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親孝行

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第四章

「よかった、本当に」
「だからお父ちゃんはね」
「わしはか」
「そのまま静かにしていて」
 そしてとだ、香蓮は父と呼んだその相手にこうも言った。
「それでね」
「そのうえでか」
「そう、元気になったら」
 その時はというのだ。
「また働いてね」
「働かないとな」 
 男もこう言うのだった。
「やっぱりな」
「うん、こっちはこっちでね」
「わしはわしでな」
「けれどあんたもね」
 ここでだ、桃姫は夫にこう言った。
「よくあんなきつい仕事してるね」
「早馬か」
「いつも馬に乗って物凄く早く走るよな」
「それであちこちに文を送っている」
 それが彼の仕事だった。
「帝や大臣の方の文をな」
「本当に早くよね」
「馬を出来るだけ早く走らせてな」
「馬も大変だけれど乗って動かすあんたもね」
「馬に乗ることは好きだからな」
「それでもだよ。よくやるね」
「好きだからやるんだ」
 その仕事をしている理由はまさにこれだった。
「そういうことだよ」
「それで起き上がれる様になって」
「馬に乗れるだけの力が戻ればな」
 その時はというのだ。
「また乗るさ」
「やれやれね」
「ああ、それに今の病はな」
「早馬が理由じゃないから」
「重い病だった」
 亭主は自分から言った。
「随分とな」
「けれどお薬買ったから」
 香蓮が父に言う。
「お父ちゃん助かったのよ」
「そうだな、しかしな」
「そのお薬がね」
 娘は苦笑いになって父にこうも言った。
「物凄く高かったから」
「だから借金もしたんだったな」
「それこそ気が遠くなる位のね」
「本当に済まないな」
 父は自分を助けてくれた女房と娘に礼を述べた。
「お陰で助かった」
「いいのよ、お礼は」
 香蓮はその父に微笑んでこう返した。
「家族だから」
「だからか」
「お金を稼ぐことは出来てるし」
「薬を買ってもか」
「そう、じゃあこれからはね」
「店をだな」
「もっと大きくしてね」
 そしてと言うのだった、父に。
「それでね」
「店自体も増やしてか」
「国で一番の質屋になるから」
「そうか、そうしてくれるか」
「だからお父ちゃんは元気になって」
「また馬丁の仕事をしろか」
「頑張ってね」
 香蓮は父に笑顔で言うのだった。
「何の心配もなくね」
「悪いな、しかし父親だってのにな」
 ここでだ、父は娘に申し訳なさそうにこうも言った。 
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