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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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喪失-ロスト-part4/滅亡の王家

城の外で軍備に当たっていたグレンたち炎の空賊たちは、サウスゴータでのレコンキスタとの決戦に臨むために軍備を進めていた。兵の数は、正直言って圧倒的な差がある。しかし、自分たちには強力な味方が付いている。そして、奴らとはまだ戦うだけの力が残っている。後は、この逆境を打開するための策を講じ、奴らから奪われた領地を取り戻して一気に逆転して見せるつもりだった。
しかし、そんな彼らに予想もしなかった事態が起こる。
「伝令!!城の外に、レコンキスタが!!」
「なに!?」
門から走り出してきて場内に現れた王党派の伝令兵が叫んだ途端、物見台の見張り兵が双眼鏡で、城の遥か彼方を確認すると、確かにレコンキスタの5万の軍勢が迫ってきていた。
「馬鹿な、いつの間にこんなに早く…!!」
「まさか、出発先の拠点にいる味方は…全滅…!?」
悪い予感を抱く王党派の兵たち。すると、真っ先に新たな脅威が彼らの前に降り立った。
「ガアアアアアアア!!」
怪獣……いや、これまでの地球の怪獣頻出期において最も悪名高い侵略者として有名な『異次元人ヤプール』が生み出した、怪獣を超えた危険な生物兵器…『超獣』である。まるで赤いドレッドヘアのような体毛…いや、珊瑚と宇宙怪獣が合成されて誕生したその超獣の名前は…『ミサイル超獣ベロクロン』だ。
ベロクロンはその姿を見せた途端、口からその名の通りのミサイルを発射し始めた。
「うあああああ!!」
物見台の王党派の兵は物見台を破壊されて宙に放り出された。城壁はこの世界のスクウェアクラスのメイジたちが、戦火に置かれても決して砕けないように作り上げた精巧にして頑丈なもの。だが、それさえもベロクロンのミサイル攻撃の前には無力。木端微塵に砕け散って行った。
「ぐ、不味い!!全員すぐに退避するのじゃ!」
空賊のクルーや王軍に、直ちに引き上げるようにガル船長は皆に指示した。
「グレン、すまんが任せたぞ!!」
「おう、ここは俺に任せとけ!!ファイヤあああああ!!!!!」
グレンは直ちに城壁から飛び降り、己が身を炎の身を包むと、炎の巨人グレンファイヤーへと変身した。ズシンと音をたて、グレンは両手に花ならぬ、両手に炎を吹き荒れさせてベロクロンに立ち向かっていった。
「こっからはてめえらのような卑怯もん共の入り込んでいい場所じゃねえんだ。
うっしゃあ!行くぜええ!!!」
「ゴガアアアア!!!」
ベロクロンも、グレンファイヤーを敵とみなし、再び口からミサイルを発射し、グレンファイヤーを抹殺しにかかった。



「うおおおおおおおおおお!!」
サイトはすばやい動きで間合いを詰めるとデルフを真上から振り下ろす。しかしワルドは手に持った杖でなんなくサイトの斬撃を受け止めた。
「な!?受け止めた!」
驚くサイトを尻目にワルドは一旦下がると、シュシュっと風切音がする程に鋭い突きを繰り出してきた。その動作は細かく、無駄な動きがない。サイトはすっかり、ワルドの猛攻に防戦一方になってしまった
(コイツ!?今の俺と同じくらいすばやい!ギーシュやフーケなんかとは全然違う!)
ワルドの突きをデルフで防ぎならが、サイトは何とか攻撃に転じようといったん後方に跳躍し距離をとった。
「どうした?もう息があがっているぞ」
「うるさい!」
ワルドの言葉に歯噛みする。するとデルフがイラッとした声を漏らしてきた。
「なんでぇあいつ、魔法を使わないのか?」
「……お前が錆び錆びだからなめられてんだよ」
もっとも、実際になめられてるのは自分の方だろう。そう思うと、奴の卑劣さへの怒りとプラスして三割増し、ワルドへの怒りが倍増する。対してワルドは余裕といった様子である。
「魔法衛士隊のメイジはただ魔法を唱えるわけじゃない。詠唱さえ戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基礎中の基礎さ」
「要らねえお世話だ!!これでもくらえ!!」
サイトはデルフを構えなおすと、風車のように大きく振り回しながら切りかかった。
「ふむ、アイデアは悪くないな」
しかしワルドは才人の動きを意図も簡単にかわす。
サイトは続けざまに情人を超えた精一杯のスピードとパワーで何度も大きく切りかかる。
しかしワルドはサイトの攻撃を見切り、余裕の態度で難なくかわし、杖で受け流し、時には受け止める。デルフを受け止められた瞬間サイトは大きく足払いを放つが、それもワルドが軽く飛んだことでなんなくかわされてしまう。
「確かに君は素早い、流石は伝説の使い魔。それに場数も多く踏んでいるようだ。しかし!」
サイトが大きく切りかかった際にワルドは流れるような動きで背後に回り、サイトの後頭部に一撃を加える。
「がはっ!!」
「「「サイト!」」」
一撃を食らったサイトを見て、ルイズ・キュルケ・ギーシュが顔を上げた。
「しかしそれだけだ。速いだけのまともな戦い方を知らない素人。全ての攻撃が大振りだ」
ワルドは地面に倒れたサイトに背を向けて言い放つ。口からちょっとだけ出てきた血をぬぐい、サイトは瞬時に体を起こしてワルドに切りかかったが、やはり難なくかわさる。即座に反撃に転じるワルド。
彼が放つ、閃光の如き突きの数々をサイトはやっとの思いで防ぐのが精一杯だった。
「ただ剣を振るだけじゃ本物のメイジには勝てない」
ワルドの繰り出す無数の突きに防戦一方なサイトに向かって彼は呟く。
「つまり、貴様ではルイズは守れない。何一つ守れやしない!全て失うがいい!!」
「ッ!?」


――――何一つ、守れやしない!


――――すべて失うがいい!


その一言を聞いたサイトの脳裏に、ある光景が走馬灯のように流れた。
故郷の地球、破壊しつくされた街の建物の瓦礫の間を走りながら、叫び続ける自分の姿が。





『父さん!!どこなんだよ!!』


『母さん、返事してくれ!!』


『父さん!!母さああああん!!』


『ウルトラマン、早く来てくれえええええええええ!!!』





「………!!!」
過去の記憶を思い出して思わず立ち止まってしまったサイトの隙をついて、ワルドが風魔法の詠唱に入る。
「いけねぇ相棒!魔法が来る!」
デルフの声でやっと我に返った時には、もう遅かった。すでにワルドの詠唱は完成していた。
「受けるがいい、風系統の最強魔法…『ライトニングクラウド』!!」
「!!」
ズオオオオオオオオオン!!!!
激しい轟雷の音が、廃墟と化した教会に轟いた。思わずルイズたちは眩い雷鳴の光を直視できず目を伏せた。
「ふん、手加減して様子を見てみても、この程度か…な!?」
鼻でサイトを笑い飛ばすワルド。うっすらと、醜悪な笑みが浮かび、とても容姿端正な彼の面影はどこにもなかった。自分の魔法で舞い上がった砂煙を軽く魔法で払うと、ワルドは思わず絶句した。それは、サイトや彼の後ろにいたルイズたちも同様だった。
「が…は……!!」
サイトの前に、雷撃による負傷で血を流し、全身に大火傷を負わされたウェールズが立っていたのだ。ワルドが魔法を放とうとしたその一瞬、彼はその身を挺してサイトの盾となってワルドのライトニングクラウドをその身に受けたのだ。
しかし、手加減をしたとワルドが言っていても、スクウェアクラスの魔法をもろに食らって平気な人間などいない。口から血を流し、ウェールズは崩れ落ちるようにその場に仰向けで倒れこんだ。
「「皇太子様!!」」
ルイズたちが一斉に倒れたウェールズの元に駆け付けた。
「イル・ウォータル・デル」
直ちにタバサがウェールズに水の治療魔法『ヒーリング』をかけるが、あまりの威力のため負傷も激しかった。トライアングルクラスのタバサの魔法でも、とても感知するにはかなりの時間が必要なほどだった。
「ぐ…はあ…はあ…!!」
「そんな…俺を…かばって…!!」
サイトは、自分をかばって倒れたウェールズを呆然と立ち尽くしたまま見つめ、思わず剣を下ろしてしまった。一体自分は何をしていたんだ。ワルドの偶然に言い放った言葉で、過去の嫌な記憶を思い出して突っ立ってしまうなんて…。
「まるで人形のように魂が抜けたな、ガンダールヴ。まさか、王族であるウェールズがたかが平民の一人である貴様をかばうなど予想もしなかったぞ。それにしても、手加減してはなったとはいえ、まだ息があるのかウェールズ。ま、ちょうどいい」
「きゃあああ!!」「うああああ!!」
ワルドが軽く杖を振うと、ウェールズを除くサイトたち全員がワルドの魔法で後方へ吹っ飛んだ。部屋の隅に集められた散りのように一か所に集められたサイトたちを尻目に、彼は足元にただ一人残されたウェールズをレビテーションの魔法で頭上に浮かせた。
「ワルド、皇太子様を一体どうするつもり!?」
ルイズがワルドを睨み付けながら問うと、ワルドはなんの悪びれもなく答えた。
「あの炎の用心棒…グレンファイヤーと言ったか?奴は厄介だからね。今のうちに殺しておかなくてはならない。ウェールズはそのための…」
「人質…!!」
タバサがそう言うと、ワルドは嘲笑し、床に転がっているサイトをごみのように見下ろしながら、彼の心をとことん追い詰める言動を連発した。
「ガンダールヴ、覚えておくがいい。ウェールズがこうなったのは貴様のせいだ。ガンダールヴ、ほかならぬ貴様がウェールズをこのような目に合わせたのだ!貴様のその弱さが!無力さが!全ての災いとなったのだ!!」
「…!!」
「ふざけたこと言わないで!全部あんたがやったことでしょう!
サイト、サイト立って!!お願いだから!!」
言いがかりも甚だしい。ワルドの言い分に反論したルイズはサイトに立ち上がるように言うが、対するサイトは立ち上がることさえもできなかった。
「時期にここへはレコンキスタの兵どもが来る、どのみち貴様らには生き残るすべはもう残されていない。だが、せめてもの情けだ。貴様ら全員、俺が痛みさえも与える間もなくあの世へ送ってくれる!!」
そう言って、彼は再びその杖に雷撃を灯していく。ウェールズにも食らわせた、ライトニングクラウドだ。
「だ、だめだ…やっぱり子爵は強すぎる…僕らが束になったところで勝てるわけないんだ…」
ギーシュは敗北感のあまり完全に絶望し、サイトほどじゃないが戦意喪失状態に陥っていた。
「タバサ、何とかできないの!?」
「…無理、あれのせいで」
キュルケが悲鳴を上げるかのようにタバサに言うが、タバサはワルドの操るジャンバードを指さして首を横に振った。あの飛行機械のビームは、詠唱を必要とする魔法と違ってすぐに発射できるうえに一発一発が確実に人間を殺せるほどの威力だ。魔法を唱えたところですぐにこの身を焦がされるのが早くなるだけ。
「それと…ルイズ。君からは手紙もいただかせてもらったよ」
どこまでも人を追い詰めれば気が済むのか。ワルドの手には、アンリエッタがウェールズのために当てた手紙が二通とも握られていたのだ。
「い、いつの間に!!?返して!!」
肌身離さず持っていたはずなのに!なんて手癖の悪い男なのだ。
もしあれが奪われたら、トリステインとゲルマニアの同盟が破棄され、トリステインは絶体絶命の危機に陥ってしまう。返すようにルイズは喚くが、当然ワルドがそんな願いを聞き入れるはずがない。
「これでもう貴様らのようなガキのお守りを兼ねた任務も終わりだ。死ねい!!!」
今度こそ止めを刺さんと、ワルドは杖を振い、再び最強の風魔法『ライトニングクラウド』を発動した。
これまでか…!!ルイズたちは死を悟り、目を閉ざした。


そして、ワルドの手によって死の落雷が彼らのいる場所へと落ちた。


舞い上がった砂煙が、辺りを発ちこめた。さて、死体の確認でもするか。ワルドはくっくっくと笑いながら、ルイズたちがちょうど座っていた場所の砂煙を払うと、サイトたちの姿は跡形もなく消えていた。
「ふふ…少しやりすぎて死体さえも残らなかったか。ルイズについては残念だったが、まあいい。
ウェールズ、貴様をこうして人質として、…そして我らがこれから邁進するためにその身柄を拘束できただけでも良しとしよう。さて…今度は貴様の番だ。グレンファイヤーとやら」
笑いながら、ワルドは自分の使い魔であるグリフォンを呼ぶと、その背に自分とウェールズを乗せて城の外へ向かった。



「ファイヤーニー!!!」
城壁付近では、グレンファイヤーがベロクロンを相手に激闘を繰り広げていた。いや、戦局的にグレンの方が優位に立っていた。
ちょうど今、彼の膝蹴りがベロクロンにヒットしたところだ。立ち上がって反撃に転じようとしたベロクロンだが、グレンに顔をワシ掴みにされ、腹にパンチを叩き込まれ、続いて両肩を掴まれて、を食らって投げ倒された。
ベロクロンはお返しに口から灼熱の炎を吐き出し、グレンを焼き払おうとした。が、ベロクロンは元は怪獣であるが故に知性が低いのか、それとも内心では舐められっぱなしの状態に焦って相手が存在自体が炎そのものであることさえも忘れたためか、それは致命的なミスでもあった。炎の戦士であるグレンファイヤーに、炎など全く通用しなかったのだ。
「なんだあ?そんなぬるま湯みてえな炎で俺を燃やし尽くす気だったのか?寧ろ心地いいくらいだぜ?」
寧ろグレンファイヤーに力を与えてしまっただけだったようだ。挑発するグレンに、ベロクロンは神経を逆撫でされたのか、今度は手からミサイルを連射してグレンを攻撃しにかかった。連続で放たれたミサイルは、うねるように動き回りながらグレンの足元でやりすぎた爆竹のようにはじけ飛ぶ。彼が怯んでよろけたところで、ベロクロンはビームロープを作り出し、それをグレンの体に巻きつけ、隙だらけになったところで両手からビームを撃ちこんだ。
「おあっちゃっちゃっちゃ!!」
しかし、グレンの肉体はかなりの頑丈さを誇っていた。ビームを食らって寧ろ頭に来た勢いで、彼はベロクロンのビームを無理やり引きちぎって見せた。
「ったく、この野郎!痛えじゃねえか!やられたらやり返す、倍返しって奴だぜ!」
ビームロープを千切られてあっけにとられているベロクロンに、グレンは掴みかかり、乱暴に膝蹴りを食らわせ、アッパーで顎を殴りつけ、もう一度つかみかかっては思い切り背負い投げた。
「よおおおし…こいつで止めを刺してやるぜ!」
今こそ止めを刺す時。グレンファイヤーは右掌に地獄の炎のように滾った火球を作り出した。あれをベロクロンにぶつけ、木端微塵にする算段だった。
仲間たちから「やっちまいな!」コールが飛び交っている。勝利を目前…のはずだった。
「動くな、グレンファイヤーよ!」
聞き覚えのある声がグレンたちの耳に入る。
「ウェールズ!?それに…あんたは…!」
目(?)を擦って確認しても間違いない。ウェールズから手紙を返却してもらいに来たトリステイン大使一行の一人であるワルドだ。奴は空飛ぶグリフォンの上にまたがり、後ろには両手と口を縛りつけられた、大けがを負わされたウェールズの姿が見えた。
「ウェールズ!?ワルド、何のつもりだてめえ!」
「動くなよ?迂闊に動けば、ウェールズの命はないと思え」
にやりと醜悪な笑みを見せるワルドは全く自分が悪さをしているのに反省している様子が見受けられない。そんな彼の顔を見てグレンはいつも以上に頭の炎を滾らせ、怒りを爆発させずにはいられなくなる。
「この野郎…!」
こいつ、レコンキスタが送り込んできたスパイだったのか!だとしたら、あの可愛らしかった女の子が(グレンの視点から)目立った大使一行も、レコンキスタだったのか!?
「やれ、ベロクロン!ジャンバード!!」
サイトたちをも疑い始めるグレンに向け、ベロクロンのミサイル攻撃と、頭上を飛び回るジャンバードのビーム攻撃がグレンに手痛いダメージを与えていく。
「うおああああああああ!!!」
強烈な爆発を一発食らってしまい、グレンは大きく吹っ飛んでダウンした。
「が…ぐ…ンの野郎が!!焼き鳥にして食っちまうぞごるあ!!」
膝を着いた状態で体を起こし、ワルドを睨み付けるグレン。
「そこの姑息な小僧!!今すぐウェールズを解放せい!!」
「立場をわかっていないな。所詮は卑しい平民か!」
ガル船長たちをはじめに、地上から炎の空賊たちは一斉に銃を構えてワルドに狙いを定めた。しかし、ワルドは姿勢を決して崩さない。何せこちらにはウェールズと言う無敵の盾がいるのだ。たとえ誰かがウェールズへの謝罪と共に、ウェールズ共々自分を射殺しようとしても、他の誰かがそれを無理にでも差し止める。
「やめてくれ!!皇太子が捕らえられているんだぞ!」
「けど、このままじゃ俺たちはあの糞野郎の言いようにされるだけだ!!」
ほら、予想通りやはり王軍の生き残りが空賊たちに反論している。対して、他の兵士や覚悟を決めた空賊たちも、こうなったら生き残るためにウェールズを顧みずに撃つしかないと言うが、その繰り返しばかりで堂々巡りとなってしまった。
今度はワルドが直々に、風の魔法〈エア・ハンマー〉を唱えた。どんなに腐ってもスクウェアメイジというクラスであるため、強烈な風の衝撃が地上にいる空賊や王軍の生き残りの兵たちを痛めつけた。
「ぐああ!!」
「次からだ。もし次、少しでも貴様らが俺に手を出せばウェールズの命はないぞ!」
すでに、自分がチェックメイトを勝ち取っているのだ。ウェールズを人質にとった時点で、こいつらはもうこちらにただ殺されるのを待つだけしかできないも同然。グレンや炎の空賊、そして生き残った王軍はウェールズを撃ってでもあの卑怯者を倒すか、ウェールズをいかにして殺さずにおくか、何の解決策も浮かばないままどうしようもない口論を無駄に続けるしかない。
「さあベロクロン、ジャンバード!我々レコンキスタの崇高な理想を邪魔するこの愚者共の舞台に幕を下ろしてやれ!!」
ワルドが命じると、ベロクロンが両手を突き出してその指先からミサイルと、そしてその隣に浮いたジャンバードがビームを発射して、無防備にさらされた彼らに襲い掛かってきた。
「このおおおおおおあああああ!!」
グレンファイヤーがその身を挺して、皆を真折るべき自らみんなの盾となった。無論、すべての攻撃が彼に直撃し、彼の体を猛烈に痛めつけた。
「はははははははは!!!」
「ぐああああああああああああああ!!!」
完全に悪人と化し、見下ろす者すべてを常時侮蔑し続けるかのごとき目つきでグレンたちを見ながら高笑いを上げるワルドと、ウェールズの命を盾に何もできなくなり、ただ卑劣な手を使って勝ち誇るワルドへの怒り・憎しみを募らせながらボロボロになっていくグレン。そしてそんな彼に守られるしかない地上の炎の空賊と王軍たち。
立て続けにダメージを受けたグレンは、ついに鎮火していく炎のように小さくなる、元の少年の姿に戻ってしまった。
もう彼らに、希望にあふれた未来は訪れないのだろうか…!?

「!」
ベッドの上で静養し続けていたシュウは目を開いた。瞼を閉じている間に、ほんのわずかだが見えたのだ。今、ニューカッスル城で起きている悲劇の連続を。
彼は直ちに起き上がった。しかし、体がいまだにラフレイアの大爆発を受けたときのダメージが残っていたために激痛が走る。
(ティファニアたちの前で、ストーンフリューゲルを呼び出さないでいたが…今回はそれが仇になったか…!!)
しかし、いかに体が痛むからと言ってここで立ち止まってしまえば、自分が持っているウルトラマンの力で助けられる人間の命が一秒経つうちにまた一人と死んで逝ってしまう。
机の上に置かれた壁に掛けられら黒い半袖の上着を着付け、エボルトラスターとブラストショットを持って、すぐに彼はベッドのすぐそばの窓から外へ飛び出し、森の中へと走り出す。
一歩でシュウはしばらく走った後、ウエストウッド村から結構な距離へ着いたところで、上着のポケットからエボルトラスターを取り出し、鞘からそれを引き抜いた。

「シュウ、そろそろ包帯を取り換えましょう」
「シュウ兄、来てやったぞー!」
彼が窓から外へ飛び出してから、入れ替わるように彼の部屋にテファとサマンサの二人が入ってきた。しかし、ベッドはすでにもぬけの殻となった。
「あ、シュウ兄ったら勝手に抜け出して!!大人しくしてってお姉ちゃんに言われてたのに…!!トイレの手伝いだって私たちでしてあげるのに」
まったくもう!と悪ガキを叱るように憤慨するサマンサは、くしゃくしゃになった毛布を敷きなおした。…余談だが、さすがに彼は性格上、トイレに誰かを同行させる気は毛頭ないだろう…たとえ尿瓶が必要になるくらいの大けがを負ってベッドに寝かされてもおそらく嫌がるに違いない。
「…」
テファは、彼の机の上に置かれていたエボルトラスターとブラストショットがないことに気づいた。まだ、彼は自分に大事なことを隠している。そのために、またどこかへと姿を消した…。それとまた、近日に偶然見た、巨大な翼をもつ悪魔が見たこともない街を破壊しつくした光景を映し出したあの悪夢も思い出していた。拭いきれない不安が、テファの表情を曇らせた。
そんな彼女の顔を、後から入ってきたマチルダは見逃さなかった。まったく…テファにこんな憂い顔をさせるなんて、帰ってきたら一発説教してやろうか。そう思いながら彼女は窓の外を遠い目で眺めた。
「シュウを探してくるよ。まだ近くにいると思うからね」
「…うん、お願い」
シュウのことは、マチルダに任せておけばきっと大丈夫だろう。彼女がシュウを探しに外へ出るのを、テファは見送った。
すると今度は、家の外から、サムのテファを呼ぶ声が聞こえてきた。
「姉ちゃん!変な人たちが村の入り口にいるよ!!」
変な人たち?もしや、またあの時のように盗賊が来たのか?警戒し、杖を持ったテファはすぐに駆けつけた。



ワルドは勝ち誇っていた。姑息な手口を使うことに何らためらいを持たなかった。レコンキスタの…そして何より若いころから抱いていたある『目的』のためならば手段を選ぶことはとっくに捨て去っていた。どんな手を使ってでも、ワルドは己の野望を叶えるべく祖国裏切ってレコンキスタに入ったのだ。
此度の任務…ゲルマニアとトリステインの同盟を白紙に戻すための要素を見つけ持ちかえる。ウェールズを見つけ身柄を拘束するか、不可能な場合は抹殺する。最後に…始祖の使い魔ガンダールヴの能力を持ったサイトを使い魔としたルイズをレコンキスタに招くこと。
ルイズのことは仕方なかったが、三つの内二つを達成できた。閣下もきっと大喜びだ。
いやはや、クロムウェル閣下は本当にすごい方だ。そして彼の秘書として働いている使い魔である『彼女』もまた同じだ。ベロクロンという、怪獣さえも凌駕するラインに立つ巨大な獣を操り、さらには始祖ブリミルが持っていたと言われる始祖の箱舟ジャンバードさえも起動した。この方々の元なら、自分が果たそうとしている野望を達成できる!
そのためにも、まずはこの薄汚い空賊共と時代遅れの王軍共を消し去ってやる!!
悪魔のような笑みを浮かべ、ワルドはベロクロンとジャンバードに抹殺指令を下した。
「グゴアアアアア!!!」
ベロクロンの手からミサイルが、ジャンバードからはビームが放たれ、満身創痍のボロボロにされたグレン少年。そして再び、ミサイルとビームのオンパレードがグレンと炎の空賊、残った王軍兵たちに止めを刺すべく襲い掛かってきた。彼らは死を覚悟し、その目を伏せた。
しかし、どこからか紅色の光が飛来し、それらの攻撃を彼らに当たる前に全て打ち消し、相殺した。その眩しい光に空賊や兵士たちは目を閉ざしたが、光が晴れた途端にその目に飛び込んできた神々しい巨体をその目に焼き付けた。
「銀色の、巨人…!!」
変身を維持できなくなるほどの痛手をこうむったグレンも、傷だらけの体を起こして、自分の前に立っている巨人を見上げた。
(もしかして…こいつが、前にウェールズが言ってた…巨人…か…?)
「き、貴様は…!」
見覚えがある。ラ・ロシェールの街を花の怪物と黒い巨人から守ろうとした、銀色の巨人だ。
「シュア!!」
その巨人、ウルトラマンネクサス・アンファンスはベロクロンとジャンバードを睨み、ファイティングポーズをとって身構える。
人類の希望となりつつある巨人…ウルトラマン。こいつらさえも俺の邪魔をするか!ワルドは憎らしげにネクサスを睨み付けた。
「待ってくれ巨人…!!そいつはウェールズを人質に…!」
グレンの、巨人を引き留める声が聞こえてきた。…そうだ、慌てることはない。こちらにはウェールズがいるんだ。いかに奴とて迂闊に攻撃はできないはず。一瞬焦ったワルドだが、こちらには無敵の盾と言えるウェールズがいたのを思い出し、落ち着きを取り戻し………はしなかった。

〈セービングビュート!〉
「シュワ!!」

「な!!!?」
なんとネクサスは問答無用で、手から光で構成された縄をワルドに向けて発射してきたではないか。ワルドより先に、彼とウェールズを乗せたグリフォンがいち早く反応し、それを辛うじて避けきった。
(こいつ…ウェールズの命がどうなってもいいのか!?)
なんて奴なのだろうと、自分がまさにそれの癖にワルドは焦った。街で噂に聞くウルトラマンのイメージと言えば、この世界をあらゆる脅威から守ってくれるヒーローと言うイメージがあり、決して人に手を下すようには思われない。だが、たった今こいつは容赦なく自分に光線を撃ちこんできた。やばい…このままではウェールズ共々殺されてしまう!
しかし、ワルドが完全にこの巨人に殺されるのだと思い込んでいたが、実際はそうではなかった。ネクサスが放った光線、〈セービングビュート〉はスペースビーストに捕まってしまった人間を捕まえ、ネクサスの掌に送る…つまり人命救助に最適な光線技だったのだ。他にもビーストを縛って捕えることも可能である。だから、ネクサスがウェールズもろともワルドを殺そうと言う思惑はなかったのだ。
「邪魔を…!!」
『待ちたまえ、ワルド君』
するなと言い放とうとした時だった。ワルドの頭の中に何者かの声が聞こえてきた。その声に、ワルドは聞き覚えがあった。
「その声は、閣下!?」
閣下…そう、王党派にとって最大の憎むべき敵にしてレコンキスタの総領主、オリバー・クロムウェルの声だった。淡々とした声でクロムウェルは続ける。
『グレンファイヤーを始末できないのは残念だが、このままでは我々は君を失うことになる。アンリエッタの手紙とウェールズの身柄を確保できただけでも十分だ。ベロクロンを盾に、ジャンバードと共に帰還せよ』
「…閣下の命令ならば仕方ありますまい。今から帰還します」
ウェールズが落ちないように乗せたまま、ワルドはグリフォンの手綱を握り、ニューカッスルから遥か遠くへと逃亡した。
逃がしたらまずい。勘でそう感じたネクサスは追おうとしたが、彼を阻もうとベロクロンが立ちふさがってきた。すでにグレンファイヤーに圧倒されていたためにボロボロの状態だ。ワルドが逃げるには十分な時間稼ぎ役ではあるが、ネクサスの敵ではない。…というのは、変身者であるシュウが万全の場合での話だ。
今のネクサスはラフレイアの大爆発からラ・ロシェールの街の人たちを少しでも多く守るために自ら盾となった時のダメージが完全に抜け切れていなかった。
ベロクロンが両手から放ってくるミサイル攻撃を、とっさに〈サークルシールド〉を展開して防御したものの、両手からミサイルの爆発による振動が伝わり、やけどを負った体中に響く。
「ヌオオオオオ……!!!」
ネクサスは根性のままにベロクロンの攻撃を防いでいくが、ベロクロンは…今度はなんと口から泡を吐いてきたのだ。しかもそれはただの泡ではない。ベロクロンの体内の毒袋から放出される強力な溶解液『ベロクロン液』。
「グゥオアアア…ウォ…オオ…!!?」
強烈な毒をその身を持って受けてしまい、ネクサスは苦しみその場で膝を着いてしまった。
ピコン、ピコン、ピコン、ピコン…。
彼の胸の『エナジーコア』が、カラータイマーと同様に赤く光って点滅を開始し始めた。
ここぞとばかりに、ベロクロンはネクサスを焼き殺そうと火炎放射まで放ち、ネクサスの身をさらに焦がしにかかる。やけどがまだ回復していない彼の身に、炎の攻撃はあまりにもキツイ。
ベロクロンは勝ちを悟ったのか、止めを刺そうと突撃してきた。しかし、ネクサスは諦めない。これまで『諦めるな』と他者に言って見せた彼は戦いに勝つことを決して諦めたりはしなかった。手から三日月状の光弾〈パーティクルフェザー〉をベロクロンの口に向けて発射した。
「ヘア!!」「ブボオオオオ!!?」
ベロクロンが口に仕込んでいた兵器は特に強力なもので、それを今のネクサスの光弾によって破壊されてしまった。口に仕込まれていたミサイルが暴発し、ベロクロンは口の中…体内に大ダメージを負わされてしまう。
とっさに立ち上がったネクサスは直ちにジュネッスブラッドへとスタイルチェンジした。
エナジーコアの代わりに、ジュネッス状態の時のみに装備された『コアゲージ』が点滅をすでに点滅していたが、そんなことはもうどうでもいい。
ネクサスは両腕を、円を描くように回すと、両腕を広げて胸のエナジーコアを突き出す。瞬間、エナジーコアから両列な必殺光線が放たれ、ベロクロンを貫いた。
〈コア・インパルス!〉
「ヌォオオオ…テアアアア!!!」
「ギィイイイエエエアアアアア!!!!!」
光線を受けたベロクロンは体中から火花を散らし、倒れた瞬間にその身は木端微塵に爆散した。
「やった…!!」
ネクサスの勝利と、自分たちの無事を悟った炎の空賊たちと王軍の生き残りたち。しかし、この勝利を決して喜ぶことはできなかった。ウェールズが、あの卑怯なワルドの手によってかどわかされてしまったのだから。特にこれを悔しく思っていたのは、身分の壁を越えてウェールズと親しかったグレンだった。
「…時間がない。我らはこの大陸を脱出するぞ」
「脱出って…皇太子のことはどうするんです!?」
「そうだよ船長!このままあの髭にウェールズが連れ浚われたら何をされるかわかったもんじゃない!」
ガル船長の決断に王軍兵士が納得できないと声を上げた。同調してグレンも反対した。しかし、逆にガルも皆に向かって怒鳴り散らした。
「今の我らの兵力で、大した策もない状態でどうやって彼を取り戻すと言うのだ!このままワルドを追ったところで、我らは返り討ち…今度こそ全滅してしまうだけだ。
…悔しいが、今度の作戦でわしらは完全に敗北したのだ」
完全敗北…その一言が周囲の人間たちの熱を冷まさせた。
結局自分たちは、あの卑劣な侵略者たちからこの国を守ることができなかったのだ。無念…としかもう言いようがなかった。特にこの国への忠誠心が根強い王党派の平民兵やメイジたちは悔しさのあまり涙ぐんでいた。湿っぽい涙が、地面を濡らしていき、染み込んでいった。
この後、王党派の残党たちは炎の空賊たちの勧めでアルビオンの各地に散ていった。炎の用心棒グレンファイヤーは、ウェールズを助けられなかった自責の念を抱き、しばらく姿を見せなくなった。どうにかウェールズを助けるために、レコンキスタの様子をうかがっているのか、それとも責任を強く受け止めすぎてまともな気力さえも失ったのか、この時は誰も知らなかった。

「…ぐ」
シュウはベロクロンとの戦いでかなり疲労した。今回の敵も、彼の世界には存在しなかった個体だった。故に、スペースビーストという観点だけで見てきた彼としては、ベロクロンの戦い方と武器はかなり異質だった。
(毒ならまだしも、ミサイルを仕込んでいるとはな…)
しかし、そんなことよりもまただ。
ウェールズ…最初の変身を遂げたあの時に助けた青年を助けることができなかった。あの髭の男が、卑劣な企みをした結果だろう。あの時のワルドの卑怯者らしい笑みを、シュウは忘れなかった。
だが、今は一秒でも回復するのが大事だ。時間をかけすぎて村にいるティファニアたちに要らない心配をかけるのも癪だ。彼はブラストショットを、夜の闇が立ち込め始めた空に撃ち、その呼び出しに応えて舞い降りてきたストーンフリューゲルの中に吸い込まれた。


ニューカッスルの戦いからしばらく過ぎた日、レコンキスタは先日の戦の際、先遣隊としてサウスゴータに向かっていたアルビオンの先王ジェームズ一世をアルビオン首都『ロンディニウム』にて公開処刑し、同時にレコンキスタのリーダーであるクロムウェルを新たな皇帝として、『新生アルビオン共和国』の建国を宣言したという。
 
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