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ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか

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ファミリアに所属しちゃったようです

「さて、オラリオには入れたが……」

街へと入った俺は早速ブラブラと散策していた。
これから目ぼしいファミリアを見つけて入団し、恩恵(ファルナ)を授からなければならない。
でなければ始まらない。

「つっても、下手なとこ入るのも不味いしなぁ……」

あまり多きなところに入っても、俺の異常さが目立つだけだ。
あまり知られたくないなら、零細ファミリアに入った方が都合がよい。
そしてかつ、人格者の神様

「んなもんいるのかよ……探すだけでどれだけかかることやら」

はぁ、と腕を組んでため息をついた。
先程、懐に神様からの手紙と、幾らかのお金。確か、単位はヴァリスだったっけか?が入っていた。
手紙の内容はというと、今は原作開始の五年程前だということ、俺のことやら力についてやらスキル、魔法についての詳しい説明だったりだ。
五年程前というと、主人公の主神であるヘスティア様はまだ自分のファミリアを立ち上げていなかったはずだ。入るにしても五年……うん、無理だ。待てねぇし

「ど~すっかな~」

先程よりも深くため息をつく。

まぁ悩んでも仕方ない……か。

途中で売っていたジャガ丸君を三〇ヴァリスで買い、俺は街の中央、摩天楼(バベル)に向かう。
武士英霊(アサシン)】は使えるんだ。なら、ダンジョンの一、二層辺りに潜ってみるのもいいかもしれない。

先にギルドへ行って冒険者登録するのもいいが、場所が分からないため、あとでいいだろう。
モンスターの核となっている魔石は摩天楼(バベル)の中でも換金可能らしいし。


手に持ったジャガ丸君を平らげると颯爽と歩き出す。
摩天楼(バベル)までの道のりにある様々な店を色々と見ながらダンジョンへ向かう。
ダンジョンは摩天……めんどくせぇ、バベルのしたにあるのだ。ちょうど、バベルがダンジョンの蓋の役割を担っているらしい。


「んじゃまぁ、軽くいってみますか」


ーーーーーーーーーー



「セイッ!」

『グギィッ!?』


【物干し竿】で目の前のゴブリンを斬り伏せる。
現在、ダンジョン二階層。
出てくるモンスターはゴブリンとコボルトしかいないため、割りと楽に対処できた。
恩恵(ファルナ)が無いとはいえ、今の俺は原作のアサシンと同等の力を持っている。
隠れるときはアサシンの所有スキルである【透化】を使えばやり過ごせるし、【心眼(偽)】による危険予知能力も頼りになっている。

「おっといけね。回収回収っと」

残念なことに、俺はナイフ等の小さい刃物を持っていないため、仕方ないとばかりに愛刀である【物干し竿】でゴブリンの胸を切り裂くと、小さい紫紺色の石を取り出した。
これが魔石。冒険者はこれとたまに出てくるドロップアイテムを売って生計を立てているのだ。
なんでも、これがエネルギーの代わりになるとかなんとか。電気みたいなものなのだろう。

唯一ダンジョンが存在するこのオラリオでは、こな魔石を使った製品が特産であるらしい。
まぁ、地下に無尽蔵に湧いて出るからな。そりゃそうなるはずだ。

「お?」

と、ここで先程魔石を取り出したゴブリンの体が灰となる。
ここダンジョンのモンスターは、核である魔石が無くなると灰になってしまうそうだ。
うむ、見ているばいるほど不思議な現象だ。
ちなみに、モンスターの魔石は例外なく胸の部分に埋まっているため、そこを攻撃して倒すという戦法もある。
まぁ、この場合は収入源である魔石が得られないのだが……命あっての物種である。死と隣り合わせの冒険者にはやむを得ない時もあるだろう。

「っと、今度はコボルト……群れか?」

今は【透化】を使用しているため、この距離では補足できていないはずだ。
暫くすると、道の奥から四匹のコボルトが姿を表すが、【透化】で見えていない。
ここまで来たときと同じように、俺はその内の一匹の首を斬り落とした。

『『『ガウゥッ!?』』』

コボルトたちの目が見開かれる。
当然だ。奴等には、いきなり目の前に現れたようにしか見えていないのだから。

驚いている隙を見逃さず、返す刀でもう一匹を斬り殺す。
残りは二匹だ。

『ガァッ!!』

残った方で俺に近い方にいたコボルトが爪を振り上げて襲いかかってくる。
だが遅い。
振り下ろされるその爪を冷静に見ていた俺は、寸分の狂いなく、そのコボルトの手首から先を斬り飛ばした。

『ッ!?』

「シッ!」

下から斬り上げていた刀を今度は上から袈裟に斬る。
それだけで、コボルトは呆気なく地に伏せた。

『ガウゥゥ……』

仲間が殺られたことで、引くかどうかを躊躇うコボルト。
引くなら引くで、さっさと逃げていれば良かったのにな。

残った一匹を前に刀を構える。
あちらも爪を構えているところを見るに、引くことは諦めたようだ。
ならーー逝ってこい

「秘剣ーー【燕返し】」

魔術でもなんでもない、己の剣技のみで編み出した技。
ただ空を飛ぶ燕を斬りたいがために一生を費やした武士の秘剣

『ガ?』

同時に三太刀の攻撃をその身に受けたコボルトは、何が起きたのかも分からずに間抜けな鳴き声をあげる。
次の瞬間、コボルトの体に三本の線が通り、そこから血を吹き出すとそこには三等分になったコボルトの死体が出来上がる。
少しオーバーキル過ぎたようだ。

「魔石魔石っと」

計四つの小さな魔石を回収し、どんどん進む。
とりあえず、今日は四階層まで。記憶通りなら、五階層から出現するモンスターが変わるはずだ。
アサシンの力があるとはいえ、調子に乗りすぎるのも良くないだろう。自重は大事だ。
すでに自重できていない感が半端無いが……うん、気のせいだろう。
恩恵(ファルナ)も授からずにダンジョン潜っている奴とか、俺は知らん。

兎に角、四階層までいこうと、三階層はと続く階段を降り、勢いそのままに四階層へと降り立った。
ここである程度モンスターを狩ったら戻ろうと思っている。
懐の魔石がちょっと重いしね。

「……ん?」

階段を降りて少し経ったくらいの時間だろうか。
通路の奥から戦闘音が聞こえた。
間違いなく冒険者だ。

「……興味あるな……」

生で他の冒険者の戦い方を見るというのは、我ながら良いアイデアだな、と自分自身を誉めながら通路の奥に急ぐ。
早くしないと、冒険者が戦闘を終わらせているかもしれない。

アサシンのステイタス、敏捷A+は伊達ではなく、直ぐに現場についた。
だが、そこでみたのは、予想していたのと全く逆の状況。
複数のコボルトに囲まれた一人の男の冒険者が満身創痍の状態で戦っていた。
…………って!ピンチじゃん!?

男はなんとか、盾と剣で凌いではいるが、それも時間の問題だ。
いつ攻撃を喰らって殺られても可笑しくはない。

それに、助けるにあたる十分な価値もある。
ソロということはつまり、他に仲間がいないということ。同じファミリアのメンバーでパーティを組むのが普通だが、それが無いのを見るに、男のファミリアは一人しかいない零細ファミリアの可能性がかなり高い。
これで恩を売るということもできる。
正直、こんな考えが浮かんでしまうのはどうかと思うが、世界はそこまで甘くないのだ。
全ての人を助けたいなどという崇高な理念なんぞ、俺の中には皆無である。

「……と、考え事してる場合じゃねぇな」

男の盾が弾き飛ばされ、状況が悪化している。
(コボルト)は六匹。死体が八匹あるのを見るに、かなり頑張ったのだろう。

『ガァァッ!!』

「クソッ……!!」

丁度、生きているうちの一匹が男に襲いかかった。
疲労で顔色の悪い男は、悪態をつきながらも残った剣を構える。
諦めれば死ぬ。それがダンジョンなのだ。

だが、アサシンの敏捷は凄かった。
一瞬で飛びかかっていたコボルトの胴を斬り裂き、勢いそのままに男の周りを囲んでいたうちの一匹の首を跳ねた。

「……は?」

何が起きたのか分からなかったのか、男は口をポカンと開けて俺を見ていた。
何だその顔は。俺が笑うぞ。

「……助けはいるか?」

「あ……あ、ああ! 助かる!」

「よしきたぁ!!」

許可をもらった俺は数分もしないうちに残ったコボルトを斬り殺すのだった。



ーーーーーーーーー


「いや、助かったよ。ありがとうね、式君」

「別に構いませんよ。倒した分の魔石は貰えましたし」

「ハハハ、それは当たり前だよ」

先程助けたこの男、名前はハーチェスさんと言うらしい。
何でもファミリアは自分一人しかいないために、ああしてソロで潜っていたそうだ。
ビンゴである。大当たりである。

「そられにしても、式君は強いね。 感心するよ」

「まぁ鍛えてますからね」

冒険者にしてはかなり礼儀の正しい人である。
ちなみに、金髪碧眼の二一歳。イケメンである。
イケメンである。
大事なことだから二回言ったぞ。

俺たちは現在、バベルで魔石の換金を行っていた。
ハーチェスさんは腰のポーチをひっくり返し、中身の魔石を出した。

「……はぁ、三〇〇〇ヴァリスか……。 まぁ、式君に助けてもらえなかったら、これさえなかったわけだけど」

「まぁいいじゃないですか。 あ、これお願いしますね」

ハーチェスさんを慰めながら俺も懐から魔石を取り出した。

「…って、かなり貯まってたんだな……」

手に触れた感触がかなりのもので、結局三回くらいつかんでは出してを繰り返した。
合計、一二〇〇〇ヴァリスである。

「…………」

スッゴい驚きの目を向けられていた。
俺はというと、換金したお金を懐にしまい、行きましょうかといってバベルから出る。
ハーチェスさんも慌てて後を追ってきた。


「す、すごいじゃないか! え、式君もLv1だよね!?」

「え? 違いますよ?」

「はえ? な、なんだ。そうなのか。 どうりでそれだけ稼げるわけだね」

何を勘違いしているのか、ハーチェスさんがうんうんと頷いていた。
まぁ、そりゃこう答えたらそう思うだろう。
ダンジョンに恩恵(ファルナ)もなく潜るとか、愚の骨頂。自殺行為でしかないのだから。

「それじゃ、Lv2?」

「違いますよ。 俺、無所属なんで」

「あ、そうか。無所属なのか~……………ええええぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇ!?!? 無所属ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?」

バベルを背後にした北西のメインストリート、通称【冒険者通り】にハーチェスさんの声がこだました。


ーーーーーーーーーー



「さ、入ってよ」

「あ、どうも。 お邪魔します」

ところ変わって、ここはハーチェスさんが所属するファミリア、【バルドル・ファミリア】のホーム……といっても、ボロい小屋のような所であるが。

「お、ハーチェスおかえ……? その子は?」

と、そこで俺達の元へ小柄な人影がやって来た。

「バルドル様、こちら式君です」

「どうも、ナンバ・式と言います」

ビシッと体を直角に曲げてお辞儀をする。
バルドル様、とハーチェスさんがいうのだ。彼女こそがここ、【バルドル・ファミリア】の主神、バルドル様なのだろう。

「うん、僕はバルドル。この弱小ファミリアの主神だよ」

顔をあげてよ、と言われたので言われた通りにした。
俺よりも頭一つ分くらい小さい金髪紅目の女神。残念なことに胸は……おっと、これはいってはいけないな。

「勘違いしてるようだったら言うけど、これでも僕は男神だからね?」

「うえっ!?」

マジですか!?

隣を見ると、ハーチェスさんがやっぱりかーと苦笑いを浮かべていた。

「最初は僕も間違えたからね」

「ま、まさか男の娘がくるとは……」

「ん? 式君、どうしたのかな?」

「あ、いえなにも」

つい口に出てしまったが、相手は神様なのだ。
言葉は選ばないとな。

「それで? なにか用があったんだろ?」

「あ、はい。実はですね、式君がうちのファミリアに入りたい……と」

「…………へ?」

バッ!!とものすごい勢いでバルドル様が振り向いた。
一瞬、残像が見えるほどに。

「ほ、ほほほほ本当なのかい!?!?」

「あ、はい。そのつもりで来たんですけど……」

「ヒャッホォイ!!」

見た目とは想像もつかないような喜び方をするバルドル様。
何かもう立ったままその場で小躍りを始めてしまっている。

ハーチェスさんはじきに収まるから、と終始苦笑い。
俺は軽く引いていた。
少しの間だけ続くバルドル様の躍りの間に、俺はハーチェスさんと話すことにした。

「げ、元気な神様ですね……」

「うん。僕もそう思うよ。でも、何よりも眷族(家族)のことを考えてくれているだ。 いい神様(ひと)だよ」

そう言ったハーチェスさんは、どこか誇らしげな目で目の前で奇妙な躍りを披露するバルドル様を見ていた。




ーーーーーーーーーー


「さ、さて、式君。 本当にいいんだね?」

「はい。もちろんです」

先程まて奇妙な踊りを披露していたバルドル様は、暫くすると、ハッとなって顔を赤らめるというなんとも可愛らしい(男神だけど)仕草を見せてくれた。

目の前でさっきのことは忘れてくれと懇願するバルドル様のその様子にニヤニヤが止まらない。

「式君、バルドル様が泣いちゃうから」

「うぅ……ハーチェス、僕はこんなことで泣かないよ!」

ハーチェスさんの言葉に、バルドル様がウガーと叫ぶ。
あれだな、いいコンビだ。

「まぁ、俺としましても何処かのファミリアには所属するつもりでしたし、願ったりかなったりなんですよ」

「そ、そうなのかい? ほら、他の……それもこんな零細よりよ大手の方が良かったんじゃないかな? ハーチェスの話を聞く限り、君は恩恵(ファルナ)無しでダンジョンに潜るほどの実力があるそうじゃないか。大手でも諸手を挙げて君を歓迎すると思うよ?」

「ば、バルドル様、折角の入団きぼうしゃなのに、そんなこと言ったら……」

「わ、分かってるよ。 けど、こんなことでこの子の可能性を潰す真似は出来ないだろ」

どうやら、俺ほどの実力持ちが自分たちのような零細の弱小ファミリアに所属することに躊躇いがあるようだ。
だが、こちらにも色々と事情がある。
転生云々は言えないが、【ステイタス】を更新するのは神様なのだ。俺が異常なのはそのうちバレる。
そうなったときに、その情報を自ら広めない、かつ信頼のおける神様(ひと)でなければならない。

「心配してくれて、ありがとうございます。バルドル様。けど、俺はあなたの眷族(家族)になりたいと思っていますよ」


「……分かった! そこまで言うんだ。僕らは君を歓迎しよう!」

バルドル様が俺の前に歩み寄ってくると、そのまま右手を差し出した。

「よろしくね、式」

「はい! バルドル様」

右手を握り返し、バルドル様につられて俺も笑った。



このあと、早速俺は恩恵(ファルナ)を授かり、ハーチェスさんと共にギルドへ冒険者登録を済ませることになる。
俺の歓迎会を開くとのことなので、今日の稼ぎで夕飯を買った。
バルドル様は久し振りの御馳走だ!!とはしゃいでいたが、それ言ったときのハーチェスさんの顔がすごい落ち込んでましたからね?
追撃をかけようとしていたバルドル様を何とか止め、俺達三人(一人は神様だが)は夜更けまではしゃいだ。
翌日、バルドル様が頭痛で動けなくなったことは言うまでもないことであろう。


まぁ、何はともあれ。
俺の【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】はここから始まるのだった。 
 

 
後書き
ナンバ・式 Lv1

所属ファミリア 【バルドル・ファミリア】

年齢一八歳→一五歳(肉体が若返っている)

武器 【物干し竿】

スキル 【武士英霊(アサシン)

魔法 【ナイトオブオーナー】

基本アビリティ 力 I0 耐久 I0 器用 I0 敏捷 I0 魔力 I0


黒髪黒目の極東人特有の顔立ちだが、実は転生者。

 
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