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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇

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20部分:第二十章


第二十章

 もう一つ論がありこちらは相剋論だ。これは相生論と違い、互いを生むのではなく、互いを抑えるという論理だ。水が火を、火が金を、金が木を、木が土を、土が水を。そうした思想なのである。
 五行ではどれもそれぞれ属性があり、どれが強いというものはない。それが最大の特徴である。今速水と沙耶香はそれを心の中で反芻していたのだ。
「そして次には青が」
「五色の薔薇と重なります」
「成程ね、これでわかったわ」
「犯人は。五行思想を下に殺人を行っていた」
「多分単に殺人をしているだけじゃないわね」
「はい」
「そこには魂胆があるわ。それもまた問題だけれど」
「それに関してはまだわかりませんね」
「そうね」
 二人もそこまではわからなかった。
「ですが」
「何か得体の知れないことを考えている」
「予想がつきますか?」
 速水はここで沙耶香に問うた。そしてワインを飲む。
「残念だけどつかないわ」
 沙耶香は魔法で彼のグラスにワインを注ぎながら答えた。
「犯人が一体何をするのか」
「そこも探る必要がありますね」
「そうね。とりあえずは」
 沙耶香は捜査に考えを戻した。
「明日は。聞いてみたい人がいるわ」
「誰ですか?それは」
「また明日ね。とりあえずは」
 沙耶香もグラスを手に取った。
「飲みましょう。勝利を誓って」
「諦めたわけではないのですね」
「諦める?馬鹿を言ってはいけないわ」
 その言葉は一笑に伏した。
「私はね、徹底的に諦めの悪い女なのよ」
 不敵な笑みを浮かべて言った。
「女の子も男の子もね、これはと思ったら陥とすまでなのよ」
「頼もしいことで」
「何事もね、まずは執念よ」
 そのうえで述べる。
「だから。今回もね」
「諦めないのですか」
「そうよ、犯人が誰であれね」
「では期待させてもらいましょう」
 速水もそんな沙耶香が内心頼もしかった。だからこそ惚れているのだ。もっとも彼のアプローチも長い時間をかけているものであるがそれでも沙耶香は振り向かないのである。
「では今日は」
「ええ、乾杯ね」
 グラスを差し出す。速水もそれに合わせる。
「もうかなり飲んでるけど」
「それでもまだ」
「飲みましょう。二人で」
「はい」
 二人は飲み続けた。そして速水は部屋に戻り沙耶香も服を脱ぎベッドに入った。そのまま朝を迎えた。朝を迎えると扉をノックする音が聞こえてきた。
「誰かしら」
「朝食をお持ちしました」
 少女の声であった。それに身体を起こしまずは魔術で服を着る。
「いいわ」
 そのうえで部屋に入るように言った。すると可愛らしい、小柄な少女がワゴンを前にして部屋にやって来た。
「おはようございます」
「今日の当番は貴女なのね」
「はい、宜しくお願いします」
 沙耶香に挨拶を述べる。
「ええと。まずは」
「朝食を頼むわ」
「はい、それからボトルとグラスをお下げして」
「お願いするわね。それにしても昨日はかなり飲んだわね」
「そうみたいですね」
 くすりと笑った沙耶香にそう返した。
「私はまだお酒は知らないですけど」
「まだなの」
「高校を卒業したばかりなので」
「それはよくないわ。早くお酒の味を知らないと」
「はあ」
「本当の意味で女になれないわよ。酒は女を磨くもの」
 そう言いながらテーブルに座る。
「知ると知らないとでは輝きが全然違うのよ」
「そうなんですか」
「ええ、そうよ」
 その言葉に応える。
「酒は何もかも奇麗にするの」
 テーブルに肘をついて述べる。
「そして心を誘ってくれるわ。貴女が今は知らない世界にね」
「知らない世界ですか」
「だから飲みなさい」
 それが結論であった。
「そして別の世界を知るのよ」
「別の世界」
「それが貴女を待ってるのよ」
「わかりました。それではまた機会を見て」
「飲んでみて。きっといいことがあるから」
「ええ。では」
 今は手を出さなかった。そうした軽い話だけであった。館の中では相変わらず事件が胎動していても。沙耶香は今は軽い話を楽しんでいたのであった。


 
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