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ピエロの仮面

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4部分:第四章


第四章

「ちょっと席を外すからね」
「あっ、じゃあ僕はこれで」
「いや、すぐに終わるから」
 男の子に対して微笑んで言ってきた言葉だった。
「そこでクッキーを食べていて。いいね」
「はい」
 おじさんは車の外に出た。それで男の子は一人になった。
 暫くは一人で静かにクッキーを食べてお茶を飲んでいた。ところがふと車の中に。あるものを見つけてそれに目を止めたのであった。
「あれって」
 見ればそれは仮面であった。しかも普通の仮面ではない。
 ピエロの仮面だ。それもかなり見事で精巧な。その仮面を見たのである。
「そういえばおじさんは」
 ここで男の子は思うのだった。
「仮面を着ければとか言ってたっけ」
 おじさんの言葉を生半可に覚えていたのだった。
「そうすればピエロになれたんだっけ」
 こういうふうに覚えていた。そうしてあまり何も考えずにピエロの仮面の方に向かいそれを手に取って。その仮面を着けてみたのだった。
 そのうえで身体を動かしてみる。すると。その動きは男の子が自覚している自分のものではなかった。
 速いのだ。しかも尋常ではない。おまけに身軽だ。そう、まるでピエロのように。
「うわっ、こりゃいいや」
 側転やバク転を車の中でしてみての言葉だキャンピングカーの中だからこそできることだった。
「こんな簡単に動けるんだ。それになれるんだ」
 そしてこう言うのだった。
「こんなに簡単に。ピエロって」
 思わず有頂天になってしまった。あちこちをひょいひょいと動く。動きながらこうも思うのだった。
「けれどおじさんはどうして」
 あのピエロのおじさんのことをだ。
「このお面付けないんだろう。そういえば何か言っていたけれど」
 この辺りはよく覚えていなかった。それで動き続ける。しかし暫くして疲れたのでこれで止めようと思った。それで仮面を外そうとしたその時だった。
「えっ!?」
 男の子の動きが仮面を着けてからはじめて止まった。
「取れない。何でなの!?」
 何と仮面が取れないのだ。全く。
 幾ら引き剥がそうとしても取れない。まるでそれが顔になったかのように。取れないのだ。幾ら引き剥がそうとしても取れず男の子は慌てた。
「何で!?どうして!?」
 幾らやっても剥がれない。そうしてそのまま悪戦苦闘していると。ここで車の扉が開いた。
「お待たせ」
 あのおじさんの声だった。
「用事は終わったから。待ったかな」
「おじさん、これ何なの!?」
 男の子はおじさんが帰ってきたのを見て思わず問うた。
「このお面。取れないけれど」
「えっ、まさかその仮面は」
 おじさんは男の子を見て驚いた声をあげた。
「その仮面を着けたの!?まさか」
「御免なさい、つい」
「いや、謝るのは後でいいから」
 おじさんは驚いていたがそれでも冷静だった。
「早くそれを取らないと」
「けれど取れないよ」
 男の子は必死に取ろうとし続けていた。しかしそれでもだった。
 どうしても剥がれない。そして何故かここで身体が自然に動き出していた。足が左右にぴょこぴょこと動き踊りだす。ピエロの踊りだった。
「それに身体だって」
「うん、わかってるよ」
 しかしおじさんは冷静に男の子にまた返した。
「わかっているから。落ち着いて」
「このお面取れるの?」
「取れるよ。だから落ち着いて」
 何度も落ち着くように言うおじさんだった。
「今はね。いいね」
「わかりました。それじゃあ」
 こう言われて何とか心は落ち着いた。身体が動いたままだったが。おじさんはその間に棚の方に行きそこから何かを出してきた。見ればそれは。
「お札?」
「うん、そうだよ」
 こう男の子に答えるのだった。
「これを仮面に貼ればいいからね」
「それでお面が外れるんですか?」
「うん、そうだよ」
 おじさんは落ち着いたままだった、そのお札を持って踊り続けている男の子に近付きそうして。その仮面の額にお札を貼り付けたのだった。
 するとそれで仮面は外れそこから男の子の顔が出て来た。男の子はとりあえずほっとした顔になっていた。
 
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