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真田十勇士

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巻ノ十一 猿飛佐助その三

「さもないと容赦せぬぞ」
「おいおい、随分と喧嘩腰じゃな」
「何奴じゃ」
「修行中の忍の者じゃ」
 これが声の主の返事だった。
「たまたまここで飯を探しておったのじゃ」
「それで何故上におる」
「決まっておる、柿を食っておったのじゃ」
「木の上に登ってか」
「そうじゃ」
「猿みたいな奴じゃな」
「ははは、わしが猿か」
 清海のその言葉にだ、声は笑って返してきた。
「実際にそう言われることも多いわ」
「何じゃ、御主猿に似ておるのか」
「自分でもそう思っておる」
「ではその顔を見たいが」
「どっちにしろ上から見られるのは嫌じゃな」
「何かとな」 
 清海は用心する声で答えた。
「それはな」
「そうじゃな、それはわしもじゃ」
「御主もそれならじゃ」
 それならばというのだ。
「早く降りて姿を見せよ」
「見せぬというのならな」
 穴山はここでも背負っている鉄砲に手をやった。
「相手とみなしてもよいか」
「撃つつもりか」
「上を取るということは忍の世界ではそうであろう」
「その通りじゃな、わしもそう思うからな」
「では降りて来るのじゃ」
 穴山も言う。
「よいな」
「よし、それではな」
 こうしてだった、猿飛佐助は雪村達の前に降りて来た。風と共に降り立った者はというと。
 確かに猿の様な顔で小柄である。緑の忍装束を着ておる髪は短く刈っている。目は大きく愛嬌のあるものだ。
 その顔でにやりと笑ってだ。片膝をついた姿勢で言って来た。
「わしが猿飛佐助じゃ」
「ふむ。確かに猿の様な顔じゃな」
 そうだとだ、清海は猿飛の顔を見て言った。
「だから猿飛か」
「いや、この名は元々じゃ」
「一族の名か」
「うむ、わしは伊予の生まれでな」
「立ってよいぞ」
 幸村がここで猿飛に言った。
「それで話をしようぞ」
「では」
 猿飛もここで立ってだ、そしてあらためて話した。
「伊予で代々忍の家でな」
「伊予の猿飛家か、思いだしたぞ」
 ここでまた幸村が言った。はっとした顔になり。
「身体を使った忍術、そして木の術と獣を使う術に秀でた流派だったな」
「そちらのお武家殿はご存知か」
「聞いたことがある」
 そうだとだ、幸村は猿飛自身に答えた。
「流派といっても一子相伝の流派、その猿飛流の者とは」
「そのこともご存知か、そういえばさっきわしに立つ様に言ったが」
 このことにもだ、猿飛は言及した。
「猿飛流のこともご存知。貴殿普通の方ではござらぬな」
「このj方は真田幸村という」
 由利が幸村を右手で指し示して猿飛に話した。
「信濃、上田の国人真田家の方じゃ」
「真田家、武田家の家臣だったな」
「もう武田家はないがな」
 由利はこのことは少し残念そうに答えた。
「しかしじゃ」
「真田家はありか」
「今戦国の世を生き残る為に腐心しておられる」
「今天下はどうなるかわからぬ」
 猿飛は腕を組んだ姿勢になり話した。
「信長公は倒れ織田家も乱れてな」
「次の天下は羽柴秀吉殿になろう」
 幸村は冷静にだ、猿飛に己の考えを話した。 
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