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夜会

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5部分:第五章


第五章

「その功績の褒賞ですが」
「褒賞!?」
「褒賞と仰いますか」
 これにはだ。イギリス側もスペイン側も唖然となった。ナポレオンに責任を押し付けるだけでなくだ。彼の追放を功績としてだ。褒賞を要求してきたからだ。
 どちらも内心呆れ果てた。しかしフランス側は平然としたまま言ってきた。
「ではそれについてのお話をしましょう」
「領土や権益が保全されていますが」
「それでもですか」
「それに加えてさらに欲しい」
「それは。かなり」
「当然ではないのですか?」
 フランス側は臆面もなく主張する。
「ナポレオンを追い出したのですから」
「左様ですか」
「そう仰いますか」
「はい、ではそのお話を」
 両国が呆れ返る中でだ。フランス側は言っていく。彼等はこんな有様だった。
 これまた同じ舞踏会の場でだ。ナポリの者達とオーストリアの者達がグラスを打ち合わせ乾杯をしてワインを飲みだ。それから話すことは。
「あの男はエルバ島に流されました」
「これでイタリアは安全ですね」
「はい、それではです」
「イタリアは元に戻り」 
 イタリア南部を治めるナポリの者達とイタリア北部を勢力圏に持っているオーストリアの者達がそれぞれ笑顔で話している。実はだ。
 彼等はどちらも君主はハプスブルク家である。ナポリ王の王妃はオーストリアの皇后であり実質的な君主であったマリア=テレジアの娘なのだ。
 その縁で彼等は親しいのだ。その彼等が話すことは。
「以前のままで」
「平和にやっていきましょう」
「どうなるかと思っていました」
 ナポリ側がだ。こんなことも言った。
「あの男の息がかかった者が来た時は」
「ミュラーですね」
「はい、馬に乗る以外に能のない男でした」
 ナポレオンの下で騎兵隊を率い活躍した男だ。国王としては資質に欠けナポレオンを散々苦しめ悩ませる結果となっていたのだ。
 その彼についてだ。どちらも話すのだった。
「しかしあの男はいなくなりました」
「そうして元の方々が戻られ」
 そのだ。ハプスブルク家の縁者がだ。
「我が国は元に戻りました」
「そして我等もです」
 オーストリア側もだ。満面の笑みで話す。
「あの男に奪われたものを取り戻しました」
「では。これからはまた」
「はい、南はそちらで」
「北は貴国に御願いします」
 こうだ。彼等はイタリアにおけるそれぞれの勢力圏を定めたのである。南の半島はそうなっていた。そして北の半島はというと。
 プロイセンの者達がスウェーデンの者達に尋ねていた。やはり同じ場だ。華やかな中でだ。ここもまた何か剣呑なものがある。
 その剣呑な中でだ。プロイセン側は問うのだった。
「では貴国はナポレオンとは」
「一切関係がありません」
 スウェーデン側はフランスと同じ主張をしていた。
「何の関係もありません」
「そうなのですか」
「確かに今の陛下はあの男の下にいました」
 ベルナドットだ。ナポレオンの将軍の一人だ。彼はナポレオンの命でスウェーデン国王になった。フランスのスウェーデン併合の布石だった。
 しかし彼はフランスの為でなくスウェーデンの為に動きだ。やはりナポレオンを見捨てた。そして今彼等をこのウィーンに送っているのだ。
 
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