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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 02 「変わらぬ雰囲気」

 なのはの訓練は夜にまで続いた。しごかれたフォワード達は今頃疲労困憊で、まともに動ける者はひとりとしていないだろう。
 訓練内容も擬似的にとはいえAMFをほぼ再現した標的が相手。ずっと戦っていたあの子達が疲れないわけがない。
 AMFというのはAnti Magilink-Fieldの略である。
 近年目撃情報が増えているガジェットドローンと呼ばれる機械兵器が標準で装備しているフィールド系の上位魔法だ。魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランクに該当する魔法防御であり、フィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害される。
 ガジェットドローンは《レリック》といった特定のロストロギアを回収するために行動している。機動六課は設立された理由のひとつにこのロストロギアが関係していると聞かされているため、今後敵対する可能性は極めて高いだろう。

「AMFがあるだけに厳しいものがあるが……希望がないわけじゃない」

 なのはを始めとした高ランクの魔導師は対AMFの戦術を持っているし、訓練を始めたばかりのフォワード達も格闘術や召喚術、多重弾殻射撃といった方法でターゲットを破壊してみせた。
 スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ。
 このうちの何人かと顔を合わせたことはあるが、戦うところを見たのは今日が初めてだ。はやてが選抜し、なのはが認めただけあって高いポテンシャルを秘めているように思える。事態が深刻化する前にきちんと訓練が出来たならば、かなりの戦力になってくれるだろう。

「そのためにも……俺はあいつらに最高のデバイスを作ってやらないとな」

 無論、フォワード達の担当メカニックにシャーリーも入っている。彼女は年下ながら優秀なメカニックだ。またフェイトの副官として執務官の仕事をサポートもしているようなので、いくつもの才能を持った人物でもある。
 今までにいくつものデバイスの製作やテストに関わってきたが、シャーリーよりも技術者として劣っている可能性は充分にある。魔導師としての道を捨てていれば違ったかもしれないが、今となってはどうこう言える問題ではない。
 そもそも、技術者としての腕を張り合っても仕方がないだろう。
 やるべきことはフォワード達にデバイスを作ってやることなのだ。俺は魔導師の現場を知っている。それだけに、下手なプライドで優れたデバイスを作る邪魔をするつもりは毛頭ない。

「とはいえ……」

 訓練初日のデータだけでフォワード達に合ったデバイスが作れるわけではない。
 なのはからは戦技教官としても立ち会ってもらうと言われてあれこれ思ったが、実際に見てみないことには……相手してみないことには分からないことも多い。技術者としてのメリットがないわけではないのだ。
 まあどのような教育方針で進めていくのかはなのは次第。今はやれるべきことをやって、そのときが来るのを待つしかないだろう。
 そのように折り合いをつけた俺は、小腹が空いていたので食堂で何か食べることにした。ふと廊下の窓から空を見上げると、満月と星々が輝いていた。時間帯的に考えても、周囲に人気が感じられないのも当然に思える。

「……ん?」

 食堂に近づくにつれて聞き覚えのある声がいくつも聞こえてきた。そのまま歩いていくと、はやてとヴォルケンリッターが食事をしていた。
 一瞬ザフィーラの姿が見えなかったのだが、どうやらテーブルの下に居るようだ。リインはおそらくはやてのかばんの中で寝ていそうなので、今食堂には八神家が勢ぞろいしていることだろう。

「ん? ショウくんやないか。ショウくんもご飯食べに来たんか?」
「まあな」

 手短に会話を済ませた俺は注文をしに受付に向かう。
 はやてとは昔とあることがあって一時的にぎこちなくなっていたのだが、今ではすっかり元通りの関係になっている。
 いや……元通りとは言えないか。
 俺もはやてもすっかり管理局の人間だ。階級的にははやてのほうが上だし、距離感も昔よりもほんの少し離れている気がする。だがそれはお互いに家族のような認識がなくなっただけであり、友人としての繋がりは残っている。
 トレイを受け取った俺は、近くのテーブルに腰を下ろそうとした。だがヴィータの声をきっかけに、次々と八神家から声を掛けられ、彼女達の居るテーブルへの移動を余儀なくされた。

「何で一緒に座らねぇんだよ」
「何でって……別にどこで食べてもいいだろ」
「それはそうだけど、中学を卒業してからは顔を合わせることも少なくなってたじゃない。せっかく一緒になったんだから昔みたいに一緒に食べましょう」
「お前と一緒のほうが主はやてもヴィータも喜ぶからな」
「シグナム、そこはちゃんと自分やシャマル、ザフィーラの名前も出すべきやと思うで」

 こうして全員と顔を合わせるのは久しぶりだというのに、彼女達の出す雰囲気は全く昔と変わらない。テーブルの下に居るザフィーラも目で相席しろと促してきている。
 相席を必死に拒む理由がないだけに、俺はそのへんからイスをひとつ拝借してヴィータとシャマルの間に座った。はやてとシグナムの間に座らなかったのは単純に遠かったからだ。それ以外に理由はない。

「そういえば、現場のほうはどないやった?」
「ん? なのはとフォワード隊は挨拶後夜までずっとハードトレーニング。新人達は今頃グロッキーだな」

 食べながらしゃべるのはどうかとも思うが、まあこの場には俺とはやて達しかいない。またヴィータは末っ子扱いされるほうなので可愛げもある。これくらいのことは今は目を瞑ってやるべきだろう。

「今まであれだけ扱かれたことはなかっただろうからな。だがやる気や負けん気は全員あるようだし、何だかんだで脱落者は出ないと思うぞ」
「そっか、それは良いことやな」
「バックヤード陣は問題ないですよ。和気藹々です」
「グリフィスのほうも相変わらずしっかりやってくれています。問題ありませんね」

 この部隊はなのはやフェイト、シグナム達といった魔導師組は経験豊富な人材が多いが、整備や通信のスタッフは新人ばかりだ。なので何かしら問題が起きても不思議ではないのだが、話を聞く限り今のところ無事に組織として機能しているらしい。

「そうか……私らが局入りして10年。やるせない……もどかしい想いを何度も繰り返して、やっと辿り着いた私達の夢の部隊や。レリック事件をしっかり解決して、カリムの依頼もしっかりこなして、みんなで一緒に頑張ろうな」
「うん、頑張る」
「もちろんです」
「我ら守護騎士、あなたと共に」
「…………」

 ザフィーラ、お前もこういうときくらい発言してもいいだろうに。まあお前の気持ちはみんなに伝わってるだろうけどな。
 にしても……こういう空気になるかもしれないって思ったから別の席で食べようとしたんだけどな。俺ははやての守護騎士じゃないわけだし。

「おい、ショウも食べてないで何とか言えよ」
「何とかって、俺はヴォルケンリッターじゃないぞ」
「そうだけどよ」
「安心しろ……はやての努力もお前達の想いも分かってるさ。俺は俺にできることはやる」

 俺にできること。まずはメカニックとしての役割……だが緊急時に求められるのは魔導師としての方だろう。
 この4年間、俺なりにメカニックだけでなく魔導師としての力量を高めてきた。とはいえ、なのは達と同様に普段はリミッターが施されている状態だ。
 それなりに経験があるから今のフォワード達を相手にしても後れを取ることはないだろう……が、ガシェットの目撃情報は増えてきている。敵次第ではリミッターの掛かった今の状態では勝てる見込みは低いだろう。まあ今考えても仕方がないことだろうが。
 そんなことを考えていると、はやてのかばんがひとりでに動いた。確かあれはリインの部屋代わりになっていたはずなので、おそらく俺達の会話で寝ていたリインが起きたのだろう。

「う~ん……良い匂いがするです」
「匂いで起きたか。意地汚い奴め」
「えへへ」

 人懐っこい笑みを浮かべるリインにシャマルがみんなで食事をしていることを伝えると、リインは自分も食べたいと言い出した。
 末っ子だけあって誰もが世話を焼きたがるのは相変わらずらしく、シグナムも顔を拭けとハンカチをリインに被せた。人間用なのでリインには大きく、シーツで化けたような簡易的なお化けのようになってしまっている。
 リインのマスターであるはやてが自分のを分けると言い出し、ヴィータに小皿を取ってくれるように頼んだ。昔から彼女に懐いているヴィータは快く承諾し小皿を取ってくる。

「わーい、いっただきま~す!」

 そう言ってリインは小皿に盛られていたプチトマトを手に取ると、勢い良く食べ始める。彼女の食べている姿を見ていると微笑ましい気持ちになるのと同時に、自分のユニゾンデバイスの食べる様子を思い出した。
 姉妹みたいな関係だけど……リインは無邪気というか子供らしい食べ方だよな。稼動年数でいえばあいつもそう変わらないけど、食べ方はかなり上品だ。まあ……食べる量はリインとは比べ物にならないのだが。

「あ……ショウさんショウさん、そういえばファラの姿が見えませんがどうしてますか?」
「あいつは先に部屋で休んでるよ。ここ何日かバタバタしてたし、今日は来て早々ついさっきまで訓練だったから」
「そうですか……今日はろくに話せていないので話したかったですが、明日以降にするです」
「悪いがそうしてやってくれ。……あぁ、あとセイだけどまだシュテル達のほうを手伝ってる。あっちが一段落したらこっちに来ることになってるから、まあそのうち会えるだろう」
「そうなんですか。えへへ、それはとっても嬉しいです。その日が来るまでリインはきちんと働いて、胸を張って会えるようにするです!」

 今の言葉をセイに伝えたら即行で仕事を片付けてこちらに来るのではないだろうか。リインのことは妹分として可愛がってるし。
 不意にセイと初めて出会った日のことを思い出す。あの日の彼女は実に何事にも淡々と返していた。最初は妹扱いしてくるファラにあれこれ言っていたのに、今ではすっかりリインを妹扱いしている。今度そのへんを突いたらどんな反応するだろう……。

「ショウくん、その顔は何か考えとる顔やな。はは~ん、さては……シグナムの胸をどうやったら揉めるか考えとるな」
「なっ――」
「慌てるなシグナム、慌てたらそいつの思う壺だ。……久しぶりに会ったが全く成長してないな」
「何を言うとるんや、どこからどう見ても良い女になっとるやろ」
「はいはい、そうですね」
「その反応はひどいと思うで」
「まともな反応をしてほしいならまともな言動をするんだな。というか、明日も早いんだからさっさと食べて休むぞ。俺らが遅刻や倒れたりしたら示しもつかないだろうし」


 
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