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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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おまけ1話『インペル、入っぺる』



 ルフィのじいちゃんに捕まって、あれよあれよという間に連れてこられた監獄、インペルダウン。
 カームベルトのど真ん中にあるのは絶対に脱獄者を出さないようにするためなんだろうけど、個人的には大変ではあったもののカームベルトを渡りきったこともあるし特に不可能とも思えないからから、むしろ海が近くにあってラッキーと思ってもいいのかもしれない。

 ……なんて、思ってた時期もありました。

「……っづあっちゃぁぁぁぁぁあぁあ!」

 死ぬ! 死ぬわ!
 何が殺菌消毒だよ! こんなもんに入ってられるか! 地獄のぬるま湯っていうから良いお湯なのかなぁとか思って入ったらこれだよ! 詐欺だ、これは詐欺だ!

「殺す気!? 殺菌って言うか殺人じゃね!? 消毒ってつまり海賊という毒を消すみたいな!? 殺菌にうまいことかけてみました的な!? そういダジャレでも海賊なら死んでもいいやっていう感じ……みたいな!? っていうか絶対過去に死んだ男いるでしょ、これ!?」

 すぐさまこの熱湯から出て、二人の案内人に文句を言う。
 一人は男、上半身裸で薙刀をもった般若のような顔をしてるハンニャバル。どうやらここの副署長らしい。そしてもう一人は副看守長のドミノ。これは普通に制服を着ていて、サングラスをかけている女の人。

 その二人に唾をまき散らしながら文句を言ったはいいけど、二人の反応がなんだかおかしい。

「……」
「……」
「な、なんだよ。その目」

 もう、ものすごいジト目で俺を見てくる。なんだろうか? 首を傾げると今度はこそこそと二人で会話をし始める。

「本当に海侠ジンベエの弟子で、1億5千万の男なのでしょうか? 副署長」
「師匠とはえらい違いだな」
「レベル2の囚人のような反応でした……というよりもレベル2でもあまり見られない往生際の悪さです」

 なんかものすごい失礼なことを言われている気がする……いったい何だというんだろうか。

 まぁでもあまり気にしていても仕方がないので、渡された囚人服に着替えておく。次いで、いつの間にかそれを見ていた副看守長に手錠をはめさせられる。俺の甚平は俺が捕えられるフロアの看守が没収するということになっているらしい。脱獄する際はとりあえずそこに寄ってから着替えて外に出ようと思う。やっぱり師匠からもらった甚平とココヤシ村のゲンさんからもらった上下の服は俺のトレードマークだ。今着ている囚人服だとなんだか収まりが悪い。

 そんなことを考えながら歩かされてたら、不意に背後から声が。

「ハンニャバル、ドミノ」
「あ、署長」
「ご苦労様です」

 振り向いた先にいたのは真っ黒なコートを着た巨漢。角と翼があるけど……あれはコスプレか何かだろうか、いやどうでもいいか。それよりもこの男が署長らしい。脱獄するためにはこの男を出し抜かないといけない。

 ……出し抜くとか苦手だなぁ。ブッ飛ばすとかならまだ簡単なんだけど。

「あぁ眩しい部屋だ。なぜ俺が一囚人のために……はあ~」

 なんだかぶちぶちと言いながらため息を落とす署長。

「う! ちょっと、ため息気を付けてくださいよ! あんたの息は本物の毒ガスなんだから!」

 息が本物の毒ガス?

「……能力者?」

 質問したものの答えは期待してなかった。
 囚人風情が! 容易く口を開くな! とかなんかそういうことを言われるようなイメージが監獄にはあったから。けど、そんなことはなく署長はすんなりと俺の問いに対して答えてくれる。

「いかにも。俺はドクドクの実の毒人間だ。もしも脱走を考えているのなら諦めることだ。俺にはお前ら全員を処刑する権限とその能力がある」

 どろりと、顔から毒液をにじませながら言うその顔はなるほど。強者の迫力がある。表情にも確かに監獄の署長を任されているという自信とか自負とかが見える。っていうかこれ、つまり触れたらアウトってこと? ぶっと飛ばすのも無理くさいんだけど、そうなると。

 あ、もしかして普通に俺の問いに答えてくれたのはこういう牽制的な意味があったからなんだろうか。悔しいけどそれが目的なら確かに効果はあると思う。もともと簡単に脱獄は出来ないと思ってたけど、これは一筋縄ではいきそうにない。

「それで、どうして署長がここに? わざわざ一囚人を署長が連れていこうとするのは初めてだと思いマッシュけど」

 副署長の言葉だ……しかしマッシュってなんだ。マッシュって。見た目だけでも独特なのに、どんだけこの副署長は独特な人間なんだ。

「こいつは少し特別な事情でな、とりあえずはレベル5に連れていく。ただしもしかすると、すぐにこいつをここから出すことになるかもしれん」
「事情……ですか」 

 署長に副看守長が首を傾げる。俺もわけがわからずに首を傾げる。
 そういえばなんで急にルフィのじいちゃんに捕まえられのかとかは結局聞いてないからわからないんだけど、もしかして俺が急に捕まえられたことと何か関係があるだろうか。

 ルフィたちじゃなくて俺だけに関する事情ねぇ……うん、わからないからいいや。まぁ正直な話、脱獄するつもりだけど、出してもらえるのならそれはそれでありがたいわけだし。

「署長がわざわざこいつを引っ張るのもその特別な事情が関係ありマッシュか?」
「ああ、万が一を起こさないためにな」
「わかりました、では後のことはお任せします。とりあえずあなたにはこれを」

 副看守長が俺にバンダナみたいなのを渡して、そのまま敬礼をして去っていく。副署長も副看守長の後ろについて行ってすぐにいなくなった。

「……さっさとそれを目につけろ」

 あぁ、バンダナじゃなくて目隠しですか。

「……へいへい」

 逆らっても意味がないのでここは素直に言うことを聞いておく。

「では、ついてこい」

 引っ張られるままに署長の後ろをついて行く。途中、まるで何かのリフトに乗っているかのような感じで下に降りて「よし、着いたぞ」という言葉を受けた。
 リフトが開いて、まず思った。

「さむっ!!」
「ここはレベル5極寒地獄。このフロアで貴様は一生を過ごすことになる」

 ……うーむ、なんてこったい。
 目隠しを外す。
 目の前には白銀の世界。氷の世界が広がっていた。




 風が吹く。それは冷気どころではなく、凍気。

 突っ立ているだけで常人ならばすぐにでも凍死してもおかしくはないその監獄フロア。気温だけでも氷点下の世界にあるというのに、常に強風が吹きすさぶそこは体感温度にするならばいったいどれほどの極寒の世界なのか。
 気を抜けばすぐにでも死んでもおかしくはないであろうそのその世界はまさに極寒地獄という名を冠するに相応しく、そこに捕えられている億越えの賞金首の命などいつ凍てついても問題がないという海軍政府の意図が容易に見て取れる。

「……」 

 そこで、ハントが大きくため息を吐きだして遠い目をしていた。

 ここ、インペルダウンの署長マゼランに連れてこられた極寒地獄のフロアの、とある檻。そこに入れられてまだ一時間も経過していない。ここに入るまではどうやって脱獄しようかということばかり考えていたハントがほんの一時間にも満たない時間でそんな遠い目をしているのは、それだけの時間で脱獄を諦めたから……というわけでは当然ない。かといって、もちろん劣悪な環境に身を置いて、本気で命の危機を感じている……という理由からではない。

 確かにこの環境は容易く人の命を奪いうるが、このフロアに身を置く囚人は皆一億越えの人間で、ハントもまた同様に一億越えの人間だ。賞金首の額というものはなにも強さだけで決まるわけではないため一概にはいえないかもしれないが、ほぼ皆一般的な市民からすれば信じられない体力を誇っている人間たちで、そうそう容易く凍死してしまうような生命力ではない。

 ましてやハントは単純な強さだけでいえばこのフロアの囚人たちのそれを遥に上回っている。この異常なほどに寒い空間にあって、ハントがそうそう簡単に凍死してしまうことはあまりないだろう。

 ではなぜため息を吐いて遠い目をしているのか。
 答えは簡単だった。

 ――……えっと?

 首を傾げつつ、自分の目の前に立ち尽くす彼らを、ハントはゆっくりと見回した。
 ハントを囲む囚人の数は3人。それ以外にも囚人はいるようだが、残念ながらもうこと切れてしまっているらしく動く気配はない。

 なぜ囲まれているのか?

 別にハントが何かをした、というわけではない。マゼランがいなくなり、ハントが内心で他の囚人に挨拶をするべきか、けど相手は海賊だからあんまりそういう気分でもないなぁなどどひたすらに考えているうちに気付けば周りを囲まれているという状況になっていたのだ。

「挨拶したほうがいいのか、この状況は?」
「……」

 自分を正面から見つめるロン毛の男へと尋ねるも返事はなし。ニヤニヤとどこかいやらしい笑みを浮かべてハントをただ黙って見つめている。他の二人も同様だ。

 ハントが注意深い人間であれば、この時点で周囲へと目を配って、こと切れてしまっている囚人たちは皆一様に支給されているはずの囚人服を着ておらず、その分ハントの前に立つ3人の囚人たちが服を重ね着しているという事実に気付けるのだろうが、残念ながらハントにはそこまで機転の利くような注意力は存在せず、ただひたすらに首を傾げている。

「おう、お前」
「ん?」

 右から聞こえてきた声にハントが振り向いた時、左にいた男が手錠で繋がれているその両手でハントへと殴り掛かっていた。

 これが彼らの手口なのだろう。

 こと切れている囚人の服が服を着ていないのも元々この3人が彼らの服を奪い取ったから。さすがに1対3ではどうしようもなく、さらにはこのフロアで身ぐるみを剥がされたとあってはいくらなんでも生きていくことは難しい。

 彼らの狙いは問答無用で新しく入ってきた囚人、もとい新しく入ってきた一枚の囚人服とその下着で、ただそれだけ。これまで通りで、これからもその通り。その予定が狂うことは無い……はずだったのだが。

「ほっ」
「うっ、げほぉ」

 残念なことにハントには通じない。

 まるで殴り掛かってくることがわかっていたかのような動きで相手の一撃を避けてそのまま殴り掛かってきた彼の腹を膝蹴り。相手が油断していたのか、ハントの一撃がそれだけ強力だったのか、それともその両方か。ともかくその男はそれだけで悶絶して動かなくなった。

 うめき声が聞こえていることから気を失ったわけではなく、そのまま死ぬということはなさそうだという事実をなんとなく見下ろしたハントは、今度は正面の男と先ほど声をかけてきた右の男へと視線を移す。

「ふざけやがってっ!」
「死ねや!」
「……逆切れだろ、それ!?」

 罵声と共に襲い掛かってきた二人の男に少しだけ落ち込んだ様相を見せつつも、ハントの動きはそれとは裏腹にやはり正確。右の男からのタックル、それを顔面を蹴り飛ばして跳ね返し、次いで正面の男からのなかなかに鋭い自分への顔面への黒い足の蹴りを、ハントは僅かに顔を後ろへと引くことで紙一重に回避。

 ――覇気!

 内心で舌を巻きつつも、だったらとハントも容赦なく覇気を発動。
 相手はハントによって避けられた蹴りの勢いをそのままに今度は軸足を変えて、空手でいう後ろ回し蹴りをこれまたハントの顔面へと放つも、それをハントは屈んで避けながらその軸足を蹴り払った。

「うお!?」

 完全に体の芯を乗せていた軸足を蹴り払われ、たたらを踏む相手。そこにハントの脚が真っ直ぐな軌道を描き、足の小指側の側面――いわゆる足刀蹴り――が顎を蹴り飛ばした。そのまますさまじい勢いで檻の壁へと激突……せずに相手の男はなんとそこから見事な身体能力を発揮する。

 ぶつかりそうになった瞬間に体を反転、檻の壁を蹴り「きえーーーっ!」という奇声と共に壁の勢いを利用した飛び蹴りで今度こそはハントの顔面を蹴り飛ばそうとする。ただしそれも、やはり無駄。そのしぶとさには僅かに驚いたハントだがそもそもの身体能力が違いすぎて勝負にはならない。

「魚人空手陸……しき?」

 一気に決めてしまおうとしたハントがいつものように身構えて、だがそこで覚えた違和感に眉をひそめた。動きを止めそうになったハントだが相手は既に目の前にまで迫っており、その違和感に思考をゆだねる時間はない。

「4千枚瓦回し蹴り!」

 一応の手加減と共に相手の飛び蹴りを、回し蹴りで迎え撃った。結果は――

「うげふっん!」

 ――ハントの圧勝。

 またもや凄まじい勢いで檻の壁へと弾き飛ばされて、今度こそ壁に激突。これで喧嘩は終了。

「……あ、アニキっ!」
「く、くそぉ! てめぇ! アニキに何しやがんだ!」
「……え、俺? 俺が悪いの? マジで?」

 慌ててアニキという男へと駆け寄る二人の男の背中を見つめながら、ハントはがっくりと肩を落としつつも、だがあまり気にしてはいなかったらしく、手錠で繋がれた己の両手を見つめて首を傾げた。

 ――なんだ、今の……違和感?

 手錠のせい……というわけではない。どうやらこの手錠は海楼石らしいが、ハントは非能力者で関係ないし、そもそも海はハントの得意なフィールドでもある。手錠が海楼石入りかどうかはハントにとって関係なく、自由を拘束するということ以外には何の効果も及ばない。

 かといって手が拘束されていたから感じた違和感、というわけではない。手が拘束されているならいるで、それなりの戦い方をするのは当然で、今更そんなところで違和感に覚えるわけもない。

「アニキぃ!」
「くっ、大丈夫だ! 意識はねぇみてぇだが死んじゃいないようだぜ!」
「っくそ! なんなんだよ、ひ弱そうな奴が来たと思ったのにアニキがやられちまうなんて!」

 ひそひそと聞こえる声すらも今のハントの耳には届かない。
 魚人空手陸式は淀みなく発動したし、先ほどに感じたそれはとるに足らないような違和感だった。けれどハントの思考はただその違和感へと向けられる。違和感の大小ではない、その違和感自体が空手家として、いや。魚人空手家として決して見逃せない違和感だとなんとなくハントは思っているからだ。

 ――なんの違和感だ?

 考え込み、そこで少しだけ似たことがあったことを思い出す。

「……アラバスタ……あと空島も、か?」

 誰に言うでもなく、ただ自分の過去を思い出すように呟き、己の記憶をどうにかして脳内から掻きだしていく。
 砂嵐(サープルス)を打ち消すために若葉瓦正拳を打ち込んだ。けれど空気中の水分が少なく、威力が半減したということがあった。空島では少し違うが、雲の海に乗った時に空気に普段とは違うそれを感じたということもあった。

「……空気の違いってことか?」

 いつの間にか胡坐を組んで考え出していたハントが、檻の外へと意識を向ける。檻の外から流れ込んでくる凍てつくような冷気とそれを増長させる凄まじい風を今更に思い出して身震いを一つ。そこで、だがまた首を傾げる。

 ――いや、けど寒いっていうならドラム島も気温だけならきっとこことあんまり変わらないし……じゃあ風か? いや、けどこれぐらいの風なら修業時代に経験してる。暴風雨のなかでだって魚人空手陸式をやったこともあるもんな。

「……っなんなんだ、これ」

 苛立たしげに、ハントは吐き捨てる。いつの間にか後ろから聞こえてきていた声は静かになり、ハントの耳に届くのはただ風が吹く音のみ。脱獄に考えをめぐらせることも忘れて、ただひたすらに檻の外から流れ込んでくる凍える風をその身に受けて、違和感の正体を探っていた。

 最初、ハントの服を奪おうとした3人組も最早ハントを怒らせないようにすることしか頭にないらしく、ただひたすらにハントの背中を見つめてひそひそと声を交わしていた。

「……?」

 視線にも気づかずに首を傾げているハントの瞳には少しずつ別の光が宿ろうとしている。

 


 ハントがインペルダウンに収容され、ただひたすらに首を傾げるという生活を送り始めた頃、ハントを除いた麦わら一味一行は魚人島へと向かう最中、魔の三角地帯と呼ばれる地に入り、新たな敵に遭遇していた。

「いいか! これから取り返さなきゃならねぇもんは大きく分けて二つだ!」
「めし! ナミ! あと影だろ。3つだぞ」
「おお、意外なもんがランクインしてた……ひとまずナミと影の話をさせてくれ」

 ウソップの言葉の通り、既に麦わら一味は影とナミを敵の手に奪われることになっていた。ルフィの言葉も借りるならば食糧もだが、それはひとまず置いておく。影を奪われたのはルフィ、ゾロ、サンジの3人だ。

 影を奪ったという敵の名はゲッコー・モリア。王下七武海の一人でもあるという強敵だ。
 ハントのいなくなった彼らだが、やはりルフィたちが信じられないほどの難敵に遭遇するということは変わらないらしい。

「結婚だと~~~~! ふざけんな~~~~~! クソゆるさ~~~~ん!」

 ウソップの説明を受けたことで、サンジが激昂している。
 ナミを奪った敵の目的はナミを花嫁として結婚することだということが判明したからだ。

「ナミと結婚て勇気あんなぁ……っつうか俺が巨人? ゾンビってそうやってできるのか」

 一人で船縁に立って叫ぶサンジのことは誰も気にせずに、淡々とルフィたちが話を進めていく。

「――まぁなんでもいいが、俺たち3人のゾンビを探し出して口の中に塩を押し込めば影は返ってくんだな? しかしそんな弱点までよく見つけたな」
「弱点にしろ、お前らをまず救出に来たことにしろ、助言をくれたのはあのガイコツ野郎だ」

 ゾロとフランキーの会話に出てきたあのガイコツ野郎とは、ゲッコー・モリアに影を奪われる前に出会った人物のことで、その名はブルック。悪魔の実のヨミヨミの能力によって死んでからよみがえった本物のガイコツ人間だ。

「えー!? ブルックに会ったのか!?」
「会った……会って……野暮な質問ししまってな……いや、お前が初めてアレを仲間にすると連れてきたときにゃさすがに存在ごと否定したがあの野郎ガリガリのガイコツのくせによ、話せばなかなか骨がある、ガイコツだけにな」
「……」

 フランキーのダジャレには誰も反応しなかったが、それでも気にせずにフランキーは話をつづける。
 フランキーのブルックにした野暮な質問とはつまるところ、ブルックが果たしたいと言っていた『仲間との約束』のこと。

 ブルックの約束。それはもう50年も昔の約束。
 約束の場所は岬。再会を誓った仲間の名はラブーン。
 ただその約束を果たすために、ブルックは今を生きている。

「こういう訳で――」
「……」

 そう言って息をついたフランキーの言葉に、絶句したのはその場の4人。ルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ。

「ラブーン」
「あいつだ」
「ほんとかよ」

 そう、彼らは知っている。その名前を。その事実を。
 グランドラインの双子岬。そこで彼らはラブーンに出会っている。未だにブルックたちの帰りを待って、ラブーンはそこにいるという事実を、実際にその目にしたのだから。

「とんでもねぇ話だ……50年も互いに約束を守り続けてたんだ!」
「まさかあのラブーンが待つ仲間の一人があのガイコツだったとは……ハントの言ってた通りってわけだな」
「ハント? ハントが何か言ってたのか?」

 ゾロが驚きの表情のままに呟き落とした言葉に、チョッパーが尋ねる。

「ああ、おれたちゃそこにいたおっさんからラブーンの仲間がグランドラインから逃げ出したって話を聞かされててな、もう帰ってこないって思ってたんだがハントだけは頑なに否定してた。『絶対に帰ってくる! 男の約束は恐怖心なんかに負けるもんじゃない!』って必死に言ってな」
「……そっか、じゃあハントがいたらすごい喜んだんだろうな」

 今はいないハントのことを思い出して、少しだけ顔を曇らせるチョッパーだったが、すぐに聞こえてきたルフィの「うは~! ゾクゾクしてきた!」という言葉で顔をそちらへと向けた。

「あいつは音楽家で! しゃべるガイコツで! アフロで! ヨホホで! ハントが絶対に見つけたがってて! ラブーンの仲間だったんだ! 俺はあいつを引きずってでもこの船に乗せるぞ! 仲間にする! 文句あるかお前ら!」

 当然だが、そこにはもう反対の声はない。
 ひたすらに上がる賛成の声に、ルフィが笑顔で叫ぶ。

「よっしゃあ! 野郎ども! 反撃の準備をしろ! スリラーバーグを吹き飛ばすぞぉ!」

 男たちの雄たけびが上がる。
 と、それはさておき。

「しっかしナミと結婚したいって奴……ハントがいたらどんな反応だったかなー」

 ルフィがふと呟いた言葉にそれぞれが反応を示す。

「そりゃ……どうなんだろうな。案外普通なんじゃねぇか?」
「そうだな、俺もあいつがなんか変わるとは思えねぇな」

 これはゾロとフランキー。

「いや、俺はめちゃくちゃ怒るとみたね。あいつナミのことになると目の色変わるだろ」
「うん、俺もそう思う」

 ウソップとチョッパー。

「あぁ!? あんな奴はしらねぇよ!」

 サンジ。

「敵を皆殺しにしようとしたりして」

 この黒い発言はロビン。

「いや、恐ぇよ!」

 最後にウソップが突っ込みを入れて。

 こんな一幕があったりして、けれどやはり彼らの意気は上がるばかりで、彼らの姿はどこにいても変わらない。
 今はとりあえず、影とナミを奪い返すことを目的に彼らは動く。
 ここは王下七武海、ゲッコー・モリアのテリトリー『スリラーバーク』。
 それが今から崩壊を始めるとは、まだ誰も思ってはいない。




 さて。

 ルフィたちが強敵と遭遇しながらもまた順調に新たな島へと冒険を進めていく話はさておき、ところは戻って再びインペルダウン。
 ハントが感じた違和感の正体を探り始めて既に幾日もが経過していた。

「来い、貴様の役目を果たしてもらう」

 そう言われて、ハントが目隠しをされて連れて行かれることとなった場所。
 目隠しをとったそこで、ハントは絶句していた。
 なぜならそこに。

「師匠に……エース!?」

 ハントの驚きの声がこだまする。

 
 

 
後書き
あとがき
インペルダウンはサクサクと 
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