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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1期/ケイ編
  K7 イチイの弓使い

 ケイが現場に到着した頃には、響とネフシュタンの少女の決着はすでについていた。


             何故 どうして 広い世界の中で
             運命はこの場所に 私を導いたの?


 直線状に抉れた地面とタイルの先に、コンクリートに叩きつけられた白い少女。舞い上がる土埃。

「ケイさん!」
「これ…立花ちゃんがやった…のか?」
「え、ええっと…あ、あはははー」

 笑った。ということはイエスだ。

 ケイは呆然とした。この破壊の爪痕は、初めて会った日の翼に匹敵うる。絶唱というのはそのくらいやってのけるらしいが、ケイがここに着くまでに特殊なメロディはなかった。

(もうコレこの子一人でよかったんじゃ……俺、変身損?)


             その場しのぎの笑顔で傍観してるより……


 はたと気づく。先ほどから響は歌い続けているが、白い少女に一切攻撃しようとしない。倒すなら今が絶好のチャンスであるにも拘らず。

「お前、馬鹿にしてんのかよッ! あたしを……雪音クリスをッ!」

 ケイはレーザー砲を構えようとした。

 響が人を傷つけたくない優しい女の子であるのは、未来を通した付き合いで知っている。ここは彼女より少しばかり大人の自分が汚れ役を負うべきだ。

 だが、響はケイに手の平を向けた。待ったをかけた。

「そっか、クリスちゃんっていうんだ」

 響は手を下ろす。あくまで徒手空拳の構えで行くつもりらしい。

「ねえクリスちゃん、こんな戦い、もう止めようよ。ノイズと違ってわたしたちは言葉を交わすことができる。ちゃんと話をすればきっと分かり合えるはず。だって、わたしたち同じ人間だよ!」

 説得、という軽い次元の話ではない。
 これは立花響の芯だ。彼女は本気で、本気で言葉を交わせば人は分かり合えると信じている。信じるだけではなく、それを現実にしようとしている。

 平和を唱えるどんな偉人も、最初は響と同じスタートラインにいたはずだ。話し合い、分かり合いたい。相手への誠意と敬意がなければ、ここまでは言えない。

(未来がほっとけないの、分かった気がする)

 ケイはプリズムレーザーをアーム装甲に戻し、響と同じ空手になった。

「テメェまでっ。お前ら揃いも揃って頭湧いてんのか!?」
「かもな。俺も正直どうかしてるとは思ってる。ただ、この子の語りが現実になったほうが、世の中ずっと救われる気がするだけだ」
「ケイさん…」
「やりたいようにやりな。きみの今の一言にはそれだけの重みがあった」
「っはい!」
「―――せえんだよ」

 不意にずっと俯いていたクリスが呟いた。

「嘘臭ぇ! 青臭ぇ!」

 今までとは異なる本気の、心の芯からの絶叫だった。

 クリスがこちらに走ってくる。ケイはとっさに響を庇う位置に立ち、アームドギアのレーザー砲を再出させる。

(この子本人を撃つわけにはいかない。響ちゃんがやっとの思いで説得しようとしてるんだ。動きだけ的確に止めるには)

 反転。ケイはプリズムレーザーを響の後ろの木々、特に幹と梢の分岐点を狙って横薙ぎに撃った。射線を横にしたことでレーザーがサーベル化し、木々を斜めに刈っていく。刈った木は断面を滑ってこちらに落ちてくる。

 次いでケイは空いた手で響を抱えて前、響にとっては後ろへ、ジャンプした。

「チィッ!」

 公園の木を利用した煙幕ならぬ園幕。これでクリスの特攻は一時だが停まるはず――だった。

「洒落臭ぇンだよ!! アーマー・パージ!!」
「はぁ!?」

 ネフシュタンの鎧が吹き飛び、細かい破片となって落ちる木々を吹き飛ばす。盾にもならなかった。
 余波でケイも響も後ろまで飛ばされ、破片のせいで無数の切り傷を負ってしまった。

「ケイさん!」
「ごめ…庇い、きれなかっ…」

 響だけは傷つけさせまいと体で隠したが、やはり無傷とはいかなかったらしい。

「わたしはいいよ! でも、ケイさんが怪我したら…未来は!」


              「 ――Killter Ichi-bal tron―― 」


 言い合っている場合ではなかった。

「この歌って…」
「まさか…」
「――見せてやる。“イチイバル”の力だ」

 土煙が晴れたそこに立っていたのは、蛇ではなく、赤いアゲハへと変貌を遂げた少女だった。

「――歌わせたな。あたしに歌を唄わせたな!」

 赤を基調としたギア装甲。バーニアや腰に装着した防具や、手足のタイツと相まって、響や翼より重量と女子らしさを感じさせるデザインだ。

「教えてやる! あたしは歌が大嫌いだッ!」

 クリスの台詞を吟味する間は与えられなかった。
 クリスの両腕の装甲がボウガンへと変形する。あれが彼女のアームドギア。


            傷ごと抉れば 忘れられるってことだろ? 


「ケイさん、走って!」

 響が叫んだ。

 言われずともケイはすでに響と反対方向へ走っていた。プリズムレーザーは響ほど俊敏さを助けてくれるギアではないのでアーム装甲に戻した。

 しかし、クリスの両手に握られた赤いボウガンは、逃げも許してはくれなかった。


           いい子ちゃんな正義なんて 壊してやろうか――! Haha! 


(な!? ボウガンがガトリングに化けたぁ!?)


              さーあッ! It‘s show time!!


 この時ばかりはケイもプリズムレーザーの特性を恨んだ。クリスの武器は純粋な弾丸やミサイル。エネルギーとして吸収してこちらの攻撃に繋げることができない。

 何より、この雪音クリスという少女は、かなり場慣れしている。もしかしたらバトルセンスは翼よりも上かもしれないとさえ感じた。

(立花ちゃんみたいに本人をやるしかない。もう寸止め攻撃なんて悠長なことは言ってらんねえ)

 ケイは腹を据え、プリズムレーザーの鏡面部分にフォニックゲインを流し込み、サーベルへ変えた。
 そして、クリスへ向かって走った。 
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