| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

例えばこんなゼゼーナンの怪はどうだろ

 
前書き
大体1年くらいの時を経て、回収していない話を処理しに戻ってまいりました。 

 
 
 ある日、ゼゼーナンは何者なのかという話になった。
 ゼゼーナン、それは俺のペットのヒキガエル。数年前に温泉の隅っこに何故かぷかーと浮いていたので保護。そして何故か俺の顔を覚えているようなので、気に入ってペットにしたという経緯がある。このつぶらな瞳に愛嬌のある顔……かわいいぜ……。

「どうなのよ実際?本当に普通のカエルな訳?」
「どう見たってカエルでしょ?楯無さん何言ってんの?」

 しかし楯無さんは全くそうは思ってくれないらしく、それどころかゼゼーナンが本当にカエルなのかを疑う始末。んな事言われたって……カエルじゃなきゃ何だって言うんですかね。実は妖怪変化だとでも言うつもりなんですか?

「目視やデータ採取で得られるゼゼーナンの生体情報は間違いなくヒキガエルを示してるよ?」
「ほら、オウカだってこう言ってるじゃん」
「むむむむむ……そ、それはそうなんだけど………」

 楯無さん曰く、ゼゼーナンには高い知性があるんじゃないかと言うのだ。でなければ前に生徒会室に忍び込んだ産業スパイを威嚇するように水槽から突如脱走するとは思えないと。……え?そんなことあったの?まぁいいけど。

「何があってもゼゼーナンは俺のペットだからね?殺処分とかしちゃヤだよ?」
「しないわよ!」
『私もやぁよ、カエル一匹殺すために展開されるなんて。中国じゃ食べるらしいし楯無食べてみたら?』
「「絶対に駄目(無理)ッ!!」」

 その瞬間、楯無さんとちょっと通じあった気がする。まぁ気がするだけで拒否に至った経緯が違うんだけど。しかしそこまで言われたら俺も引き下がれない。束さん、例の物を!!と電話すると、数分後うしおとほむらが待機形態のトウカ(10月17日の日記に登場)を連れててちてち歩いてやってきた。

「おとーさ~ん!博士に言われて頼まれた物もってきたよ!」
「初めてのお使いなの!」
「おーよしよし!よく出来ました!なでなでなで……」
「えへへ……♪」
「もっと褒めて~!」

 もうね、可愛くてしょうがないんですよこの二人。子供ってなんでこんなに褒めてあげたくなるのかな?父性的な本能なのか、ついつい長く面倒見てあげたくなっちゃうのだ。ついでにトウカもなでなで~……そんなに真赤になって照れなくてもいいと思うよ。
 さて、それはそれとして……

「ジャーン!!GMリンカーを基に束さんが開発した最新鋭装備!『カエリンガル』!!これの機能は――」
「カエルの言葉が分かる?」
「………そうです」

 台詞を取られてテンションがダダ下がりした。ひどいや楯無さん、人のささやかな頼みを横からかっさらっていくなんて。
 ま、それはされおいて『カエリンガル』だ。これは言われたとおり、カエルの微弱な脳波や鳴き声からカエルの現在考えていることが画面に文字として表示されるというアレだ。一時期犬や猫の言葉が分かる機械とかで流行ったアレの進化版と言えるだろう。

 では、レッツトライ!スイッチをポチっとな。

「ゼゼーナン。俺は誰だい?」

 ゼゼーナンがキュッキュッと不思議な鳴き声を上げる。

 『ごえもん』とカエリンガルに文字が表示され、周囲が色めきたった。
 ゼゼーナンは何と俺のことをしっかり認識していたのだ。これは世紀の発見である。カエルが人の顔を覚えるなんて聞いたことがないし。

「じゃあこっちの水色の人は?」
『たてなし』
「おお、顔覚えられてるよ楯無さん」
「う………うん。わかった。わかったけど……なんかゼゼーナンまだなにか言ってるわよ?」

 液晶モニタに更なる文字が吐きだされていく。


『ごえもん』


『たてなし』


『たすけて』


「………………………………故障、かな」
「…………………………あの束博士が?」


『ぼくは、かえるじゃない』


『もどりたい』


『たすけて』


『つらい、くるしい』


『ごめんなさい』


『にんげんに』


『もどりたい』


 ゼゼーナンは、ただ二人を見つめ続ける。
 キュッキュッと不思議な鳴き声を上げて、ただ二人を見つめ続けていた。

「……………………イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」

 その日、楯無さんの絶叫が学校に響き渡ったのです……。

 その後、ゼゼーナンを調べたり束博士がリンカーを調べたりしたけど結局何の成果も得られず、ゼゼーナンのメッセージは何だったのか……そもそもあのメッセージは本当にゼゼーナンの物だったのかさえも判明することなく、その日の楯無さんの恐怖もまた払拭されることはなかった。


 後に更識の調査で判明したことなのだが――

 昔、俺がゼゼーナンを拾った温泉ではその昔、死人が出たことがあるらしい。

 どこからか入り込んで天井に張り付いたカエルに石鹸やお湯を投げつけて落とそうとした悪戯好きな少年――彼は、悪戯に夢中になるあまり、自分で投げた石鹸を踏んづけて足を滑らせ、頭を強く打って死んでしまったそうだ。以来、カエルはその温泉に姿を現さなくなったという。

 もう30年も前の話だ。当時は「蛙神の祟り」などと呼ばれて恐れられたが、事件は時が経つにつれて風化。今では地元住民でも覚えている人は殆どいなかったようだ。




 = =



 その日の夜――楯無は眠ることが出来ず、何故かその足は自然と生徒会室へ向かっていた。
 当然、部屋の中には誰もいない――いや、違う。

「ゼゼーナン……」

 ゼゼーナンは、いつものように水槽の中で佇んでいた。
 私は、テーブルの上に置いてあったカエリンガルを手に取って、起動させた。

「ゼゼーナン、貴方は……誰なの?」
『もう、おもいだせない。でも、ぼくはニンゲンだった』

 キュッキュッと、ゼゼーナンが鳴く。いや、ひょっとしたら哭いているのかもしれない。

「どうして貴方はこんな姿に……いつから助けを求めていたの?」
『いのちをかるくあつかったバチだって……いわれた。すごくこわくて、かなしくて、コウカイした。それからずっと、たすけてってさけんでた』

 胸の奥が締め付けられるような感覚。普段の、カエルに相対した時の苦手意識とは全く違う――ああ、彼は人間なんだと思えるような素直な感覚だった。

「どうしてゴエモンの前に現れたの?それに、ずっと大人しく飼われてたのはどうして?人間扱いされなくて辛くはなかったの?」
『ゴエモンのてが、あったかかったから。コウもヒカルこも、ホンネもわらいかけてくれて、ごはんをくれた。かえるのスガタだったけど、はなしかけてくれるのがうれしかった。いまも、うれしい』

 どうして、今も嬉しいんだろう。苦しいって、助けてって言っていたのに。
 それに私はいつもゼゼーナンの事を避けていて、怖がっていたのに。

「どうして……?」
『タテナシと、おはなしできるから。ほんとうにつたえたいことを、ほんとうにつたえたいひとにおはなしできたから――タテナシ、ぼくのおかあさんとにてるきがしたから、ほめてほしかった』
「……!!それじゃあ、あの時水槽から脱走してスパイを睨んでたのは……!!」
『ゆうきをだして、がんばったの。タテナシがよろこぶとおもって』

 だとすれば、自分は何と残酷で愚かだったのだろうか。
 こんなにも一生懸命になっている相手に対して「怖い」とか「苦手」とか勝手な事ばかり考えては避けてきて、ずっとゼゼーナンの声に気付きもせずに。ゼゼーナンのメッセージを受け取ったときだってそうだ。私は悲鳴を上げて倒れてしまった。

 気が付けば、頬を涙が伝っていた。

「ごめんなさい、ゼゼーナン。謝って済む話じゃないけれど、それでも……ごめんなさい………!」
『あやまらないで。これもかえるにイジワルしたばつだから。それよりも、タテナシ。さいごにヒトツだけたのみがある』

 ゼゼーナンの言葉を、私は待った。

『もう、ぼくのイシキはきえるんだとおもう。バツにはいつかおわりがくるから、バツがおわったぼくはもうすぐタダのかえるになってしまう。だからそのまえに――タテナシのテノヒラにのりたい』
「………………うん」

 不思議と、もう迷いはなかった。触った瞬間、想像以上にやわらかくて一瞬手を引いてしまったが、苦しくないようにゆっくりとゼゼーナンを掌にすくい上げる。その時のゼゼーナンの顔に――あどけない少年の笑顔が重なった気がした。

『ありがとう、タテナシ。もう、ぼくはつらくないよ』
「………じゃあ、最後に特別サービスで教えてあげる」
『え……?』
「わたし、本名は『刀奈(かたな)』って言うの。特別な人にしか教えない秘密なんだからね?」
『………ぼくが、トクベツ?』
「ふふ……特別。びっくりした?『――――』くん」

 調査の結果判明した、きっとゼゼーナンの中にいるであろう子の名を呼ぶ。
 ゼゼーナンはしばらく微動だにしないまま私の掌に座っていた。
 永遠とも思える時間の中で、ゼゼーナンは全ての未練が晴れたように目を細める。

 ふと、外の雲の切れ目から月の光が部屋に差し込んだ。

『ぼく、カタナのことがだいすきだったよ。――さよなら』

 それを最期に、ゼゼーナンは一言も鳴かなくなり、ぴょんと掌を飛び下りて水槽に戻り、そのまま眠ってしまった。死んではいないが、その姿には先ほどまでの理性的な面影はない。
 ふと月を見上げると、小さな一筋の光が空へと登っていくのが見えた。

「ゼゼーナン、いえ、『――――』くん……天国でお母さんと仲良くね」

 楯無はその光が見えなくなるまで、ずっと笑顔で見送りの手を振り続けた。



 この日以来、ゼゼーナンは『カエリンガル』に受け答えすることは二度となく、普通のガマガエルになってしまった。相変わらずゴエモンの顔を見るとキュッキュッと鳴くが、あれはもう唯の癖なのだろう。

 そして普通になったゼゼーナンとは打って変わって、楯無はすっかりカエル嫌いを克服して生徒会室から脱走できるようになったそうだ。
  
 

 
後書き
ゼゼーナンの謎、回収です。
ちなみにゼゼーナンというのは昔スパロボに出てきた敵オリジナルボスの名前なのですが、本編とは全く関係ありません。なお、作者は家の冷蔵庫にも勝手にゼゼーナンという名前を付けていた事があります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧