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知られない戦闘

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第一章

                       知られない奮闘
 この話は殆どの者が知らない。
 第二次世界大戦のベルギー軍というと。
「何でもなかった」
「ドイツ軍に惨敗した」
「大戦初期に退場した」
「近代化も出来ていなかった」
「ドイツ軍の敵ではなかった」
「あっさりと敗れた」 
 こう言われる、だが。
 大阪のある居酒屋でだ、一人の砕けた目の青い老人が日本の若者達に笑って話していた。
「まあ確かに我が国は早々と負けたよ」
「はい、それは」
「何ていいますか」
「ちょっと」
「そう言われますと」
「ははは、日本人は奥ゆかしいというか気遣いしてくれるね」
 老人は笑ってだ、大ジョッキのビールを飲みつつ日本の若者達に言った、テーブルには焼き鳥や烏賊の姿焼き等がある。若者達もそれぞれビールを飲んでいる。
「イギリスやフランスだと思いきり言ってくれるよ」
「そうなんですか」
「まあ俺達そこまでは」
「それに俺達そのドイツと同盟国で」
「ちょっと言うことは」
「そういえばそうだったね、ベルギーと日本は敵同士だった」
 ベルギーは連合国、日本は枢軸国だったからだ。
「それなら余計に言うのは憚られるな」
「はい、教授」
「そうなります」
「そうだな、しかしわしのお父さんが言うには」
 この教授、ヨハン=ダム教授が言うには。ベルギーから日本に物理学の教授として来ていて今は自分の生徒達と居酒屋で話しているのだ。
「少し違うんだ、これが」
「っていいますと」
「どんな感じだったんですか?」
「大戦中のベルギー軍の戦いは」
「一体」
「それでは今から話そう」 
 是非にとだ、ダム教授は明るく笑ってだった。
 ビールを飲みつつ自分の学生達に話した、その話はというと。
 ドイツ軍は当初西欧での戦いはフランスのマジノ線に来ると思われていてそこの防御が徹底されていた、だが。
 ドイツ軍はアルデンヌの森を越えてフランスに攻め込んで来た、そして。
「我が国にもですか」
「そうだ、来た」
 ホセ=ダム少尉にだ、レオポルド=ホフマン大尉が幕舎の中で話していた。二人はまだ基地にいるのだ。
「このことは予想していたな」
「はい、前もそうでしたね」
 ダムは顔を顰めさせてだ、ホフマンに応えた。二人は今ホフマンのいる中隊長室にいる。二人でソファーに座りコーヒーを飲みながら話をしている。
「シュリーフェン計画で」
「中立を守っていた我が国にな」
「ドイツはあの頃から中立とか無視しますね」
「むしろヒトラーは尚更だ」 
 前、つまり一次大戦の頃と比べてというのだ。
「ヴィルヘルム二世はまだ品があった」
「皇帝ですから」
「しかしヒトラーは違う、手段を選ばない」
「これまで色々汚いことをして勢力を拡げてきましたし」
「それで今回もだ」
 一応は中立を言ったベルギーにというのだ。
「攻め込んで来たという訳だ」
「そういうことですね」
「前線はもう大変らしいぞ」
 ホフマンは顔を顰めさせてだ、ダムに話した。
「ドイツ軍の航空機が攻撃してきて戦車が雪崩れ込んできてな」
「それではすぐにここにも」
「来る、おそらく今日にでもな」
 ホフマンはその引き締まった顔を険しくさせてダムに話した。 
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