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花姫

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2部分:第二章


第二章

「ふうん、日本画か」
 実は彼は絵が好きだ。本来は西洋画が好きだが日本の絵も好きだ。それで入ろうと思ったがその時だった。画廊の入り口に一人の少女が目に入ったのだ。
「はじめまして」
「あっ、はい」
 少女の方から挨拶をしてきた。見れば白い振袖に緑の袴を見に着けている。髪は黒く長いもので上にリボンを飾っている。リボンも奇麗な白だった。
 顔立ちは清楚でみらびやかはないが落ち着いた美しさがある。肌は白く目も黒く大きい。細長めの顔がとりわけその清楚さを醸し出している。その少女が立っているのだった。歳は十八程度であろうか。その少女が彼に挨拶をしてきたのである。
「どうも」
「画廊に入られるのですか?」
「はい、そうですが」
 こう少女に答えた。
「それが何か」
「そうですか。それではどうぞ」
 その清楚な顔でにこりと笑って彼に言ってきた。
「お楽しみ下さい」
「はい。ところで」
 実は彼は今は絵より彼女の方を見ていた。
「貴女は」
「私ですか?」
「はい。この画廊の方ですか?」
 普段は自分から女性に声をかける博康ではない。だが今はまるで誘われるようにして彼女に声をかけるのだった。すると少女は彼に言葉を返してきたのだった。
「いえ、違います」
「違う!?」
「私はこの画廊の人ではありません」
 少女はこう彼に話すのだった。
「この街にもいません」
「京都にもいない」
「はい」
 にこやかに笑って彼に言ってきた。
「そうです。この街にはいません」
「ですが今」
 博康は彼の言葉の意味がわからず首を傾げた。
「現に今この京都に」
「私の家は山の下にあります」
「山の下にですか」
「そうです。山の下にです」
「ああ、成程」
 彼は少女の言葉を聞いてようやく彼女が何を言っているのかわかった。京都は山に囲まれた盆地だ。だからそこから来たと言えばそれで納得がいったのである。
「そういうことですか」
「はい、そうです」
 また清楚な笑みを浮かべて彼の言葉に答えてきた。
「それでです。私は山の下に」
「そうでしたか。しかし随分と遠くから来られてるのですね」
 河原町から山といえば結構な距離がある。昔に比べると交通の便は遥かによくなっていた時代だがそれでもだった。少なくとも少女がそう簡単に行き来できる距離ではなかった。
「またかなり」
「平気です」
 しかし少女はその笑みでまた彼に言葉を返してきた。
「歩くのは何ともありませんから」
「何ともないのですか」
「ええ。ですから」
「はあ。それはまた」
 この言葉も博康にとっては首を傾げるものだった。少女の小柄で細い身体を見ればとても簡単に行き来できる場所ではない。しかし彼女はそれを全く苦にはしていない。彼にとってはそれが不思議で仕方ないことだったのだ。全く以って訳がわからなかった。
「それならそれでいいですが」
「そうですか」
「それにしても。この画廊の方ではないのですね」
「はい」
 また彼の言葉に答えてきた。
「ただ。ここにいるだけです」
「そうでしたか」
 話を聞いているうちに思い立ったのだった。これからどうするべきか。そして彼はそれを実行に移したのだった。
 
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