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特型宇宙駆逐艦ふぶき

作者:忠雄
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抜錨及び初陣編~選抜1

 午前七時。10年近く前の地球であれば、冷たい冷気の中で眩しい太陽が射すのを見ることができるのだろうか…ガミラスの遊星爆弾攻撃による地下都市への避難のため、朝日をここ数年は見ることができないでいる。
 葵はゆっくりベッドから起き上がり、軽く伸びをした。いつもの通りに目覚めは良い。取り立てて夢は見なかった気もする。
大きめのTシャツに下着のみの姿のまま、浴室へと向かう。葵はTシャツと下着を脱ぎ、シャワーを浴び始めた。
葵の頭の中では、乗組員の選抜についての思案が巡っていたが、今の地球では水も貴重な資源であるため、サッとシャワーを浴びたのち、バスローブ姿で鏡を前にして髪をブローする。
葵の髪はシャギー調で前髪を眉毛あたりで切りそろえられおり、それほど乾かすのに時間はかからない。
シャワーを終え、ひと息ついた後に葵は黒いバッグから分厚い資料を出した。
「国連宇宙軍極東支部ふぶき計画予備人員候補 Vol, 2」
今回のヤマト計画の随伴艦としての予備人員候補のリストだった。
実質上、この中から乗艦する人員を選択しなおす事となる。
しかし各セクションの責任者候補の何人かについては、すでにヤマトに乗艦している者もいる。
「やはり若いのと退役前の年齢のものが多いな…」
そう呟きながら、自身で最適と思われる人物にしるしを付けていった。

 午前九時半。遅めの朝食をすまし、テレビをつけながら軍服に着替えていると、テレビではまた連日発生している暴動のニュースが流れていた。「あいつらだけが俺たちを置いて逃げ出したんだろっ!」ヤマト抜錨によって、ヤマトがイスカンダルからコスモリバースシステムを持ち帰ってくる事への希望よりも、置いて行かれたという気持ちや、いまだ止まない遊星爆弾による恐怖も相まって人心は以前よりも増して乱れていた。
ヤマトがイスカンダルへの旅をしている間にもガミラスの冥王星基地は存在し、地球への遊星爆弾攻撃は続くだろう。それどころか今や国連宇宙軍の艦艇は、深い手傷を負った旗艦の戦艦「きりしま」のみである。
そのような状態でガミラスがロングレンジ攻撃から、直接攻撃に打って出る事は容易に考えられる。最終防衛のための攻撃衛星システムはあるが、ガミラスの艦隊に有効とは思えない。そうなったら地球はなすすべもなくガミラスに占領され、人類は滅ぼされてしまうだろう。
「短期で冥王星基地を含め、太陽系内のガミラスに対しての反抗作戦を終了させなければ。」
葵は過去のガミラスとの戦闘を思い出し身震いをした。それが武者震いの類なのか、それとも大戦力への反抗への恐怖からなのか葵自身もよくわからなかった。

 午前十時。葵は既に極東指令部にいた。日下部とは十時半に司令部のカフェテリアで待ち合わせだったが、既に日下部はカフェテリアに到着していた。
「おはようございます。小笠原艦長。」席から立ち、敬礼しつつ日下部は付けくわえて葵に「お飲み物は紅茶でよろしいですか?」と言った。葵は紅茶党だった。どうもコーヒー…特に軍隊のコーヒーはあまり美味いとは思っていなかった。
「ああ、そうだな。すまない。」
 葵はいま29歳で三佐。対して霜田は34歳で一尉ある。階級社会の軍隊では年齢と階級の逆転は珍しくはないが、葵は年上から敬語を使われるのに少し戸惑いはあった。
 日下部が紅茶と自身のコーヒーを運んできて紅茶を葵の前に置いた。
日下部が「ストレートでよろしかったですよね?」
「あっ。うん。ありがとう」少し戸惑いが表に出つつ葵は答えた。
 互いに最初の一杯を飲んだ後に、日下部が切り出した。
「選抜人員について、各セクションの責任者に関してめぼしい候補を私なりに目処をつけてみました。」
葵は自身も持っている人員ファイルを渡され、ぱらぱらと目を通してみた。
「ほとんど私の考えと一緒だな。まぁ、人員不足ではあるしな。」
少し皮肉っぽい笑みを浮かべて葵はこの副長となる男の考えの一致を喜ばしく感じた。
「そうですよね。三佐も同じような感じでしょうか?」
「あぁ、似たようなものだ。私の考えを北澤一佐には伝えよう。恐らくここのあたりが落としどころだ。」
「そうですね。では、北澤一佐のところへ出頭しましょう。」日下部が相槌をうち、腕時計を見て席を立った。既に午前十時四十分だった。
 葵も席を立ち、日下部とともにカフェテリアを後にした。
 
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