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ルイズが赤い弓兵を召喚

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しゃべるしゃべる

 
前書き
もうちょっと続きそうです。
ルイズさんが随分変わってしまっているので、許容出来る方はどうぞ。 

 
「なんでそんな嘘ついたのよこのアンポンタン!」

 ああ最悪だ。
 やっぱりこいつに無理にでも剣を買ってやるべきだった。

「早とちりするな、マスター。私は確かに今所持してはいないが、今すぐ所持することは可能だ」

 ちょっと何言ってるのか分かりません。

「『破壊の杖』と言ったか。あれが完全な状態で手元にあれば話は別だが、先程君があのゴーレムに投げつけてくれたお陰で変形してしまったようだ。ああなってしまっては、な」

 うぐぐぐぐ。

「仕方ないでしょ!あの杖、偉そうな名前している癖に、使っても何の魔法も使えないんだから。それとも魔法を使わずに、私にあの大きな拳と正面から打ち合えって言うわけ!?」

 私がそんな筋肉隆々に見えるのか。
 それに最近体の調子が良くない。
 怠く感じる日が多いし、今日に至ってはいつもの杖でも爆発魔法さえ起きやしない。
 調子が良かったら私の魔法で一発だったはず!

「いや、あの時の行動は悪くなかった。話を戻そう」

 しかしなんでこんな状況で落ち着いていられるのかしら、この使い魔。
 今だって私を抱えたままゴーレムの攻撃を軽い動作で避けているし。
 そう、まるでこんなことは、普段と変わらぬ日常の一コマであるかのように。
 だとしたら、この使い魔は一体どれほどの修羅場を―――

「マスター、私は剣を持つ者ではなく、剣を打つ者なんだ。そして、そのためにはある程度の魔力が必要となる」

 そう言うアーチャーは、ゴーレムに視線を向けたまま、今まで見たことのない笑みをこぼした。
 これは……自嘲?

「まったく、オレも精進が足りん。マスター、これは私の読みの浅さが招いた結果。完全に私の落ち度だ。あとでいくらでもお叱りを受けよう」
 
 ちょっとちょっと。
 私を置いて勝手に話を進めないでくれない?

「ルイズ。確認するが、ここは木が多い。隠れることも逃げることも 、私に任せてくれるのなら、そのどちらも容易だ。だが、君にそうするつもりはないんだな?」
「当たり前よ! 言ったでしょう!」

 何度言わせるつもりだろうか。
 あれ。
 今のこいつのセリフ、何だか違和感が……?

「ふう、ならば仕方なし」

 始めて私の名前を呼ばなかった?
 アーチャーが私に眼を向ける。

「令呪を」
「は?」
「令呪を、使ってくれ、ルイズ。今の私では、ゴーレム(あれ)を壊せる剣を作れない」

 ……。

「分かったわ」

 ここでゴーレムと戦うと言うのは、私の矜恃、私のワガママ。
 だというのに、この使い魔は、私を責める事をせず、どうやら自身の無力を嘆いているらしい。
 まったく。
 そんな顔をされたら断れない。
 まだ短い期間の付き合いだが、それでも、この使い魔の事で分かった事がある。
 それは―――

「ルイズ・フランソワーズが命じる! あのゴーレムを、完膚なきまでに壊しなさい!」

 ―――良い意味でも悪い意味でも、私を乗せるのが上手いという事だ!




 別に、急に鋭くなった眼が恰好いいとか思ったわけではない。




 命令と共に熱くなる右手。
 そして次の瞬間、アーチャーから、召喚した時の、あの異様な存在感が復活した。

「あ……」

 恐らく今のこの状態が、アーチャーの真の姿なのだろう。
 そこに居るだけで感じる、肌を指すような、この感覚。
 分かる。
 私の使い魔こそ最強であるに違いないと、確信できる。

 ―――ならば。

 あんなゴーレムなんかに勝てない筈がない。
 負けることなど、万に一つもあり得ない。

「では、命令を遂行しよう」

 こちらの興奮などお構い無しに、いつも通りのこの使い魔が、今はとても頼もしい。
 私を抱えたまま、ゴーレムから大きく距離を取る。
 私をそっとそばに降ろすと、アーチャーは小さく唄った。
 その声は平坦に。


「 I am the bone of my sword.」


 ゾクリ、と体が震える。
 ゴーレムを破壊する為の悍ましい武器が、聞いた事のない言葉と共にアーチャーの手元に現れた。
 あれは、剣、なのだろうか。
 ねじくれた、凶悪ささえ感じるそれは、だけど、それでも、どうしようもなく美しいと感じてしまう。
 頭の片隅で思う。
 あぁ、これが、かつてアーチャーが言っていたことか。
 私は今、正しくこの剣に魅せられているんだ。

「ルイズ」

 アーチャーの声で我に返る。
 いつの間にか、手がその剣に向かって伸びていた。

「あ……うん」

 慌てて手を引っ込める。

「だ、大丈夫よ」

 小さく咳払いをして気を正す。

「では、少し後ろに下がっていてくれ」

 そうしてアーチャーは、左手に大きな弓を構えると、その捻れた剣をつがえ、引き絞った。
 ん……?
 弓!?
 こちらの困惑は、しかしすぐにどうでも良くなった。
 剣が恐ろしい魔力を発しながら輝き、そしてアーチャーがそれを構えている姿を見た瞬間、『矢』であることこそが、その剣の正しい姿であるように感じたから。


偽・螺旋剣(カラド、ボルク)

 
 そして、この騒動の私にとっての山場は、アーチャーによって放たれた言葉と一本の『矢』で以て終結した。
 音を置き去り、空気を押しのけ。
 輝く何かが、邪魔だとばかりにゴーレムを、その背後にあった木々をも、跡形も無く消し去った行った。



――――――――――――



「では、説明しようか。と言っても簡単だ。今の私は常に魔力が枯渇気味なんだ。マスターから必要最低限の魔力を貰うことで、こうしてなんとか存在を保っていられる状態だ。令呪によって『壊せ』るだけの魔力が私に補充された、というのがあの時の真相というわけだな」

「土くれ」フーケの事件から数日後、アーチャーから聞くべきことを聞こうと、こうして夜、話すよう命じた。
 アーチャーの現状について。

「それは……私の魔力が少ないってこと?」

 というかそうとしか思えないわけですが。

「そうであると言えるし、そうで無いとも言える。さてどこから話そうか。私とマスターの関係が、この世界の一般的なそれと多少違うという事は分かっているだろう。そも、私は『サモン・サーヴァント』で呼ばれた訳ではないからな」


は?



――――――――――――



「そう怒ってくれるな。君の言う通り、ルイズ・フランソワーズが、私という『アーチャー』を召喚したのは確かに間違いではない。単に、それがこの世界における『サモン・サーヴァント』と定義された物ではなかっただけのこと。ルイズ。私は本来、人が、ましてや個人が、何のバックアップも無しに呼べる存在では無いんだ」

「信じて貰えないかも知れないが、私はこの世界と別の世界から君に呼ばれて来た。君が使った『魔術』によって」

「落ち着いてくれ。ん? そうだな。信じられ無いのは仕方ないかもしれないが、そこはマスターの適応力に期待しよう。そうでないと話が進まない」

「いつだったか君は聞いたな、私は幽霊なのか、と。強ち間違いでは無い。私はかつて人であり、死後、『こういう物』と成った。まあ、それは今はどうでもいい」

「マスターがどうして魔術を使えたのかも、今は置いておくとしよう。私とて、全ての疑問に答えられる全知の存在ではないからな」

「先に言った通り、私を呼ぶことは通常不可能だ。こういう言い方は余り好きではないが、私がいた世界において、私のような存在は『格』が高い。勿論中身ではなく、存在自体が、ということだがね」

「そんな物を召喚するとなると、途方もない魔力が必要になる。世界を跨ぐなら尚更だ。が、信じられないことに、君はこうして一個人で私を召喚して見せた。そんな君の魔力量を、間違っても少ないとは言えないさ」

「だが、どうやら召喚でその膨大な魔力をほぼ使い切ってしまったようだ。あぁ、マスターが私を召喚した時倒れたのはその反動からだろうし、体が怠く感じる日があるのは君の回復量を上回る魔力を、私に供給している時があるためだろう。それは申し訳なく思っているし、これでも魔力を極力倹約しながら生活している事は信じて欲しい。ただこれからは、そんな怠い日は無くなる筈だ。少なくともこの学院では。どうしてかはそのうち説明しよう」

「これは蛇足だが、私を留めて置くのにも、通常は多くの魔力が必要だ。だが、『アーチャー』である私にはちょっとした特技のようなものがあってね。それも上手く使いながら節約しているというわけだ」

「分かったかな?つまり、マスターの魔力が少ない、という事は決して無い。むしろ異常なほど多いだろう。正確に言うなら多かった、か。私を呼んだのが何よりの証拠。しかし現状では、私を正常に動かすには些か以上に魔力が少ない、という認識で間違いない」

「コントラクト・サーヴァント、だったか?こちらの世界にとっての令呪のような物と見て間違い無いだろう。契約と共に使い魔を縛る。いい意味でも悪い意味でも。ん?私としたいと言うなら、止めはしないが、勧めはしないぞ。私との繋がりが強くなって、今以上の魔力を奪う結果に成りかねないからな。魔力の限界以上の消費は、即ち死を意味する。あぁ。やめておく方が賢明だ」

「さて、今日はこの辺でいいかな。まあ私のような存在を呼んでしまった君には同情するが、仕方ないと思って我慢してくれ。どうしても辛くなったら、迷わずその最後の令呪を使うんだ。そうすれば、私との契約は切れ、魔力の消費は無くなる」

「……そうか、君は頑固者だったな。なら、今の言葉は忘れてくれ。それではおやすみ、マスター。いい夢を」

 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。
 
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