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東方乖離譚 ─『The infinity Eden』─

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0章:幻想に囚われた少女
  プロローグ:幻想世界に輝く流星

「こーりーん!居るかー?」

「はいはい、そう叫ばなくてもちゃんと居るよ」

 部屋に響いた聞き慣れた声に、霖之助はゆったりと腰を上げた。
 見慣れた店内には数多のマジックアイテムや貴重品がゴタゴタと立ち並んでいる。足の踏み場も無いほど散らかった店内を、一つの人影がズカズカと歩み寄ってきた。

「おお、居た居た。今日の準備出来てるか?」

「うん、酒は用意してある。後は現地で霊夢に結界を張って貰えば、直ぐにでも始められる」

「よし来た。今日の『流星雨』は何時ぐらいからだっけ?」

「まだ5時間はあるよ。その間、用事があれば済ませてくればどうだい?」

「ん、そうだな。んじゃ霊夢んとこにでも行こうかな」

 男勝りな口調で話す少女──要するに魔理沙は、満足そうな笑みを零すと直ぐにくるりと反転し、僅かな地面の隙間を跳ねるように進んでいった。入る時は容赦無く道具を踏み越えて来ていた所を見ると、恐らく彼女の中で『地面しか踏んではいけないゲーム』でもやっているのだろう。
 扉から外に飛び出した魔理沙は、着地する寸前に滑り込んできた箒に足を乗せ、そのまま一瞬で飛び去った。彼女の親友である博麗霊夢の居る博麗神社に向かったのだろう。目を細めれば、遠くの空に光の尾を引く魔理沙の影が見えた。

 それを見送り、影が見えなくなると同時に自らの椅子に戻る。
 深く腰掛けて目を閉じ、一息着くと、カウンターに備えたお茶に手を伸ばそうと──

「──!貴女は……」








 ──────────────────









「ふ……わぁ……」

 神社の奥に存在する自室にて、目を覚ました霊夢の目に最初に飛び込んできたモノは、扉の隙間から漏れ出してくる太陽の光だった。否、正確には夕日である。時計を見れば、既に時刻は午後4時30分過ぎだ。

「──寝過ぎた。」

 確かに昨日はなんだかんだと深夜まで起きていたから、その分眠るのは道理といえば道理だが、やはり規則正しい生活では無いと思う。肝心な時に体調を崩しては、博麗の巫女は務まらない。
 眠気の残る体に鞭打ち、無理矢理に体を起こす。
 寝巻から何時もの巫女服に着替え、井戸水から汲んできた冷たい水を顔に浴びせる。肌を刺す冷たさが未だ残っていた眠気を打ち払った。
 と、霊夢が井戸の前から移動した直後、先程霊夢が居た丁度そこに人影が飛び込んで来た。

 人影は勢いを殺すように、靴底を境内の石畳に擦り付けた。

「よっ、霊夢。なんだ?寝起きか?」

「ええ、寝起きよ。珍しく寝過ごしたわ」

「珍しいな」

「珍しいわ」

 淡々とした会話ではあるが、霊夢が寝起きという事もあって、魔理沙に不満げな様子は無かった。
 そういえば用を聞いていなかった。まあ大抵彼女が来るのは暇潰しくらいのものだが──

「っと、そういえば今日だったわね。『流星祈願会』」

「なんだよ、忘れてたのか?」

 不満そうにぷうっと魔理沙が頬を膨らませる。『流星祈願会』は文字通り、この季節になると行われる流星観察、及び流星に願いを乗せる会である。参加者は自分と目の前にいる霧雨魔理沙、そして森近霖之助の三名。四、五年前から毎年行っているが、これがまた美しいのだ。魔理沙のスペルカードに含まれるような星の魔法は、ここから来ているものが多い。

「で、紫は何て?」

「場所は無縁塚、東の空だとさ。今年は特に流星の数が多いらしいぞ」

「へぇ。じゃあ、夜まで時間を潰しましょうか」

「おう!」

 井戸から神社の入り口へと戻り、魔理沙も後に続く。戸を開け、入ろうとした所で──

「……?」

 何か、勘のようなモノが、霊夢にその違和感を知らせた。

 ──何かが来る。何か、異質なモノが来る。

「────。」

「おい、どうしたんだ霊夢。ぼうっとして」

「え?ああ、何でもないわ。早く入りましょ」

 気の所為だろう。神社境内に敵対気配は無い。それどころか、ここら一帯に張り巡らせている大規模結界にすら霊夢の勘に訴えかける程の強大な気配などない。
 気を取り直した霊夢は、魔理沙を神社に招き入れると、自らも神社の中へと消えた。











 ──一方。










「じゃね!また明日!」

「ん、また明日」

 ■■■■は唯一無二の親友に手を振りながら、自転車で自らの帰る家へと進路を向けた。
 2028年10月29日。月初には未だ暑かった空気が、今や手の平を返すように寒さが増している。
 冷え込む夕方の帰り道を、力一杯ペダルを漕いで進む。
 少し校則を破って付けているイヤホンからは、大好きな「ラストリモート」が流れている。これが終わればすぐさま「妖魔夜行」「亡き王女の為のセプテット」etc…と順に流れるよう設定済みだ。
 学校から家までの道のりは20分程度。が、それだけあれば5曲は聞ける。この時間も■■■■にとっては生活の楽しみの一つだ。勿論最大の楽しみは家の机の上に並ぶ嫁……ゲフンゲフン、ルーミアちゃんのフィギュア'sを愛でる事である。愉悦。って私は何処の麻婆神父だオイ。

 まあ兎に角帰ろう。母は門限に厳しい、少しでも遅れればアホみたいな量のペナルティ予測可能回避不可避だ。

 しばらく自転車を漕ぎ続け、信号待ちの為に自転車を降りた。
 ──丁度、その時であった。

「……ん?」

 丁度右手側に、見た事の無い小道があったのだ。気付かなかったのか、今までこの道は1年以上通っているが、工事があった何てことは無い。
 ……ふと、何故か興味が湧いた。
 普段はこんな未知の道があっても(親父ギャグにあらず)興味を惹かれる何ていう好奇心旺盛な性格はしていない。けれど、何故かその道にはとても興味を惹かれたのだ。

「……ちょっとだけなら」

 自転車が入るような広さは無かったので、自転車を適当に留めて小道に踏み込む。
 その小道は特別汚いという訳でも無かったが、清潔感があるという訳でも無い。
 陽が当たらない分、寒さは増している。細道に溜まった寒気が、容赦なく柔肌を撫でる。
 だが、そんなモノは些細な事だと言いたいかのように、意識は奥へ、奥へと。

  パキンッ!

「ッ⁉︎」

 ガラスが割れるような音。足元から鳴った所を察すると、なにか窓ガラスか何かの破片を踏んだか。
 そんな予想と裏腹に。

 ──おいで。

 その、視線の先には。

 ──おいで。

「……ッ!何……これ……っ⁉︎」

 ──此処は。

 突如出現した「罅割れ」が。

 ──君の居るべき場所ではないよ。

 ■■■■の足を、飲み込んでいた。


「っ!抜けない⁉︎なんで!?なんで⁉︎」

 罅割れは大きくなっていく。パキリ、パキリと『穴』が広がり、更に中からは無数の白い手が、■■■■の足を引きずり込もうと、その手で■■■■に絡み付いていく。

「やっ、やだっ!離してっ!助けて!誰かっ!」

 助けを求めても、誰も答える者は無い。それどころか、今まで進んだ道は既に無い。
 罅割れは拡大し、既に体の半分程が罅割れの奥の世界へと引きずり込まれている。
 何が起きているのか。どうすれば良いのか。
  そんな事は、今の■■■■に分かる筈もなかった。

「誰……か……」

 伸ばした手を取る者は。

「……おとー……さん……おかあ……さん……」

 誰も居ない。


 ──助……けて。


 虚ろな意識は、そこで途絶えた。






 ────────────






「ったく、なんたって紫が居るのよ」

「あらあら、良いじゃない別に。一回くらい混ぜてくれたってバチは当たんないわ」

 指定された場所にやってきた霊夢と魔理沙を迎えたのは、霖之助と共に居た八雲紫であった。
 霖之助によると、魔理沙が香霖堂を訪れた直後にやってきたらしく、自らの同行を申し出てきたらしい。

 「ったく、アンタならいつでも見れるでしょうに」

 「つれないわねぇ」

 紫は不満気に頬を膨らませ、そしてすぐに悪戯っ子のような笑みを浮かべる。そこまでして紫が見たいほど、今年の流星雨は特別なのだろうか。

 「っと、そろそろよ」

 紫が上空を指す。本来なら今日の天候は曇りであるのだが、霊夢が張った結界によって雲は遠ざけられている。
 ──と。

 「わぁ……」

 今までに見た事も無いような、無数の流星群の雨が天を駆けた。
 それにしても量が多い。パッと見ただけでも100、いや、200はあるだろう。ここまでの量は最早異常だ。

 先ずは願いを捧げ、十分だと判断すれば杯に注いだ酒に口を着ける。
 かれこれ5分は経っているが、未だその流星雨は止まることを知らない。
 その中でも、一際大きな彗星が瞬いた。

 魔理沙はその彗星に目を奪われ、霖之助の口からも感嘆の声が漏れる。かくいう霊夢もその彗星に見惚れていた。

 「……っ!」

 紫だけは、その限りでは無かった。
 すぐさまスキマを展開した紫はその奥へと消え、彗星も──

 「……長い、わね」

 「長い……な」

 彗星にしてはやけに長く、ただただ美しく輝いている。
 行く所まで行った彗星は、いずれ東へと落ちていき──

 凄まじい轟音と共に、幻想郷全土を揺らした。

 「ふわっ!?」

 咄嗟の判断で空に浮かび、大地の揺れから逃れる。
 見れば彗星の落ちた方角から輝きが漏れ、夜の幻想郷を眩く照らしている。

 ──兎も角、向かわなければ。

 霊夢の博麗の巫女としての意地が、驚愕から使命へと、その思考を切り替えた。





 ────────────





 「──あ──ぁ──」

 呼吸もままならない。苦しい。苦しい。
 目の前は真っ白だ。何も見えない。眩しい。
 耳もマトモに働かない。いや、少しだけ聞こえる。
 なんと言っているのだろう。

 ──ま…か、人…ん!?

 ──は…く…せろ!え……ん…いにつ…てく!

 まだ幼さの残る少女の声だった。
 焦っているようだ。声が微妙に聞き取れないから、何に焦っているのかは分からない。

 ──っ…く!な…でこ……時……!

 というか声可愛い。何この子可愛い。絶対美少女であるべきそうすべき

 ──と、視界が微妙に開けてくる。が、意識が再び閉ざされようとする。

 せめて……せめてこの美少女(未来形)の顔だけでも拝まなければ……ロクに気絶も出来るものかぁぁぁぁぁぁぁっ!
 無駄な所に命を燃やすあたり、やはり自分もオタクである。が、今は余分な体力を使う余裕はない。

 命をぉぉ……燃やせぇぇぇぇぇぇぇっ!!

 カッ!見えたっ!

 赤いリボンの、艶のある黒髪。その服は紅白の巫女服である。ってこの服装どっかで見たような──

 ──あ

 「YR1(やっぱり霊夢ちゃんが1番可愛いです)……ガクッ」


 なんとも、間抜けな気絶もあったものだ。



 
 

 
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