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真田十勇士

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巻ノ一 戦乱の中でその八

「そうすればな」
「やはり人が多い場にですな」
「強い者も多い、都等に行けばな」
「強き者がいますか」
「信濃よりもな、この国は山と森ばかりで人は少ない」
「では信濃から美濃に行き」
「そこから近江、そして都に行けばな」
 武芸者は幸村に言う。
「よいであろう」
「強い者に会えますか」
「そうじゃろう、こうすればどうか」
「左様ですな、ではそれがしは美濃に向かいます、ただ」
「ただ。何じゃ」
「その前に諏訪に寄りたいですな」
 ここでこう言うのだった。
「是非」
「ふむ。諏訪か」
「はい、大社に参り旅の無事等をお願いしたいと思っています」
「これは殊勝な。貴殿若いと見えるが心得ておるな」
 人のそれをというのだ。
「実によい。そうした心掛けの者なら必ず旅も無事であろう」
「そう言って頂けますか」
「神も仏も敬わぬとどうしてもな」
「ことが成せぬと」
「人は己だけではどうにもならぬことがある」
 己一人ではというのだ。
「だからじゃ」
「諏訪でお願いをすることも」
「よいことじゃ、そこでいいことがあるやもな」
「そうであればいいのですが」
「とにかくじゃ、御主はまずは諏訪にじゃな」
「はい、あちらに参ります」
「わかった、ではわしは美濃に先に行く」 
 武芸者は笑って言った。
「そうするからお別れじゃな」
「そうなりますか」
「うむ、また会おう」
「それでは機会があれば」
「何処かで会おうぞ」
 この武芸者とは飯を共に食べただけで別れた、しかし。
 武芸者は幸村と別れて一人旅に入ったところでだ、すぐにだった。
 山道を歩く途中にだ、彼の周りに数人忍の服を着た者達が出て来て彼に問うた。
「あの若武者ですか」
「只者ではないと思いますが」
「双刀殿はどう思われますか」
「一体」
「うむ、間違いなく只者ではない」
 双刀と呼ばれた武芸者もこう答えた。
「若いがわしが剣を交えても勝てぬやもな」
「何と、双刀殿でもですか」
「勝てぬとですか」
「そう仰いますか」
「あの気の強さと大きさは相当じゃ」
 幸村の身体から起こっているそれを見ての言葉だ。
「若しや半蔵様とな」
「互角と」
「あの方と」
「そうやも知れぬ」
 こう言うのだった。
「若しやじゃがな」
「ではこちらに引き込みますか」
「我等に迎えますか」
「そうされますか」
「今から引き返してそうしますか」
「それも手じゃな、しかしな」
 ここでだ、武芸者はこうも言った。
「諏訪に行くとのことじゃ」
「諏訪ですか」
「ではあそこの大社に行き」
「参拝するつもりですか」
「その様じゃな」
 武芸者は忍の者達に答えた。 
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