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真田十勇士

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巻ノ二 穴山小助その五

「わしも御主達を殺めぬ、無益な殺生はせぬ」
「おいおい、身ぐるみ剥がれる前によくそんなこと言えるな」
「わし等を成敗するつもりか?」
「それならな」
「わし等も殺しはしないが容赦はしないぞ」
「人を殺める外道ならば容赦はしなかった」
 また言った幸村だった、とはいってもまだ身構えていない。
 そうしてだ、そのうえでまた言った。
「だがそこまでいっておらぬならよい、御主達は懲らしめるだけだ」
「じゃあこれからか」
「わし等を懲らしめるというのか」
「そうだ、覚悟するがいい」
 ここまで言ってだった、遂に。
 その手に刀をかけた、三人の賊もここで幸村を囲んだ。穴山と雲井も身構えるが幸村は二人に静かに言った。
「ここはそれがしだけで」
「相手は三人ですが」
「それがしにお任せ下さい」
 背の鉄砲に手をかけた穴山に答えた。
「お願いします」
「そうされますか」
「はい、ここは」
「おいおい、一人でわし等三人を倒すつもりか」
 賊の一人、顔中髭だらけの男が言って来た。
「御主頭は大丈夫か」
「大丈夫だからこそ言っている」
 幸村は刀に手をやりつつその賊に答えた。
「それがしもな。そしてじゃ」
「そして?」
「そしてというと」
「御主達に約束してもらう」
 幸村は賊達にまた言った。
「それがしが勝ったら賊から足を洗い全う生きるのじゃ」
「全うにというのか」
「わし等に」
「そうじゃ、それがしが勝てばな」
 こう賊達に言うのだった。
「よいな」
「ふん、御主が勝てばな」
「そうするがいい」
「最も我等三人で一人はな」
「勝てる筈がなかろう」
「しかし約束したな、ならばその約束忘れるでない」
 こう言ってだ、そしてだった。
 賊達は幸村にじりじりと近付いてきた、穴山と雲井は幸村が言う通り動かなかった。幸村は三人の賊達を前にして。
 賊達が動いたその瞬間にだった、雷の様に前に出て。
 刀を三度振ったかと思うとだ、賊達の手からそれぞれの得物が弾け飛んだ。その得物達は宙にくるくると回ってだった。
 幸村の前に刺さった、それを見てだった。
 賊達は唖然としてだ、幸村に問うた。
「なっ、今何をした」
「何が起こったというのだ!?」
「わし等の武器が瞬く間に」
「しかも手だけが痛む」
「手を打ってか」
「そして武器を弾き飛ばしたのか」
「如何にも」
 幸村は得物を失い驚愕している弟達に淡々とした口調で答えた。
「これで御主達は戦えまい」
「くっ、確かに」
「これを失えば」
「どうにもならぬ」
「では負けを認めるな」 
 幸村は淡々とした口調のまま問うた。
「そうじゃな」
「くっ、そう言うか」
「しかしこれでは」
「最早」
 賊達も戦えなくなったことを認めるしかなかった、即ち彼等の負けを。
 そしてだ、苦々しい顔で言うのだった。 
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