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お母さん狐の冒険

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2部分:第二章


第二章

 洞穴から出て少し行くと川がありました。けれどその川には橋があるので安心です。そうだった筈でした。
 ところが橋はありませんでした。そこには何もありませんでした。ただ川が広がっているだけでした。
「これは一体・・・・・・」
 お母さん狐はそれを見て呆然としました。いつもある橋がない。これでは渡るには泳がないといけません。お母さん狐は泳ぐのは得意ですが寒いので川なんかで泳いだら風邪をひいてしまいます。子供達が寒くて困っているから手袋を買いに行くのに自分が風邪をひいてしまっては元も子もありません。
「どうしようかしら」
 困った顔で辺りを見回します。すると少し離れた場所に石がありました。川の中に石が数個連なっていたのです。
「そうだ、あの石を跳んでいって」
 お母さんは思いつきました。
「それで渡ればいいわ。これで濡れないで済むわ」
 そして石に近付きました。軽やかな調子で跳んで渡っていきます。こうしてお母さん狐はまずは川を渡りました。しかしそれで終わりではなかったのです。
 暫く行くと分かれ道でした。いつも通っている道なのですがここは三つに分かれています。
 右と左、そして真ん中に。町へ行くには右に行けばいいのですが何とその道に大きな猪さんが寝転がっているのです。
「あの、猪さん」
 お母さん狐はその猪さんに声をかけました。
「どうしたんですか、こんなところで」
「おお、狐の奥さんか」
 猪さんはお母さん狐の声に気付いて顔をあげました。
「実はな、困ったことになってしまってな」
「困ったこと?」
「うん、悪いものを食べてしまったらしくて。お腹が痛くて動けないんだ」
「お腹が」
「この道を通るんだろう?身体が動けたらどけるんだが」
「それなら」
 どうしようか。といってもお母さんは今はお薬なんて持っていません。手袋を買いに行くだけのつもりでしたからお金しか持っていないのです。
「少し待っていて下さいね」
 けれど町に行くにはどうにかするしかありません。猪さんに道を開けてもらうしか。とりあえずは左の道に向かいました。そこは薬草が一杯あって猪さんを助けることが出来るかも知れないと思ったからです。
 その薬草が一杯ある場所に来ました。とりあえずどんな薬草がいいのか探します。けれどお母さん狐は薬草にはあまり詳しくはありませんでした。こうしたことはどちらかというとお父さん狐の方が詳しいのです。お父さんは森のお医者さんでもあるからです。
「どれがいいかしら」
 何がいいかあまりわかりません。青い草や赤い草、緑の草と一杯あります。そのどれがお腹にいい草なのかよくわからないのです。お母さんは困ってきました。
「どうしたんですか」
 けれどここで兎さんがやって来ました。
「薬草を見て」
「実は」
 お母さんは兎さんに事情をお話しました。何でも猪さんのお腹をなおす草を探していると説明したのです。
「お腹の薬ですね」
「はい」
 お母さんは答えました。
「どれがいいのでしょうか。私こうしたことにはあまり詳しくなくて」
「それならこの草がいいですよ」
 兎さんはそう言って青い草を抜きました。
「この青い草なら。お腹の痛みもすぐになおりますよ」
「本当ですか?」
「私だって森の医者の一人ですから。大丈夫ですよ」
 兎さんは笑ってこう答えました。
「さっ、これを持って早く猪さんのところへ行きなさい」
「有り難うございます。何と御礼を申し上げていいか」
「御礼なんていりませんよ。何でしたら今度人参でも」
「わかりました。それじゃあ」
「はい」
 こうして兎さんから青い草をもらったお母さん狐は今まで来た道を引き返して猪さんのところに向かいました。そしてまだ苦しんでいた猪さんにその青い草を手渡しました。
「これでいいそうですけれど」
「これを食べれば腹の調子が元に戻るのですな」
「はい」
 お母さん狐は答えました。
「是非。お食べ下さい」
「わかりました。それでは」
 猪さんはお母さん狐の勧めに従い青い草を食べました。すると今まで苦しかった顔が急に明るくなってきました。
「これは」
「元気になられたんですね」
「ええ」
 猪さんは声まで明るくなっていました。
「とても。凄くよく効く薬ですな」
「そうですか。それはよかった」
「有り難うございます、おかげで元気になりました」
 そう言いながら立ち上がります。
「お邪魔しましたな。ではどうぞ」
「はい」
 こうして道が開きました。お母さん狐は右の道を進むことが出来るようになりました。
 道を進んで暫く行くと今度は狸さんに会いました。狐さんとは悪友で時には化かしたり化かされたり。仲はいいですが結構喧嘩もしたりします。狐と狸はお互いライバル視していてこの森でもそれは同じなのです。けれど家族ぐるみでのお付き合いもあります。
「あっ、狐の奥様」
 見れば狸さんのお家の奥さんでした。お母さん狐とは子供の頃からのお付き合いで仲はいいのですがやっぱり互いにライバル視していたりします。お母さんは奥さんの顔を見て少し警戒していました。
「どうしたんですか、こんなところで」
「いえ、実は」
 それでも互いに知った仲なので挨拶はしました。そして子供達の為に町まで手袋を買いに行くということをお話しました。
「手袋をですか」
「はい」
 お母さん狐は答えました。
「今から買いに行くんですけれど」
「それなら途中の熊さんに気をつけた方がいいですわよ」
「熊さんに?」
「ええ。最近何かソワソワしていて。ちょっと乱暴なところもあって」
「熊さんがですか」
 熊さんは森で一番の力持ちです。普段は優しいのですが怒ると怖い人でもあります。
「気をつけてね。いいですわね」
「はい」
 お母さん狐はそれに頷きました。そして狸の奥さんと別れてまた道を進みます。
 するとすぐにその熊さんと出会ってしまいました。見れば如何にも不機嫌そうです。
「やあ、狐の奥さん」
 熊さんはお母さん狐に声をかけてきました。
「どうされたのですかな」
「いえ、これからちょっと町まで」
 お母さんは熊さんの大きな身体と不機嫌な様子に戸惑いながらも答えました。
「町までですか」
「はい」
「ではお気をつけて」
 熊さんは先に進もうとします。けれどここで熊さんの右の前足の裏が目に入りました。
「あっ」
 そこでお母さんつは気が着きました。どうして熊さんが不機嫌だったのかを。

 
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