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黒魔術師松本沙耶香  人形篇

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13部分:第十三章


第十三章

 罪の夜があけ朝になった。二人は同じベッドの中にいた。
 沙耶香は朝日を浴びてゆっくりと身体を起こす。そしてその白い裸身を起こしたまま言った。
「罪を犯せば犯す程美しくなる」
 まだ眠っている絵里に対して言う。
「素晴らしい方だ。貴女は」
 下着と服を身に着け部屋を後にする。そして煙草を口に咥えながら部屋を後にした。学校がその動きをはじめるまでの暫しの散歩であった。
 朝露に濡れた学園の中はやけに爽やかであった。朝日がその露に反射し、辺りに七色の光を浴びせている。沙耶香はその朝日と露を眺めながら学校の中を歩いていた。土も次第に温かくなってきており、空も青さを増してきている。世界も次第に目覚めようとしているのがわかった。
 学校の中も。まだ誰もいないがその一日をはじめようとしているのがわかる。そこに入るであろう多くの者を待ち望んでいるように感じられた。
 沙耶香はそんな中を一人歩いている。煙草の煙は朝靄の中に消え溶け合う。煙草が短くなると火を点けその中に消してしまった。そして高等部の校舎を見上げたのであった。
「あそこね」
 丁度頭の上に人形部の部室があった。
「今日も行ってみようかしら」
 真由子に会いに。青い果実を味わうのも悪くはなかった。むしろ美味である。果実は食べられるうちに食べておく。それが沙耶香の流儀であった。彼女はそれを味わおうかと考えていたのであった。
 あの部室に行けば、そう考えていた。だがここでその考えを中断させた。
「!?」
 不意に誰かの影が見えたのだ。それは一体何か。気になった沙耶香はすぐに校舎の中に入った。部室に向かう。だが鍵がかかっている。それを見た彼女は魔術を使うことにした。
「それなら」
 扉に手を当てる。するとその手が壁の中に入り込んでいく。そしてその身体も部屋の中に入っていった。彼女はそのまま教室の中に入ったのであった。
 中に入るとそこには誰もいなかった。気配もなかった。それを見た彼女は気のせいかと思った。だがどうにも腑に落ちないものを感じていた。
 調べてみれば扉は外から閉めるものであった。中からは閉められなくなっている。それを考えるとやはり誰かいた可能性はないのである。やはり気のせいであるとしか思えなかった。
 腑には落ちないままであったがやはり誰もいないのは間違いなかった。もう一度壁から出るとそのまま部屋を後にした。そのまま絵里のいる教会に向かった。
 教会の奥の質素な当直室に入ると絵里が起きていた。もう服を着て食事を摂っていた。食事は白いパンと牛乳であった。質素な食事である。
「お早うございます」
「はい、お早うございます」
 沙耶香はそれに応えて挨拶を返した。
「起きてらしたのですね」
「ええ、少し前に」
 沙耶香はそれに応えた。
「それで散歩に出ておりました」
「そうだったのですか」
「それはそうとお食事中だったのですね」
「はい。宜しければ松本さんも如何ですか?」
「朝は食欲がないと言いたいところですが」
 だがそうではなかった。少し歩くとどうにも腹が空いた。
「こちらもお腹が空いています。宜しければ御一緒して宜しいですか」
「はい、どうぞ」
 絵里はそれに応えて向かいの席を勧めた。沙耶香はそれに従い座ると彼女からパンを受け取った。
「学校のものですので。御安心を」
「当直員の為のものですね」
「そうです。いつも用意されているものです」
「牛乳もですか」
「そうです。学校のものなので質素ですが」
「そうですかね」
 だが沙耶香はそれには懐疑的であった。それはパンと牛乳を見てから述べたものである。
 見たところこのパンと牛乳はかなりいいものである。やはりお嬢様学校だけはある。朝のささやかな食事も立派なものだと思った。だがそれは口には出さない。それは黙ったままパンと牛乳を口にした。

 
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