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ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち

作者:はらずし
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第六話 武器変更

 
前書き

どうも、はらずしです。

今回はアルゴとの会話です。

ではどうぞ

 

 

「リュウ兵もバカだナァ。あんなことするからみんなに除け者にされるんだゾ?」

「ぬかせ。俺はやるべきことをやったまでだっての」

「……またそれカ」

「またってなんだよ、ひっでえなあ。ちゃんと平等にしてやってんだから、文句なんて言わせねえよ?」

第五層主街区《ウエチェン》の外れの民家に、リュウ兵ことリュウヤとその名付け親であるアルゴがいた。

アルゴは縁側に腰を下ろしているが、リュウヤは庭で素振りをしていた。

「まったク、どこが平等なんだカ……」

「聞こえてますよ、お姉さん?」

「リュウ兵にオネーサン呼ばわりされるの、違和感しか感じないナ」

「まあたいして歳も離れてないだろうしな。つか話逸らすな」

「本心を言ったまでだヨ」

おしゃべりをしている間も、リュウヤは一向に素振りをやめない。
しかしいきなりぴたっと止まると、ハァ、と大きくため息をついた。

それを見たアルゴは「またダメか」と思った。

「一体どれを選べばお気に召すんダ?」

リュウヤは手に持っていた片手剣を降ろし、

「俺だってわっかんねーからこんなことやってんだけどなあ」

二人は庭の端を一瞥する。
そこにあるのは数々の武器たち。
片手直剣はもちろん曲刀、細剣、両手斧、両手剣、短剣etc…

なぜこんなものがあるのかと言えばーーー



「ハア?今出てる武器全部集めてこいダッテ?」

「もちろん、金は全部俺が持つけどな。収集を手伝ってくれりゃいいだけだって」

数日前のこと。いきなり呼び出しを食らったアルゴは拒否したい気持ちをグッと抑えて指定された店に入ると、いきなりそんなことを言ってきたのだ。

「オレっちは使いっ走りじゃ無いんだけド」

「タダとは言わない。お前の知らない情報が俺のココにあるからこんなこと頼んでんだ」

トントン、とリュウヤは自分の頭を叩く。
それを見てアルゴはハァ、とため息をつきたくなる。彼が持ち込んでくる情報は確かに貴重だし、毎度金儲けに役立っているのも事実。

しかし、それにつけこんでこんな無茶な頼みごとをもうなんども引き受けてきた。かなりのハードさに、さすがのアルゴも途中で依頼を放棄したいと思ったほどだ。

加えて依頼する理由も教えてくれないときたもんだから疑心に囚われてうまく仕事をこなせない時もあった。

だからだろう、今回の依頼を受けようと初めて自発的に思ったのは。

「実は武器変更しようと思ってさ。俺だけじゃ集めきれないし、どうせなら楽したいからお前に頼んでるんだけど、いいか?」

「……報酬は先払いダ」

「よっし、そうこなくっちゃな」

と、こんな感じで交渉が成立し、今に至るのだがーーー



「どれもピンと来ないんだよなあ」

言いつつ、リュウヤは両手剣を手に庭の中央へ戻っていく。

「ていうカ、リュウ兵、片手剣そんなに合わないのカ?」

「あれは単に武器が強かったからだし、最初はそんなに違和感なかったんだけど、使ってるうちにだんだんとそれが膨れ上がってきてさ。もう無理だなって」

「じゃあもう片手剣は使わないんダナ?」

「新しい武器見つけて、それが前線で使えるようになったら変える。さすがにいきなり変えたりしねえよ。死ぬわ」

笑いながら、リュウヤは風切り音を鳴らしながら両手剣を素振りする。

ブン、ブンと数回ほど振り回すと、両手剣をポイと投げいきなり大の字に寝転がった。

「だぁぁぁ!!めんどくせえしイライラする!」

「ソレは両手剣に対する評価カ?ソレトモ見つからないからって八つ当たりなのカ?」

「どっちもだよクソッタレ!」

「オイラに八つ当たりしないでほしいんだケド……」

頬をポリポリかくアルゴは、内心「もう帰っていいかナァ」とぼやいていた。
芝生にゴロゴロ転がり「ああああ~」とか言っているリュウヤを放って帰るのも確かにいいが、それはもったいない気がして帰るに帰れない。

リュウヤの情報がほとんどないアルゴにとって、彼が武器を変えるという情報は貴重だ。さらに変更した武器をも知れると言うのならここに留まる価値は十分にある。

「ああ、そうだ。アルゴさんよ、《ビーター》の噂って今どんくらい広まってんのん?」

リュウヤはゴロゴロ転がっていた体を起こして、あぐらをかいて尋ねる。
かなり唐突に聞いてきたものだから、びっくりして返答に時間がかかった。

「そうだナ、今の所《最前線》で戦ってるヤツラくらいにしか広まってないようだナ。どっかの誰かさんのおかげデ」

嫌味ったらしく言ってやると、リュウヤは嫌な顔一つせず逆に笑って別の質問を投げかけた。

「じゃあそのどっかの誰かさんのうわさは?」

「そりゃもうかなりの人が知ってんじゃないのカ?“悪逆非道をゆく人でなしの殺人者”ッテナ」

「アッハッハッ!ボスを使っての《MPK》ってか?笑わせてくれるねぇ」

「……」

「悪逆非道ってのもいいねぇ。仕上がってんじゃんかよ。悪事千里を走るってことわざは伊達じゃあないね」

ケラケラと笑うリュウヤは愉快そうに笑みを深める。まるで他人事のように。
自分のした行いのデメリットを全て分かって引き受けているくせに、それは自分ではないというように。

アルゴは無意識に歯をくいしばる。
彼のおかげで情報屋稼業を続けていられているというのに、彼のおかげで生きているといっても過言ではないのに、彼に対してやってやれることがない自分の無力さに打ちひしがれる。

リュウヤがそのアルゴの心中を察してやれないはずもなく、彼は苦笑する。

「おいおい、お前が負い目感じる必要なんもないのよん?皆無だ皆無」

「ケド……」

「あのなぁ、あの場にいたプレイヤー全員のヘイトを、あんな、たかだか中坊程度に負わせられっかって話なんだよ」

リュウヤはやれやれといったように肩をすくめた。

「それに、あいつのやり方じゃあ《ビーター》ってのが複数いるって勘違いしちゃうだろ。“疑わしきは罰せよ”って言葉、もちろん知ってるよな?」

アルゴは小さく頷く。
つまりそれは、『無関係な人まで巻き込んでしまう』ということなのだと、彼は言っているのだ。

逆に言えば、彼のやり方だと『自分一人しか巻き込まれない』ということになる。自分以外の存在を仄めかさなかったのだから。

しかし、それは《ビーター》とは比べ物にならないヘイトをその身に受けてしまうということだ。

標的が一人しかいないのなら、その一人だけに集約してしまう。

彼は今、とんでもない地獄にいる。
そう言っても過言ではなかった。

ーーーなのに彼は。

「ああ~、ったく辛気臭い顔しないでほしいんだけど……。んじゃあここで一つクイズだ」

アルゴの表情が暗くなる一方、それを案じたのかリュウヤはぴんと人差し指を立てた。

「俺は、何者でしょう」

「……は?」

「や、そんな『あんたバカァ?』みたいな顔されても……」

「あんたバカカ?」

「お前、マジで殴ってやろうか?」

「ああん?」と言いながら拳を構えるリュウヤを完全に無視してアルゴは考える。
クイズの答えではなく、その質問の意図を。

が、それはすぐに止めた。理由は明白、考えても分からないからである。
あまりにも漠然としたクイズに、答えがわかるわけがなかった。

「分かんないネ」

素直に答えを求めると、リュウヤはバカにしたようにこう言った。

「俺は俺だろ」

………。

「ここって圏内だよナ?殴ってもオレンジにはならないよナ?」

「待ってお願い!最後まで話を聞いてぇ!?」

「ジャア言ってみナ」

ギロリとひと睨みしたはずなのだが、リュウヤは悪びれもせずに態度を戻した。

「俺はいったい誰なんだって話だよ。アルゴは情報屋、キリトはビーターだ。なら俺は?俺はいったいなんなんだろうな、って」

しかし、どこか悲しげに言う彼の瞳は空に向けられている。正確には第五層の天井で第六層の底であるものを。

「リュウ兵……」

「はっ、すまん。らしくねえよなこういうの。忘れてくれ……」

リュウヤは軽く頭を振って、やはり哀しく笑う。こんな彼に、なんて言葉をかければいいのかーーー

「哲学なんか考える暇があるなら武器選べヨ」

全く迷わなかった。むしろそんなのどうでもよかった。

「おっ前ひっでえこと言うのなっ!?少しは心配とか、そういうのはないわけ!?」

「リュウ兵にそんなことしても無駄ダロ。それに、そんなことされても嬉しくないクセニ」

「私をなんだと思っとるのかね君は。これでも一応人の子なんだぞ」

「一応をつけるあたり、自覚アリと見たゾ」

「なんの自覚かわたしゃさっぱり分かりまへんな」

「遊んでないで、さっさと終わらせろヨ」

これはさすがに無慈悲すぎたか、と言ってから思ったアルゴだが、リュウヤは気にしたそぶりもなくすくっと立ち上がって武器が集められている場所へ歩いていった。

「ま、そだな。確かに遊んでるヒマなんてあるならレベリングした方がいっか」

リュウヤは言いながら「どれにしよっかな~♪」と武器を物色する。

そんな彼の姿を見て、アルゴはどうしても言いたくなってしまった。

「リュウ兵は、ホント《天邪鬼》ダナ」

人の予想を裏切るのが大好きで、誰かにこうあって欲しいと思われると背きたくなる。
まるで天邪鬼だ。

リュウヤはその評価に対してこう述べた。

「そっか……」

その短い感想の後、彼は自分に相応しい武器を見つけることになる。






人は言う。正義の反対は悪だと。
だがそれは、正義の裏が悪だとも言えるのではないか。

キリトが無駄な被害を出させないためという“正義”を抱いて“悪”の仮面を被ったように。

キバオウたちが、真実を知らないためにディアベルを殺したという名目で“正義”を掲げ、結果それは“悪”であったように。

しかし、それらのことさえも、主観でみればどちらも本当の正義であり本当の悪である。

だからこそ、正義と悪は表裏一体。ほんの少し状況が変わっただけでひっくり返ってしまう。

だから、主観的に見ても客観的に見ても、絶対の正義も絶対の悪も存在し得ない。

元は悪にいた人が正義の道を歩むように、ダークヒーローに救済措置があるように。

ならばここで一つ問おう。

悪の仮面を被り正義を貫いた男にも、悪を内包した正義を振りかざす男たちにも味方せず、その両方を敵に回した男はいったい何者なのだろう。

人を傷つけないように自分を傷つけてことなきを得ようとする自己犠牲は、客観的に見れば正義だろう。その真相を知るものからの主観的な見方でさえそうだ。

だが、人を傷つけないために敢えて人を傷つけるこの行為は、いったい何と呼ぶのか。
更に、人を傷つけないために人を傷つけ、自分は何も傷つかないという行動は、いったい何と呼ぶのか。

だから彼は問うのだ。

自分はいったい何者なのだろうか。

正解はすぐに出た。もはや笑ってしまう答えだった。

それを人はーーー《悪魔》と呼ぶ。






 
 

 
後書き
いかがでしたでしょうか。

かなり哲学的要素が盛り込まれている話だと
自分では思ってるんですが、どうなんでしょうか。

さて次回ですが、ここまで本当の戦闘シーンを
書いたことがないので、手慣らしにそれを実践
してみようと思います。

それではまたお会いしましょう
See you! 
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