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黒魔術師松本沙耶香  人形篇

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11部分:第十一章


第十一章

 それが終わると沙耶香は起き上がり服を整えた。唇を彼女の口から離した。唾液が舌と舌を伝った。
「素敵だったわ」
 沙耶香は乱れた服のまま横たわる少女に対して言った。
「見せてもらったわ、その素敵な姿」
「こんなこと・・・・・・」
「嫌だったとは言わせないわよ」
 否定はさせなかった。
「そこまで乱れておいて」
「乱れたなんて」
「怖かったかしら」
「最初は」
「そう。けれどその怖さでさえも快楽だったでしょう」
「・・・・・・・・・」
 黙るしかなかったが否定は出来なかった。沙耶香の言う通りだったからだ。
「怖さもまた。気持ちいいものなのよ」
「そして身体を預けるのも」
「女にしかわからないことがあるのよ」
 テーブルの上の紅茶を口に含む。紅の香が口の中を支配し、少女の香りと混ざり合った。そしてそれは沙耶香の中へとゆっくりと滴り落ちていった。
「それが今わかったわね」
「はい」
 少女はゆっくりと起き上がった。自身の服の乱れをなおしながらこくりと頷いた。
「まだ経験はなかったのね」
「はい」
「男の人とも」
「勿論です。結婚する人と以外は」
「男の人にはね、それでいいのよ」
 それは深い頽廃の意味を含んだ言葉であった。
「他の男と寝るのは浮気になるけれど女と寝るのは浮気ではないのよ」
「では何なのですか?」
「本気よ」
 沙耶香は言った。
「男との愛は仮初めのものだとしても女との愛は現実のものなのだから」
「男の人がお嫌いなんですか?」
「まさか」
 だが沙耶香はそれは否定した。
「私は女の子だけを愛するわけではないわ」
「では何でこんなことを」
「今は女の子が好きだから」
 彼女は言った。
「好きになる男がいないだけ。それでわかったかしら」
「何かおかしいです」
「何が?」
 おそらく次には常識とやらを出すのだろうと思った。沙耶香ににはわかっていた。
「こんなこと。普通は」
「ここの学校の教えだとそうかも知れないわね」
 沙耶香は答えた。そう、キリスト教の教えならば。
「けれどもっと他のことを知りなさい、そうすればこうした愛もあるのだってわかるから」
「そんなことはないと思います」
「今はね。そう思っているかも知れないけれど」
 沙耶香は違うと言った。
「あるのよ。実際にね」
「こんなことが」
「そう、全ては現実であり夢幻でもある」
 その言葉が幻想の世界に入った。
「愛もまた同じ。何かが絶対に正しくて、絶対に間違っているということはないのよ」
 沙耶香自身も夢幻の世界に入ったかの様であった。その姿が朧になった様に見えた。そして少女はまるで麻薬に溺れたかの様にその漂う世界に自分も入るのであった。
 少女との一時を終えた沙耶香は教室を離れようとした。だが思い直して扉のところで立ち止まった。
「二つ程聞いておくことがあるわ」
「何ですか?」
「貴女の名前は?」
「真由子です」
 少女は名乗った。
「斉藤真由子と申します。この学園の高等部の一年です」
「そう、真由子さんというの」
 沙耶香はその名を聞いてその黒い切れ長の目をさらに細めた。
「覚えておくわ。私の愛しい人として」
「そんな」
 それを聞いて俯いて顔を赤らめさせた。
「そしてもう一つ聞きたいのだけれど」
「何ですか?」
「ここの部活は活動しているのかしら」
「はい、今もやっていますよ」
 彼女、真由子はこう答えた。
「私を入れて八人でやっています」
「そこに顧問の先生も入れてね」
「はい。デリラ先生がやってくれています」
「デリラ先生」
 それを聞いた沙耶香の眉が動いた。
「若しかしてシスターデリラかしら」
「御存知なんですか?」
「ええ、ちょっとね」
 沙耶香は答えた。
「菜食主義の人よね」
「はい」
「あの人が顧問だったの」
「先生の作られる人形って凄いんですよ」
「そんなに」
「本当に正確で綺麗で。まるで生きているみたいで」
「生きているみたい、ね」
 それを聞いてどういうわけか不吉なものを感じた。
「そんなに素晴らしいのね」
「はい。御覧になられますか?」
「よかったら」
 彼女は頼んだ。
「見せてもらえるかしら」
「わかりました、それじゃあ」
 真由子はそれを受けて立ち上がった。そして部室の奥にある棚から一体の人形を取り出してきた。

 
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