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ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち

作者:はらずし
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第十三話 安心してください、下は履いてますよ

 
前書き


お久しぶりです、はらずしです。

いやぁ、前回「早く書きますんで〜」なんて言ってたのに
もう一ヶ月経ってた……。

だがしかぁし、書き溜めてはいたんですよ。
文字数なんと24,861文字!
これは驚きでしたw

てことで、一話にまとめず分割しました!

とりあえずその一話目です。
どうぞ!

 

 




《風見鶏亭》一階の広いレストラン。
その奥の席にシリカを座らせ、リュウヤはフロントでチェックインを済まし、メニューウインドウを操作し終えるとシリカの向かい側に座った。

自分のせいで不快な思いをさせてしまったことを謝罪しようとシリカは口を開こうとするが、

「礼はいらんよ。むしろ俺の方が謝るべきだ。すまん」

牽制され、逆に頭を下げられてしまった。

「な、なんでリュウヤさんが謝るんですか。そんな必要ないのに……」

「いや、俺が未熟なせいでいたずらに場をかき乱してしまったしな」

確かに、一言どころか二言三言余計だった。
別れ際なんて、ロザリアがブチギレていたのを見て、

「図星ですか、オバさん?」

とのたまって、更に怒りを買ってからその場を去ったのだ。余計にも程がある。

しかし、理由はなんであれリュウヤが悪いわけではない。

「とりあえず顔を上げてください。謝るべきは問題を持ち込んだあたしですから」

悪いのは自分だと主張するシリカにリュウヤはゆっくりと頭を上げた。それでもリュウヤは自分が悪いと思っているのか目が伏せられている。

これではどっちかが折れないと平行線のままだ。どうするべきかと考えていると、NPCのウェイターが二つのマグカップを持ってきた。

湯気が出ていて、それにいい香りがする。
頼んでいないのに手をつけていいものか悩んでいると、リュウヤに飲んでいいぞと促される。

いただきます、と言ってから甘い香りが鼻腔をくすぐる少し黄色みを帯びた液体を啜った。

「わぁ……おいしい……!」

「だろ?」

リュウヤは満足そうに頷く。

スパイシーな味わいは刺激的かつ濃厚で、だが後味はスッキリしている。確か、遠い昔に父親に少しだけ味見させてもらった、ホットワインと似た味がする。

しかし、この店のドリンクは全て試したはずなのだが……。

「リュウヤさん、これは?」

「実はNPCレストランじゃ持ち込みが可能でな。俺が持ち込んだ酒だ。《ゴルダリアン》っつうアイテムで、カップ一杯で筋力の最大値が一上がる優れもんだ」

「そ、そんな貴重なものーーー!」

「うん、貴重だよ。だから、これでさっきのはシリカも含めてチャラにしてくれないか?」

慌てていたシリカに、リュウヤは言いくるめるように苦笑する。
なんて話のうまい人なんだろうか。自然にそう思えてしまう。
先ほどのロザリアとの口論の話をすれば当然このようなことになると分かっていたのだろう。
子どもみたいなことをするが、やはり年上なんだとシリカは実感する。

「分かりました。お互い様ということで」

「さすが、シリカちゃんは大人だねぇ」

「か、からかわないでください……」

大人に大人らしいと言われるのはこんなに恥ずかしかったっけ、と思いつつ、マグカップに注がれたお酒を飲んでいく。

体が温まっていくのを感じる。悲しいことが多かった一日だからなのだろうか、この温かさが身にしみる。

徐々に下がっていく視線。シリカはぽつりとつぶやいた。

「……なんで、あんな意地悪言うのかな」

リュウヤの緩んだ顔に、少しも気負いを感じせずに笑みを浮かべる。

「それがあいつの本性ってことだからかな」

「えっ……それは……」

直球すぎる発言に、素直に同調することができず言葉に困るシリカ。それを見てリュウヤは悪い悪い、と片目を瞑った。

「これは俺個人の考え方だからな。納得できるかどうか分からんが、その問いに俺の意見を提示しよう」

教師のような口調になるリュウヤ。面白がっているのではないのだろうが、マジメとも言えないその態度に、少しだけ心にゆとりが取れた。

「シリカはMMOはここが初めてだろう?」

「はい、そうです」

「なら、ロールプレイってのは知ってるか?」

「知ってます」

「じゃあ話は早いなーーーそれは他のゲームじゃ当たり前にやってたことだ。自分のやりたいプレイスタイルで楽しんでた。ソロでひたすら強化するのも、パーティー組んで楽しく遊ぶのも、人助けするのも、商売するのもな。その中には悪役に徹する奴もいる。それが当たり前だった」

けど、とマグカップを片手に持ちながら続ける。

「ここじゃその当たり前が通用しないんだわ。ここはゲームの中じゃない。立派な現実だ。それが分かってんだか分かってないんだか……」

呆れたようにリュウヤは肩を竦めた。

「だからこそ、ここじゃやること全てが当人の本性を浮き彫りにする。オレンジプレイヤーなんてのはその代表格だ」

明るい口調とは裏腹に、わずかに込められた侮蔑の感情。

オレンジプレイヤーとは、通常グリーンで表示されるプレイヤーのカーソルが、オレンジへと変化したプレイヤーのことだ。

システムに規定された犯罪を犯せばグリーンからオレンジへと変わる。
つまり、オレンジプレイヤーとはこの世界において犯罪者の代名詞なのだ。

だから、とリュウヤはニヤリと笑い、

「シリカみたいないい子は、さっきみたいにみんなの人気を集めるんだよ」

「か、からかわないでくださいってば!」

ハッハッハ、と朗らかな表情を見せるリュウヤ。からかわれてばかりでは納得がいかないとシリカは口を開く。

「そういうリュウヤさんだって、あたしを助けてくれたし……い、いい人じゃないですか」

自分で言いながら段々と恥ずかしくなってきて、次第に言い淀んでいく。これじゃあまたからかわれるだけじゃん、とリュウヤの反応を伺う。

だが、そんな予想と反してリュウヤは顔を強張らせていた。


「……俺は、オレンジとたいして変わらん。なんならオレンジよりーーー」


そこで言葉を切り、ハッとした表情を見せ、破顔した。

「……っと、そんなことより、飯だ飯。デザートも楽しみだ。そうだな、美味けりゃ俺が奢ってやるよ」

「い、いいですよ。自分で払いますって」

「なぁに、美味い店紹介してくれることの礼だ。それに、美味けりゃ、だからな?」

あえて挑発するように言うリュウヤ。
その言い方に少々ムッとくる。自信を持ってオススメするケーキだ。絶対おいしいはず。

「いいでしょう。もし美味しくなかったらあたしがご飯代出します」

「よしその勝負乗った!早く来ねえかな〜」

子どものように料理を待つリュウヤの楽しそうな表情。
それをシリカは我知らず、胸をキュッと握りながら見つめていた。







運ばれてきた料理に舌鼓をうち、食事を終える頃には夜の八時を回っていた。
勝負の結果はリュウヤがおごることで幕を閉じた。随分気に入ったらしくおかわりも頼んでいたほどだ。

二階に上がり、長く伸びる廊下に並ぶ客室のドア。それぞれ自分の部屋に入ろうとすると、偶然にも隣同士だったことが判明。互いに苦笑いを見せ、おやすみと言い合い部屋に入った。

明日のダンジョン攻略のため早めに休むことにしたのだが、もらったばかりの短剣に手を馴染ませておこうとシリカはウインドウを操作し短剣を握る。

いつも使っていた剣とは違い重みがあって少々苦戦したが、なんとか五連撃のソードスキルの発動に成功。その後もしばらく復習に時間を費やしていたがここら辺でいいだろうと思うところで止めにした。

武装を全解除し、壁を叩いてポップアップメニューを出し部屋の明かりを全て消して下着姿でベッドに倒れこむ。

すぐ眠れるだろうと数分、目を閉じて横になる。しかし、今日一日で起きた出来事で心身ともに疲れているはずなのに、中々寝付けられない。

ピナが友だちになってからずっとふわふわの体を抱いて眠っていたから、急に変わった環境に対処できていないのか。

ううん、たぶん違う。
それもそうだろうけど、と思いつつ首を横に振る。

眠れないのはあの青年が原因だ。
何かを言いかけて、止めた時の青年のあの表情。
あれを見てから胸の奥の方にある疼きが一向に消えず、シリカを眠らせようとさせてくれないのだ。

陽気で子どもみたいな一面を持つ彼の、イメージに合わない深い懊悩を抱えた様子が、シリカの目から離れようとしない。

そしてなぜか、それを見た途端胸が締め付けられるような思いを感じた。理由は分からない。ただ、彼のことを考えるだけで胸が切なくなる。同時に心に空いた穴が暖かさで埋められていく。

もう少し、お話したいな。

知的好奇心でもあり、そうでもない感情に名前をつけることはできないが、ともあれ単純にリュウヤと話をしたかった。

しかし、時刻はもう十時を過ぎている。窓から見える外の景色にプレイヤーの足音はなく、かすかな犬の遠吠えが聞こえる。

そんな時間じゃ迷惑だよね。

そう頭では考えていたのに、シリカはウインドウを操作し所持している中で一番かわいいチュニックを着て、リュウヤの部屋の前に立ってノックをしていた。

通常、部屋の中は音声遮蔽圏であり、何も音を通さないのだが、ノックした三十秒後だけは別で声が通る。

シリカです、と告げるとドアが開かれリュウヤが出てきた。
先ほどまでの簡素なシャツ姿ではなく、タンクトップに、外していたはずのリングネックレスをつけた姿で登場したリュウヤは首を捻っていた。

「どったの?」

「え、あ、えと……その……」

当然の疑問にシリカはしどろもどろになる。ここまで来ておいて、理由を考えていなかったのだ。
なんとか頭を高速回転させひねり出そうとするが中々出てこない。リュウヤの視線が痛くて目も合わせられない。

どうしよう、と必死に悩んでいると、

「そうだ、明日のダンジョンのこと説明してなかったな。どうする?階下で説明するか?」

優しい表情で向こうから理由を出してくれた。渡りに船の申し出にシリカは急いで返答する。

「えっとーーー良かったら、お部屋で……。あ、あのっ、貴重な情報ですしっ、他の人に聞かれたら、マズイかもしれませんし……」

つい出てしまった本音に、とっさの言い訳を被せる。やってしまったと思いつつ、リュウヤの顔を伺うと、少し悩んだ表情を見せたが、すぐに笑みに変わった。

「まあそうだな。んじゃ、入んな」

言われて入った部屋は、シリカの部屋と左右対称なだけで、とくに変わったものはない。
リュウヤが部屋の中央にあるイスに腰掛けたのでシリカもそれにならった。

リュウヤはウインドウを操作しあるものを取り出しテーブルに置いた。

「リュウヤさん、それは……?」

「《ミラージュ・スフィア》ってアイテム。どんなのかは、見たら分かるさ」

言いながらリュウヤは小箱に納められた水晶に触れる。メニューウインドウが出たのでそこにあるOKボタンをクリック。

すると、水晶が青く輝き出し、球体状にマップが表示された。そこに表示されているのはアインクラッドの全体像。木々の一本一本まで再現された、立体的かつ細やかなマップはシステムメニューから見れるマップとの比が違う。

「きれい……!」

穏やかな青い光を放つ水晶と繊細なマップに見惚れているシリカを横目に、リュウヤはマップを操作していく。

「えっとな……これが四十七層で、ここが主街区な。んで、こっちにあるのが思い出の丘。まぁたいして強いモンスターは出てこないから安心しろ。そんでーーー」

リュウヤはマップを操作しながら淀みなく四十七層の地理を説明していく。
自分のささやかな望みが叶えられているという実感と、彼の柔らかな声がシリカの心を温めていく。

「ーーーで、この丘越えると……」

一瞬、リュウヤの声が途絶える。
しかし何事もなかったかのように説明を続けるが、そろ〜っとイスから立ち上がり、くちびるにひとさし指を当てながらドアに近づいていく。

「もうすぐ見えてくるんだけどそこでな〜にしてんのかなお兄さぁぁぁん!」

バンッ、と大きな音を立てドアを開けるリュウヤの奥には一人のプレイヤーが。
惚けた顔を見せるが瞬時にその場から去っていき、急いでリュウヤの元に駆け寄ったシリカが見えたのは階段を転けそうになりながら降りていく影だけだった。

「なんだったんですか?」

「ん?話聞かれてたらしいわ」

「そうですかーーーって、ええ!?」

平然と盗聴の事実を告げるリュウヤに、そのままスルーしそうになる。

「で、でも、部屋の中は聞こえないんじゃ」

「聞き耳スキル上げてっとその限りじゃないんだわ。そんなスキル上げてんの、そうそういないけどな」

「そんな……」

不安に駆られるシリカ。それに対してどこまでも落ち着いているリュウヤーーーいや、落ち着いているのではなく、面白がっていた。

「くっく……あいつの顔、マジおもろ……!」

「リュウヤさん、笑ってる場合じゃ……」

「いや、マジ面白かったぞ。記録クリスタルあったら撮っておきたかったくらいだ……ククっ」

ドアを閉め、しばらく口を抑えて笑っていたが、笑い終わるとすぐにメニューウインドウの操作に入った。

その傍ら、ベッドに座り込み不安で一杯になって両腕で自身の体を抱くシリカを見やると、

「そう心配すんな。お前との約束と安全は絶対に守ってやっから」

ポン、と頭の上に手を置き、操作に戻る。なにやら誰かにメッセージを送っているらしい。
その姿が、もう遠い昔のように感じる現実世界で見た風景を思い起こさせる。

シリカの父はフリーのルポライターをやっている。パソコンに向かって気難しい顔でタイピングしながら仕事をしていた父の姿に、リュウヤが重なる。

彼のことはなにも知らない。信用できる確たる証拠なんてなにもない。けれど、もうなにも怖くなかった。怯える必要なんてどこにもない。

青年の背中を見つめながら、気づけばシリカの意識は途絶えていた。











朝を告げる柔らかな音色が響く。
自分にしか聞こえないアラームを切って、むくりと起き上がる。設定されたアラームの時間は朝の七時だ。

あまり朝に強いわけではないシリカだが、今日はすっきりと目覚められた。
ずいぶんと質のいい睡眠を得られたらしい。疲れていたからか、それとも不安の一切を取り払う暖かさに触れたからか。

どちらにしても、シリカにとっては好都合だ。今日は大事な日なのだから。

ぐぐっと大きくひと伸びして、ベッドから足を下ろし目線を変える。そこでシリカはようやく気づいた。
自分の部屋と配置が左右対称になっている。つまりーーー

(……あたし、リュウヤさんの部屋で寝ちゃった!?)

徐々に覚醒していく脳が一気にギアを上げ、昨日の最後の記憶へたどり着く。
メッセージを打っていたリュウヤの背中と、ベッドに横になって目を閉じた自分。

どう記憶を掘り返したって、部屋に戻らずリュウヤの部屋のベッドで寝ていた自分しか思い浮かばない。

ボンっ、と効果音が出そうなほどに急激に顔を赤くしていくシリカ。紅潮した表情は、まるで火竜のブレスを浴びたように暑い。

なんとか落ち着こうと、火照った顔をシーツで覆い、声にならない声を上げてなんとか気を紛らわせる。

そうすること数分、だいぶ落ち着いてきたところでノック音が部屋に響いた。

「は、はいっ!?」

「起きたか〜?起きたなら着替えなりなんなり済ませて、終わったら声かけてくれ」

「あ、はいっ。分かりました」

ドア越しに聞こえてきたリュウヤの声に慌てて飛び上がる。
ウインドウを開いてささっと着替えを済まし、部屋のドアを開けると、向かいの壁に腕を組んでたたずむリュウヤの姿を見つけた。

「ん、終わった?」

「はい、大丈夫です」

「ほんじゃあ入らせてもらいますか」

言いながらシリカの隣を通って部屋に入るリュウヤ。その格好は、昨日見た圏内に入ったときの服装だった。

もしかして、どこかへ行っていたのだろうか。そんな考えが頭をよぎると同時、

「シリカ、嫌なら後ろ向いてろ」

「へ?」

「や、着替えるから。見たいなら別にいいけど」

シュン、とリュウヤはウインドウを操作してシャツを脱いだ。

「ーーーひ、ひゃぁ!?!?」

一瞬遅れてシリカの悲鳴が響く。ギュンと音が出そうなほど高速で後ろを向いて顔を覆った。

「な、な、な、何してるんですか!?」

ほんの数瞬だけだったが、初めて見た男の人の裸体(上半身のみ)。それが脳内で鮮明に映し出され、シリカの動揺が収まらない。

それに追い打ちをかけるかのように、リュウヤはシリカを自分の方へ向き直らせ、両肩を掴んだ。
そして意味不明なことを言い始めた。

「そうだよな、これが正常の反応だよな……」

うんうんとうなずくとシリカの目を直視し、

「ありがとうシリカ。これでまた一つ、俺の中の常識が保たれた。恩にきる」

信念を賭けた戦いに勝ち残った戦士のような目で、これでもかというくらいの感謝の念をシリカに送る。

それを受け、シリカは一言。

「そんなことより、服を着てくださいっ!!」






 
 

 
後書き


シリカちゃん、初々しいのぅ…

まあ単にリュウヤが変態なのかもしれませんが

でも、ひとつ言わせてください。
彼も彼なりの矜持を持って脱いだんですっ!

……これだとかなり危ない変態だなぁ(フォローになってない)

 
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