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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-15 紡ぐ未来のその先へ
  Story15-6 絶対神

キリトside

抱擁を解いたあとも、俺とアスナはしっかりと手を握り合い、ユイはアスナのもう片方の腕に抱かれていた。

「ユイ、ここからアスナをログアウトさせられるのか?」

「ママのステータスは複雑なコードによって拘束されています。解除するには、システムコンソールが必要です」

「…………私、それっぽいものをラボラトリーの最下層で見たよ。あ、ラボラトリーっていうのは…………」

「あの、白い何もない通路のこと?」

「うん。あそこを通ってきたのね」

「ああ」

「変なもの、いなかった?」

「いや、誰にも会わなかったけど?」

「ひょっとしたら、須郷の手下がうろついているかもしれないの。その剣で斬ればいいんだけどね」

「え……須郷なのか!? アスナを閉じ込めたのは」

「ええ。でもそれだけじゃないわ。須郷はここで恐ろしいことを…………」

アスナは深い憤りをにじませながら何かをいいかけたが、すぐに首を振った。

「続きは現実に戻ってから話すわ。須郷は今、会社にいないらしいの。その隙にサーバーを押さえて、みんなを解放しないと…………とにかく、行きましょう」

俺は頷き、ユイを抱いたアスナの手を引くと、ドアの吹き飛んだ入り口に向かって走り始めた。


二歩、三歩進み、格子をくぐろうと身をかがめたその時だった。



不意に、誰かに見られている感覚に襲われた。SAOでオレンジプレイヤーにターゲットされたときと同じ感覚だ。


俺は咄嗟にアスナの手を離し、装備し変えた黒い大剣の柄を握った。それを抜こうとした、その瞬間。


いきなり鳥籠が水没した。粘性の高い液体…………いや、そうじゃない。空気が異常に重くなったのだ。体を動かそうとしても凄まじい抵抗のせいで動けない。


同時に、視界のバックグラウンドが黒く塗りつぶされていった。夕陽も鳥籠も見えなくなっていく。


「……な、何!?」

途方もなく嫌な戦慄を感じつつもアスナとユイを抱き寄せようとするが、重い空気が絡み付いてできない。



俺は近くにあるはずの鳥籠の格子に捕まってこの空間から抜け出そうとした。しかし、手は空を切ってしまい、それはかなわなかった。


「ユイ……」

ユイに状況確認をしようとしたが、ユイはアスナの腕の中で体を仰け反らせ悲鳴を上げた。

「きゃあっ!! パパ、ママ、気をつけて! 何か良くないものが……!」

その言葉が終わる前にユイの体の表面を紫の電光が這いまわり、一瞬のフラッシュのあとにはユイの姿は消えていた。

「「ユイ(ちゃん)!?」」


俺とアスナが同時に叫ぶも、反応はない。



濃い闇の中に、二人残されてしまった。俺とアスナは互いを抱き寄せようと必死に手を伸ばした。

だが、あと数cmのところで凄まじい重力に襲われた。

まるで深い粘液の沼底に放り込まれたかのような全身にかかる圧力に、たまらず俺は片膝をつき、アスナは両手をついた。

「キリト君……」

『大丈夫、何があっても俺が守る』そう言おうとした、その時だった。粘液にも負けないほど粘つくような笑いを含んだ甲高い声が響き渡った。


「やぁ、どうかな、この魔法は?

次のアップデートで実装される予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎるかねぇ?」

「須郷!!」

「チッチッチッ、この世界ではその名前は止めてくれるかなぁ。君らの王に向かって呼び捨ても戴けないな。妖精王、オベイロン陛下と……そう呼べ!!」

何かが俺の頭を強く打ち付けた。


どうにか首を動かすと、いつの間にかそこに立っている男がいた。

体には毒々しい緑のトーガ、足にはごてごてと刺繍の施されたブーツと白いタイツ。

顔は作り物のような……いや、ポリゴンによって一から作られた作り物の顔。その顔に醜悪なニヤニヤ笑いが貼り付いている。

間違いない、こいつが須郷だ。

「オベイロン……いえ、須郷! あなたのした事は全部この目で見たわ!! あんな酷いことを…………許されないわよ、絶対に!」

「へぇ? 誰が許さないのかな? 君かい、彼かい? それとも神様かい? 残念だけど、この世界の神様は僕なんだよ!」

その言葉が終わると共に俺の頭にかかる圧力はさらに強くなった。

「止めなさい、卑怯者!!」

須郷はアスナの言葉をスルーすると、俺の背中の鞘から大剣を抜き取り、その手でくるくる回転させる。

「それにしても……桐ヶ谷くん。いや、キリト君と言った方がいいかな? まさかこんなところまで来るとはねぇ。勇敢なのか、愚鈍なのか。

まぁ、そうやってへたばっているんだから後者だろうね。僕の小鳥ちゃんがカゴから逃げ出したって言うんできついお仕置きしようと帰ってきてみれば、カゴの中にゴキブリが迷い込んでいるとはね!

それよりキリトくん。君はどうやってここまで来たのかい?」

「飛んできたのさ、この翅で」

「…………まぁいい。君の頭に聞けばまるわかりさ」

「何……?」

「君は、僕が酔狂でこんな仕掛けを作ったと思っているのかい?」

須郷が指先で剣をバウンドさせながら、嫌悪感すら覚えるニタニタ笑いを浮かべた。

「元SAOプレイヤーの皆さんの献身的な協力によって、思考・記憶操作技術の基礎研究は終了しているんだよ。魂の直接制御という神の業を僕……いや僕たちは、ついに! 我が物にしたんだよ!」

「そんなこと……出来るわけが…………」

「僕の兄貴がね、もうすでに一人の女の子に施しているんだよ。君たちもよく知ってる人さ」

「…………!! まさか…………っ!」

「春宮桜華さんと言ったかな……? 彼女の寂しさの感情を憎しみに書き換えたんだよ。いやー……彼女の想い人の絶望する顔が見たかったなぁ」

フローラ……シャオン……! あいつらは、こんなやつの下らない実験のために…………!

「絶対許さねぇ…………!!」

「須郷、私はあなたを許さないわよ!」

「その憎悪がスイッチ一つで服従に変わるのはそう遠くないよ、君たち」

須郷は、そこで俺の大剣を握り直して、左手の指先で刀身をぬるりと撫でた。

「さて……君たちの魂を改竄する前に楽しいパーティーと行こうか!!

とうとう……待ちに待った瞬間だ。最高のお客様も来てくれたことだし、我慢した甲斐があったものだよ!! たった今この空間の全ログを記録中だ! せいぜいいい顔をしてくれたまえよ!!」


アスナは唇を噛み締めると俺の方を向いた。

「キリトくん、今すぐログアウトして。現実世界で須郷の陰謀を暴くのよ。私は大丈夫だから」

俺はアスナの言いたいことを理解し、左手を振った…………が、ウィンドウは出てこない。


「アハハハハ!! ここは僕の世界だよ? 誰もここから逃げられないのさ!!」


突然、須郷が左手を掲げ、指を鳴らした。暗闇の中から音をたてて二本の鎖が落ちてきた。

その先には幅広のリングが鈍光を放っていた。

須郷はその片方を取ると、俺の目の前に倒れているアスナの右手首にはめ、闇の中から伸びる鎖を軽く引いた。

「きゃあっ!!」

リングがついた鎖が巻き戻り、アスナは右手から吊り上げられた。爪先がぎりぎり床に着くか否かぐらいの高さで鎖は停止する。

「貴様……何を…………!」

その言葉には耳すら傾けず、須郷はアスナの左手首にリングをはめた。

「小道具はいろいろあるけど……まずはこの辺からかな」

須郷が再び鎖を引き、アスナは両手を引かれる格好で宙吊りになった。強烈な重力はまだ影響しているらしく、アスナの眉が歪む。

「いいね……やっぱりNPCの女じゃその顔は出来ないよね。それにこの香りもいいものだ。
現実世界のものを再現するのに苦労したんだ。この頑張りは評価してほしいくらいだよ」

「やめろ……やめろ…………須郷!!」

耐え難い怒りが俺を貫き、その怒りを力に変えて体にかかる重力を吹き飛ばした。

「ぐおっ…………」

右手を突っ張り、体を床からはがした。片膝に全身の力を込めて体を持ち上げる。

「やれやれ、観客はおとなしく……這いつくばっていろ!!」

須郷によって俺の足が払われ、俺は再び床に叩きつけられた。

「ぐはっ…………」

衝撃に思わず声をあげながらも上を見ると、追い討ちをかけるかのように須郷は俺の大剣を背中に突き立てた。

「がっ…………!」

体にざらざらした不快感が走る。分厚い金属が体の貫通する感覚は決していいとは言えない。

「き、キリト君!」

その時、『大丈夫だ』という俺の言葉を言わせまいとしたかのように、須郷が闇を振り仰いで言った。

「システムコマンド。ペイン・アブソーバ、レベル8に変更」

その瞬間、鋭い錐を突き込まれるような純粋な痛みが走った。

「ぐっ…………」

「くくく…………まだツマミ二つ分だよ君。段階的に強くしてあげるから楽しみにしていたまえ。レベル3以下だとログアウト後もショック症状が残る恐れがあるらしいけどね」

その言葉を発すると、須郷はアスナの元へ戻っていく。

「今すぐキリト君を解放して!」

「それは無理だね。僕はこういうガキが一番嫌いなんだよ。何の能力も持たないのに口だけ一丁前のガキがね。

それに、彼のことを心配出来ることじゃないだろう、小鳥ちゃん?」

須郷は背後から手を伸ばすと人差し指でアスナの頬を撫でた。アスナは避けようとするが、強い重力のせいでままならない。

「やめろ…………須郷!!」

必死に体を起こそうとする俺に、アスナは震えながらもちゃんとした声で言った。

「大丈夫だよ、キリト君。私はこんなことで傷つけられたりしない」

「…………へぇ、そうでなくちゃ」

須郷の笑みが変わった。さらに悪質なものに。

「君はどこまでその誇りを保てるかい? 30分? 1時間? 1日?

なるべく長引かせてくれたまえよ、この楽しみを!!」

須郷がアスナのワンピースの胸元の赤いリボンを掴み、布地ごと一気に引きちぎった。

破れたワンピースの胸元から、白い肌が覗いた。

須郷は右手をアスナの素肌へと伸ばし、三日月型に裂けた口から舌を伸ばしてアスナの頬を下から舐めた。

「僕が今、考えていることを教えてあげるよ。

この場所でたっぷり楽しんだら、君の病室へ行く。ドアをロックしてカメラを切ったら、君と二人きり。
そこに大型モニターを設置して、今日の録画を流しながら、君ともう一度じっくりと楽しむ。

君の本当の体……その心の純潔を奪い、体の貞節を汚す。実にユニークな実験だと思わないか!!」

アスナの瞳から、恐怖が形を変えた雫が二粒流れ落ちた。須郷はそれを舐めとる。

「貴様……貴様ァァァ!! 殺す……絶対に殺す!!」

絶叫しながら、俺は必死にもがいた。しかし剣は外れない。

どれだけ咆哮しても、俺の両目から涙が流れても……変わらない現実。



俺の絶叫に被さって、須郷の狂った笑いが高く響き渡った。















Story15-6 END 
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