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遊戯王GX 〜プロデュエリストの歩き方〜

作者:ざびー
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エピソード36 〜騒動の収束〜

「……くしゅん!うぅ、寒っ。」

 くしゃみを一つし、体を震わせる。
 体を起き上がらせて、周りを見回せばちょうど水平線に夕陽が沈んでいくのが見えた。

「……あれ?もう、夕方?」

 わけが分からず思わずつい言葉が出てしまう。
 寝起きなせいか、頭に霧がかかったように記憶が曖昧なのだ。

 今いるアカデミアの屋上でもけ夫に会い、成り行きでデュエルをしていた事は覚えている。途中から、"もけもけ"の精霊の影響か非常に眠たくなりながらデュエルしていたのも覚えている。

「……それから、えっと」

 思い出そうとすればするほど、記憶がよりぼやけたものになっていく。
 なんとなくもけ夫と本当にデュエルしたかどうか怪しいところだ。
 だけど、なぜか内心はスッキリとして晴々と、清々しい。

 ……多分、一眠りしたおかげだろう。

 とりあえず、自己完結したところで屋上へと続く階段を駆け足で昇ってくる音に気がつく。

「おぉっ、紫苑君ここに居ましたか!」
「っ!……鮫島……校長」

 思わぬ人物の登場に咄嗟に身構えてしまう。
 だが、当の鮫島校長は、肩で息をしつつ、安堵の表情を浮かべている。
 わけがわからない、と怪訝な眼差しを送っていると鮫島校長は済まなそうな表情をしつつ、口を開く。

「……紫苑君」
「…………」

 名前を呼ばれるが、顔を向けるだけで返事はしないでいると鮫島校長は、腰を90度に折ると深々と頭を下げ……、

「すいませんでした!」
「え……?」


 なんの前触れもなく謝罪され、早速混乱状態である。
 何が何やらわからないまま、成り行きを見守っていると鮫島校長の独白が続く。
 彼曰く、己の愚かさに気付かされたのだと。

「わたしはリスペクトデュエルを、相手の全力の此方も全力をぶつける。そこに勝敗など関係ない、と考えていました。だからこそ、紫苑君……、貴方のデュエルはリスペクトデュエルに反すると考え、正さなければならないと思っていました」

 それが例え強引なやり方であったとしても……、と。
 鮫島校長自身、自分の行いに思うのところはあったらしい。

 そして、なぜこのタイミングでその事を言おうと思ったキッカケは紫苑がデュエル場を去った後まで遡るらしい。

 曰く、自分が出て行った後、デュエルアカデミアにプロの存在を認めるかどうかで揉めたらしい。そして、反対派の大半はーー紫苑とデュエルをしたーー金城の扇動を受けたオベリスク・ブルーの連中。
 もとより、無駄にエリート意識が高いが為に、圧倒的な強さを誇る者を追い出そうと思いたったらしい。

 そして、それに対するのは三沢やいつかデュエルをした神楽坂率いるラー・イエロー。
 1%の才能と99%の努力を体現してラー・イエローになった者が多く、
 三沢曰く、「別に強い者が居ようと関係ない。むしろ、研究し尽くして自らの血肉にする」との事。

 なるほど、三沢らしい……

 そして、しばらく二つの派閥論争を繰り広げるが、反対派のが優勢だったらしい。だが、そこで参戦したのが、オベリスク・ブルーの生徒で、カイザーの異名を持つ丸藤 亮。

 ーー賛成派として。

 カイザーの参戦で、今までだんまりを決め込んでいたオベリスク・ブルーの女子達がカイザー達に味方につき、何も言えなかった所謂落ちこぼれクラスのオシリス・レッドの皆も味方につけ、一気に戦局が激変したとか。

「なんか、凄い事に……」

 この論争のきっかけは主に自分にあるので、若干の罪悪感もさる事ながら、不謹慎かもしれないが結果がどうなったか知りたいという欲も出てきた。

「けど、ブルー生の丸藤先輩が敵対したらそれはそれで問題なんじゃないのか」
「えぇ、裏切り者!と言う声も多々ありましたし、中には『アンタも望月 シオンの被害者だろ‼︎あいつの所為でサイバー流が下火になりつつあるのは、知ってるだろ‼︎なら、なぜこっちにつかない⁉︎』なんて言ってる生徒も居ましたね」

 随分軽い調子で言ってくれるが、目の前にサイバー流師範が居るのでコメントし辛い。
 もっとも俺自分がサイバー流に何かしたわけじゃなくて、自分からデュエルを挑んで勝手に自滅して行っているだけなのだが……。

「そこで丸藤 亮くんが言ったんです……」

 ーー俺は互いに全力を出し、デュエルをする事(リスペクトデュエル)を信条にしてきた。そして、そこに勝敗は関係ない、と。だが、あいつとデュエルした事で気づかされた。自らの使役するモンスターの特徴を把握し、活かし、勝利する事、それはモンスターに対するリスペクトに値するのだと。俺はあいつに別のリスペクトデュエルを気づかせてもらった事に、恨むところか、むしろ感謝している。

「わたしもその言葉を聞いて、リスペクトに固執し過ぎていたと気付かされました。人には人の考えがあるなら、人により、別のリスペクトが存在するとわかりました。だからこそ、わたしの信じるリスペクトを押し付けるのはおこがましいと」

 そして、今一度視線をこちらに合わせると、

「わたしは紫苑君、あなたに大変失礼な事をしてしまった、あの時はすまなかった」

 深々と頭を下げた校長を見て、何も言えなくなる。
 まず、こんな風に謝罪をされるなんて考えてみなかったし、それに謝られてだからどうしろと?

 結果的に出たのが、別にいいです……と言葉を濁しただけだった。

「それで、続きってどうなったんです?」
「おお、そうでしたな。丸藤君が説得に加わった後、案の定、ブルー生徒の中から実力行使に出てくる輩が出てきましてな……」

 ざっと10人程、しかもブルーの中でも上位層の奴らだったらしい。
 丸藤先輩かデュエルするかと皆思った時、遂に出てきたのが我が姉事、叢雲 翠だったとか。

「ええ、色々と凄いデュエルでしたよ。光プロのデュエルを初めて間近で観ましたが衝撃的でしたね。なんせ、1ターンで10人を瞬殺してしまったんですから。」

 と、鮫島校長は興奮気味に語っていた。

 デュエル内容は姉ちゃんの先行で、相手はほぼ何もせずに終わったらしい。
「苦渋の選択』を発動したのち、『神の居城ーヴァルハラ』で早速『アテナ』を呼び、『死者蘇生』から『堕天使スペルビア』。そして、『アテナ』の二体目を呼び、これで1200ダメージ。だが、それだけでは終わらず、『キャノン・ソルジャー』を召喚し、後は『アテナ』の効果でループだったとか。

 反対派を圧倒的な力で黙らせるとともに、プロとしての畏怖を抱かせるあたり、さすがである。それが考えての行動ならば、だが。

「このデュエルのおかげで、反対派は完全に黙りました。ついでに、光プロのファンが大量に増えたようですよ」

 やはり、凄いですねと褒めてくれるがなんだが素直に喜べない。
 多分、いつもの通りにその場のノリと勢いで行動した結果であって、喜んでいいのか不明である。

「まぁ、色々ありましたが騒動は全て収束したわけです」

 と、締めくくる。そして、最後に一言

「紫苑君、あなたはプロであると同時に学生でもあるのです。だから、君がアカデミア(ここ)を離れる必要はありません!」
「……っ!」
「それに十代君たちも君の事を心配していましたよ」

 まあ、あいつららしいな、と思う一方で、ようやく今の一言のおかげで心の靄が晴れ、吹っ切れた気がした。

「なんか、ありがとうございました」
「いえ、生徒のケアも教師の役目なので。それに礼を言うのはわたしの方です。紫苑君のおかげで色々と気づく事が出来ました。ありがとう」

 入学してからのいざこざがようやく解決する。既に陽は沈み、空が暗がり始めていた。

「おぉ、そういえば紫苑君!今年の親善試合の事なのですが……」

 そして、帰り際、さらりと重大発表をされる。

 ◆◇◆

「ジトーー……」
「う……」

 あれから自分の部屋に戻ってから待っていたのは不機嫌を顕著にした姉ちゃんの無言攻めだった。
 何か言ってくるならまだしも、何も言わず、ただただ半目で睨みつけてくるのだからタチが悪い。
 逃げようにもアテナに退路を塞がれ、唯一味方と思っていたエアトスもこの場に居ない。……多分、逃げた。
 勿論、観葉植物に擬態しているナチュル達では助けにもならない。

「……心配したんだからね」
「うん……」

 涙に潤む姉ちゃんの瞳を見て、申し訳なく思う。何も言えず、何も出来ず、俯いているといつの間にか姉ちゃんが側まで来ており、背中に腕が回され、抱きしめられる。

「紫苑が、どっか行っちゃう思ったんだからね……!」
「……ごめん」

「……まだ紫苑も子供なんだから、年長者に頼っていいんだからね!」
「……うん」

「……もう心配かけちゃダメ、だからね!」
「……ごめん」

 回された腕に力がこもり、少し苦しくなるが今は黙って姉ちゃんの愚痴を受け入れる。
 何分か、何十分かわからないがようやく回された腕が解かれる。
 姉ちゃんの瞼は少し赤くなっており、泣かせてしまった事に罪悪感が募る。けど、本人はだいぶ落ち着いたのか、にっこりといつもの明るい笑みが戻っていた。

「これから、紫苑が何かあったら、必ず私に相談するように!」
「……はい」


 ◆◇◆

 食事中、あの時校長に言われた事を思い出す。

「そういえばさ、親善試合の事だけどさ……」
「ん……?」

 スプーンを口に咥えたまま、コテリと首をかしげる。

「姉ちゃん、何を提案した……」
「……校長のお喋りめ」

 一瞬だが、姉ちゃんの背後に黒いオーラが立ち昇った気がした。

「まあ、何をどう言われたかは知らないけど……。私は提案しただけで、了承したのは向こうだからね?」
「じゃあ、なんで俺が出る事になってるのさ!」

 あくまで誤魔化そうとする姉に対し、確信をつく。

「あはは、まあ紫苑なら引き受けてくれそうだし?今回の件で下がったイメージの回復も兼ねて、ね?」

 引き受けてくれるよね?と笑みを浮かべながら言われると反論のしようがない。

「けど、プロ()が出て大丈夫なの……?」
「まぁ、ご心配なく。紫苑はあくまでラスボスポジだから」
「……は?」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
 姉ちゃんは楽しそうな笑みを浮かべながら、説明を続ける。

「私が提案したのは、親善試合なんだからせっかくだからタッグデュエルなんてどうですか〜って言っただけだよ」
「つまり本校とノース校がタッグを組むと?」

 Exactly(そのとおり)と流暢な発音で肯定される。
 そして、こちらを指差しながら宣言するり

「ズバリ、両校から二人の"勇者"を選出して、"魔王"に挑む!」
「…………また巻き込まれるのか」

 ニヤリと得意げな笑みを浮かべる姉を見て、思わずため息を吐く。





 
 

 
後書き
巻き込まれ系主人公こと、紫苑くんでした。

サイバー流との和睦endに納得できない読者の方もいらっしゃるとお思いですが、この展開は元々考えていた展開です。そして、この話を機に、少しタグを変更させてもらいたいと思います。
 
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