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『DIGITAL MONSTER X-EVOLUTION:Another-X』

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序幕:【血戦の最中で】

『デジタルモンスター』。

その誕生には多くの諸説があり、

曰く、“政府によって秘密裏に開発された人工知能の成れの果て”。
曰く、“凄腕のハッカーが作り上げたウィルスプログラムの突然変異”。
曰く、“ネットワークからの情報を吸収して生まれた別次元の生命体”。

と、判然とせず、その実態は多くの謎に包まれている。
我々は彼らについて、未だその全貌を知らない。

――――そう。
未だ我々は、全てを知らない。

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『DIGITAL MONSTER X-EVOLUTION:Another-X』
  序幕:【血戦の最中で】


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――――視界を、“死”が埋め尽くしていた。


金属と硝子を無理やり押し付けて擦り合せたような耳障りな雑音が、天地左右、四方八方から降り注いでくる。
不快感どころか、狂気を掻き立てられそうな騒音の嵐。


――――否、それは正確には、啼声だった。


囂々と響く啼声の正体は巨大な“魔獣”――――ひと言で著すならば、御伽噺に出てくる“ドラゴン”だった。
首が長く、躰は大きいが手足が短くずんぐりとしていて、ちょうど御伽噺にでも出てきそうな体型だ。
翼が4枚2対あるが躰に対してはやや小ぶりであり、お世辞でも自在に空を飛べそうには見えない――――が、
実際それらは空を飛んでいた。ただ、一般的な御伽噺の“ドラゴン”と違う点が、2つある。
1つは、その躰の表面は鱗ではなく、煤か泥に汚れたような黒と、血のようなくすんだ赤の体毛で覆われていた点。
もう1つは、その目に当たる部分や翼・尻尾の先端に、拘束具を連想させる鈍い銀色の装甲が、
肉体に食い込むように覆われている点だ。
防御の為――――などでは、勿論、無い。
己が肉体を凶器として最適化し、己が以外の外敵を殺戮せしめんとする、機能の顕れ。
有益と思われる“視覚”を敢えて排除し、その他の四感を――――付け加えるなら特に嗅覚・聴覚を――――より
特化させていると云える。


――――即ち、“自身ら”以外の“臭い”と“雑音”を鏖殺する為。


生物としてはあり得ない――――否、あってはならない、徹底的に効率化された殺意の具現。
それが、この“魔獣”の正体だ。


――――“魔獣”が啼く。


啼声が十重二十重となり、聴覚が麻痺しそうな錯覚に陥る。
“魔獣”は、1匹ではなかった。
その数は、視界を埋め尽くす程――――敢えて比率を現わすなら、7割程度だろうか。
状況は、誰が見ても絶望しかない。
触れれば死は必定。逃げようにも逃げ場そのものがない。
こんなものに立ち向かう者がいるとすれば――――それは余程の“死にたがり”か “狂人”だ。


――――だが、“それ”は、そのどちらでもなかった。


落雷とも/噴火とも/暴風ともしれない衝撃が、【世界】を貫いた。
裂け/潰れ/砕け/千切れ/穿たれ/爆ぜる――――響く断末魔は、しかしは全て“魔獣”どものモノだった。


――――続けて、第2の衝撃が【世界】を貫く。


閃光/流星が、弾ける。
赤黒い“魔獣”どもの残骸から現れたのは“紅蓮の騎士”だった。
紅い竜を模した兜。緻密な装飾が施された白銀の鎧に、焔よりも鮮やかな真紅のマント。
その手には――――右腕と一体になった、閃光の刃を放つ“聖槍”が一振り。
鋭く光る、碧い眼光の威圧は――――意思を持たない筈の“魔獣”ですら、一瞬たじろぐ程だ。

獅子吼、一閃。
“紅い騎士”が右腕を振り抜くと同時に閃光が奔り、群がる“魔獣”が、数10匹単位で駆逐されていく。
単純な戦闘力では、“紅蓮の騎士”に軍配が上がった。
が、戦いというものには、突出した“個”が居れば勝てる、という道理はない。
寧ろ、最も重視しなければならないのは“数”である。
“紅蓮の騎士”の現状が、明確にそれを示していた。

…………“紅蓮の騎士”は満身創痍だった。
肩で息をし、致命傷こそ避けているものの、その兜や鎧も随所が欠け、罅割れ、へこみ、歪んでしまっており、
鮮やかな真紅のマントも、至る箇所が裂けて無残な有様だ。
“紅蓮の騎士”自身への負傷も深刻で、特に左腕の損傷が痛々しい。
本来ならその手に握られている筈の“聖盾”が、何処かへいってしまっていた。
恐らくは、先に駆逐した“魔獣”どもの残骸に埋もれてしまったのだろう。
防御力の低下は免れないが、かといって回収するワケにもいかない。
全天に亘って群がる“魔獣”を相手に、そのような隙を晒しては、一気に押し込まれてしまうだろう。

…………“紅蓮の騎士”は、満身創痍だった。
しかしそれは、すべて紙一重で“魔獣”どもを凌ぎ、捌いていたからだ。
ただの殲滅戦程度ならば、こうも負傷することなど、在り得ない。
ならば、何故――――?


――――理由は遙か遠く、頭上に在る。


その光景は、常識では在り得なかった。
“紅蓮の騎士”と“魔獣”どもとが切り結ぶ地点より、およそ上空2000mの位置。
そこに、虹色に輝く“孔”が、宙空に穿たれていた。

正確に言うなら、アレは“門”だ。
空の向こう、【世界】の上層――――【総合統括機構(セントラル)】の中枢区。
そこに至る為の、唯一の繋がり。
その開錠を赦されているのは、“紅蓮の騎士”を含めた『()()()()』のみ。
無論の事、その“門”を開放したのは他ならない、“紅蓮の騎士(か れ)”自身だった。


――――身体の各所が、活動限界を示す悲鳴(アラート)を上げている。


だが、此処で止まるわけには、いかなかった。
此処で膝を屈しては、“魔獣”どもが“門”へと向かう。
“魔獣”どもを蹴散らす最中、“紅蓮の騎士(か れ)”は直感で、それを感じ取っていた。

…………此方からでも“門”の開放は出来る。
が、閉門するには“向こう側”からしか操作出来ない。
無論、“紅蓮の騎士(か れ)”が“向こう側”へ赴き、“門”を閉じてさえしまえば、それで終わる問題だ。
“魔獣”どもに“門”を喰い破るようなチカラはない。
【世界】を埋め尽くす“魔獣”どもも、【世界】を隔てる【次元】にまでは干渉出来ない。


そう。()()()()()()()()――――


だが、“紅蓮の騎士(か れ)”は退かなかった。
否、出来なかったと云うのが正しい。何故か。
…………理由は単純だ。
まだこの【世界】には、生き残っている者が居るからだ。
“魔獣”どもの襲撃で、かなり数を減らしたが――――まだ僅かに、生きている者たちが――――確かに、居る。
生きるために、必死に、生き抜こうとしている。
既に大地は足場としての機能を失いつつある。
レイヤーが剥がれたかつての地平は、虚無の奈落そのものだ。
飛ぶ術を持たぬ者たちにとってのこの状況は、即“死”に直結する。


「…………」


為らば、守らなくてはならない。守らなくてはいけない。
生きている者たちを。生き抜こうとする者たちを。
騎士として。守護者として。同じ“命”として。
もうこれ以上、“命”を、失わせない為に。
もうこれ以上、“命”を、奪わせない為に。
ここで、この場で、1匹でも多く“魔獣”どもの侵攻をを食い止めなくてはならない。


「………………」


そして――――あの“門”の先へ向かった、“1匹の竜”の願いを守る為に。
何てことは無い、ほんの些細な、他愛のない、ささやかな約束を――――守る、為に。
…………“魔獣”どもは、この場で釘付けにしなければならない。


「………………、」


使命感ではない。義務だからでもない。
ただ、言葉に出来ない――――“電脳核(たましい)”の根源より沸き上がる“熱量(ほのお)”が、
死に体ですらある“紅蓮の騎士(か れ)”を、突き動かす――――!


「………………、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」


裂帛の咆哮が大気を震わせ、“死の啼声”を掻き消す。
同時に“紅蓮の騎士”――――“デュークモン”は、もう殆ど感覚の無い右腕を、振り上げた―――













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――――そして時は、先ず、始まりの場へと逆巻く。

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つづく


 
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