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小鳥のぬいぐるみ

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第一章

                       小鳥のぬいぐるみ
 セーラ=ノイマンはデンマークの首都コペンハーゲンに家族と共に住んでいる。ブロンドの髪を肩の高さで切り揃えアイスブルーの大きな瞳は優しく微笑みのある穏やかな顔立ちであり眼鏡がよく似合っている。
 小柄ですらりとしておりいつも北欧らしく暖かい服を着ている、その彼女が窓から家の外を見て溜息をついた。
 その彼女にだ、兄のヘルマンが問うた。妹とは違い背は高い。しかし髪の毛と瞳の色は同じだ。顔立ちはごつごつとしていて厳しい。
「外に出られないからか」
「ええ、だから」
 それでとだ、セーラも兄に応える。その見るからに逞しい身体つきの彼に。
「退屈で」
「仕方ないな、それは」
「雪が酷くて」
「こんな時に外に出たらな」
「遭難しかねないわね」
「ああ、今日はな」
「今日もよね」
 ここでだ、セーラは言葉をこう訂正した。兄のそれを。
「酷い雪ね」
「仕方ない、今は冬だ」
「そうね、冬で」
「しかもここはデンマークだぞ」
「北欧のね」
「それならな」
 冬の北欧なら、というのだ。
「もう雪は当然だろ」
「しかも凄く寒くて」
「仕方ないさ、そのことは」
 また言う兄だった。
「だから僕だってな」
「兄さんは、よね」
「いつもな」
 今はしていないが、とだ。ヘルマンは己の身体を見つつ妹に対して誇らしげな笑みを浮かべてこう返した。
「筋力トレーニングをしてな」
「鍛えてるのね」
「ああ、様々な用具もあるし」
 トレーニング用のルームランナーをはじめとしてだ、ヘルマンはそういったものを全て自分のお小遣いやアルバイト料で買っているのだ。
「そうしたもので」
「暇な時に身体を鍛えて」
「ここまでなったんだからな」
「そうね、兄さんはそれでいいけれど」
「それでもセーラはか」
「私はね」
 やはり溜息をつきつつ言うのだった。
「やることっていったら」
「学校の勉強と読書と」
「あとはテレビゲーム位よ」
「飽きるな」
「そればかりだとね」
 どうしても、というのだ。
「どうしても」
「セーラはゲーム上手だしな」
「特にアドベンチャーがね」
「だからな、ここはな」
「ここは?」
「別の趣味をはじめてみるか?」
 飽きてきた他の趣味の他にというのだ。
「そうするか?」
「どんな趣味?」
「そうだな、セーラは手先が器用だしな」
 ヘルマンは妹のその長所から述べた。
「刺繍か何かするか」
「刺繍ね」
「それか何か作るか」
「針とか糸とか使って」
「そう、そうしてな」
「それだと」
 針や糸を使って作ると聞いてだ、セーラはこれを話に出した。
「ぬいぐるみとか?」
「ああ、ぬいぐるみ作るか?」
「私が自分で」
「可愛いぬいぐるみな」
 それをというのだ。
「そうするか?」
「そうね、読書もね」
 まずはこの趣味から話すセーラだった。 
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