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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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【D×D】掃除男さん、アンタ分かってないよ!

 
前書き
今日は箒の周辺が廻る話。 

 
最近忘れられがちになっているが、掃詰箒という男は案外事件に直接的に関わった回数は少ない。
アーシア死亡事件、結婚式乱入事件、コカピー事件、冥界でのいざこざなど、何の影響も与えていない件も少なからずあった。故にグレモリー眷属にとって重要な局面に出くわしたのも実際には2,3回程度と結構控えめだ。
なのでイッセー達は、休み時間や放課後などによく事件のあらましや出来事を説明したりしている。

「そうか……ソーナは冥界に学校を……」
「そうなんすよ。会長は恥ずかしがってあんまり周囲には言わないっすけど、先輩ならその考えが分かるんじゃないすか?」

暇つぶしに生徒会に行くと仕事が片付いた匙にばったり出くわした箒は、匙から最近の話をざっくりと聞いていた。その話の中で、新世代悪魔パーティでソーナが言っていた将来の夢の話になっていた。

匙は箒の事をけっこう信頼している。なんやかんやで悪魔陣営の手伝いをしたり、争いを避けるよう状況を誘導したり、或いは個人的に匙の勉強に付き合ってくれることもある。頭脳も割と明晰で、チェスは駄目でもリバーシならソーナに勝利したことがあるくらいだ。
嫌味な所が全くなく、困ってるときは手助けもしてくれる。それでいて悪魔の事情も知っている。

ソーナの眷属は女性だらけでちょっと窮屈に感じる事もある。グレモリー眷属の男衆は同い年と年下となので、腹を割っては話せるが弱みまでは見せられない。そう言う意味で、気兼ねなく付き合える男の先輩である箒は匙にとって結構貴重な存在だった。
そしてそんな先輩ならソーナの夢をッ笑うなんてことはしないだろうと思ったからこそ、この話を放棄に聞かせたのだ。

「フムン……悪魔陣営の社会は貴族型伝統的支配体型だから、平民身分が芽を出しにくい……それを憂いてのことだろうな。唯でさえ純潔悪魔に拘りすぎて人口が増加しにくい社会構成になってるんだ。サーゼクスを見る限り富の偏りもかなりのものだし、発言権や政治知識の類は旧72柱の独占状態と見てもいいだろう。さらに言えばマスメディアへの影響はほぼ四大魔王が掌握して外部からはちょっかいが出せない状態。内部では思想的な腐敗や離反も始まっている。典型的なエリート支配の構造じゃ、平等に、とはいかないもんなぁ」
「え、えっと……」

匙、フリーズ。彼にとっては少々難しい言葉が出過ぎたせいで話について行けてない。
それに気付いた箒は言葉を選ぶように説明する。

「えっとな……つまり今の冥界悪魔領地は、一部の力と権力を持った連中が支配している状態なんだよ。悪く言えばそいつらが好き放題に権力を振るって、都合の悪い話を押し潰して、気に入らない奴はどうとでも出来る世紀末空間に近い。ソーナは多分それが嫌なんだろう」

それでも一つのコミュニティとして保たれてるのは、明確な敵がいたことと四大魔王のカリスマ的権威があったのだろう。だが敵対勢力との和解が決まったこれからは、その集団内部で不和が生じる確率が増大してくる。現に禍の団への離反者は相応な数見つかっていると聞く。

「権力と力に塗れた連中ってのは、自分でも気が付かないうちに自分勝手になってるもんだ。そんな連中に育てられた子が似たような正確になって家督を継いで……ということをしてたら、どんどん腐敗が継続していく。そうなると、例えばグレイフィアさんみたいに番外でも実力のある悪魔がいても、余程機会に恵まれない限りは上の立場につけないという事態になる訳だ」
「って、そうは言っても実力を付けて結果を示せば出世出来るシステムっすよ?悪魔って」
「出世は出来るさ。でもそこに罠がある。自己顕示欲の強い悪魔なら自分より強い悪魔なんて気に入らないから捨てる事もあるし、主の権威を利用して好き放題にいう事を聞かせる屑みたいな悪魔も残念ながらいる。仮に番外や転生悪魔で強いのと、72柱でそいつより弱い奴がいたとしても、番外たちの方に悪魔の駒は与えられないんだよ。実力主義と言っておきながら、下にいる連中の出世に壁が大きすぎる訳だ。アメリカ的自由主義の特性も持っているな」

そのアメリカ的自由主義ってなんですかと聞きたい匙だが、箒は聞いていない。ちなみにアメリカ主義的自由とは新自由主義のことで、社会的格差へ肯定的なので批判の意味を含んでいる。

名家側はその不利がある理由として「身分」「血統」「知識」を掲げて正当化する。
実力のある番外で上に認められるのに運要素が絡み、しかも悪魔界の細かい知識に関して不利な番外、転生悪魔は一先ず上を信じるしかない。

「だからソーナは上の連中に番外がいいように利用されないように教養と判断力を持ってほしいんだよ。それがあるかないかで将来に開花する可能性が全然違ってくる。それに、各種インフラやマスメディアを魔王と純血悪魔たちが独占できるのは金があるからで、金があるのは金儲けの知識を持っているからだ。つまり、番外でも金儲けや商売の知識があれば、必ずしも上の庇護をうけずとも力をつける事が出来る。教養が上がって番外と純血の差が埋まって来れば……純血の無能に地位を与えておくメリットがなくなるのさ」
(アレ?部長が望んでるのってそんな話だっけ……?なんか、なんか違う気が……)
「つまりソーナは悪魔の伝統社会を破壊して直接民主主義体制を構築しようとしてるんだよ!!くぅ~~~……あの姉の適当加減を見てると泣けてくるくらいに真面目で切実な夢じゃないか!!」

実際にはソーナが考えているのは箒のそれと合っているようでズレているのだが、生憎とそれを訂正できる人間がこの場にいないのが悲劇……もとい喜劇だった。

「匙!お前、きっちりソーナを出世させろよ!!お前の背中にもソーナの、そして悪魔界の未来がかかってるんだからな!!リアスみたいな将来性のないチャランポランに負けるんじゃないぞ!?」
「は、ハイ!!不肖ながら匙元士郎、部長のために粉骨砕身の想いで頑張りますッ!!」

もう何が何やらわからないままだったが、取り敢えずソーナを応援してることだけは分かった匙は全力で返礼した。……本人が聞いていないとはいえ、チャランポラン扱いとはひどい男である。


「……くちゅん!」
「あれ、風邪ですか部長?」
「そんなはずないんだけど……おかしいわね」

同刻、イッセーといちゃいちゃしていたリアスがくしゃみをしたとか。



 = =



時間が経って、所も変わってオカ研部室。

「………異世界から乳神を呼んだ?」
「そうなんすよ!なんでも異世界の神様らしいんですけど、凄くないですか!?」

後輩のイッセーからその話を聞いた箒は、しばし黙考したのちにこう答えた。

「イッセー。乳にご利益がある神なら態々異世界に飛ばなくても八百万(やおよろず)の神の中に複数いるんだが……」
「エッ!?マジっすか!?」

おっぱいへの執着ならば世界一の自負があるイッセーが、得意のおっぱい知識で敗北した瞬間であった。
四つん這いになり床を叩いて悔しがるイッセーと、そのイッセーの背中を椅子に優雅に紅茶を啜る箒。仮にも赤龍帝を相手にこんなナメくさった真似が出来るのは箒くらいのものだろう。当のイッセーは未だに自分がおっぱい知識で負けたことしか考えてないようだが。

「俺が……俺は、甘かったのか?おっぱいドラゴンとか乳龍帝とかちやほやされて、大切なことを見失っていたのか……俺は、俺はぁァァアアアッ!!」
『相棒!?俺にはお前が何をどう悔しがっているのかメカニズムが全く理解できんのだが、とにかく落ち着け!?』
(箒先輩が言うと全然スケベな印象がしないのが不思議だよね……)
(性の話は出来るのに性欲と全く繋がらないからある意味稀有だな……)

小声でひそひそそんな話をする祐斗とゼノヴィア。それと同時に、友好関係に割と美人女性が多いのに美人に興味がなさそうな箒の態度に若干の不安を覚える。

……まぁ、箒は堕天使総督アザゼルの弟子(他称)で、魔王サーゼクスの友人で、魔王セラフォルーが唯一恐れる男で、しかも大天使ミカエルにさえ警戒されている男である。最近はオーディンに苦手とされた上にロキをこすい手段で無力化し、禍の団カテレア&ヴァーリチームにもコネがあるという曰くの塊みたいな男でもある。普通に考えれば近づき辛いことこの上ないのである。

考えれば考えるほどその存在が心臓に悪い。しかも戦闘能力皆無なのでガチでいつ死んでもおかしくないという不安定すぎる存在だ。実際ロキとフェンリルとの喧嘩に割り込んできた時は、今になって思えば死ななかったことの方が不思議である。

祐斗は今更ながらそんなことが不安になってきて、思わずリアスに聞いてしまった。

「部長……掃詰先輩は本当にこのまま僕たちと居ていいんでしょうか?もしもいつか巻き込まれたら……」
「そんなことは考えても意味がないことよ」
「えっ!?そ、そんなことは……!」

誰よりも箒の事で頭を悩ませていたリアスのぞんざいな物言いに祐斗は思わず叫んでしまった。だがリアスは普段の慈愛を感じるような暖かい顔でなく、どこか諦観にも似た影を纏って囁く。

「仮に誰かが止めても、箒は箒のやりたいことをするために周囲のしがらみを必ず突破する。それはきっと記憶が消えても、書き換えらてても、命に刃を突きつけられても変わらない。多分、平穏よりスリルの方が好きなのね。無意味に100年生きるより、鮮烈な1日に価値があると……きっとそう考えているのよ、箒は」
「部長………」

だから、とリアスは続けた。

「箒が好き放題に動いても問題ない世界に、私達がしましょう?それですべては解決するわ」

そう言うと、リアスはニッと挑戦的な笑みでウインクした。
本気の顔だ、と祐斗は直感する。この我儘な主は友人のために世界を変える気でいるらしい。それは、友人を守る術を探して懊悩した末にリアスが導き出した、箒の事を投げ出さずに向かい合うたった一つの方法なのだろう。
これだからこの人は器が知れない、と内心で苦笑した祐斗は、そこでふと一つの事に思い至る。

「でも部長、そうなると箒先輩は今まで以上にフリーダムに動き回ることになるのでは?」

ぴきり、とリアスの笑顔が凍りついた。
どうやらリアスが箒と対等な存在になるにはまだまだ時間が必要なようだ。



 = =



「………というわけで、第一回掃詰箒がフリーダムすぎる件について対策を立てよう会を開催します……」

粛々と開会のあいさつをした祐斗の前には、部室に集まってもらった数名のメンバーが座っている。

メンバーその1、箒対策の実質的最高責任者であるリアス。
メンバーその2、このメンバー内では比較的箒からの信頼が厚いソーナ。
メンバーその3、この前ようやく箒に借りを一つ返したアザゼル。
メンバーその4、取り敢えず天使も関わっとけというノリで紫藤イリナ。
メンバーその5、禍の団との繋がりがあるのに未だ悪魔陣営のカテレア。
メンバーその6、未だにおっぱい知識での敗北を引きずる兵藤一誠

「先輩の方が、覚悟が上だった。甘かった………パイリンガルやドレスブレイクをマスターして天狗になっていた……俺は、俺は……」
(まだ気にしてるし……あとで慰めてあげようかしら)
「………つうか、なんでカテレアいんの!?というかお前まだ悪魔陣営にいたのか!?」
「イロイロあるのよ、イロイロ。アンタだって堕天使総督の癖にこんな所に出しゃばってきてるじゃない」

ちなみにその真相は、箒とのコネが出来たことで悪魔陣営から手が出しにくくなり、更に禍の団英雄派リーダーが私情で援助してくれているというもの。英雄派リーダーは箒とのコネが確保できなくなったら早々に援助を打ち切るだろうし、箒が死ぬような事態が起きると悪魔陣営はカテレアに手を出さずにいる理由がなくなり、不穏分子を狩る為に動き出すだろう。
よってカテレアとしては、生命線である箒を議題にした案件には関わらない訳にはいかないのだ。
今、彼女は箒の垂らした糸に捕まることで辛うじて足場を保っていると言っても過言ではない。割と死活問題なので、何が何でも守る必要がある。よって今のカテレアは真剣そのものだった。

……つまり、箒は言葉ひとつで禍の団と悪魔の両方に繋がりのあるカテレアの行動をけん制しつつ立場的に依存させ、完全な味方に引き込んだとも言える。この効果を本人が狙ってやったのかというと……この場の全員は与り知らぬことだが、実はちょっとだけ狙っていた事が後に判明する。
閑話休題。

「さて、まずは箒の抑止力となる存在を作るか、手綱を握る存在が必要ね。彼は組織に依存するよりは一人の自由を尊重するタイプだし」
「しかし箒くんをどうこう出来る人材となると……申し訳ないけど私も思いつかないわ」

悪魔陣営は早々に白旗状態だ。付き合いが長い分、思いつくものが何もない。何もないからこそ頭を悩ませている状態だ。

「アザゼルはどうなの?」
「実はな……箒の奴の弱点を俺なりに分析しててな?仮説だが、この議題の判断材料になりそうなものがあるぜ」
「マジで!?」
「早く発表してください!一人の人間の命がかかっているんです!」
「そうよ悪ヒゲ総督!さっさと喋りなさい!」
「おいコラ誰が悪ヒゲ総督だカテレア!!お前箒と会ったせいで悪口の方向性がズレてねぇか!?」

わーわーぎゃーぎゃー。仮議長の祐斗の静止の声で何とか鎮まったものの、早速前途多難である。

「おっほん!いいかお前ら………ズバリ、箒は人の話を聞かずに一方的に善意をぶつけてくる存在に弱い!」
「……一方的な善意。ラブコールとかそういうのかしら?」
「いや……例えばこれと言って理由もなく懐いてくる上に、からかってもその善意が揺らがないような一途な奴。例えば知り合いの知り合いだからと世俗的な話で盛り上がって、一方的にぶつけたい善意だけぶつけて帰っていくような勝手な奴………」
「つまり、根拠もなく箒に懐く人?」
「ということになるな。付け加えるなら箒の心情を意に返さないも入れるべきか。その手合いにあいつは弱いらしい」
「き、貴重な情報だわ……!!」
「で、具体的には誰なの?」

リアスの問いに、アザゼルは小さく唸る。

「これが発覚したのは、バラキエルの奴を呼び寄せるついでに箒にふっかけた結果として発覚したことなんだよなぁ……あのときは娘を嫁にしてもいいとかそんな話だったな。そっちが後者とすると、前者はアレだけ盛大に騙された癖に未だに箒に懐いてるギャスパーだが……」
「バラキエルは重鎮すぎるし、朱乃のネタが尽きると手が打てない。ギャスパーの方は元々の気が弱いからストッパーはちょっと無理かなぁ……?」
「……となれば、目的は一つに絞られるわね」

眼鏡をクイッと上げたカテレアに、周囲の視線が集まる。

「バラキエルみたいな無骨なのは駄目よ。単に人の話を聞いてないだけだから。かといってそのハーフヴァンパイアの方は好意ではあってもそれ以上にはならない。つまり……」
「「「「つまり?」」」」


「そんな男を止める術は一つ。掃詰箒に盲信的なレベルで好意を寄せていて、彼の為なら命も掛けるし身体も張るような一途な女――恋する乙女をひっつけることよッ!!邪には光、悪には正義、男には女!恋をしている女に不可能はないッ!!」


しん、と会議室が静まり返った。

「………なかなかいいアイデアだぜ、レヴィアタン。確かに女の一途さに勝るものはねぇ」

やや遅れて、わるそ~な顔をしたアザゼルが提案を承認した。

「確かに。彼が一人身だから動き回るのなら、一人身ではなくしてしまえばいい。彼と同等の行動力を持っていればそれも可能なはずです」

ソーナも同意するように頷く。

「しかも、箒に彼女が出来たとなればからかうチャンス……ゲフンゲフン!箒も振り回される側の気分を理解して落ち着きを持つかもしれないわ!」

私情を隠し切れていないリアスも同意。

「………あんまり話について行けてなかったんだけど、要するに先輩に恋人を斡旋するってこと?つまり恋のキューピッド!?これは天使の仕事だよねっ!」

立場上参加したけどそれほど議題に興味がなかったせいでずっと黙ってたイリナも賛成に回る。

「そうだ……先輩はおっぱいを触ったことがない筈!つまり行動的部分では俺のおっぱい魂は負けてない!先輩におっぱいを触らせれば……俺が実務上は先輩に負けてない事を示せるはずだ!!」

意味不明な結論に達したイッセーも賛成。なお、ドライグは疲れ切ってふて寝している模様である。
全員の意見を聞き入れた祐斗は、若干不安そうな顔をしながらも頷いた。

「では暫定的ではありますが、カテレア・レヴィアタンの意見を採用します!………大丈夫かなぁ、この作戦?」

そもそも箒に惚れてくれる女の子なんてどうやって見つけて、どうやって付き合わせるのかという具体的プランがブランクのままである。あの箒相手に色仕掛けにも似た方法が通用するのかは更に疑問な部分である。
色んな意味で不安になる祐人だった。



「……へくちっ!」
「あら、大丈夫ですか?ハンカチ使います?」
「いえ、お構いなく……うえ、まだちょっとムズムズする」

同刻、ロスヴァイセから詐欺師染みた巧みな話術で北欧の知識と魔法体型を聞きだして(傍から見れば口説いてるように見えたとは周囲の言)いた箒が盛大なくしゃみをしたとか。
  
 

 
後書き
「……という訳で、そんな話になったわよ曹操」
『そうか……確かに英雄色を好むとは昔から言うし、ちょっと禍の団内部でも彼の彼女候補を探すとするか!』
「想像以上にノリノリだし!?」
『彼に釣りあう存在だからな!人間で、最低でも俺の聖槍を気合で跳ね返すくらいの意志力が必要だな!』
「ハードルたっかぁッ!?アンタ、いくら一度不覚を取った相手だからって過大評価しすぎじゃない!?女と男なんて出会ってから変わることもあるでしょ!?」

……なんか変な人間関係構築してしまった。 
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