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観化堂の隊長

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5部分:第五章


第五章

「買っておいたんだ」
「ああ、あそこでね」
「飲む?」
「ええ。けれどね」
 玲子はここで少し苦笑いになった。
「日本にいるみたいね。何か」
「日本語も結構通じるしね」
「そうよね」
 台湾はそういう場所だ。昔日本領だったこともあるし今は日本の観光客が多いので結果として日本語がかなり通じるようになっているのだ。
「親しみも感じるわね」
「うん。それじゃあ」
「飲みましょう」
 こう言って前に動いてきた。
「早速ね」
「飲んだら寝てね」
「明日に備えましょう」
「うん、そうしよう」
 こうして僕達はまた飲んでそれからは二人でベッドに入って身体を休めた。朝起きて一介のホテルのレストランでホテルのお粥の朝食を食べていると馬さんが来た。
「お早うございます」
「はい、お早うございます」
 僕達は馬さんの挨拶に笑顔で応えた。馬さんは朝から元気な顔だった。
「じゃあそれを食べたらですね」
「はい」
「身支度を整えて行きましょう」
「わかりました。それじゃあ」
「獅頭山にですね」
「案内は私に任せて下さい」
 屈託のない顔で僕達に言ってきた。
「それでいいですよね」
「ええ、御願いします」
「それで」
 僕達としても異論はなかった。こうして僕達はこの中華風の中に豚の内臓が入っている所謂及第粥を食べてから歯を磨いて顔を洗ってから馬さんについて獅頭山に向かった。そこはガイドブックに書かれてある通り緑が豊かな奇麗な山であった。
 馬さんが運転する日本車から降りて外に出ると。馬さんはすぐに僕達に声をかけてきた。麓のここからも見える仏教のお寺には目もくれていなかった。
「それじゃあですね」
「道観ですよね」
「はい、そこです」
 答えは変わらなかった。
「そこに行きますよ」
「またどうして」
 僕は思わずまた馬さんに尋ねた。
「そこに行かれるんですか?」
「そうですよ」
 そして玲子もそれに続く。
「何で道観に」
「僕達にも関係があるって仰いますけれど」
「まあ行けばわかりますから」
 またこう言われた。
「その時にね」
「それじゃあまあ」
「行きますけれど」
 僕達はこうは答えたがそれでも釈然としないものが残っていたのは確かだった。そしてそれを隠すこともできなかった。どうしてもだ。
 だがそれでもだった。馬さんの案内について山を登った。そして暫くしてその道観らしい場所に来た。見たところ何の変りもない普通の道観である。僕も玲子もその前で首を傾げざるを得なかった。
「ここなんですか?」
「ここが?」
「はい、ここですよ」
 馬さんは穏やかな笑顔でまた僕達に答えてきた。
「ここです」
「ここに一体」
「何が」
「ここは勧化堂といいます」
「勧化堂!?」
「それがこの道観の名前ですか」
「はい、そうです」
 見れば馬さんの笑顔がさらにいいものになっている。それがまた僕達には不思議で仕方がなかった。けれど馬さんはそれをよそに僕達に話を進めるのだった。
「ここはね。私の恩人が祭られているんですよ」
「恩人っていいますと?」
「台湾はかつて日本でしたよね」
 今度言うのはこのことだった。もう僕達にとっては常識と言ってもいいことだった。
「戦争までは」
「ええ、そうですけれど」
「それが一体」
「だからなんですよ」
 そしてまたこう言うのだった。
「私も日本人でした」
「ええ、それは」
「それは知っていますけれど」
「それが一体」
 僕達にはどうしてもわからず首を傾げるばかりだった。話が全然見えない。
「戦争の時はですね」
 今度は戦争の話になった。
「フィリピンにいまして」
「フィリピンにですか」
「確か激戦地の一つでしたよね」
 僕達はこう馬さんに話した。このことも僕達は知っていた。一応は、であるが。
 
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