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皮肉な結末

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2部分:第二章


第二章

「誰もが平等でね」
「差別もないんだな」
「全くね。どうかしら」
「ああ、金はあるしな」
 ソ連に行くだけの金はある。それならだった。
 俺はすぐに決めた。それでだ。
 彼女に顔を向けて。こう行った。
「行くか、ソ連に」
「そうしてあの国の人民になりましょう」
 俺は家族も仕事も捨てて、いやこんな腐った国を捨ててソ連に行くことを決意した。そうしてだった。俺は愛人の彼女と一緒にソ連に旅立った。
 亡命だった。欧州に行ってから。そこからソ連の大使館に飛び込んで亡命を願い出た。二人でだ。
 俺達を出迎えたのはやたらと大きく鼻の赤い男だった。そいつが俺達をじろりと見てだ。
 ロシア語でだ。俺達に言ってきた。
「我が国に亡命したいのか」
「ああ、そうだ」
「共産主義の世界に入りたいから」
 俺達は心からだ。切実に話した。
「だから。頼む」
「ソ連に亡命させて」
「わかった」
 男は無機質な声で俺達に応えてきた。そうしてだ。
 俺達を大使館に入れてそれからだった。すぐに俺達をソ連に送ってくれた。
 大使が乗る飛行機で一緒にモスクワに向かった。その飛行機は古いものだった。
 あちこちががたがたしてる。けれど今の俺達はそんなことは全く気にならなかった。
 彼女がだ。俺に言って来た。
「この飛行機が着陸したらそこが」
「ああ、ソ連だな」
「人民の国なのね」
 彼女は純粋な笑顔で言っていた。
「皆が幸せに暮らしている天国に私達も」
「入ってだな」
「ええ。人民になるのね」
 彼女は本当に無邪気にこう思っていた。
 俺もおおむねそうでだ。ただ表情だけはクールを装っていた。
「そうだな。人民になって」
「平等で幸せな世界で」
「ずっと暮らせるんだな」
 こう思いながらソ連に向かった。しかし。
 ソ連に着くとだ。いきなりだった。
 軍服、まるで鎧みたいな堅いそれに身を包んだ奴等に囲まれてだ。俺達は日本語で問い詰められた。
「日本からだな」
「ソビエトに来たのか」
「亡命というがだ」
「調べさせてもらう」
「調べる?」
 この連中の不穏な、何処か人間とは思えない機械的な感じにだ。俺は内心戸惑いながら。
 連中に尋ねた。何なのかと。
「一体何をだ。それにあんた達は何だ」
「我々はゲーペーウーだ」
「国家の治安を守る者達だ」
 こうだ。連中から俺達に言ってきた。
「外国から来た者は怪しい」
「だからこそ調べさせてもらう」
「人民の敵なのかどうかだ」
「えっ、人民の敵?」
 そう言われてだ。彼女がだった。
「私達が」
「おい、待ってくれ」
 俺もだ。たまりかねて言った。
「俺達はその人民の中に入りたくて」
「日本から来たのに」
「話は後で聞く」
「来い」
 だがだった。向こうに聞く耳はなかった。
 そうしてだった。俺達は。
 
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