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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えば箒にはこんな未来があったんだろ

 
前書き
幻の箒ルートです。 

 
 
 あの告白事件から3年が経過した。
 相変わらずゴエモンとオウカはイチャイチャしていて、相変わらずジェーンやラウラ達も二人と一緒にいる。そんな中、この篠ノ之箒はというと――

「未だ未練タラタラでゴエモンの家に通ってはご飯を作ってあげたりしてると……よくやるわねぇアンタも。相手がオウカにジェーンよ?」
「分かってる!!分かってるけど忘れられないから通うんだ!!」
「リャクダツ愛!?リャクダツ愛なの!?くぅ~!やるじゃない箒!!」
「ち、違う!」

 一緒にご飯を食べている鈴と、パートナーのシャロンがそんなことを言ってきた。
 なお、人間化したシャロンは紅髪ロリのポニーテール少女だ。顔はどこか鈴に似ている。

「というかシャロン、私は別にそんな略奪なんて不埒な真似をするつもりは……!大体、一夏の争奪戦だって奪い合いみたいなものだろう!!」
「確かに。ゴエモンの周囲はほのぼのとしておるが、一夏殿の周囲はまるで戦場のようだのう……」
「まぁそれは……ねぇ。まさか争奪戦があんなことになるとはアタシも予想外だったわよ。今じゃ泥沼よ、泥沼」

 人間化して和装の麗人になったツバキの呟きに鈴がやってらんないと頭を振る。

 ゴエモンとオウカの愛は世界中のISに拡散され、今やツバキもシャロンも、世界の半分以上のISが人間の肉体を手に入れている。そしてそれが、一夏争奪戦に思わぬ変化をもたらした。今までノーマークだったIS人間たちの参戦と、パートナーISとタッグを組んで籠絡する戦術の確立である。
 単純計算で競争率は二倍以上に膨れ上がり、既に一夏争奪戦は先の見えない泥仕合の応酬と化している。

「……でもね、それが逆にチャンスを呼び込むのよねぇ~……知ってるかしら箒?今度国際IS法が改正されて『ある文言』が追加されることになったのよ!?」
「IS法の改正だと……?知っているか、ツバキ?」
「ぬ、噂には聞いている。確か、男性IS操縦者の身辺の扱いに変更があるとか……」
「問題はその変更の内容なのよ!見なさい、コレ!委員会から取り寄せた草案の写しよ!!」
「それ機密漏えい――」
「コアネットワークから漏れた物だから問題なしっ!!」
「あるだろ普通に考えて!!」

 しかし現在IS人間を取り締まる法律はないので大丈夫だったりする。なんともあくどい……と呆れつつもその草案に目を通した私は、驚きの余り固まった。

「………男性IS操縦者は、その遺伝的情報の優位性と有用性を認め、例外的に複数の妻を持つこと、これを赦す………但し、正式に婚姻した場合は最低一名の子供を妻との間に設ける事……だと!?」

 つまり、これは、男性IS操縦者だけ一夫多妻を認めると事実上書いていることになる。

「ま、流石に大勢は問題があるから妻は3人までになったらしいけど。枠が3つあるとなると、今までより断然勝機が上がるって物よ!!………ついでにぃ、箒!アンタにもチャンス到来よ!!ゴエモン枠の三番目に滑り込んじゃえばぁ?」
「な………な………」

 あまりの事実に言葉が出ず、口がパクパクするばかり。
 だが、確かにそれならば、今の生殺しの状態よりも……いやいやでも、でも日本人が多妻なんてそんなはしたない……。

「何せ3人目とはいえ妻だもんね!一人目は既に結婚してるオウカで二人目はもう子供がいるジェーン!ここまでは確定だけど……」
「そうか!ゴエモンは好意こそ持たれておるが、愛にまで至っておる人物はそう多くない!そして場所的に一番近いのが既に内縁の妻と化しかけている主さまか!!」
「そう……今こそあの大泥棒に預けた初恋を実らせるときよ、箒!!」

 そう、なのだろうか。預けっぱなしの初恋を……実らせちゃっていいのか?
 理性的な部分では駄目だ認めないと言っているけれど、それでもゴエモンの事を未だに好きな胸の内はその提案に代えがたい魅力を感じていた。

「………これが、最後のチャンスかもしれないな。分かった!!」


 箒が決心をした翌日、ゴエモンは箒に呼び出されていた。


「そ、その………ゴエモン」
「何事なの、箒ちゃん?ちょっとびっくりしたよ、急に呼び出されたから」
「うん、その………うん」

 いつも以上に箒ちゃんがもじもじしている。こんな表情の箒ちゃんを見るのは凄く久しぶりだ。
 ほら、オウカの結婚式のときにね……罪悪感あったけど、振ってしまう形になったから。
 それ以降も友達として遊びに来ているけど、恋する乙女みたいな顔はもう見なくなっていた。

「まず、これ見てくれ……」
「何コレ……国際IS法改正草案?」

 読んでみる。どれどれ、ふむふむ、なるほど………オウカが補助してくれないから全く分からん!!と、前まではなっていた所だが今の俺なら読める、読めるぞ!!これはつまりアレだな!俺とおりむーと、ついでに息子(うしお)が将来的に重婚できるぜっていうアレだな!!

「読んだか?」
「あ、うん。俺とかおりむーが重婚できるって話だよね。でも俺もうオウカいるから関係な……」
「な、何を言っている!!ジェーンがいるだろジェーンが!!子供がいるのに婚姻しない気か!?」
「………はっ!?言われてみれば確かに……今まで養子で何とか家族の形を保ってたけど、この制度ならオウカを愛しつつジェーンたちともちゃんとした形になれるのか」

 危ない危ない……もう完全に家族化してるから忘れるところだったよ。やっぱ将来的にもこの辺ははっきりさせておかないとね。にしても二回目の結婚式かぁ……うう、また友達に恨まれる気がする。ジェーンってば凄い美人で有名になっちゃってるし。

「ありがとう、本当にうっかりしてたよ!じゃ、この事を早速ジェーンに……」
「……ってこら待て待て待てぇぇぇぇッ!!本題はそこじゃないぞ、そこじゃ!!」

 え!?まだ俺に見落としが!?馬鹿な……やはりオウカがいないと駄目だというのか!

「お前は!私が!何のためにわざわざここに呼びだしてそんなものを渡したと思ってるんだ!!このマヌケ大泥棒!!」
「ひどっ!?それに俺別になにも盗んでないし!!」
「盗んでなくとも預けた物があっただろうが!!!」
「……………あ、箒ちゃんの初恋!?」
 
 正直とっくに返した気になっていた。というか、普通もう返したも同じだと思うだろう。ぶっちゃけ俺が預かっててもしょうがないものだし。だってこれ元々おりむーに向けてたものだよ?俺が持っててどうすんのって感じだ。
 その……ひょっとして箒ちゃんが俺に向けて……ってのは考えなかったわけじゃないけど、それも結婚で消えたものと思っていた。

「えっと……つまり、俺はどうすれば?」
「預けた初恋がな………時間が経ちすぎて、熟成してしまったんだよ」
「はい!?」
「つつつつまりだな……も、もう初恋じゃなくて『愛』になっちゃったんだよ!お前にあげた初恋が!!」

 箒ちゃんは顔を真っ赤にしてそう叫んだ。
 この流れは、まさか――頭の中で『草案』、『愛』、『重婚』が一つのラインで繋がっていく。
 そうか、分かったぞ俺にも!

「つまり改めておりむーに告白する勇気が出来たから愛を受け取りにアブフォッ!?」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」
 
 怒りの鉄拳を喰らって吹き飛ばされた俺は地面をごろごろ転がった。


 数分後。


「ごめん、勘違いして……」
「いや、私の方こそすまん。言葉を尽くせばよかった……」

 真赤に腫れた右ほおに冷たい缶ジュースを充てながら、俺は箒ちゃんに膝枕されていた。
 なんか家族以外に膝枕されるのって初めてな気がする。しかも俺って家の中じゃしてあげる側の方が多いし。主にオウカと弟と子供たちと、時々おかん。
 箒ちゃんが愛を渡したいのは、紛れもなく俺だったみたいだ。

「本当に良いの?俺んち騒がしいし……たぶん三番目になっちゃうし……」
「今よりは100倍良い。それとも、こんな暴力女が嫁ぎに来るのは嫌か?」
「――正直、最近の箒ちゃんって昔みたいに楽しそうに笑わないから気になってた。俺が笑顔にさせていいのかな」

 昔は怖かった。女性の想いに応える事が。
 でも最近は、もっと笑顔にしたいと思っている。笑ってくれるのを待つのではなく笑わせに行きたい。もし、俺への想いの所為でまた箒ちゃんが前に進めないというのなら……まぁオウカとジェーンさんがなんて言うか分からないけど、受け入れたい。

「昔みたいに笑ってほしいな。あの花咲くような箒ちゃんの笑顔がまた見たい。ウエディングドレスを着てたら、きっと今まで以上に綺麗だと思う。だから………えっと、その」

 こんな歯が浮くようなセリフを言うのは初めてだ。オウカには自分の中身をぶちまけただけだったから……でも、これもやっぱり俺の本音ではある。このまま彼女が好きでもない男とくっついてしまい、二度とあの笑顔を見れないくらいなら……言ってしまおう。

「俺の為に、人生でいちばん綺麗な花嫁姿の笑顔を見せてくれますか?」

「……そんなお前が大好きだ、ゴエモン」
「むぎゅ」

 今度はちゃんと呼吸できるように抱きしめられた。
 小さな涙を溜めながら花咲いた箒ちゃんの笑顔は、オウカやジェーンのそれに負けず劣らず綺麗だった。
 


 = おまけ 感想返信で書いたifをここにも載せておきます =



「ゴエモン……私を嫁に貰ってくれないか」
「先生、飲み過ぎです」
 
 俺は20歳になった。千冬先生は今年で29だ。だから居酒屋で酒も飲める。
 が、酒の場とはいえ先生がいきなりそんなことを言い始めれば俺だって流石にスルーしたくなる。

「何故だ……同僚たちが次々に男を捕まえ、真耶だって恋愛に奥手だった癖にいざ旦那が出来るとノロケ三昧。なのに何故私にはいい貰い手がいないのだ……これも全部束が悪い。束と同類のお前が責任を取れ。おのれ、クレアが男ならばぁ……ひっく」
「うわぁ、本格的に出来上がっちゃってる……」
『………(哀)』

 クレアちゃんも憐れむこの落ちぶれよう。なお、クレアちゃんは必要な時以外人型化しない。人型化する必要というのは大抵先生が酔い潰れた時だが。
 ぶっちゃけ先生の旦那探しは前から難航している。というのも、知名度が高すぎて政略結婚や一方的すぎる好意が多くてなかなかいい人が見つからないそうだ。千冬自身、恋愛経験が皆無なために「この人だ!」とくる男を見つけかね、気が付けばアラサーという訳だ。

「ゴエモン!私はこれでも20代前半にも劣らないくらい若いよな!?」
「アッハイ。俺の学生時代と比べるとむしろ色っぽさが増したような気さえしますね」
「だろう!一夏もいつも何故私が結婚できないのか不思議でしょうがないと常日頃から言っている!」
(そのおりむーも問題なんじゃ……学校を卒業してからは完全にベッタリで一夏が旦那みたいなものだしなぁ)

 ブラコンとシスコンが交わり磐石に見える織斑家。結婚すると弟が姑みたいにひょこひょこ付いてきて家事までするとなると、気まずいことこの上ないだろう。愛ゆえに、先生は苦しねばならんのだ。
 かといってまさかおりむーが先生を貰うわけにもいくまい。法律的にも道徳的にも。

「ひっく……同期は次々に結婚する!ISまでもが結婚する!最近は(まどか)の奴まで一丁前に色気づいて鼻歌を歌いながらデートの予定を立てている!!どいつもこいつも幸せになりおって………今まで結婚は人生の墓場などと思っていたが、正直羨ましくてしょうがないんだ!!お前の所為だぞゴエモン!!」
「な、なんで俺?」
「お前と結婚したオウカが!ジェーンが!箒が!お前の家の子供たちや家族が全員そろって幸せそうにしてるのがどうしようもなく羨ましいんだよっ!!」
「おおおおちおちつおちついててててて!?」

 キッ!と睨みつけてきた先生がガクガク体を揺さぶる。基本的に先生が飲むのに付き合う時は独りで来るため割って入る人がいない。まって、やめて、酔う……酔っちゃう……!出ちゃうから!!

「今更3人が4人に変わっても大差ないだろう!?私も……私も幸せにしろ!!……お前なら分かるだろう。お前が家族を背負っていたように、ずっと一夏を背負って生きてきたんだ。一夏が一人前になった今……私も私の幸せが欲しいんだ」

 どんどん勢いの消える声は、最後には少女のようにか細かった。そのまま力なくゴエモンにもたれかかった千冬は、静かに涙を流す。「お前なら分かるだろう」、か……。正直に言えば、分かるかもしれない。ジェーンに秘密を知られたときも、オウカに告白しきった時も、俺は心のどこかで「もう楽になっていいのかな、幸せになっていいのかな」って自分に許しを乞うてきた。
 先生は、誰にも弱みを出そうとしない。本当の意味で自分の本音をさらけ出して許しを乞える相手も今はいない。おりむーや束さんには、先生は甘えはしても縋れないのだ。

 ああ、駄目だ。箒ちゃんの時もこうだったし、誰の時もそうだったけど……先生にもやっぱり笑っていて欲しいよ。本当の意味で先生を許してあげたい。いや――

「千冬さん」
「ごえもぉん……」
「IS委員会に頼み込んで、四人目の花嫁を受け入れる許可を貰いに行きましょう。二人でちょっとワガママになっても、皆許してくれるはずです」
「お前らの家族は……それでもいいのか?」
「俺に甘えて良い順番はジェーンが決めてるんです。次に家族が増えた時にも揉めないようにってね?」

 千冬さんは潤んだ瞳で俺の顔を見上げ、静かに俺の顔を自分の顔に引き寄せた。

 29年分の我慢と純潔が籠った口づけは、どの花嫁のキスより情熱的だった。
   
 

 
後書き
多分、本編終了後の近未来ではこんなことがありました。
次のジェーン編で最後になりますが、どうか寛大なお心でお付き合いください。 
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