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無能騎士の英雄譚

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二話

 
前書き
選手入場 

 
魔導騎士を育成するのに必要なのは何か

異能の力をもつ以上、まず異能や戦いを学ぶことが出来る環境。それらを記憶し独自に発展させる知識。異能と戦いを自身の力として身につける実践。そして、戦い競い合う相手

破軍学園を含む魔導騎士育成機関ではこれらを学生に提供する事で、能力や技能の向上を目指す方針を取っている

破軍学園が所有する十の闘技場の一つ、第三訓練場の観客席にはまばらながらも数十人程の学生が集まっていた

平たく丸まった屋根が上に被さり、茶碗のように窪んだ内側に客席が並んでおり中央には半径五十メートルのリング(戦闘場)が設けられている

皆、もうすぐ始まる試合を待っている。なかには二人について話す者もいる

「ヴァーミリオンってあのヴァーミリオンだよな?ニュースで見たけど綺麗だよな」

「ああ、しかもAランクってすごいよね」

「でもさ、天地ってだれよ?」

「確かFランクの子だった筈だよ?なんでそんな子が戦うの?」

「さあ……その子の事知ってる人いる?」

「まあ、この試合はステラさんの勝ちですわね」

今回の戦いは《紅蓮の皇女》の独壇場となるだろうという空気が漂っていた

一方、選手控え室には神とステラが向かい合い椅子に座って待機している。それぞれ飲み物を飲んだり、目を閉じるなど気持ちを落ち着かせる

闘技場の控え室は構造上向かい合わせに作られているため大会で使用する際は両方使われるが、模擬戦や実戦授業では片側のみを使用する事もある

「あなたの噂、色々聞いたわ」

水の入ったペットボトルのキャップを閉めながら、ステラは苦笑しながら神の方を見る

「Fランク……聞けば聞くほどにあなたがこの学園にいるのが不思議だわ。伐刀者より普通に生活する方がいいんじゃないの?」

「それは君が決めることじゃない、自分で決める事だ」

「この戦いが終わってから言うつもりだったけど今言うわ。アタシが勝ったらあなたはアタシの奴隷、犬にようにこき使うつもりよ。この条件でもあなたは勝負を降りないのね?」

あまりにも不公平な条件。それでも神は退かずにステラを見る。

「降りない。俺が勝てばその話はなかった事に出来るし」

「あくまでもアタシと戦いたいのね……しかも勝つつもりで」

「その為に努力してきたつもりだ」

不敵に笑みを浮かべる神

「……努力、ね」

努力、という言葉にステラは少し腹が立った

その言葉で自分は頑張っている、力を得ていると慢心し挑んできた者を多く見てきたから

ヴァーミリオン皇国に生まれ、一人で歩くことが出来るようになった時に自身の能力が開花した。ステラの赤い髪と同じ、赤い炎が掌から燃えていた。その時は驚いたが不思議と手が熱いと感じなかった

『第二皇女様が魔法の力に目覚めた』という事実はあっという間に国中に広まり、皆がステラに期待と羨望の眼差しがステラに注がれた。ステラ自身もこの力で、人々を守る魔導騎士になりたいという夢を持っていた

しかし、それとほぼ同時期にステラの全身から炎に包まれるという大事件が起こった

幸い、川の近くにいたため川に飛び込みすぐに消化出来た。だがこの事件がきっかけで世間の反応が変わっていった

『第二皇女様は能力が強すぎていつか自身を燃やし尽くす』とまで言われた事もある

父も母もステラの夢を応援する気になれなくなっていった。最近になって知ったが、もしまたあのような事が起きたら……という不安からだったそうだ

誰も手も、助けも差し伸べない。それでもステラは諦めなかった

(アタシにしか出来ないことを、この国を守っていくんだ!)

ヴァーミリオン皇国のように規模が小さい国は争い事で巻き込まれることが多い。国を守るためには強い力、魔導騎士のような存在に頼るしかない

その力に、目標のためにステラは力を使いこなせるよう何千回、何万回も練習を重ねた

何度も大火傷になり、挫けそうになった。両親に止められ部屋に閉じ込められたこともあった

そして三年かけて《レーヴァテイン 妃竜の罪剣》を自在に操れるようになり、伐刀絶技(ノウブルアーツ)《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》を習得できた

十歳を過ぎた頃、ステラに勝負を仕掛けてきた伐刀者がいた

『君は天才だ。しかし、私のような凡人でも努力をすれば天才にだって勝てる事を証明しよう』

勝負はステラの圧勝、しかも霊装を出すことなく終わった。敗れた伐刀者は悔し紛れに呟いて去って行った

『努力したのに、才能には勝つことができなかった』、と

まるで、天才に何をしても勝てないというように

「そんな言葉……どうせ負けたら言い訳に使うに決まってるわ」

「言い訳?」

ステラの言葉に首を傾げる神

その直後だった

『ステラ・ヴァーミリオンさん、天地神君。入場して下さい』

場内アナウンスが行われ、入場を促される

「さて、行くか」

神はそう言うと入場口まで進んだ

「来た!皇女様よ!」

「素敵な髪の色……綺麗ね……」

「あれが天地君……?見たことないわね」

ステラの赤い髪に魅せられる者がいれば、神を見る者も。

因みに審判は理事長が担当することになっている

選手の二人は闘技場の真ん中の方へ歩き、二人の間は約二十メートル空いており間合いも遠い

観客席の最前列に待機していた理事長は席を乗り越え、二人の直線上より少し離れた位置まで近づく

「ただいまより模擬戦を始める。双方、デバイス 固有霊装を《げんぞうけいたい 幻像形態》で展開を」

「傅きなさい、《レーヴァテイン 妃竜の罪剣》!」

理事長の指示でステラは霊装を出した

幻像形態は実像形態とは違い、生物に対しての攻撃を体を透過し体力を削る形態である。この形態時は霊装自体が薄くなり見た目から判断がつきやすい

(だが、幻像形態でも物を斬れば当然斬れるし炎とかも熱いまま……さて、どう出るべきか)

「…あんた、具現化しなさいよ」

「あ、ごめん…来い、六鉄(むてつ)」

ステラに言われて神も具現化するが…

『『は?』』

彼が具現化したのは長さは三十センチ程度の左右の手にそれぞれ三本の棒……

観戦者がしんと静まり返る中、神は六本の鉄の棒を空目掛けて放り投げ、落ちてきた一本を掴んで目にも留まらぬ速さで動かした。するとあら不思議。六本の鉄棒は一本の棍へと早変わりし、構える

『『…お~…』』

それを見た観戦者は感心した

理事長が両腕を横に伸ばす。そしてそのままゆっくりと斜めに上げる

「双方、健闘を祈る。それでは…」

斜めに上げた腕を振り下ろし、

「試合、開始!」

試合の始まりを告げる。天才と無能の騎士の、戦いを 
 

 
後書き
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