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オラリオは今日も平和です

作者:かずもん
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白髪鬼の脳内日記

 &月×日 天気など知らん

 
 侵入者が現れた。
 その侵入者は、普通なら絶対に気付くことのない位置に隠していたはずの入口に気付き、何の躊躇いもなく入ってきたようだ。

 それだけでもかなりの度胸があることはわかるが、それだけだ。所詮大した敵ではないのだろうと思い、芋虫型のモンスターを十体ほどと、強化種のミノタウロスを一匹向かわせておいた。
 芋虫型には、ミノタウロスを襲わないように調教してあるので問題もないだろう。

 侵入者は一人。たとえLv.5だとしても、芋虫型十体と強化種のミノタウロスには敵わない。武器を壊され、腐敗液にやられるか、強化種のミノタウロスにやられるだけだ。
 Lv.6ともなれば話は変わってくるが、オラリオでも数少ないLv.6の第一級冒険者がこんなところにくるなど考えにくい。よって、大した問題ではないと思っていた。


 だがしかし、現実は私の予想を遥かに上回った。


 モンスターたちを放ってから二時間後。食人花の管理をしていた私のもとに、ボロボロのミノタウロスがやってきたのだ。
 もしや、芋虫型の調教が足りずに、襲われたのだろうか?と思ったが、それならばこのミノタウロスが生きているはずがない。しかし、ミノタウロスの皮膚は、所々爛れ、煙を上げている。

 まさかミノタウロスが芋虫型を襲ったのか?と一瞬呆気に取られるが、そんなはずがないと首を横に振る。ミノタウロス如きが勝てる相手ではないのだ。

 それでも、現にミノタウロスはここにいて、芋虫型はいない。侵入者にやられたという可能性もあるが、それだと、このミノタウロスが生きていることに納得できない上、ミノタウロスに腐敗液が掛かっていることも説明できない。

 ならば一体何が?と思考を働かせ始めた直後、ミノタウロスは前傾姿勢となり、こちらに突進してきた。
 一瞬の驚愕の後、すぐさま思考を切り替え、向かってきたミノタウロスの首の骨を叩き折る。
 
 灰となったミノタウロスを見て、思わず戦慄した。ミノタウロスに施されていたのは、『調教の上書き』。【ガネーシャ・ファミリア】レベルまでの調教ならば上書きは不可能ではないが、仮にもこのモンスターを調教したのは、自分と同じく、『彼女』の寵愛を受けたレヴィスだ。

 となれば、『調教』というより『洗脳』といったほうが正しいかもしれない。
 通常ならばいくら強化種とはいえ、ミノタウロスが芋虫型十匹に勝つなど不可能。しかし、『洗脳』することによって、ミノタウロスに暗示をかけ、芋虫型を倒させたのだろう。さしずめ、洗脳師といったところか。
 
 バベルとは別にあるダンジョンの入口を見つけ、更にあの女の調教に上書きをすることが可能な人物。私が知る限りでは、そんな奴聞いたことも見たこともない。

 油断がならない相手のため、己の中の警戒レベルを最大にあげたのだが、今日はこれ以上おかしなことは起きなかった。




 %月?日 { 空欄 }


 クソッ!完全に油断していた!!あの男はやはり味方などではなかった!!
 二つある苗床の片方を壊されるなんて、失態どころではない!!


 ことの始まりは数時間前のことだ。
 
 あの男はまるで瞬間移動してきたかのように、いきなり現れた。
 軽く食事を終え、いざ苗床に向かおうとした私の背後から、「やあ」と声をかけてきたのだ。

 不意を突かれたことに戦慄しつつ、バッと背後を振り返ると、そこにいたのは身長1.78Mほどの金髪の男で、その身には、ギルドの制服を纏っていた。
 ギルドの職員。要するに我々の敵。何をしたのかは知らないが、私は容赦なく殺気をぶつけ、正体を尋ねた。少なくとも、ギルドの職員が一人では来れるようなところではないのだ、ここは。

 するとあの男は、「貴方と同じです」とほざいた。
 私と同じ。つまりは、『彼女』の寵愛を受け、その身を怪人と化した化け物。

 そんなはずがない。そう思って私は「嘘を吐くなっ!」と思わず叫んでしまった。
 しかしあの男は、殺気などまるで気にしていないかのように笑顔で、「嘘ではありません。正真正銘貴方と同じです」といった。
 確かに、【神の恩恵】を受けていないただのギルドの職員では、私の殺気に耐えられず、気絶とはいかなくとも、その顔を苦痛で満たすだろう。だが、あの男は笑っていた。

 さらに、この場所をギルドが知っているというのも考えにくい上、昨日のミノタウロスがあの男に『洗脳』されていると予測した。以上のことから、私はあの男は『味方ではなくとも、敵ではない』と判断してしまった。

 その時は完全に信用したわけではないので、一番重要な質問もした。
 「お前も『彼女』に選ばれたのか?」と。
 ソレに対して、あの男は少し考える素振りを見せてから、「少し違います。僕は力を授かってません」と答えたのだ。

 これには二重の意味で驚いた。

 まず、男はなんの加護も受けずに、私の殺気を流した、という事実。そして、男の口ぶりからして、『力を与えずとも、男をあそこまで強化した者がいるということ』にだ。

 認めたくはないが、男は『彼女』の加護を受けた私より強い。それも加護なしで、だ。
 それは私の中で、男の後ろにいる者が『彼女』と同類かそれ以上の存在なのでは?という疑問を抱かせるには十分すぎた。

 男ほどの力があれば、私一人なら簡単に倒せるのだろう。にも関わらず、それを実行しないということは、男は”ナニカ”の命令を受け、我々に危害を加える気はないということ。
 ミノタウロスに調教の上書きを加えたのは、我々に力を認めてもらうため。

 そう考えた私は、警戒をほとんど解き、共に苗床に向かってしまった。

 
 道中では、少しでも情報を得るために、幾つかの質問もした。男はあっさりと答えていたが。
 
 左手の包帯が気になったので、どうした?と尋ねれば、『剣姫』にやられたと言っていたし、何故そんな服装で来た?と問えば、一応仕事で来ているとこたえた。
 一聞すると、大した問答ではないが、『剣姫』にやられたということは、『剣姫』と戦う機会があったことを示す上、むしろ『剣姫』と戦って左手の指数本で済んでいることも表す。
 さらに、”一応”ということは、男はギルドに潜入して、スパイもどきのことでもしているのだろう。
 嘘を吐いた様子でもなかったので、余計に私は男を信用してしまったのだろう。

 これ以上の問答の必要性を感じなくなった私は、無言のまま男と共に、苗床へと向かった。

 
 そして苗床に着いたのだが、男はモンスターを見るや否や、身構えていた。
 どうやらモンスターたちを敵と判断したようだ。思えば、男はモンスターたちと敵対しかしていないから、敵と認識していたのだろう。後ろにいる者からは聴いていないのだろうか?と不思議に思ったが、どうでもいいな、とすぐに斬り捨てた。

 モンスターに手を出されてはたまったものではないので、手で男を制し、敵ではないことを伝える。
 一応、誤解されても困るので、このモンスターたちの調教をやったのは私ではないことも伝えておいた。

 男は少し驚いたようだが、そこは流石の順応性で、物珍しそうにモンスターたちを見ていた。

 しばらくモンスターを眺めていたようだが、飽きたようで、再び奥にある別の苗床へと向かう。

 そしてそこから更に十分ほど経つと、男は”土竜族”が住む場所を聞いてきた。
 なぜ?と疑問に思い、尋ねてみると、「そちらが本命だ」と答えられた。

 男はどうやら別の仕事も請けていたようで、”土竜族”が住む都市にも用があるらしい。
 詳しく聞きだそうとしたが、男はこれ以上は聞くなという視線を送ってきたので、しぶしぶ諦めておく。

 そして、場所を教えるや否や、男は”土竜族”の都市へと向かうと言って、その場を後にした。
 
 まさかモンスターと怪人を見るために此処に来たのか?と呆気に取られるが、直後に聞こえてきた岩が崩れるような音を聞き、すぐに我に返る。

 
 私は慌てて音がした方向へ向かった。音の発生源はどうやら先ほど通った苗床のようで、見ればそこは既に半壊していた。


 呆然と立ち尽くす私に、追い討ちをかけるかのように、ダンジョンから生まれたモンスターたちが襲ってくる。 どいつもこいつも『調教』……いや、『洗脳』してあるようで、普通よりも数倍強くなっていた。

 腹の底から怒りが沸きあがってくるのを感じた。
 あの男は私を騙し、苗床を一つ破壊していったのだ!

 私は襲ってくるモンスター(ミノタウロス)たちを一瞬で片付け、崩落から逃れることはできた。
 しかし、18階層を襲わせる予定のモンスターが半分になってしまった。これでは、レヴィスに何といわれるのかわかったものではない。

 
 この借りはいつか必ず返すぞ、名も知らぬ洗脳師よ。
 
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