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観化堂の隊長

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4部分:第四章


第四章

「あそこはね」
「そういう場所なんですか」
「じゃあ祭られている神様は何かな」
 僕達は今度はこのことについて考えた。
「岳飛かな」
「ああ、その人じゃないよ」
 これもまた馬さんによって否定された。
「岳王廟ではないよ」
「そうなんですか」
「あんた達にも関係のある人だけれどね」
「私達にって」
「誰かな」
「さあ?」
 やはり僕達にはわからない。また顔を見合わせるだけだった。
「とにかく明日ですよね」
「そう、明日だよ」
 その屈託のない笑みで僕に答えてくれた。
「明日ね。それでいいね」
「ええ、わかりました」
「じゃあ明日」
 こうしてとりあえず僕達の明日の行動予定は決まった。おじさんから話を聞いた後は台湾の街を三人で歩いて遊んだ。その遊びから帰って来て僕と玲子は部屋に入りシャワーを浴びてからベッドに向かい合って明日の話をした。二人共白いガウンを着ている。
「それでね」
「うん」
 ガウンで頭にタオルを巻いている玲子の話を聞く。僕はガウンの下にズボンを穿いている。
「明日の獅頭山ってどんなところなのかしら」
「ここに書いてあったよ」
「あっ、それって」
 玲子は僕が出して来たガイドブックを見て声をあげた。これは僕達が日本から持って来たガイドブックだ。日本にいれば旅行に関する資料にはこと欠かない。
「ここにあるんだけれどね」
「ええ」
「ほら、この本だと」
「あまり高くない山ね」
 玲子は僕が開いたそのページを覗き込んでまずはこう言った。
「五百もないのね」
「うん。高くはないね」
 これは僕もわかった。
「それにさ。道観よりも」
「仏教みたいね」
 玲子はまたガイドブックを見て言った。
「どうやらね」
「そうみたいだね。お寺が有名だけれど」
「けれどお爺さんって」
 玲子は眉を顰めさせて僕にさっきの話を言ってきた。
「言ったわよね。道観って」
「うん。確かにね」
「何でかしら」
 また言う玲子だった。
「仏教の場所で道観行くなんて」
「しかもさ」
 僕はここでお爺さんの言葉を一つ思い出した。
「あれじゃない。僕達に関係があるって」
「私達別に」
 玲子はここで首を傾げさせてきた。ベッドの上で正座を崩した格好で座っている彼女の白い足が見えるけれど今はそれよりもこちらの話だった。
「台湾には。観光で来てるだけだし」
「そうだよね。関係ないよね」
「そうよね。けれど何でかしら」
「わからないことばかりだよ」
 僕はついついこう言った。
「お爺さんの話は」
「それでも明日はそこなのよね」
「うん」
 これはもう決まっていることだった。
「それはね」
「じゃあさ。ここはさ」
 お爺さんが悪い人じゃないのはわかっていた。だからここは腹を括ることにした。
「もう。決める?」
「決めるの」
「うん。もうこれでいいよ」
 僕はまた玲子に言った。
「道観ならそれはそれでね」
「そうね。それじゃあ」
「うん。まあ山は調べたしさ」
 僕はこれで話を打ち切ることにした。
「もう寝ようか」
「そうね。それじゃあ」
「その前に飲む?」
 ここでまた玲子に提案した。
「ビール。買ってあるけれど」
「もう買ってあるの」
「下のコンビニでね」
 こう言って部屋のテーブルの上を親指で指し示す。薄明かりだけの部屋の中でビニールの袋に包まれたビール缶とつまみが入っている。
 
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