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髪を切ってみると

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第五章

「軽くなったから」
「そうでしょ、髪の毛だって重さがあって」
「それでよね」
「そう、その分だけ重かったのよ」
「それに洗うのも」
 それもというのだ。
「随分とね」
「楽でしょ」
「シャンプーとか使う量も減ったわ」
「乾かす時間もよね」
「全部楽になったわ」
 珠緒は微笑んで七海に話した。
「いや、本当にね」
「それは何よりね」
「もうこの長さでいくわ」
「私もそれがいいと思うわ」
「いや、もう平安時代じゃないし」 
 自分でもこう言った珠緒だった。
「そのこともあるし」
「憧れは憧れね」
「今は無理があるわ」
 二十一世紀のこの時代になると、というのだ。
「やっぱりね」
「そういうことよ、とどのつまりは」
「その通りね、私も何だかんだで二十一世紀の人だし」
「じゃあこれからは」
「この長さでいくから」
 あらためてだ、珠緒は七海に言った。
「そうしていくから」
「じゃあもう二度と」
「そう、あそこまで伸ばすことはないわ」 
 こう言うのだった、だが。
 一年後だ、七海は呆れた顔で珠緒に言うことになった、見れば。
 珠緒はまた髪を伸ばしはじめていた、流石に膝までとはいかないがだ。だがそれでも伸ばしていてだ。こう彼女に言ったのだ。
「何でまた伸ばしてるのよ」
「あっ、彼氏にね」
「前田君?」
「彼が伸ばしたらっていうから」
「ああ、彼長い髪の毛が好きなのね」
「それでリクエストに応えてなの」
 そうしてというのだ。
「それでなの」
「また膝まで伸ばすの?」
「そこまではわからないけれど」
 それでもというのだ。
「伸ばしていくから」
「折角切ったのに」
「彼に言われたから」
「彼氏出来たらなのね」
「そう七海だって井上君に言われてじゃない」
「まあね」
 見れば七海も伸ばしてきている、ショートからセミロングになっているかその彼にしてもなのである。変化があるのだ。
「ちょっとね」
「言われてなのね」
「そうなの、伸ばしてるのよ」
「そういうことなのね」
「何か一緒ね」
 七海はくすりとした苦笑いでだ、珠緒に答えた。
「私達って」
「そうね、髪の毛のことも」
「けれどもうでしょ」
「ええ、流石に膝までは伸ばさないから」
 それはないとだ、珠緒も約束した。
「彼のリクエストはそこまでじゃないから」
「じゃあお互いにね」
「伸ばしていこう」
 髪の毛をとだ、こう話してだった。 
 珠緒はまた髪の毛を伸ばすのだった、今度は七海と一緒にそれぞれの交際相手のリクエストに応えて。


髪を切ってみると   完


                       2014・12・27 
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