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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 03 「初出動」

 機動六課が稼動を始めて早2週間。フォワード達は毎日ボロボロになるまでなのはにしごかれているが、ひとりも欠けることなく訓練に付いて来ている。
 俺はこの日もなのはと共にフォワード達の早朝訓練に付き合った。まあなのはのようにフォワード達と魔法でドンパチするような真似をしているわけではなく、訓練フィールドに不具合が生じていないかといったチェック。フォワード達のデバイスのデータを取るのが主な仕事だった。
 早朝訓練の最後は、シュートイベーションと呼ばれるものが行われた。これは今回の場合で説明すれば、なのはの攻撃を指定時間を回避し続けること。またはなのはに攻撃をクリーンヒットをさせることが勝利というか合格条件だった。毎度の如くフォワード達はボロボロだったが、確実に成長しているらしく、見事になのはに攻撃をヒットさせた。
 のだが、スバルのローラーがオーバーヒートしてしまったり、ティアナのアンカーガンが限界を迎えつつあることが判明。技術者観点から言えば、訓練校時代から自分達で製作し騙し騙しで使ってきたならば当然だと言わざるを得ない。
 ――毎日のように点検はしていたが……なのはの訓練はハードだからな。朝から晩までやっていれば普通に考えられる事態だ。この2週間持ってくれて本当に助かった。

「じゃあ一旦シャワーを浴びて、その後ロビーに集まろうか」

 というなのはの言葉にフォワード達は元気に返事をする。訓練が終わったばかりで疲労はあるはずだが、やる気は満ち溢れているようだ。
 ふと過去を振り返って彼女達と比較してみると、実に俺は元気溢れる少年ではなかった。とはいえ、俺もまだ19歳の若輩者だ。エリオやキャロとは一回り近く離れているが、これが若さか……などとはまださすがに思ったりしない。

「あれ? あの車って……」

 前方から黒のスポーツカータイプが走ってくる。それは俺達の近くで停車し、屋根の部分を消した。顔を出したのはフェイトとはやてである。車に乗っているのがふたりだと分かったキャロは驚きの混じった声を出し、彼女を含めたフォワード達は食い気味で近づいていく。

「すごーい! これ、フェイト隊長の車だったんですか?」
「そうだよ。地上での移動手段なんだ」

 さすがは19歳にしてオーバーSランクと執務官という肩書きを持つ人物である。普通の19歳はこんな車を所持してはいないだろう。
 まあ地球の常識で考えれば、俺も普通の19歳ではなくなってしまうのだが。魔法が使えるわけだし、義母が優秀過ぎる上にワーカーホリック気味だっただけに……あまりこういうことは言いたくないのだが、フェイトの使っている車を買える余裕はあるわけだ。
 しかし、自分が使う車を義母の金で買うような真似はしない。
 あの人は物欲がないというか、金を使おうとしない人だ。昔から俺が甘えたりすることがほとんどなかっただけに、頼めばすんなりと買ってくれそうではある。また金を使ったほうが世間のためではないのかと思ったりもするが……俺も社会人なのだ。きちんと収入がある身としては甘えてはいけないと思うのが当然であろう。

「みんな、練習のほうはどないや?」
「えーと……」
「頑張ってます」
「そうか」
「エリオ、キャロごめんね。私はふたりの隊長なのにあまり見て上げられなくて」

 申し訳なさそうに言うフェイトにエリオとキャロは大丈夫ですと返す。いやはや、実に子供らしくない対応である。地球の同年代ではきっとふたりのような反応はしなかっただろう……地球とミッドチルダを比べるのはどうなんだ、と内心理解してはいるのだが。
 なのはが訓練は順調であることを伝え、どこかに出かけるのか尋ねると6番ポートに行くという返事があった。どうやらはやてが聖王教会の騎士カリムに会いに行くらしい。
 はやてとカリムはリインが生まれた頃からの付き合いであり、カリムは機動六課設立に大きく貢献してくれているため、云わばはやての上司のようなものだ。ただ付き合いが長く、彼女の性格が性格だけに関係としては姉妹のようなものだろう。
 なぜこのようなことが言えるかというと、俺ははやてと付き合いがあり、はやてが何かと俺のことを話していたらしいので自然と交流が生まれてしまったのだ。最近は顔を合わせていないが、前ははやてと一緒にカリムの元を訪れていた。
 話を戻すが、はやては夕方まで戻ってこれないらしい。一方フェイトは昼には戻ってこれるとのこと。彼女はフォワード達に昼は一緒に食べようと約束すると愛車を走らせて行った。
 シャワーを浴びたりするメンツもいるため、俺達は一度解散する。訓練を見守る立場だった俺はシャワーを浴びる必要もなく、また技術者の一員であるため先に待ち合わせ場所のとある一室に向かった。
 そこではシャーリーがすでに待機してフォワード達の新型デバイスのチェックを行っていた。俺が早朝訓練終了と同時に送ったデータをさっそく活用しているらしい。

「その手の作業を任せてしまって悪いな」
「いえいえ、お気になさらずに。この手の作業は大好きですし、何よりやらせてもらえて嬉しいですから」

 心の底からそう思っているのだと分かる笑顔で言うシャーリーには助かるという思いを抱くと共に、生粋のメカ好きだと思った。そういえば、一部の人間からは『メカオタ眼鏡』と言われていたような気もする。
 まあこの件に関してはこれ以上は触れないでおくが、もしうちの義母のようになりそうな気配を感じたら止めに入ることにしよう。
 あの人のような真似は本来してはいけないのだ。マリーさん辺りがたまにやっていそうだが、それでもあの人よりはマシなのだから。
 そんなことを考えている間に綺麗になったフォワード達が入ってきた。自分達の新しいデバイスを見た彼女達はそれぞれ違った反応を見せる。

「うわぁ……」
「これが私達の新しいデバイス……ですか?」
「そうで~す。設計主任は本来はショウさんだったんだけど、ご好意で私がやらせてもらいました。まあ形だけでショウさんに引っ張ってもらった感じだけど」

 最先端の技術の製作及びテストを行う場所に居たので確かにシャーリーよりも詳しい分野はある。だが一般的な部分は大差がないと言っていい。細かいところだけ俺がやっただけで大半はシャーリーがやったようなものなのだから、上げるような言い方をされると思うところがある。

「加えてなのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんにリイン曹長。もちろんファラさんも協力してくれてるよ」
「はぁ」

 微妙な反応ではあるが、ティアナの気持ちは分からなくもない。協力者の名前の中にオーバーSランクとデバイスが同時に上がれば、誰だってどこを目指して作ったんだろうという考えになる。
 それぞれのコンセプトだけ伝えてもらって、あとはデータに合わせて作ろうとしていた身としてもまさかこのようなことになるとは思っていなかった。つい2週間ほど前までは。

「ストラーダやケリュケイオンは……変化なしなのかな?」
「うん……そうなのかな?」
「違います。変化なしは外見だけですよ」

 いつの間に入ってきたのか、リインがエリオの頭に着地した。リインの大きさ的に人の頭の上に乗ることは問題ないのだが、靴を履いた状態で乗るのは如何なものか。普段浮遊して移動いるので汚れてはいないだろうが……。

「ねぇショウさん」
「ああ、エリオとキャロはまともにデバイスを扱った経験がないって聞いてたからな。だから基礎フレームと最低限の機能だけしか使えないようにしていたんだ」
「え、あれで最低限?」
「本当に?」
「嘘付いてどうする。本当のことだよ」

 それでもどこか納得していないように見える顔をしているエリオ達にリインがさらに説明する。それを簡潔にまとめれば
 フォワード達のデバイスは、機動六課の前線メンバーとメカニックが技術と経験を結集させて作った最新型。目的やひとりひとりの個性に合わせて作られた最高の機体である。
 といった感じになるだろうか。これに加えてリインは、このデバイス達は生まれたばかりであるが様々な人の想いや願いが込められている。なのでただの道具や武器とは思わずに大切に使ってほしいと続ける。
 無論、大切といっても最大限に活用してもらわなければ本末転倒なのでそのことも注意した。生まれた頃に比べると、リインも言うようになったものである。

「ごめんごめん、遅くなっちゃって」

 機能説明に入る直前でなのはが入ってきた。何度も説明するのは大した手間でもないが、それぞれ仕事を持っている身だ。二度手間にならないのは実に喜ばしいことである。
 シャーリーが視線で俺に説明するかと問いかけてきたが、やりたそうな顔をしていたので彼女に譲ることにした。すると彼女は良い笑顔を浮かべて、4機をディスプレイに映し出して説明を始める。

「まずその子達みんな、何段階か分けて出力リミッターを掛けてるのね。1番最初の段階だと、そこまでびっくりするようなパワーが出るわけじゃないからまずはそれで扱いを覚えてね」
「で、各自がその出力を扱えるようになったら私やフェイト隊長、ショウくん達の判断で解除していくから」
「ちょうど一緒にレベルアップしていくような感じですね」

 デバイスに組み込まれているAIも稼働時間に応じてマスターに合わせて成長するはずなので、リインの表現はとても的を得ているだろう。
 一部のデバイスのようにマスターの意思を尊重し過ぎるのも問題ではあるが、まあ今は必要がなければ無茶な真似はしないはずだ。そういう約束であの機能を作ったわけだし。

「あ、出力リミッターで言うとなのはさん達も掛かってますよね?」
「あぁ、私達はデバイスだけじゃなくて本人にもだけどね」

 本人にも、という言葉にフォワード達は驚きの声を上げる。毎日自分達4人を相手に余裕の姿を見せているだけに、信じられないといった気持ちがあるのだろう。

「能力限定って言ってね。うちの隊長や副隊長はみんなだよ。私やフェイト隊長、シグナム副隊長にヴィータ副隊長」
「それにはやてちゃんもですね。あっ、あとショウさんも掛かってましたよね」
「まあな」

 俺は隊長でもなければ副隊長でもない。それに本職はメカニックのつもりだ。まあ魔導師としての仕事ではあるのだが。
 なので……というか、俺にもリミッターが掛かるのは仕方がないことではある。部隊ごとに保有できる魔導師ランクの総計規模というものは決まっているのだから。
 これは本来優秀な人材を一箇所に集めすぎないように定められているのだろうが、ここのように能力限定で魔導師ランクを下げることで集めることができる。とはいえ、やろうとすると根回しやらが非常に大変であり、裏技のようなものなのでオススメはできない。

「うちの部隊で言うとはやて部隊長が4ランクダウンで、隊長達は大体2ランクダウンかな」
「4つ……はやて部隊長ってSSランクのはずだから」
「Aランクまで落としてるってことですか」
「そうです。はやてちゃんも色々と大変なんです」

 武装隊の隊長がAランクほどを考えると充分だと思う人間もいるだろう。だが指揮官やエースはAAランク以上が求められるものだ。はやてのリミッターを外せる者は上の人間であるため、よほどのことがない限りリミッターが外されることはない。
 故にはやてが前線に出るような展開を考えると不安にもある。……まあこの部隊の隊長陣を考えると、彼女が前線に出るというのは深刻な事態になっているケースしか考えられないのだが。

「なのはさんは?」
「私は元々がS+だったから2,5ランクダウンだからAA。だからもうすぐひとりでみんなの相手をするのは辛くなってくるかな」

 ランクだけで言えばそうなのだろうが、世間で不屈のエースオブエースと称されるだけあって経験は豊富だ。また個人的に今もフォワード達に加減しているように見えるので、当分は大丈夫なように思える。
 まあ今後はそれぞれに役割が出てくるだけに、個別で指導する方が効率は良いと思うし、戦技教官の資格がある人間がいるのだから使わないと損というものだ。……負担が増えるのはあれだが、新人のためと思えば楽しいと思える日々になるだろう。

「そういえば、ショウくんも結構ランク下がってるよね。今どれくらいだっけ?」
「お前と同じ量下がってるからAランクだ」

 なのでフォワード達の相手は……なんて続けようものなら笑顔で小首を傾げられることだろう。下手をすれば、「ショウくんなら今よりも上のランクの試験に合格するんじゃないかな?」と言われてしまう可能性がある。そうなっては実に面倒だ。

「そっか……まあ私達のことは心の片隅にでも置いてもらうとして、今はみんなのデバイスの話をしよう」

 すでにこれまでのデータを使って違和感がないように仕上げていること。スバルにはリボルバーナックルを新デバイスとシンクロさせており、自動で収容・装着されることを伝えた。あとは午後の訓練で実際に使ってみて、訓練中に細かな調整をしようという話が出る。
 スムーズに話が進む……が、突然それは起こった。
 高い音が鳴り響き、無数に赤い文字が書かれた画面が現れる。一級警戒態勢の合図だ。
 なのははすぐにグリフィスに状況を確認し、聖王教会から出動要請が出たと返答があった直後、聖王教会に出向いていたはやてから通信が入ってきた。何でも教会側で追っていたレリックらしきものが発見されたらしい。それは山岳レールで移動しているとのこと。この情報はフェイトにも入っているはずだ。

「移動中……まさか」
『そのまさかや。内部に侵入したガシェットのせいで制御が奪われてる。リニアレール内のガシェットは最低でも30体。大型や飛行型の新型も出てるかもしれへん。いきなりハードな初出動やけど、なのはちゃん、フェイトちゃん行けるか?』

 フェイトとなのはははやてに力強く肯定の意思を示す。次にはやてが声を掛けたのはフォワード達だ。

『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ……みんなもOKか?』
「「「「はい!」」」」
『よし、良いお返事や……ショウくん』
「分かってる」

 短いやりとりではあったが、はやてはこちらの意思を理解したようだ。すぐさまグリフィスやリイン、なのは達それぞれに簡潔に指示を出す。
 機動六課を離れているフェイトは直接向かうということで俺となのは、フォワード達はヘリで先に向かうことにした。別の仕事を任せていたファラともヘリで合流する。

「新デバイスぶっつけ本番になっちゃったけど、練習どおりで大丈夫だからね」

 その言葉にスターズ分隊は元気に返事をする。フェイトの代わりにライトニング分隊にファラとリインが声を掛けると、きちんと2人分……いや2人と1匹の声が返ってきた。

「危ないときは私やフェイト隊長、リイン、それにショウくんがフォローするから大丈夫。おっかなびっくりじゃなく思いっきりやってみよう」
「「「「はい!」」」」

 声を聞いた限り極度の緊張はしていないようだが……キャロの表情はあまり良いとは言えないな。
 そう感じられた俺は声を掛けようかと思ったが、隣に座っていたエリオが先に動いた。俺も声を掛けておいたほうがより安心はするかもしれないが、励ましの言葉はなのはが口にしている。
 それに実戦でどれくらい動けるのか知っておく必要もある……だが、ガシェットに撃墜させるような真似はさせない。守ってみせる……必ず。


 
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