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グーラ

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5部分:第五章


第五章

「では宜しいでしょうか」
「ええ、では」
 そっと彼の手を握ってきた。そして囁いてきた。
「いらして下さい」
「わかりました」
 そのままジンナは女と共に歩いていく。遠くになったところで覗いていたスレイマーンは述べた。
「よし、いい頃合いだ」
「いいのですか」
「そうだ、全ては上手くいっている」
 彼は言った。
「後はあいつ次第だな」
「ジンナさん次第ですか」
「何かあるんですね」
「あるからあいつに頼んだんだ」
 スレイマーンは一緒にいるマムーの店の者達に顔を向けて言った。
「あいつならやってくれるだろうからな」
「まあジンナさんしっかりしていますからね」
 それは彼等も知っていた。
「腕っぷしも強いですし」
「だからだ。では追うぞ」
「はい」
「それじゃあ」
 マムーの店の者達もスレイマーンについて行く。隠れてジンナと女を尾行していく。その中でマムーの店の者の一人がスレイマーンに問うた。
「ところでスレイマーンさん」
「何だ?」
「旦那様はどうなったんでしょうかね」
「それもすぐにわかる」
 彼はそう返した。
「すぐにですか」
「そうだ、ただしな」
「ええ」
「どうなっていても。驚くなよ」
「どうなっていてもってまさか」
「そのまさかだ」
 他の者にも述べた。
「覚悟はしておけ。僕の予想が合っていればな」
「何か嫌な気分になってきましたよ」
「安心しろ、もうすぐそんな気分もなくなる」
「どうしてですか?」
「悠長な話じゃなくなってるからだ」
「何かどんどん不安になるんですけれど。そんなこと言われたら」
「そうですよ、本当に何があるのか」
「とりあえず驚くようなことはないようにな」
 スレイマーンは彼等にそう言い含めた。
「それはいいな」
「はあ」
「じゃあまあ腹はくくります」
「そうだ、腹だけはくくっておいてくれ」
 また言い含める。
「何があってもな」
「わかりましたよ」
「アッラーよ。御加護を」
「アッラーよ、護り給え」
 スレイマーンもまたアッラーの名を口にしていた。半ば無意識に。
「そして悪しき物に裁きを」
 そう言ってさらに尾行していく。二人はやがて夜の街の端にある一軒家へと入って行った。
「あれっ、ここって」
 マムーの店の者のうちの一人がその一軒家を見て声をあげた。
「どうしたんだ?」
「いえね、ここですけれど」
 彼は言う。
「前に通り掛かったことがあるんですけれど空き家だったんですよ」
「空き家か」
「はい」
 そして答えた。
「おかしいですね。いや、ここで逢引なのかな」
「そうか、空き家か」
 それを聞いたスレイマーンの目が剣呑なものを見るものになっていた。
「やはりジンナを呼んだのは正解だったかもな」
「そうなんですか」
「僕の予想通りならな」
 彼はその空き家の筈の家を見ていた。
「いいか」
「はい」
「周りを囲むんだ」
 他の者達に対して命じる。
「若しもの時は」
「どうするんですか?」
「簡単なことだ。コーランの一文を詠唱するんだ」
「コーランのですか」
「そう、それだけでいいから。いいな」
「はあ」
「それじゃあ」
 家の中からは何も感じない。物音一つしない。スレイマーン達はそこへ近付いていく。その時不意に家の中から物音がしだした。
「!?」
「何が一体」
「騒ぐことはない」
 騒然としかけたところで制止した。
「中にいるのはやはり」
「やはりって」
「ジンナ!」
 スレイマーンは家の中にいるであろうジンナに対して叫んだ。
「一太刀だ!それで首を斬れ!」
「はい!」
 中からジンナの返事が返って来た。そして風と何か重いものを斬る音がした。
 すると窓から何かが飛び出てきた。それは地面に落ちるところころと転がりやがて止まったのであった。
 首であった。美しい顔立ちに黒く長い髪を持つ女の首であった。あの女のものに他ならなかった。
「あの女の」
「ジンナさん、まさか」
「待て」
 殺人かと顔を青くする他の者に対してスレイマーンが言った。
「よく見るのだ、この女の首を」
「この女の首を」
「そうだ。よく見てみろ」
「よくって・・・・・・ええっ!?」
「なっ、これは!?」
「これでわかったな」 
 マムーの家の者達はその首を見て皆青くなりかけた顔を蒼白にさせてしまった。
 
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