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東方紅魔語り

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異変終了ー日常ー
  Part16 最強の氷精と闇を操る人喰い妖怪

 俺はいま、森の中を歩いている。
 そして俺は恐らく、絶望の表情を浮かべていることだろう。
 理由は考えるまでもない。
 俺は紅魔館から出た事がない。更に、俺は半ば逃走するように紅魔館を出てきた。
 もう分かるだろう。

 ……道、ワカンネ。

「あああぁぁぁああ!!ふっざけんなよ幻想郷!!」

 自然のあまり無い現代で過ごしてきた俺には、森の中で方向を感知できるような能力はない。
 携帯を使うことも考えたんだが、よく考えてみると意味の無いことに気が付いた。

 全力で走ってしまった結果、もし村の反対方向に走ってしまったらどうするんだ?
 村との距離を0にした時、木とかにめり込んだりしないか?
 飛び上がった後、大気圏突入して死なないか?

 もはや俺は自分の能力に不安しかない。
 ここまで融通の効かない能力なんてあるのか……全く……。

「はあ……ん?」

 違和感を感じ、ふと足を止めた。
 さっきより辺りが暗くなっている気がする。
 朝日が落ちるのには、まだ早すぎる……と、いう事は……。

「ま……さか……」

 幻想郷には妖怪がいる。
 紅魔館の中は安全(?)だった為、少し気を抜いてしまっていたが……。

 闇がゆっくりと森の奥から流れ出てくる。

 闇の球体。

 それが低空で浮かんでいた。
 『幻想郷』『闇』『球体』
 この三文字が当てはまる妖怪を、俺は知っている。

「……ルーミア?」
「ん?」

 黒い球体は俺の言葉に反応し、ゆっくりと地面に降り立つ。
 球体の中心がゆっくりと裂け、その割れ目から黒いワンピースの少女が現れた。
 その少女は金髪で、大きなリボンを頭につけている。
 そして、少女は僅かに首を傾げた。

「私の名前を呼んだのは、あなた?」
「……」

 咄嗟に名前を呼んでしまったが、これはどういった言葉を出せばいいのか。
 いきなり襲いかかってこない、ということは敵意そのものは無いのか?
 つうか、ルーミアって『翼』あったっけ?

「ん?どしたのルーミアちゃん?」
「いや、何か知らない人が話しかけてきたのだー」

 ルーミアの背後に見えていた氷の翼が動いた。
 黒いワンピースに隠れるように、青い髪がチラリと見える。
 ……あの特徴的な氷の翼、青い髪……成る程、⑨か。

「その後ろにいるのは、チルノ……でいいんですかね?」
「むっ!」

 ルーミアの背後から、青い塊が飛び出した。
 青い塊……青い少女はルーミアの前に飛び出ると、腰に手を当てて、胸を張った。

「違う!あたいは『最強』のチルノだ!」

 結局チルノじゃねえか、と内心つっこむが、言葉には出さない。
 チルノの機嫌を損ねてはマズイ。妖精以下と称された俺が、その妖精の中でトップクラスのチルノと戦えば、即冷凍行きだ。
 そしてルーミアもマズイ。妖精よりも二段ほど上位の存在である妖怪。戦闘力ではチルノの凌げるだろう。
 ……ん?あれ?妖精以下って、この世界で勝てる奴いるのか?
 この二人は幻想郷では弱い部類だったよな?

 ……皆、実際に幻想郷に来れても、現実はこんなもんだぜ。と我が友人に伝えてやりたい。

「ねー」

 気付くと、いつの間にかすぐ隣にルーミアが迫っていた。
 ヨダレを出しながら、何やら俺の腕を見ている。

「あなたって、人間だよね?」
「え?まあ、はい。そうですけギャアアァアァア!?」

 いきなりルーミアの牙が俺の右腕の皮膚にめり込んだ。
 や、ヤバイ。人間と分かったら襲ってくるタイプだったか!!

「け、携帯携帯!!」

 無事な左手を使って、電源を入れてアプリを起動する。
 そして一言。

「皮膚の硬さを100に!!」

 それを言った直後、腕に顎の力だけでぶら下がっているルーミアの表情が、僅かに歪んだ。

「か、たい……何これ?」

 ガキガキと、硬い物を噛み砕こうとする音が少し聞こえる。
 もし俺が能力を使ってなかったら、少なくとも右腕は全部持っていかれていたな。
 ……結構真面目に、フランの護衛として守備力100にしておく事を検討せねばな。外は危ないわ。
 と、内心少し心配していると、いつの間にか音は消えていた。

「んむんむ、ダシは」
「味わってんじゃねぇよ!!」

 腕を振り回し、何とか振りほどく事に成功する。
 ルーミアはくるりと空中で一回転すると、両腕を肩の位置まで上げてポーズを取りながら地面へ着地した。そう、あの『そーなのかー』のポーズだ。
 因みにチルノは、まだ腰に手を当てて偉そうにしている。

「まあ冗談はさておいて」

 冗談だったのか?その冗談で俺の腕が無くなりそうだったのだが?

「お兄さん誰なのか?私の記憶が正しければ、お兄さんとは初対面……」
「あぁ大丈夫。君の記憶は完全に合ってるよ、一目も見たこともない初対面です」

 俺が正直に答えると、ルーミアは更に分からなくなったらしく、首を傾げた。

「なら、なんで私の事を知っているのだ?」
「ご都合主義+主人公補正です」
「え?」
「忘れて下さい」

 不思議そうに首を傾げるルーミア一行。
 だけど伝えた所で結局は同じ反応だったろうし、別にいいか。
 と、こんな事してる場合じゃなかったな、早いこと酒を買ってこないと。

 もし失敗したら、今度はナイフの弾幕が張られる。
 無効化できるナイフならまだ希望はあるんだが、あのナイフ弾幕は軽減すらできない。
 多分、どんな原理であれが作られているのかさえ分かればイケると思うのだが、俺の知能じゃ把握することは出来ないんだろうなぁ……。

「じゃあ私はこれで。人里を探さねばならないので失礼します」

 さて、これからどうするかな。
 あれ、そういや紅魔館のある方向も忘れた。
 ……こりゃオワタかな、なんならこんまま紅魔館を逃げ出して身を眩ませるか?

「お兄さん、人里を探してるの?」

 ふと、ルーミアが聞いてきた。

「えぇ。それと、有波と呼んで下さい。お兄さん、なんて呼ばれ方は慣れないので」
「有波、私達と遊んでくれるなら、人里への案内をしてもいいのかー」
「!!」

 人里への……案内、だと?
 おお、やはり神は俺を見捨てはしなかった。
 やっぱり神は人をよく見てるんだな、善良な俺みたいな人間に助け舟を出してくれるんだ……。

 ……まて、学習しろ俺よ。
 ここが何処だか忘れたか?妖怪が住まい、どっかの巫女が『常識に囚われてはいけない』と豪語する場所だぞ。
 遊びと見せかけた処刑の可能性もあるのだ。
 遊ぶ内容を聞くんだ。

「遊ぶとは……何をすれば?」
「ケイドロしようよ。ね、チルノちゃん」

 ルーミアが問いかけると、チルノは再度胸を張った。

「何でもいいよ!なんたって、あたいはサイキョーだからね!」

 ケイドロか……。
 逃げて、追いかけるだけの簡単な遊び。更に命の危険はほぼ無い、此方にとって願ってもない提案だ。

「よし、やりましょうか。鬼ごっこ」
「やったー!じゃあ最初は有波が鬼ね、行こうチルノちゃん!」
「このあたいを捕まえてみろ!」

 女子二人は手を繫ぎながら元気良く逃げ出した。
 うんうん、微笑ましい。
 あ、そうだ、一応確認しておくが…………。
 能力使って大人気なく追いかけても、問題は無いのだろう?




 ケイドロが始まった。
 即座に携帯を起動する。






 あれから数分が経過した。
 そしてケイドロをしている中で、少しだけ疑問ができた。
 それは純粋な疑問、というか愚痴だ。

 ……鬼を氷漬けにしたり、人間相手に空へ逃げるのは、対等なケイドロと言えるのでしょうか?

 速度を100にした高速移動して近付けば即座に凍らされ、存在感を0にして近付こうとすれば、彼女達の素のスピードに追い付けず、自滅覚悟で距離を0にしたら木と一体化したり。
 ……もう、疲れたよ。

「くっそ……どうすれば捕まえられる……」

 考えろ、俺よ。
 肉体や能力で勝てないのなら、他の要素で勝てばいい……。
 奴等は妖怪とはいえ、所詮は少女だ。そこに突破口があるに違いない。

 実力行使は除外、まだ死にたくない。
 罠も除外、あの二人に勘付かれる事なく罠を仕掛けることは出来まい。
 純粋な速度勝負はさっき負けたからやれない。

 ……あ、いい方法考えた。
 これならイケるかもしれない。
 咲夜さんやレミリアお嬢様に見られれば、俺は白い目でこれから見られるかもしれないが、ここにあの二人はいない。

 勝てば良かろうなのだ。

「二人ともー、降参でーす!出てきて下さーい!」

 そう叫ぶと、二人は近くの木の影から出てきた。
 やっぱり近くにいたか、罠なんて仕掛けなくて正解だったな。

「はっはっはー!やっぱあたいサイキョー!」
「有波は大した事ないのかー!」

 勝者の高笑いをする少女二人。
 でもな、ルーミアにチルノよ。
 誰も『ゲームを降参した』とは言ってないんだぜ?

「はい、二人とも確保です」
「「え?」」

 肩にポンっと手を置いてそう言うと、二人は変な声を上げて目を丸くした。

「え?では無くて、二人は同時に私に捕まったのですから、これで終了です」

 にっこり笑ってそう言うと、二人は抗議した。
 有波は降参した!降参した後に捕まえるなんておかしい!と。
 しかし、

「私は追いかけて捕まえる事を降参したのです。誰もケイドロを降参した、とは言ってませんよ?」

 絶句するルーミアとチルノ。
 これが人間の恐ろしさよ。
 人を信用する方が悪い、出て来る方が悪い。

「うー……」

 なんか納得してないような表情で俺を睨み付けるルーミア達。
 でもこの選択は最善じゃない?
 絶対に捕まえられない相手に努力して、数時間ほど汗水垂らして捕まえるより、騙して楽に勝った方が得だよね。
 相手が納得するかしないかなんて、結果の前では等しく無意味なのだ!

「……もういい、人里への案内はしてあげない」
「え?」
「だよねぇ。あれはズルすぎるし、私達も約束破りたくっていうか」
「スンマセンした。次からは正々堂々するので許して下さい」

 かくして、この後に数十分ほどケイドロに参加させられた俺は、全身のスタミナを使い果たした。
 ……悪いことはするもんじゃないね。









 ケイドロが終わり、一時間。
 俺はようやく人里まで来れた。
 道はチルノとルーミアに案内してもらい、護衛してもらい、ようやくここまで辿り着いた。
 更に二人は紅魔館の所を知っているらしく、帰り道も付き合ってくれるみたいだ。
 ありがてぇ、実にありがてぇ。

「さて、人里の酒売り場はどの辺りかな?」

 人里は、『里』というだけあって中々小さかった。
 家は木造。大きさは全体的に小さく、歩く人々の服装は質素な布だ。
 見る限り戦闘能力を持っているようには見えないが、人里の守護者が守っているから大丈夫なのだろう。

 俺達は人里に足を踏み入れた。
 直後、周りの視線が突き刺さってきた。

「………」

 なんでこっちを見て来るのか?と疑問に思ったが、よくよく考えれば、俺の背後に付き添う二人は妖精と妖怪。人にとっては敵なのだ。
 つまり、チルノとルーミア、そして二人を連れた俺は警戒されている、と。
 長居は出来ないみたいだな。

「あんまし歓迎されてないみたいですね、早く買って帰りましょう」
「そうなのかー?」
「あたい達は結構人里に来てるし、嫌な顔はされないと思うんだけど」

 あれ、そうなのか?
 てことは、歓迎されてないのは俺だけ?
 なんでだ!俺は妖怪じゃないし、ここに来たのだって初めてなのに、なんで……。
 …………あの新聞か……。
 やっぱあいつは焼き鳥な、うん。
 新聞に火をつけて、あいつの目の前で鳥鍋を作って食ってやる。
 自分の仲間が食われる様をマジマジと見ながら後悔するといい……ふっふっふ。

「あ、ほら、あの人がお酒を売ってるよ!」
「あぁ、有難うございま…す……」

 チルノが指差した方向には、地べたに座って、酒の入った籠を両側に置いて胡座をかいている男がいた。
 顔は見えない。
 それは『罪』と書かれた袋を被った不審者だった。
 何故か紅霧異変の時に現れ、何をしたかったのか分からないうちに弾けて混ざった男だった。

 その人物の事を、俺はこう呼んでいる。

 罪袋、と。

「……ん?どうしたの?お酒、買いに来たんでしょ?」
「いや、あの……うーん……」

 正直な所、あまり関わりたく無い。
 あれが異変時の罪袋かどうかは分からないが、やはり一度は敵対した事のある姿の人間。会いたいものではない。

「おっと、お兄さん、何をお求めで?」

 見ていると、彼方から話しかけてきた。
 そうだ、以前は敵だったとしても、今は売り手と買い手。
 避ける必要はない。
 よく考えたら、俺達レミリアファミリーは幻想郷に喧嘩を売ったようなもんだ。
 敵対していた全ての人を避けていたら、俺は紅魔館から出ることができない。
 ここは腹を括ろう。

「えーと、酒をたんまり。宴会をするから、出来るだけ沢山」
「了解致しました。宴会となると、領収書付けます?」

 領収書とかあんの?
 まあ金とかあんまし持ってないし、普通に紅魔館に付けと……。

「……はい、宛先はーーー」




「有難うございましたー!」

 なんとか酒を買うことが出来た。
 今の俺は、携帯を起動して力を100にし、酒の積まれた荷車を引いている。
 さて、後は紅魔館に帰って酒を咲夜さん辺りに預けなければいけない……が、恐らく、今から紅魔館に戻っても誰もいまい。
 咲夜さんは時間にルーズだ。
 4時に来てくれと言われたら、3時にそこに着くような人だ。
 行き帰りに2時間、だが帰りは酒を持っているため、スピードは落ちる。

 宴会準備の為の三時集合。
 咲夜さんの性格を考慮して、レミリア達が紅魔館を出るのは二時。
 俺が紅魔館を出たのが約一時で、ここまで一時間ほどかかった為、現在は二時。
 俺がここから紅魔館に着く時の時間は三時。

 俺が紅魔館に着く頃には、既に咲夜さん達はいないだろう。

 なら……。

「ルーミアさん、チルノさん、行き先を変更します。博麗神社の場所をご存知ですか?」
「博麗神社……あぁ、霊夢達がいるところ?あたいは当然知ってるけど」
「目的地をそこにします。案内頼めますか?」
「OK!!」

 宴会が行われるのは博麗神社前。
 ここから直行すれば、あと少しで移動を始めるレミリア達と上手く合流できるかもしれない。
 よし、行くか。

「じゃあ出発!」

 俺はそう言って、荷車を引いた。




ーー現在の咲夜さん視点ーー



「お・そ・い」

 お嬢様、妹様、パチュリー様、そして私は門の前で待機していた。
 早めに準備を終わらせて、いつでも行動できるようにしていた。
 後は博麗神社まで行って宴会の準備するだけなのだけど………。

 いつまで経っても有波が帰って来ない。
 酒担当の有波が帰ってさえくれば、ここから博麗神社に直行できるのに、あの男は帰って来ない。
 トラブルでもあったのかもしれないけれど……あの男は無駄に悪運が強い。妖怪に会っても、まあ死ぬことは無いだろう。

「うーん……有波遅いね、美鈴〜」
「そうですね〜。まあ彼は人間ですし、時間はかかるでしょう」

 そう、あいつは人間だし、多少は遅くなっても文句はない。
 だが、有波が飛び出してから何時間経過したか…………。

「……もしかしてだけど」

 ふと、パチュリー様が口を開いた。

「あいつ、博麗神社に直行したんじゃないの?私達が先に行ってると思い込んで」
「いやパチェ、流石のあれもそんな……。大体、博麗神社の場所だって知らないのよ?」
「人里に向かう途中で、無害な妖怪とか、妖精とかと仲良くなって、道案内してもらってるんじゃない?」
「そんな馬鹿な……」

 まあ、その心配はないと思う。
 あの男の頭がそんな回るとは思えないし、初対面の妖怪や妖精と仲良くなるなんて不可能だ。

「まあ、あと少しだけ待ってみるわよ。それで帰って来なかったら、人里に一回寄って、その後に博麗神社に行きましょう」

 会話の後のレミリアお嬢様の一言で、私達は待つことになった。
 もしこれで博麗神社に直行していたら、あの新聞と共に燃やそうと思う。
 
 

 
後書き
オリジナル小説って憧れますよね。
作ろうと頑張っているものの、異世界転生物はありふれてて書きたくないんですよねぇ。
といっても、私はファンタジー系しか書けないし、どうしたものか…………。

はい、というわけで、私はオリジナル小説執筆の為に投稿が遅れます。
どんな世界観にするか……ここが一番難しい。

そして有波にどんな罰ゲームを浴びせるべきか、これもまた難しい← 
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