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夜会

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6部分:第六章


第六章

 その送られた彼等はだ。こう主張するのだった。
「しかし紛れもなくスウェーデンの国王陛下です」
「陛下ですか」
「そう仰りますか」
「そうです。それでなのですが」
「宜しいでしょうか」  
 ここでスウェーデン側はプロイセン側に怪訝な顔になって話してきた。
「ノルウェーのことですが」
「あの国のことですが」
「ああ、あの国のことですか」
「別に構いません」
 返答はこうしたものだった。
「どうぞ。何なりとです」
「好きにされて下さい」
 スウェーデン王は隣国ノルウェーの併合を考えている。そのことについてだ。
 近隣にあるプロイセンの確約を取り付けたいのだ。そしてプロイセン側もだ。
 彼等は彼等でだ。こう話すのだった。
「スウェーデンとノルウェーが一つになれば」
「デンマークにも圧力をかけられますね」
「そして北ドイツの諸都市や国家にも」
「圧力が及びます」
 さすればというのだ。彼等にとってだ。
「その分我等を警戒する目が向かいますし」
「それにスウェーデンに対する為に我等を頼りにするでしょう」
「だとすればここは」
「支持すべきですな」
「左様ですね」
 こう話してだった。彼等は彼等の方針を決めたのだった。
 そのうえでスウェーデン側に向き直りだ。笑顔で応えた。
「是非そうして下さい」
「御望みの通りに」
 別にいいというものからさらに踏み込んだ言葉になっていた。
「貴国もナポレオン追放に功績がありましたし」
「是非共」
「わかりました。それでは」
「そうさせてもらいます」
 こうしてだ。スウェーデンはノルウェーを手に入れることを確かなものとしたのだった。南は南で、北は北でこうした感じになっていた。
 ウィーンでは各国がそんな調子だった。そう、各国がだ。
 その為会議は進まずだ。何か冗長な雰囲気さえ漂いだしていた。
 しかしオーストリア、そのウィーンを首都に持つ国の宰相であるメッテルニヒはだ。その冗長な雰囲気に満足して側近達に話すのだった。
「これでいいのだ」
「今の状況で、ですか」
「宜しいのですね」
「そうだ。こうして会議を踊らせ」
 そしてだというのだ。
「各国に喋ってもらいだ」
「我々はそのお喋りを聞き」
「情報を整理してですね」
「それを元に話をまとめていく」
 これがメッテルニヒの狙いだった。彼はオーストリアを欧州のバランサー、即ち調停者にしようとしていたのだ。
「そうしていくぞ」
「はい、それでは」
「そうしていってですね」
「ナポレオンには負けて多くのものを失った」 
 その中には神聖ローマ帝国皇帝という地位もあった。最早形骸化していてもハプスブルク家にとってはかけがえのないものだった。
 その他にも多くのものを失った。しかしだった。
 メッテルニヒはそれをなのだった。この会議で取り戻しそのうえでなのだった。
「逆に多くのものを得なければな」
「その為にもですね」
「この会議から我々は欧州のバランサーになり」
「そのうえで多くのものを得て」
「そうですね」
「その通りだ。このまま踊ってもらう」
 会議においてだ。
「そして色々話してもらおう」
「その話したことを聞きそのうえで」
「我々は動く」
「そうしていきましょう」
 こんな話をしてだ。オーストリアは舞台を提供している国の旨味を思う存分活用しようとしていて実際にそうしていたのだった。
 とにかく各国が各国であれこれと動き話してだ。華やかな舞台の中で踊っていた。会議は踊りだ。中々進まない状況だった。
 だがそれはだ。急に終わったのだった。
 彼等にとって、いや欧州全土にとってまさに寝耳の水の事態が起こったのだ。それは。
「な、何っ!?」
「ナポレオンがエルバ島を脱出して!?」
「フランスに向かっているだと」
「まさか」
 誰もが信じなかった。しかしだ。
 それは事実だった。ナポレオンは実際にフランスに向かっていた。それを確めてだ。
 ウィーンは騒然となった。舞踏会の場に爆弾が投げ込まれた。
「そんな、それではだ」
「我が国はどうなるのだ!?」
「我が国も」
「あの男が戻って来たら」
「嵐が起こるぞ」
 ナポレオンはまさに風雲児であった。その彼が戻って来るとわかってだ。
 誰もがだ。どうすべきか焦ってだ。そしてだった。
「ここはどうされますか!?」
「このままではあの男がフランスに戻りです」
「また皇帝になります」
「そうなれば」
「また同じではないですか」
 その通りだった。ナポレオンを放置することは絶対にできなかった。それでだ。
 彼等はだ。ここはだった。
 とりあえず話を半ば強引にまとめてだ。それからだった。
 それぞれの国に慌しく戻り。ナポレオンに備えることにした。その中で誰もいなくなったウィーンでだ。メッテルニヒは言うのだった。
「では我が国もだ」
「はい、ナポレオンに対してですね」
「備えますか」
「あの男を何とかしなければどうにもならない」
 オーストリアにとってもだ。ナポレオンは忌むべき相手だ。それならばだった。
 すぐに何とかしなければならない。具体的には軍を動員することだった。
「全軍を挙げてだ」
「そしてそのうえで」
「今度こそあの男の息を止めましょう」
「そうするぞ。絶対にだ」
 こうしてだ。ウィーン会議は中断されてだ。後に残ったのは。
 様々なものが散乱したままの宴の場だった。食べ残しもあれば汚れたテーブルかけに火が消えたキャンドル、それにソースが拭かれていない皿やまだワインが残っているグラス、そういうものばかりが残された。オーストリア側もそれを放っておいてだ。ナポレオンに備える方に忙しくなった。
 そんな中でだ。フランスに戻るタレーランはこう言うのだった。
「百日だな」
「百日!?」
「百日ですか」
「それだけの時間でまた元に戻る」
 帰りの馬車の中で悠然とだ。周りの者に話すのである。
「その時を待とう」
「百日でナポレオンのフランスに戻る」
「そうなるというのですか」
「さてな。とにかく元に戻る」
 どう戻るかはあえて言わないタレーランだった。そうしてだった。
 彼はフランスに戻りだ。また動くことになった。そして再び夜会に赴くことになるのだった。


夜会   完


                2011・6・24
 
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