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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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【D×D】誤解だ。良い人掃除男と呼ばれる事もある

 
前書き
箒くんだっていい事をするときもあります。 

 
 
「おい、箒。ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
「あ?何?」

休日に暇つぶしがてらアザゼルの部屋を掃除しながら神器実験の手伝いをしていた俺は、アザゼルに質問された。

「フェンリルの事なんだが……犬ってのは環境によっては腐った食い物にだって食らいつく雑食種だ。今回はフェンリルが臭いを我慢できなかったから良かったものの、悪臭も平気だったらどうする気だったんだ?」
「それはまぁ、こうかな」

そういいながら俺は懐に入れていたミニ黒板を取り出して、爪で力いっぱい引っ掻いた。

キキキキキィィィィィィィッ!!という甲高い音にアザゼルは悶絶した。

「ぬあぁぁぁぁ!?止めろ馬鹿!!お前さてはたった今俺で実験したな!?どうしてお前はそう小学生の悪戯みてぇな発想をポンポン思いついては人外に試すんだよ!?」
「そこに人外がいるからだよ。……犬の嗅覚は10倍程度の過敏度だと言ったが、犬の耳の過敏度は16倍程度と言われている。中には雷の音がトラウマになってパニックを起こす犬もいるらしい。だからこう……楽器のように空間を遮断する結界を形成してだな……ここで音階を、ここで空気量を、で、ここがこう………とまぁ、こんな感じの音波兵器を作ってもらう気だったわけだ」

かりかりと黒板に簡易説明図を書きこむと、存外にアザゼルは興味津々にそれを覗きこんだ。
流石は堕天使界随一の好奇心を持つ研究者肌。この手の話だと口がよく回るようになる。

「ふぅん、音波兵器か……即席で出来るかと言われれば難しいが、悪くねえ発想だな。共振しやすいようにこの辺にパーツを組み込めばもっとイケるんじゃないか?それとこっちをこうして……プラスで魔法による拡音増幅器や物理的な機材を………で、指向性をだな……」
「ほうほう。ならば音を吹き込む構造に関してもちょっと練った方が……」
「くくく………楽しいなぁ」
「へへへ………楽しいねぇ」

悪人面でニヤニヤしながら構想を練るアザゼルと、ゲス笑いしながらそれを補強していく俺。
いつしかミニ黒板に収まりきらなくなった音波兵器構想はアザゼルが図面を引くに到り、その間俺達の悪人笑いとゲス笑いは試作音波実験を通して部屋の外まで響くこととなった。

「あれって、もしかしなくとも箒先輩の声だよな……」
「もう一人はアザゼル様ですね。お二人ともものすごく悪そうです……」
「周辺の住民が怖がってるし、止めに行った方がいいのかなぁ………いやダメだ!箒先輩だぞ!?悪魔実験に付き合わされて身も心もボロボロになるに決まってる!触らぬヒトに祟りなしだ!!行こうアーシア!」
「あ、は、はい!」

結局その笑い声は昼に来客があるまで続くことになった。


 = =


「おいアザゼル!さっきから何を悪人笑いをしている!周辺住民が怖がってい………って、何を作っているんだ?」
「おお、バラキエルか!いやぁちょっとテンション上がっちゃってな!だが見ろこの新兵器を!!俺と箒の共同開発した『バクオンパー試作16号』だ!!理論上はケルベロスの鼓膜を粉砕する威力にまで達したんだぜ!基礎理論はほぼ完成!後はこれをダウンサイズして本格的な術式を組み込ん……って、お前が来たってことはもう昼かよ?」

実は自分でバラキエルを呼び出していたアザゼルだったが、時間を忘れて作業に没頭しすぎていたために時間帯に初めて気づいた。箒も同様で、掃除そっちのけでのめり込む位置に若干ながら魔法知識を身に着けてしまったりしている。……ほぼアザゼル直伝のこの技術が未来に悪用されない事を願うばかりである。

「あんたがバラキーさんっすか。朱乃の親父だって聞いてましたけど……………あいつ母親似なんすね」
(初対面でいきなりバラキーって……コカピーよりはマシか?あれ、なんでコカビーじゃなくてコカピーにしたんだろうかこの青年は)
「おいコラ。何故にバラキエルには敬語を使っておいて俺にはタメ口なんだ?」
「それだけアザゼルの事信頼してるってことだよ言わせんな恥ずかしい」
「素直に喜んでよいかどうか非常に微妙なレベルだ馬鹿野郎!!」
「その馬鹿野郎と同じノリで音響兵器作ってる馬鹿が目の前にいるんだが……」
「こまけぇこたぁいいんだよッ!若ぇ奴がそんなことくよくよ気にすんな!」
(……アザゼルめ、やたら仲が良いようだな)

二人きりだと割といつもこんなテンションの二人だが、研究者肌な部分で妙にウマが合うのか良好な関係と言えなくもない。

で。
自分の上司と非常に仲睦まじげ(悪ガキ的な意味で)な青年を見たバラキエルは目を細める。



それは、昨日の事だった。バラキエルは娘にどうしても一度会っておきたくて、朱乃の元を訪ねた。

朱乃は私を見ても怒鳴ることはなく、かといって許す風でもなく、元は家族で住んでいた神社へと案内した。食卓に座らされ、食事を用意すると表情のない声で言われる。
……逃げ出したかった。
その態度は好意的とはお世辞にも言えない。むしろ、淡々とした態度だからこそそこにかつての自分の過ちを責めるような棘がある気がした。朱乃は妻に似て美しく育っていたが――その妻が死ぬきっかけを作ったのは間違いなく自分。快く思っている筈もない。

食事を用意する朱乃の背中が、亡き妻の朱璃とダブる。
悪魔に転生してしまったとはいえ、それを確認できただけでも収穫な気がした。
台所から流れる炒め玉ねぎの匂い。甘辛い調味料の食欲をそそる匂い。その何もかもが懐かしくて、その懐かしさがどうしようもなくもどかしい。

食事が用意され、いただきます、と合掌する。朱乃も同じように合掌した。
この食事儀礼は、人間界に降りて以来ずっと続けてきた。我ながら未練だ。
箸を使うのも久しぶりだったが、バラキエルは最初に目についた肉じゃがに箸をつけた。香り、舌触り、味。そのどれもが過去を想起させる。

「お味、どう?」
「……美味い。懐かしいな……朱璃の料理の味だ」
「……よかった」

その時、ほんの小さくだが朱乃が微笑んだ。かつて娘として朱乃がバラキエルに見せた笑みだった。
――こんなにも罪深い自分に、この娘は笑いかけると言うのか。耐えられず、問う。

「私のことを……恨んでいるか?朱乃」
「恨んでいます」

淀みない返答が分かってはいた筈の心を抉る。
だが、その言葉は次に続いていた。

「でも、憎んではいません」
「それは……」
「少し前の事です。私は同級生の一人に自分の秘密を打ち明けました……でも、全ての話を聞いた彼はふと真剣なまなざしをして、私にこう問いました」

――お前は親父を殺したいほど嫌いなのか?母親の仇だと思って憎しみを募らせてるのか?

父親を殺す覚悟。その時になって朱乃は、自分がそんなことを一度も考えたことがなかったという事実を思い知らされ、愕然とした。

「答えに窮しました。彼はそんな私を見て、『お前の父への恨みは本気じゃない』と断言されました。……たった今、私自身も確信できた。私は、お父様を殺したいほど憎めなかった……でなければ、どうして褒められて微笑みが出たりするものでしょうか」
「朱乃………」
「お母様がお父様の所為で死んでしまったという事実は私の中でも今更覆せません。でも……それでも」

朱乃はつう、と静かな涙を零した。

「お父様は、いつでも私のお父様です。許せない事はあるけど、憎む事なんて出来ない……!」
「………ッ!!」

その後の事は、涙と嗚咽を抑え込むので精一杯だったからあまり覚えていない。
覚えている事と言えば、出された食事を完食したことと、娘を父として抱擁することが出来たことくらいだ。



そして、朱乃に本心を気付かせた青年が目の前にいる。
お世辞にも行儀がいいとは言えない、普通の人間だ。それでも確かに、その知的好奇心と悪戯心に満ち満ちた瞳は不思議な魅力があった。


※ここから微妙にかみ合わない会話をお楽しみください。


「掃詰箒くん、だったね」
「あー……ひょっとして娘さんの事ですか、ねぇ?」
「ああ。聞いた話では随分(娘が)迷惑をかけたそうじゃないか?」
「あー……っと、どんなふうに聞いてるかはちょっと窺い知れないけど、(俺のかけた迷惑は多分)そうたいしたものじゃないすっすよ」
「ほう……」

気まずそうに顔を顰める箒。……この時箒は「朱乃の奴め俺の悪口をしこたま親父に吹聴したんじゃないのか?あいつ根っからのサディストらしいからな……ありえるぞー、これはかなりガチな雷落ちかねないぞー」などと、彼としては珍しく本格的に見当違いな事を考えていた。

が、その姿にバラキエルは全く違う印象を受ける。
自分は大したことをしていない――彼の目にはそのような謙虚な姿勢に映っていたのだ。実際に箒は事情を全て知っていれば「別に俺、言いたいこと言っただけだし」と素っ気なく返すくらいの態度はとるだろうが、「やはり彼は謙虚だな」とバラキエルは笑顔で頷いた。

恩着せがましい男だったり自己顕示欲の強い男、おだてに弱い男だとこれからも娘と付き合わせるにあたって父親としての不安が残る。別に娘の恋人という訳でもないが、少なくともバラキエルにはその態度が好ましく思えた。
逆に箒の方はというと、バラキエルの顔がかなりゴツイ所為で笑顔に妙な圧迫感を覚え、「これ十中八九怒ってるな……慎重にワードセレクトを行わねば」と戦闘態勢の段階を引き上げる。

――ここで幸か不幸か、箒は初めて一般人で存在する人間に近い心を持つ人外との対話を果たしていた。バラキエルの態度のそれは完全に子を持つ父親のそれであり、その印象が箒に「迂闊な事は言わない方がいいな」と思わせていた。
が、それが余計に会話の混迷を極める事態へと発展する。

「ふふ。朱乃が君の話をするときはどこか楽しげな様子だったよ。あの子もよい友達を持ったらしい」
(その楽しげってまさかサディスティックな物だったのでは……あいつ結構根に持つタイプだからな。そしてその父親ももしかしたらサディストの可能性が微粒子レベルで存在している。良い友達という言い回しもまさか嫌味で……)

などと180度逆の方角に頭をフル回転しつつ愛想笑いで誤魔化す箒。

実際に朱乃が箒の話をする時というのは、「箒くんったら○○なんですよ?」とちょっと口を尖らせつつもやっぱり嫌いじゃない風な態度だったので、バラキエルはてっきり近所のいたずらっ子とその幼馴染のような付き合いをしているのだろうとちょっと勘違いしていた。
実際のその態度は友人としての立場と悪魔としての立場の間から見ると悩ましい彼の様子を示した態度だったのだが、朱乃は彼のおかげで父親と和解できた負い目があるからちょっとツンデレっぽい態度になってしまったのだ。

「そういえば聞いた話ではあの『停止世界の邪眼』の神器所有者も(純粋な意味で)随分可愛がっていたと聞くが……」
「あ、あぁー……あれは別にそういう(意地悪した)わけじゃないんですよ?ただ、本人が思っている以上に浅い部分に真実があると思ったものでちょっと手をば……」

以下、バラキエルの聞いた話。
神器を暴走させまくるせいで引きこもりになってしまったギャスパーに、箒はあるプレゼントをした。
それは小さめの丸サングラス。箒曰く、「これがあればかけるだけで暴走しにくくなるし、仮に暴走させてもその後でコントロールを取り戻す補助をしてくれる」とサングラスが特別製であることを告げた。
最初は半信半疑だったギャスパーだが、言われたとおりにサングラスをかけると「ストッパーが出来たから失敗しても大丈夫」という精神的な余裕を取り戻していく。
そして、その後に起きた三大勢力会談襲撃事件において禍の団の魔術師に捕縛された際、取り上げられたサングラスを取り戻すために神器を完全にコントロールして見せたという。

そこで初めて発覚した驚愕の事実。なんとサングラスは唯のサングラスで、神器を抑える機能など皆無だったのだ。そう、箒はただの安物サングラスを通してギャスパーに「言葉」という魔法をかけたのである。ギャスパーは騙されたことに気付いて呆然とするが、言葉ひとつで自分を導いた箒という存在に底知れない恩義と尊敬を抱いたという。
以来、ギャスパーの部屋には何故か箒の隠し撮り写真が貼ってあり、そのサングラスも宝物として持ち歩いている。

で、箒の感覚ではこれは「本人の意志が問題だから、騙せば案外簡単に解決できるのでは?」とプラシーボ的にサングラスを手渡して実験したという風である。ウソがバレて以来ギャスパーは割と箒に懐いているが、周囲の目線は「またこの人は……」と若干あきれた視線。皆本当は内心で感謝しているのだが、詐欺まがいなので素直に賞賛できないのだ。
箒自身、ギャスパーが騙されたにもかかわらずあまりに無邪気に接してくるので若干ながら騙した罪悪感を抱えているが故、バラキエルのその言葉は微妙に嫌味に聞こえないでもなかった。

「謙遜することはない。言葉を操ることに長けているのは、口下手な私としては羨ましいよ」
(それは言葉ひとつで他人を操るような悪女的才覚を身につけたいってことですかぁー!?)

微妙に会話がかみ合っていないような気がしつつも愛想笑いで誤魔化す箒。
もうこの時点でバラキエルの脳内人物評価が箒に対して驚異的な数値を叩きだしている。
これが唯のおべんちゃらを並べる相手だったならば箒も対抗や修正が出来たのだが、今のバラキエルは親馬鹿を発症している所為で発想が斜め上に上昇していたため、箒の論理飛躍度と中途半端に絡み合ってわけわかんない状態になっていた。

「君のような友人がいてくれてよかった。私やアザゼルにも物怖じしない君だからこそ、あの子の心根に言葉を響かせることが出来たのかもしれないな……」
「うーん、俺としてはきっかけがあればいつかはこうなったと思うんですけどね……」
「うん?」
「詳しくは存じ上げないけど、見た所二人は和解したんでしょ?多分あいつは潜在的にはずっとあなたと仲良くしたかったんだと思いますよ。それはどうやらあなたも同じだ。まったく他人の事はいろいろ言うくせに、そういう奴に限って自分の事が見えてないんだから……困ったもんっすよ」
「うむ。やはり君は優しくて実直な人間だな……君になら娘を嫁に出してもいいと思えるくらいだ」
「――はい?」
「驚くことはないだろう。私が誰と恋に落ちたか忘れたかね?それともそちらの方面にはまだ疎いのか………いや冗談だ。ありがとう、君に会えてよかったよ」
「え、いやいや俺と朱乃は別にそう言う関係じゃねえしむしろ単に同級生ってだけなんだが……って、おーい!聞いてるー!?」

バラキエル、上機嫌な所為で全然聞いてなし。
――後に知ったことだが、朱乃との和解のきっかけにとこの町にバラキエルを呼ぶ出したのも、今日ここにこうして訪れる事で箒に合わせるのも、全てはアザゼルが描いた絵図のままだったらしい。

「はっはっはっは!なかなか面白い所を見せてもらったぜ!おかげでお前が苦手な人種ってのが若干ながら見えてきた。良い実験になったよ!」
「ニャロウ……!意趣返しか!散々翻弄されていたことを腹に据えかねての意趣返しか!」
「くくく……そんな事よりいいのか?バラキエルは嫁がどうとか行ってたが、あいつは実直すぎてジョークが苦手なんだ。つまり……本気かもよ?」
「……それは、普通に困るんだが。俺まだ初恋すらしてねぇし」

地味な復讐を果たしたアザゼルだった。
なお、『バクオンパーシリーズ』はその後8度のマイナーチェンジの末にとうとうロールアウトされ、聴覚の良い悪いを越えた極悪兵器として堕天使の敵を苦しめたとか。
ついでにその業績で箒は「アザゼルの弟子」という名誉なのか不名誉なのか分からない称号を得た。
  
 

 
後書き
今まで極限まで女気の無かった箒にとうとうヒロインが!という訳でなく、単にバラキーに好かれたというだけです。朱乃的にはちょっと特別な感情はあるけどまだ「困った悪友」ランク。 
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