賊を共に討とう!」
「あたしもよ。ヴァリエールのためじゃないけど、この最低男はあたしの魔法で骨まで溶かしつくさないと気が済まないわ!」
「…!」
「子爵…本当に残念です。騎士としてずっと憧れてきたあなたを裏切者として成敗しなくてはならないとは!!」
サイトに続き、ウェールズ、キュルケ、タバサ、ギーシュが横一列に並んでワルドを睨み付けた。彼らだけじゃない、式場には王党派のメイジが出席していた。人数としては少なくても、いかにスクウェアクラスのワルドの手でも全員を相手にするには骨が折れる…いや、最終的に彼は敗北する可能性が高い。
「背信者ワルド!大人しく縛に付け!さもなくば、我々の魔法が貴様を滅ぼすぞ!」
しかし、ワルド突然肩を震わせながら笑い出した。癇に障ったルイズが叫ぶ。
「な、何がそんなにおかしいの!?」
「くっくっく…俺がなんの供えもなくここに来るとでも思っていたのか?」
なぜこの状況でワルドは笑うことができるのだ。身構えたまま、疑問を抱くサイトたち。
「俺は知っての通り、レコンキスタのスパイだ。だとすれば、今の貴様らの行動はとっくに筒抜け…違うか?」


パチンと指を鳴らすと、突然教会の天井が木端微塵に破壊された。


「「「きゃあああ!?」」」「ひいい!!」
屋根が瓦礫となって降り注ぎ、キュルケやタバサにウェールズ、会場に出席したメイジたちはすぐさま魔法で振ってくる瓦礫を吹き飛ばしたり、防御魔法で防ぐ。ルイズは頭を覆い、ギーシュは瞬く間に腰を抜かした。サイトはデルフを神速の斬りで、自分や仲間たちに降りかかってくる瓦礫を切り落とした。
「そんな…そんな馬鹿な…!!」
その時、ウェールズは目を疑った。夢や幻であればどんなにいいだろうと思うくらいに驚愕した。
サイトも、科学を進歩させ続けてきた地球出身ということもあって、『それ』を見たときは驚愕せざるを得なかった。
天井を破壊したのは、科学の『科』の字も知らないハルケギニアの文明では決して作り出すことのできない、赤と白の模様をボディ全体に刻み込んだ、一機の機械じかけの巨大な飛空艇だった。


「あれは…『始祖の箱舟』…!!?」

「そう、あれは貴様ら王党派が大事に隠し持っていた始祖の秘宝…


『始祖の箱舟 ジャンバード』 だ!!」


高らかに勝ち誇ったようにワルドは笑い飛ばした。
「なぜだ!あれの場所は誰にも漏らしていなかったはず!!それに、手に入れたところで我々でさえ動かすことなどできないはずだ!!」
「はははは!ウェールズ、貴様…知らないのか?我々レコンキスタには、長年アルビオンに仕えていた貴族も大多数存在する!その連中の幾人かに、始祖の箱舟の所在を知るものがいたのだ。そして…我らレコンキスタの総領主クロムウェル閣下は、現代に蘇りし虚無の担い手!当然、伝説の使い魔も従えておられるのだ!」
「虚無ですって!?それはただの伝説のはずだわ!」
信じられないとキュルケはワルドに怒鳴り散らした。
「信じる信じないかは貴様らの勝手だ。だがこうして、始祖の秘宝を操ることができるなど造作もない!今回俺の意思に従っているのは、その使い魔が俺の思いのままに操れるように調整してくださったものよ!」
(一体この世界はどうなってんだ!?科学を理解できないこの世界で、あんなものが作られたって言うのか!?)
何度も地球を襲ってきた宇宙人の円盤とほぼ同等の科学力で製鋼されたとしか思えないジャンバードを、サイトは存在自体を驚異に思えた。
「さあジャンバードよ!!この時代遅れの愚かな王家に終幕をもたらしてやれ!」
ワルドが掲げた杖を振り下ろすと、ジャンバードは荒れ狂うように飛び回り、ボディに仕掛けられた砲口からビームを発射した。


エメラルド色のビームが雨のように降り注いで、教会にいた出席者たちを次々と襲った。


「ぎゃああああああああああ!!!」「やああああああああああ!!!」「う、うああああああああ!!!」


魔法を詠唱する間さえも与えられない。破壊を呼ぶ光線は魔法を放って応戦しようとするメイジたちを、ことごとく抹殺していった。
「ひ…!!」
「な、なんて威力…!!」
まさに、惨劇と言うにふさわしかった。サイト・ルイズ・ウェールズ・キュルケ・タバサ・ギーシュ以外の全員が、神聖なるブリミル教の教会をちと死臭で汚しつくした。
ひび割れた床と壊れつくされた椅子。そして瓦礫の山、すでに彼らのいた教会は原形さえも留めていなかった。
「ふふふ…ふはははははははは!!!何という威力だ!!さすがは始祖の秘宝よ!!愚かな王軍共が一分も経たずに肉塊となったわ!!」
「…!!」
さっきまで隣で話していた王党派の勇士たちが、一人も生き残っておらず、ただの死体となってしまったその惨状に、ルイズは青ざめて両手で口を覆った。
「よくも臣下たちを…!!」
ウェールズにとって、アルビオンに…いや、自分たちアルビオン王家に仕えてくれる者たちは大切な重臣たちだ。全員をこの叛徒に殺され、嘆き悲しみ、そして怒らずにはいられない。
それも王家が守ってきた始祖の秘宝をこんな暴挙に使われたこともあってその憤りは何割にも増していく。
「残念だったなウェールズ。貴様の頼みの戦士グレンファイヤーも卑しい炎の空賊共もここにはいない。すでに、あらかじめ俺が仕向けていた怪獣と戦っている頃だ。しかも、特別に強力なものを用意させてもらった。果たして、生きいるかな?いや…何人死んだかと問うべきかな?」
「貴様あ…!!」
炎の空賊たちは確かに空賊だが、そこら辺の裏路地に転がる悪党と比べるだけ失礼なほど、全く悪党ぶりをみせなかった。それどころか、自分たち王党派のために、そしてこのアルビオンの空の自由のためにどれだけ奉仕してくれたことだろうか。ウェールズは彼らに強い恩があるし、信頼もしている。そんな彼らを笑いながら虐殺しようとしているワルドに対して、強い怒りを抱かされた。
「てめえ!!!!」
逆上したサイトはデルフを振ってワルドに斬りかかったが、瞬時に詠唱を完了したワルドはとっさに空に浮き上がって彼の攻撃を避けた。
「ガンダールヴよ、以前私が君に決闘を申し込みたいと言ったのを覚えているだろうか?」
「あ!?」
「ぜひ、この手で伝説の使い魔と一矢交えたいと思っていた!貴様は、このワルドが直々に抹殺してやろう!」
完全に舐め切っている。誰もがそう思った。自分のバックにはあのような反則的な兵器があるからって、自ら一対一の決闘を申し込んできたのだ。
「こんな時に決闘だなんていい度胸ね!」
「よし、行け!僕のワルキューレ!」
自分たちの存在を忘れてもらっては困る。キュルケたちも加勢しようと駆けだした。が、彼女たちの足元にもビームが撃ちこまれ、彼女たちは思わず足を止めた。当然、言葉を発した途端にギーシュのゴーレムたちもあっさりとビームを受けて溶かされた。
「あれ…?」
「おっと、手を出すな。さもなくば、貴様らもまた、そこへんに転がっている肉の塊の仲間入りをすることになるぞ?」
「く…!!」
手を出すことができず、あの卑怯者に一矢報いることもできず、悔しくて歯噛みするキュルケたち。
「サイト、負けないで!!」
「ああ、絶対に勝つ!覚悟しろワルド!!後悔させてやる…!!」
「ふ、いかにガンダールヴの力を持とうと、所詮は平民。この『閃光』に敵うと思うな!」
ここでワルドに虐殺された者たちの無念のためにも、自分の背後から励ましの言葉をぶつけてきたルイズに頷き、サイトは目の前に降りてきて杖を構えてきたワルドに向けてデルフを構えなおした。
ここでみんなを守って見せる。たとえゼロに頼らなくても、自分にだってみんなを守るだけの力はあるんだ!! 
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