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白樺

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2部分:第二章


第二章

「その華道の壺もです」
「そのことも」
「あらゆることが。ですから」
「まずは大奥の中をよく見てからなのね」
「そのうえで考えさせて下さい」
 こう奥方に申し出るのである。
「それで宜しいでしょうか」
「まだ時は充分にあるわ」
 奥方はおなまにまずはこう言った。
「だから」
「許して頂けますね」
「そなたの好きな様に。ただ」
「はい、必ずや」
「このお花を立派に飾っておくれ」
 奥方はこのことは念を押す。そしておなまもだ。
 毅然とした顔になってだ。答えたのだった。
 そうしてだった。彼女はだ。
 大奥の中を何日もかけて隅から隅まで見回してだった。
 そのうえでだ。あらためてだった。
 奥方に対してだ。こう話したのだった。
「後は今の季節のお花ですが」
「それを見たいというのね」
「はい、そうです」
 そうしたいというのだ。
「それは御願いできるでしょうか」
「随分と慎重ね」
 おなまの言葉にだ。奥方はまずはこう言った。
「大奥の次は飾るお花をとは」
「私も。お花が好きですから」
 だからだと。おなまは奥方に答えた。
「やらせてもらうからにはです」
「真剣にやりたいんだね」
「はい、そうです」
 その通りだと答えるおなまだった。そうしてだ。
 あらためてだ。奥方に願い出た。
「御願いできるでしょうか」
「いいわ」
 ここでもこう答える奥方だった。
「それは」
「そうですか。それでは」
「あと。一つ」
 ここでだ。奥方はおなまにこんなことも言ってきた。
「言っておくことがあるわ」
「何でしょうか」
「私は普段は畏まった言い方をしているけれど」
 言うのはだ。このことだった。
「けれどそなたには違うわね」
「そういえばそうですね」
「大奥に来るまでは畏まった言い方しか知らなかったけれど」
 将軍の奥方になるからには相当な家、それこそ公卿やそうした家の娘である。だからこそだ。そうした言い方しか知らないのだ。
 だが、だ。今葉は違う。それは何故かというとだ。
「大奥には江戸の娘も多いわね」
「はい、私もですし」
「その娘達の言い方を聞いていてね」
 そうしてだと。奥方はおなまに微笑みながら話すのである。
「何時の間にか身に付いてしまったのよ」
「そうだったのですか」
「ええ。ただ」
 ただ、とだ。ここでまた言う奥方だった。
「普段は畏まった言い方をしているのよ」
「それが今はどうして」
「話しやすい相手や親しい相手にはそうなのよ」
 砕けた話し方をしているというのだ。
「そうしているのだけれど」
「それでもとは?」
「そなたには最初からね」
 そう話しているというのだ。
「不思議なことにね」
「あっ、そういえばそうですね」
「そなたはそれだけ話しやすいということだね」
 奥方はそう見ていた。自分が何故おなまに最初から砕けた言い方なのか。
 それでだ。さらにだった。こうおなまに言った。
 
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