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赤い男

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4部分:第四章


第四章

 その彼がだ。今部屋の端を指差して言っていたのだ。
「緑の目のだ」
 その青い目を血走らせながらの言葉だ。
「赤い服の男がいてだ」
「それでなのですか」
「閣下に」
「そうだ、そこにいる」
 血走った目での言葉だった。
「そしてだ。私に言うのだ」
「何とですか、それで」
「一体」
「滅びる」
 こう言っているというのである。
「ドイツも私も」
「我が国も総統も」
「どちらもですか」
「それは断じてない」
 ヒトラーは牙を剥く様な顔で述べた。
「絶対にだ。ドイツは勝つな」
「は、はい」
「それは」
 今も上から爆撃の音と不気味な響きが来ていた。その中にあっては信じられるものではなかった。普通の神経の者ならばだ。
 しかしヒトラーの言葉にはだ。誰も逆らえなかった。だから彼等はだ。彼の言葉に対して戸惑いながらも答えたのであった。
「その通りです」
「我がドイツは必ず」
「最後には勝ちます」
「そしてゲルマン民族の生存圏を確立するのだ」
 ヒトラーが常に言っていることだった。彼はその為に戦いを選んだのだ。
「何としてもな」
「はい、ですから」
「その赤い男は」
「戯言だ」
 忌々しげに断言するヒトラーだった。
「ドイツを。私をたばかるというのか」
「しかしその赤い男は」
「一体」
「だからそこだ!」
 ヒトラーの声が荒くなった。それで部屋の端を指差すのであった。
「そこにいる。そして私に言うのだ」
「そこですか」
「そういえば」
 彼等はここではだ。ヒトラーの言葉に合わせることにした。見えないと言えばどうなるか。ナチス=ドイツでは最早常識のことであった。
「いますね。赤い服の男が」
「緑の目の」
「私は敗れはしない」
 ヒトラーは席から立ち上がって呟くのだった。
「ドイツを。必ず」
 こう言っていたのであった。しかしであった。
 ナチス=ドイツは敗れた。ヒトラーはベルリンにおいて自決した。これが事実であった。その赤い男の言葉通りになったのであった。
 そしてだ。ドイツを破ったソ連でだ。こんな話が残っていた。
 ソ連の独裁者スターリンが死んだ直後だ。権力を握ったフルシチョフにだ。スターリンが住んでいたその別荘にいた者達からこんな話を聞いていた。
「その話は本当か」
「はい、そうです」
「その通りです」
 彼等は真剣な顔でフルシチョフに話すのだった。
「書記長が亡くなられる直前にでる」
「来たのです」
「その男が」
「赤い服か」
 フルシチョフはその話を聞きながら怪訝な顔になった。
「赤い服とズボンでか」
「はい、茶色がかった金髪で」
「目は緑でした」
「赤は我が国の色だ」
 ソ連のだ。それまさにその通りだ。
 
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