劇場版・少年少女の戦極時代

　咲は工場に囲まれた通路に戻り、その光景を目にした。

　黒いスーツの、いかにも「その筋」といった感じの男たちが3人、シャプールを取り囲んでいる。
　内一人、この男だけは上流階級の、そう、執事のような雰囲気だった。

「アルフレッド……」
「お坊ちゃまには死んでもらいます」

（今、何て言った？　死んで？）

「お父様が、本当に僕を？」
「ええ。ですがご安心ください。私がすぐにお父様もあなたの下に送って差し上げますよ」
「え？　ええ？」

　アルフレッドがシャプールの胸倉を掴み上げた。

「私は“財団”の全てを手に入れるつもりです」

　シャプールがアルフレッドに殴り飛ばされ、地面に転がる。さらには顎を掴まれた。

「弱い者とは、自分が弱いとは気づかず死んでいくのですね」

　我慢の限界はそこまでだった。
　咲は腹の底から叫んだ。

「その人から手を離せぇ!!」

　アルフレッドをはじめとする黒服連中が咲をふり返った。

「コドモがオトナの問題に口を挟むもんじゃありませんよ」
「しょうがないじゃん！　知り合いと同じ顔した人スルーするなんて、あと味悪いんだもん！」

　黒服が二人、咲を捕えようと飛びかかってきた。紘汰や戒斗のようにケンカに強ければよかったのだが、残念なことに室井咲はただの小学生でキッズダンサーだ。
　咲はダンススクールの筋トレで培った全身のバネを総動員して避け、黒服の間を潜り抜けた。

「シャプール！」
「サキ…っ」

　助走をつけてアルフレッドに体当たりすればシャプールを助け出せる。咲はそう信じ、アルフレッドの手前で地面を思いきり蹴った。

「だりゃあ！」

　スカッ

「へぶっ!?」

　呆気なく避けられた。しかもシャプールを捕えられたまま。

　転んだ咲は起き上がろうとしたが、アルフレッドが咲の背中を踏みつけた。

「い゛…っ」
「サキ！」

　背中に圧がかかる。息が苦しくなっていく。
　このまま背骨を折られるのではないか。そう思い始めた時、背後でキック音とパンチ音、さらに男の呻き声がした。

「あなたがお坊ちゃまを助けても、得にはならないと思いますが？」
「俺は貴様が気に入らない」

（戒斗くんの声だ）

「それで充分だ！」

　アルフレッドの足が咲の背中からどいた。
　どうにか起き上がりふり返れば、アルフレッドはシャプールを放り出して、殴りかかる戒斗に応戦していた。

　アルフレッドが戒斗の攻撃を避け、数歩離れた位置に立った。

「あくまで邪魔をするというのなら」

　取り出したのは何と、ゲネシスドライバーに赤いエナジーロックシード。――さらには、そのロックシードは、咲がよく知りすぎている形をしていた。

「許さんぞ!!」

　エナジーロックシードが開錠される。

《　ドラゴンフルーツエナジー　》

　アルフレッドは開錠したドラゴンフルーツのエナジーロックシードをドライバーにセットした。

《　ソーダ　　ドラゴンエナジーアームズ　》

　クラックが宙に開き、落ちてきたのは、炎の形をした果実の鎧。鎧がアルフレッドの頭に落ち、彼を装甲し、アーマードライダーへ変身させた。

　大弓を持った、黒と珊瑚色のアーマードライダーが、ここに立った。

『そういえば戦極凌馬に言われていましたね。これを譲る条件に、使う時が来ればシリアルナンバーをつけろと。ふむ。では、新たな“財団”の主君として、タイラント、とでもしましょうか』





　アーマードライダータイラント。戒斗の前に立ちはだかる、新たな敵。

「おい、室井」

　相手はゲネシスライダー。無性に気に喰わないが、咲と共闘するのが妥当だ。そう思い、咲にも戦いの準備を促そうと声をかけたのだが。

　咲は両拳を震わせ、わなわなと震えている。

「室井？」
「あたしのと同じでしかもエナジーのをもらったぁ？　あンのプロフェッサー、ナメたマネしてくれて。おしおきしちゃる！」

　咲は猛然と戦極ドライバーを装着し、同時にドラゴンフルーツの錠前を開錠した。

「変身！」
《　カモン　　ドラゴンフルーツアームズ　　Bomb Voyage　》

　アルフレッドのものとよく似た、しかし所々の意匠が少ないドラゴンフルーツの鎧が、咲の頭に落ちて全身を装甲した。

『同じアームズ……だがコドモ相手では高が知れる！』
『コドモゆーな！』

　お前が怒るポイントはそこなのか。戒斗は猛烈に咲に言いたかったが、月花に変身して戦い始めた咲には届くまい。すでに月花が投げたDFボムがいくつも爆炎を上げている。

　戒斗は諦め、自身も戦極ドライバーを装着し、バナナの錠前を開錠した。

「変身」
《　カモン　　バナナアームズ　　Knight　of　Spear　》

　バロンに変身し、自身もドラゴンフルーツのアーマードライダー同士の激突に飛び込んだ。

　タイラントが振り下ろした弓を月花はDFバトンを交差させて防いだ。だが、大の男と小学生女子では体格差で月花が不利だ。
　バロンは月花が押し負ける前に、バナスピアをタイラントへ向けて突き出した。タイラントは舌打ちして後退した。

『あたしにはピーキーなロックシードばっか送りつけてきたくせに。あたしにはエナジーのドラゴンフルーツなんてよこさなかったくせに！』

　月花はDFバトン2本を繋げてロッドにし、再びタイラントへ向かって行ってバトンを揮った。

　もちろんここで黙って見ているだけのバロンではない。相方はコドモだと己に言い聞かせ、自分がタイミングを合わせる形で、月花と共にタイラントに攻撃を叩き込んだ。


　――刃を交える内にバロンにも分かってきた。

　アルフレッドはアーマードライダーとしての戦歴が浅い。もしかするとこれが初戦かもしれないとさえ思えた。これではアームズのパワー任せに暴れているだけだ。

　さらには、どんな種類の果実のロックシードであれ、ゲネシスライダーになれば武器は弓一択。月花と同じドラゴンフルーツの錠前でも、ピーキーながらも多様な爆弾を持ち味としたバトルスタイルは使えない。

　これらを総合して、バロンと月花のタッグがタイラントに押し勝ったのは必然の結果と言えた。


『これで――仕上げよ!!』
《　ドラゴンフルーツオーレ　》

　月花が爆弾を雨あられとタイラントの足下に投げつけた。それらは爆発し、常のDFボム以上に煙を大きく上げた。

　その隙にバロンはシャプールを立たせた。

　3人は煙幕が晴れる前にその区画から脱出した。 

　直接の戦闘描写ではなく地の文を「分析」にしたことで戦況を伝える手法を取ってみました。皆様、いかがでしたでしょうか？

　条件の「コードネームをつけろ」は100%凌馬の趣味です。