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真田十勇士

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巻ノ五 三好清海入道その十

「三好家の縁者か」
「拙僧も末席ですが」
「やはりそうか」
「三人衆の方々の筋でして」
「三好長慶殿とは違ってか」
「はい、三人衆の方々のです」
 そちらの筋だというのだ。
「東大寺の件も公方様の件も申し訳ないです」
「それで仏門に入ったか」
「いや、それとは違います」
 一族の悪事への償いの気持ちはないというのだ。
「寺には無理に入れられました、弟共々」
「そうであったか」
「拙僧達は何しろ一族の末席でしたので」
「食い扶持を減らす為か」
「それで入れられました」
 寺にだ、弟共々というのだ。
「そうなりました」
「成程のう」
「それでそこで悪さを続け追い出された訳です」
 清海はこのことは笑って言った。
「そのうえでここで殿と共におります」
「人はどうなるかわからぬが」
「拙僧もですな」
「そうじゃな、そして御主は」
 幸村は最後は由利に問うた。
「土佐じゃな、その訛りは」
「左様です、ですが長宗我部家に主家が滅ぼされ」
「土佐を出たか」
「それで近畿で色々しておりまして」
「賊の頭もしておったか」
「そうでした」
 幸村と会った時の様にというのだ。
「流れ流れて信濃まで」
「そうしたことであったか」
「左様です、あのまま賊をしていても何もなりませんでしたな」
「賊なぞせぬに限る」
 幸村もこう言った。
「あの様なことはな」
「全くですな」
「やはり真っ当に働くことじゃ」
「全く以て」
「御主達四人共な、これより拙者の臣となったからには」 
 幸村は今度は四人全員に言った。
「生涯浪人にはならぬ」
「では何があろうとも」
「殿は我等を召し抱えて下さるのですか」
「永に」
「そうして頂けますか」
「そのつもりじゃ、御主達が相当な悪さをせぬ限りな」 
 そうしたことがない限りはというのだ。
「拙者は一度召し抱えた者は捨てぬ」
「ですか、では」
「まさに死ぬ時もですな」
「我等は共に」
「そうだというのですな」
「生まれた時は違えど」
 それでもと言う幸村だった。
「死ぬ時は同じでありたい」
「絆のある者達と」
「それが殿のお望みですか」
「うむ、義じゃ」
 幸村は前を見据えつつ答えるのだった。
「義に生き義に死にたい」
「この戦国の世に、ですな」
「義においてですか」
「生きて死にたい」
「そう仰るのですか」
「こうした世だからこそな」 
 戦国の世、義がこれ以上はないまでにないがしろにされて廃れている世だからこそとだ。幸村は言うのだった。 
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