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親孝行

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第二章

 母である桃姫にだ、こう言うのだ。
「もっともっと」
「ああ、そうだね」
「お店を大きくして」
「新しいお店を持つんだね」
「人を雇ってね」 
 勿論確かな人間をだ。
「そうしてね」
「大きくしてね」
「そうしてさらに儲けて」
 そして、というのだ。
「そのお金でね」
「その為にもね」
「頑張るよ、私」
 明るい笑顔で言うのだった。
「その為には守銭奴になるよ」
「それでも私は飲んでいいんだね」
「お母ちゃんのお酒代位何でもないよ」
 香蓮の稼ぎの範囲ではだ、桃姫が幾ら飲んでも充分過ぎる程に金が貯まるのだ。それだけ儲けているのだ。
「家の食費とかもね」
「充分稼いでるんだね」
「うん、それのお母ちゃん飲みに行く日あまりないじゃない」
「お酒は飲むものでね」
「溺れるものじゃないのね」
「足がふらついたら止めるんだよ」
 それが桃姫の飲み方だ、立てなくなるまでは飲まないのだ、しかも。
「それは一週間に一回だよ」
「それ以上は飲まないって言ってるしね」
「実際にそうしてるよ」
「だからそれ位はね」
「いいんだね」
「人間気晴らしも必要よ、私だって遊んでるし」
 香蓮の趣味は壺集めだ、見れば今二人がいる部屋の端には様々な壺がある。全て彼女が手に入れたものだ。
「趣味も楽しんでるし」
「気晴らしにね」
「気も晴らさないとね」
 それこそ、というのだ。
「暗くなるから」
「暗くなると笑顔がなくなって」
「商売にもよくないわ」
「そういうことだね、だからだね」
「うん、私も気晴らしはしてるよ」
 壺を集めて遊んでだ。
「そうしてるよ」
「あんたもそうしてるし」
「そしてね」
 気も晴らしてあらためて、なのだった。
「商売に励んでるから」
「明日もだね」
「明日も明後日もね」
「そして稼いでね」
「そのお金で」
 溜めたそれで、というのだ。
「後はね」
「そうだね、あんたは頑張るんだね」
「そうするよ」
 笑顔でこう言ってだ、そしてだった。
 香蓮は気合入れて働き稼ぎ続けた、桃姫もいるが彼女は実際に隠居状態になっていた。全ては香蓮の商才によってだった。
 店は大きくなりさらに暖簾分けもしてだ、さらに儲けた。もう都でも指折りの大店になった。そしてかなり儲けてだ。
 家の蔵が三つになりその中が銀を入れた箱で一杯になった時にだ、香蓮は桃姫に問うた。
「もういいかな」
「そうね、充分だね」
 桃姫もこう香蓮に返す。
「これでね」
「蔵が三つになってどれも銀で一杯よ」
「お金でね」
「あれだけのお金があれば」
 銀貨、それがだ。
「いけるわね」
「じゃあ行くんだね」
「うん、行くよ」 
 是非にと言う娘だった。
「あそこにね」
「そしてお金を払って」
「やっとよ」
「本当にやっとね」
「全く、長い間かかったわ」
 香蓮はしみじみとして言うのだった。 
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