何故ばれる
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1部分:第一章
第一章
何故ばれる
川のせせらぎが聞こえてくる山の中。今ここに狐と狸と川獺が三人向かい合って座っていました。そうしてあれこれと何やら話をしています。
「何じゃ、最近そんな店ができたのか」
「そうらしいぞ」
狸に対して狐が話をしています。今彼等は川辺の大きな白い石の上に座ってそのうえで捕まえた川魚を生のまま食べながら話をしています。
「人間の店でのう。えらく美味いものを売っているらしいのじゃ」
「ふむ。美味いものか」
狸はそれを聞いてその丸い目をさらに丸くさせました。
「というと揚げより美味いのかのう」
「揚げはわしの好物じゃぞ」
揚げと聞いて狐はすぐに狸に突っ込みを入れました。
「御主も好きなのか?」
「わしも揚げは好きじゃ」
狸もそれは隠しませんでした。
「同じようにのう」
「ふむ。そうじゃったか」
狐は狸のその言葉を聞いて腕を組んで考える顔になりました。
「それははじめて知ったのう」
「知ってもらえれば嬉しいことじゃ。とにかくじゃ」
「うむ」
「その店はどんな店なのじゃ?」
狸はその身体を前に突き出して狐に尋ねました。
「何を売っておるのじゃ?それで」
「何でも甘いものらしいぞ」
狐はこう狸に答えました。
「甘い。砂糖をたっぷりと使った菓子だそうじゃ」
「ほう、砂糖をたっぷりとか」
それを聞いてあらためて目を輝かせさせた狸でした。まるではじめて素晴らしいお話を聞いた時のように。そんな目になったのでした。
「それは美味そうじゃな」
「そうじゃろう。実はわしも食べたいと思っておるのじゃ」
「そうじゃな。では早速その店に行こう」
ここで川獺が口を開いて二匹に言ってきました。彼はこれまでずっとお魚を食べることに専念していたのですがはじめて口を開いたのです。
「その人間の店にのう」
「人間の店にか」
「そうじゃ。美味いのじゃろう?」
川獺は持っている魚を全部食べたうえで狐に尋ねます。
「その菓子は。そうなのじゃろう?」
「それはそうらしいのう」
狐は川獺に対しても答えました。
「ほっぺたが落ちそうだそうじゃ」
「では行って食うべきじゃ」
川獺はまた言いました。
「美味いものは食わんと何にもならんものじゃ」
「しかしじゃ」
今度は狸が言ってきました。
「それを食うのはいいのじゃが」
「何じゃ?」
「問題は食えるかどうかじゃ」
彼が言うのはこのことでした。
「食えるのかじゃ。その菓子が」
「何か問題があるのか?」
「人間がやっている店じゃぞ」
狸はそのお店は人間がやっているということを川獺に告げました。
「人間がじゃ。わし等が行ったら相手にせんどころか追っ払われてしまうぞ」
「その通りじゃ」
狸の今の言葉に狐も頷きました。
「そんなところに行っても食える筈がないぞ。ましてや人間の店になると銭が必要じゃ」
「わし等銭なぞ持っておらんぞ」
また狸が言います。
「それなのにどうするんじゃ」
「そんな時にこそ術があるのではないか」
けれど川獺は得意そうな顔になって二匹に告げるのでした。
「そんな時の為にのう」
「?というとじゃ」
「化けるのか」
「そうじゃ」
川獺は腕を組んでその得意そうな顔のまま再び彼等に告げました。
「人間に化けてじゃ。それで行くのじゃよ」
「成程。人間ならばのう」
「問題はないな」
狸も狐も川獺の言葉を聞いて頷きました。まさにその通りです。
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