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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  九十話 shopping

 
前書き
再投稿になります。

まちがって削除してしまったもので……

次回は……明日明後日くらい……になるかと。 

 
「やれやれ……」
正面玄関の扉から出ると、そのカジノのネオンが消え、扉も開かなくなった。
元々、あのイベントの為のカジノだったのだろう。武器は手に入ったが、あんな目に合うとは本当に運が良いのか悪いのか……

「全く……ギャンブルってサイコーだな、おい!」
「リョウ、やけになってる?」
「あぁ。多少」
隣には、アイリが居た。小柄な体で、銀色のショートカットを揺らしながら少し釣り目気味な赤い瞳が覗き込んでくる。

「まーまー、なんとかなったんだし結果オーライだよ」
ニパッっと笑ってそう言うアイリを見ると、リョウも苦笑する。と、不意に思い出したように言った。

「あ、そういやぁ……って、もう間にあわねぇな……」
自身のうウィンドウを開いて落ち込んだように肩を落としたリョウを見て、アイリは首をかしげた。

「どうしたの?」
「あ?あぁいや、俺今日、BoBの予選に出ようと思ってたんだけどよ……受付三時で今二時五十一分と来た。総督府まで行こうにもまにあわねぇし、残念無念また来週だ」
「え……?あ、そっか、リョウ今日INしたばっかりだから知らないんだ」
「あン?」
納得したように言うアイリに、今度はリョウが首をかしげる。すると、アイリは微笑みながら説明した。

「大丈夫。BoB出るなら、まだ間に合うよ。今日メールが来たんだけど、サーバーの調整が遅れたとかで、予選の開始が二時間ずれたの。だから予選開始は五時から。今から装備整えるために買い物しても、十分間に合う時間だよ」
「マジか!?」
「マジだよ~」
のんびりとした様子で答えるアイリに、リョウは安心したように息を吐く。
実のところ、武器を手に入れた以上BoBに出ないのももったいないと思っていたのだ。

「んじゃこれから買い物行くかって……あー、アイリ?」
「ん?どーしたの?」
「その、マーケットとかってよ、どっちにあるか分かるか?」
「へ?分かんないの?」
聞かれてしまっては仕方無く、頭を掻きながらリョウは説明した。このカジノにきた経緯と、道に迷っている事等全て。

「ぷっ!あははははは!!」
「笑うなよ……こんな街だぜ?迷うだろ普通」
「う、うん……ごめ……ふふっ……オッケ……じ、じゃあ、武器屋、行こっか……」
「笑いながら言うな。っつーか、別に案内してくんなくても……方向さえ分かりゃ自分で行くぜ?」
首をかしげて言うと、アイリはようやく爆笑を収め、笑いながら返す。

「それでまた迷っちゃったらますます間に合わないよ。それに、私の時間を取ると思ってるなら遠慮無用だよ」
「は?そりゃどういう……」
聞こうとして、リョウは気づいた。つまり、そう言う事だ。

「私も出るの。BoB」

────

「此処か?」
「そ、私の行きつけのお店だよ。プレイヤーの叔父さんが経営してるから、土日じゃないともっと遅くにしかあかないけど……」
言いながら、アイリは木製の扉を開く。
扉の上に付いた看板には赤字で 《Steele arm》 と書かれている。

「こーんに―ちわー」
「おう、いらっしゃい……お、アイリか……って」
中に居たのは、気の良さそうな中年の男性だった。リョウが武器屋に持っていたイメージとは違うが、白髪に無精髭はともかく、煙草を咥えているその姿は、武器屋がそれで良いのかと言いたくなる。
まぁ、ゲームなのだから火器厳禁も糞も無いか……

「アイリ男連れか?こりゃ驚いた……」
「叔父さん変なこと言わないで!!友達!友達だよ!ってあれ……?」
奥でアイリと店主が何かを騒いでいるのが聞こえ、リョウはそちらに向かう。

「叔父さん、この人が男の子だって分かるの!?」
「ん?そりゃお前、見りゃわかるだろう?確かに中性的な顔だけどなぁ」
唖然として驚いた様子のアイリに、店主のおっさんはあっけらかんとした様子で言っている。
自分でも男と気付かれたのが意外で、リョウは辟易とした気分になった。


「……で?アイリ、今日は何をお求めだい?」
「あ、今日は……この人の装備を整えに来たの」
「ほほう?」
ふたたび含みのある視線でアイリを見たおっさんに、アイリは「違うってば!」と腕をぶんぶん振って否定する。背が低いせいで余計に子供っぽく見える。

「で?兄ちゃん、この子とは何処までいってるの?」
「おう?言った方が良いか?」
「お~じ~さ~ん~!!!リョウも変なこと言わない!もうっ!」
腕を組んで顔を逸らしたアイリに苦笑しながら、リョウは「わるかったわるかった」と肩を叩く。溜息をついて、アイリは振り返った。

「それで、装備なんだけど……」
「おう、見たとこ初心者だろう?安めの装備の方が良いか?」
「あーいや、訳あって金は有るんでな……コンバートだからステータスもあんま気にしなくて良いんだ。んで……BoBに出られるレベルの装備が欲しい」
「ほぉ……」
少し驚いた様子で店主は顎を撫でる。妙に様になっているその動作は、何となく歳の功と言うか……味が有る。

「コンバートして行き成りBoBとは、根性が有るねぇ……良いだろう。見繕うのを手伝おう……ただし、その前に一つ聞いとかなきゃならない」
「?何すか?」
「君の持ってる金とやらが、アイリちゃんから受け取った物なら……俺は君に商品を売れんよ。この子の友人としても、MMOプレイヤーとしても」
言った瞬間、男性の雰囲気が一気に変わった。空気に重さが付加されたと言うべきか。この人も、相当な手練れだと、りょうはその場で理解した。

「ち、ちょっと叔父さん!」
「成程、道理だなおっさん。けどな……」
対しリョウは、怯むことも無くニヤリと笑うと、その瞳を正面から見据えた。

「馬鹿にしないでくれねぇか。俺だってゲーマーなりの一線ってのは心得てるつもりだぜ?この金は……断じて楽して手に入れたとは言えねぇ金だ。少なくとも俺にとってはな」
何しろ二回も死にかけたのだ。いくらギャンブルだったとはいえ、“楽をした”とは誰にも言わせるつもりはない。

「OKOK。悪かったな、あー……」
「リョウコウだ。リョウって呼んでくれや」
「リョウ。俺ぁフリックだ。御贔屓に」
そう言って、二人は互いにニヤリと笑いながら握手をした。

「で?何をお求めだい?」
フリックの問いに、アイリが最低限必要な物を答えてくれる。

「えーと、とりあえず防弾ジャケットとアーマー。カモは……グリーンとデザートね。それと《対光弾フィールド発生器》の性能良いやつ」
「あいよー」
アイリの言葉に合わせて、フリックが次々にブツを実体化させていく。何やらベルトにつける感じの機械やら、服のような感じの物で、二色を数着。と、それが出た瞬間にアイリの目が輝く。

「おぉー……それじゃリョウ!ちょっと動かないでね〜」
「あン?何だそのやたら怪しい手つき……ぬああぁぁ!?」
直後からの数分間の記憶が無い。

――――

「ん!良い感じ!格好いいよリョウ!」
「ぜー……ぜー……お前な……ジャケットなんざどれでも同じだろうが……」
息を切らすのは、先程までと比べても幾らか装備の整った……茶色がかった薄黄色の防弾ジャケットに身を包み、息を荒くしたリョウだ。その女性地味た容姿のせいか、息切れにも何となく男らしい荒さが薄いが……

「ダメだよ〜。少なくとも私の前で女の子にそれは許しません!」
「俺は男だ!」
「あ、そうだった」
「っはっはっは!!」
「おっさん……」
リョウとアイリのやり取りがツボだったのか、爆笑するフリックをリョウは呆れたように睨む。しかし特に何も言わずに大きく息を吐くと、荒かった息を立て直す。

「んじゃ、次、武装なんだが良いか?」
「お、おう……ぷっ」
「おっさん!」
「はいはい、仕事はしますよって。で、何にする?」
「はぁ……とりあえず、コンバットナイフ。刃渡り18以上で同じやつ二本くれ」
「あいよ」
「?」
リョウの言葉をうけて、フリックは即座に反応し売り場にあるナイフを取りにむかう。が、アイリは首を傾げる。

「リョウも、近接装備買うの?なら私と同じ光剣の方が威力もリーチも長いよ?」
「あー、光剣はなぁ……おれ今までファンタジー系の奴やってたんだけどよ……苦手なんだよな。剣」
「苦手?」
「あぁ」
そうなのだ。リョウは以前、キリトやアスナ達に試しにと言われてALO内で片手剣や両手剣を使ってみたことがあるのだが……

「何かテンション上がんねえっつーか、釈然としなかったんだなこれが」
「へー……」
慣れるには慣れたのだが……薙刀に比べて今一乗り気になれなかったため、すぐにやめてしまったのだ。

「なのに、もっとリーチの短いナイフは使えるの?」
「まあそっちは昔練習した事あってな」
「お待ちどう。どれにするよ?」
そうこう言っている間に、フリックが戻ってきた。持ってきて貰ったナイフの中から大きめのを選び、一本を腰に。二本目はストレージにぶち込む。

「お次は?」
「拳銃。なるたけ大口径で威力の高い奴」
「あいよ。へっへへ……だったら、やっぱこれか?」
言いながらフリックが拳銃コーナーから取ったのは、全長20センチは超えるだろう。銀色の自動拳銃だった。

「うわぁ……またレアな銃だねぇ……」
「こいつはまた……」
「DE(デザートイーグル)。50口径マグナム弾を使う世界最強威力の拳銃だ。装弾数7発。口径も威力も申し分ねえだろ」
最強。その響きが男性に訴えかける魅力は異常だと、リョウは深く感じた。
これもまた、力の魔力かと思いつつ、それを持ち上げてみる。
やはりリョウにとってみると軽いが、ひんやりとした鉄の感触は心地よい。

「撃ってみな」
「お、いいのか?んじゃ遠慮なく……」
生産カウンター脇の簡易射撃場を差して言ったフリックに従い、リョウは射撃場に立つと、ウィンドウから銃を装備。セーフティーを外してそれを構える…………片手で。

「リョウ!ちょ……」
「おい馬鹿……!」
ドゴォン!と言う轟音が、三人の鼓膜をゆらした。

――――

「「…………」」
「へぇ……」
唖然とした様子でリョウを見るアイリとフリック。そして感心したように銃口から白煙を上げるDEを見るリョウ、途端、アイリが声を上げた。

「り、リョウ!大丈夫なの!?」
「あ?なにが?」
あっけらかんとした様子で首を傾げるリョウに、アイリはパニクったように叫ぶ。

「な、何がって……反動だよ!!あんな適当な姿勢で50口径片手でなんて撃ったら、反動受け止めきれなくて粉砕骨折のバッドステータスに……あれ?」
しかし、其処でアイリは気付く。リョウは至って健全な様子で右手のDEを持っているではないか。

「あぁ、反動?反動な。いや確かに“軽く”反動来たけど……良いな。やっぱ“多少”なりともリコイルショックねえと銃撃ってるって感じしねえもんな……」
「か、軽く!?多少!?」
言いながら、アイリは自分の口があんぐりと開くのを感じていた。50口径拳銃を……マグナム弾を撃っておいてそれですむとはとても信じられない。原則的に、マグナム弾は他の弾丸と比べて炸薬量が多く、だからこそ高い威力を誇るのだ。しかし同時にその分だけ反動も大きく、撃ち方を知らずに生半可なステータスで……と言うか相当筋力値が高くともリョウのような適当な姿勢で片手で撃とうものなら逆にこちらの腕が砕けてしまう。

「なんつー筋力値してやがる……イかれてるぜオイ……」
隣でフリックが言った言葉に、アイリは内心深く同意した。
そして同時に思う。これだけのステータス。もしかしたら本当に……

「おっさん!」
と、そんな彼女の思考を遮るように、リョウがニヤリと笑いながらこちらを向いた。

「気に入ったぜ、この拳銃。買った!」

――――

「さて……んで、これで全部か?」
カウンターの奥で、フリックが訪ねる。その顔はどこか楽しそうだ。

「あ、待って。最後に……叔父さん、銃のカスタマイズスキル、上げてたよね?」
「ん?あぁ。なんかあんのかい?」
フリックが頷いたのを確かに確認して、アイリがリョウを見る。リョウも頷き、アイリが言った。

「叔父さん、お願いがあるの」

――――

その内容を聞いたフリックは、もはや呆れたような様子で呟いた。

「クレイジー……っとにクレイジーな野郎だぜお前は……」
彼の言葉に、リョウは何も言わず、ニヤリと笑った。
 
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