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東方紅魔語り

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異変終了ー日常ー
  Part15 不幸の黒と宴会の罠

 異変は終わった。
 あの後、フランを満足させた後にレミリアが自ら核を壊したらしい。
 そもそもこの異変も、フランが暴走するのが分かっていたが、自分の妹を自分で傷つけたく無いレミリアによる策略だったらしい。
 らしい、というのも、俺はその場面に遭遇していないのだ。
 精神的疲労により、俺はフランとの戦闘後、すぐにベッドで寝込んでいた。

 そして、今は異変解決から10日経った紅魔館。

「あ、ちぃ……」

 俺はいま、紅魔館の窓掃除をしている。能力を使って外壁を登り、外から窓を拭いているのだ。
 今は夏。雑巾を持って、照りつける日差しの中、汗まみれになっている。
 俺はクビにはならなかった。仕事はちゃんとこなしたから、らしい。
 そして異変が終わった今は、戦力ではなく執事のような役割を任された。
 ……執事って、窓掃除すんの?主の近くに立って世話するんじゃ……まあ咲夜がいるし、別にいらないのか。
 それにしても、あっついな……あぁ暑い。

「こんにちはー!」

「ん、あぁ、文さん。こんにちはです」

 いつの間にか背後にいた、黒い翼の女性。
 射命丸 文。
 ……いいのだろうか、いま関係を持ってしまって。風神録のキャラだった筈だろう。

 因みにこの射命丸、異変の詳しい話としてレミリアと霊夢が話し合っている時に、紅魔館修復係として駆り出されていた俺の前に現れた。
 まず異変ではどっち側だったかと聞かれ、レミリア側だと言ったら異変の理由を聞かれ、俺の知る範囲の情報を与えたら、一言お礼言った後に飛び去っていった。

 そして今度は窓拭きをしている俺の前に来た。
 何の用だろうか?

「文々。新聞仕上がりました!とりあえず最初は情報提供者である有波さんに、と思いまして」

 肩にぶら下げた鞄の中から一枚の新聞を取り出し、それを差し出してきた。
 ……いやバカかよ。俺はいま壁を重力に逆らって歩いてんだよ。読みにくすぎるだろ。

「あ、ちょっ、ちょっと待って下さいね。とりあえず下に降りましょう」

 スマホはもう起動してある。ポケットの中にアプリを開いたまま、一時停止にしてあるのだ。

「衝撃を0に」

 能力によって壁に張り付いていた俺の体は、新たな能力の命令によって切り離された。
 背中から真っ逆さまに墜落していく。
 そして何の抵抗のなく、50m近くの高さから地面に落っこちた。
 だが音は無く、埃も立たずに、痛み無く着地した。
 こういう時には万能な俺の能力。仕事なくなったら、その時は雑用何でも屋でもするか。戦闘はNGで。

「大丈夫ですかぁ?」

 パタパタと黒い羽を動かし、低空飛行しながら近付いてくる射命丸。
 雑用系万能っても、ああいうのはいいなぁ。俺の場合、空中に浮遊すると、いつか宇宙空間まで飛んでいくしな。
 さて、そんな事はどうでもいいとして……。

「大丈夫です。あぁ、新聞ありがとうございます」

 新聞を受け取り、中身を見た。
 えーと、なになに?

【紅霧異変の全貌!!
今回、私射命丸は、紅魔館に住む人間の有波 布羽化さんにインタビューを試みました!

今回の異変の首謀者は、吸血鬼のレミリア・スカーレット!
そしてそれに従う、暴力メイドの十六夜 咲夜。情弱魔法使いのパチュリー・ノーレッジ。我儘吸血鬼のフランドール・スカーレット!】

 おいこら待て。
 なんだこれ、序盤にして既に言ってもない事が書かれていやがる。
 確かに、
 『咲夜さんに命令されて』
 『喘息で倒れたパチュリーさんを』
 『フランさんの遊びに』
 とは言ったが、誰も『暴力』『情弱』『我儘』なんて言ってねぇぞ!!

「射命丸さ……!!」

 横を見てみるが、既に射命丸はいなかった。
 黒い羽が宙を舞っている。
 ふむ、新聞を配りにいったのか。
 なら俺も仕事に……

「……ああぁぁぁあああ!!!!」

 ヤバい!あのデマ新聞がばら撒かれたら俺が終わる!
 咲夜やパチュリーに殺される!!危険度No.1の咲夜さんは一番怖い!

「射命丸ゥゥゥゥウウウウ!!!」

 速度を100に!追いついて新聞を……

「有波!!」

 背後から聞こえる声。
 慌てて振り返ると、そこにはメイド服に身を包んだ銀髪のメイド……咲夜が立っていた。

「どこに行く気よ、もう窓掃除は……ん?何よ、これ」

 咲夜は足下に落ちていた紙を拾った。
 ……あれ?あの紙って……いやいやまさか、あの新聞は俺の手元にある。あれはただの似ている紙だ。うん。

「えーと、なになに?紅霧異変の……」

 なんか読んだ事のあるフレーズだが、間違いだ。
 違う。
 俺の手元に新聞はあり、俺は一枚しか手渡されていない。
 二枚もあるわけ……。
 紙を読んでいる咲夜の手が震えている。背中からスタンドっぽいのも見える気がしてならない。
 ……えーと、まさか……。

「有波?何なのコレは?」

「あンの野郎!新聞を落として行きやがったな!?もう二度と『清く正しい射命丸』なんて呼ばねェ!!!」

 いつの間にか咲夜の両手に構えられた銀のナイフが、太陽の光で輝く。
 咲夜さんは笑っている。主に口だけ。
 目は悪鬼の如く……。

「生命力を100に!!」

「何なのこれは!」

 ナイフは最初に右手へ突き刺さった。
 次に左手、両足、心臓部へと突き刺さっていく。
 痛みはあり、是非とも絶叫したい所だが、今は弁解の方が先だ。

「ち、違うんです。あの天狗が勝手な妄想を……」

「じゃあこの、『フランさんの身長は124〜128cmで、恐らく体重は………で、髪の毛の中で一番長い髪の毛は……』ってのは?」

「……紛れもない。一言一句全て俺の言葉です」

「死ね!!」

 最後のナイフは脳天に突き刺さった。
 そういや、最後のフランについての所だけ、取材中の射命丸の目が虚ろになっていた気がするが……一応記事にはしたんだな。
 天晴れ、記者魂。





「はい、というわけで皆さん。意見をお願いします」

「いや何がよ」

 紅魔館の中。食卓の間にて、レミリアが怪訝な顔で尋ねてきた。
 因みに、この場にはレミリア、フラン、パチュリー、咲夜が集っている。
 俺が全員を集めた……わけではなく、昼時を狙って駆けつけてきたのだ。
 理由はある。

「それがですね。先程、魔理沙さんが此方まで来られて、レミリアお嬢様に伝言を、と」

 そう、俺が自室で休んでいると、そこに魔理沙がやってきて伝言を伝えてきた。
 なぜ窓ガラスを突き破って入ってきたのか、というか門番は何をやっているんだ、と様々な疑問は生まれたが、とりあえず了承しておいた。
 内容は……

「『異変解決後の定番、宴会があるみたいだから、首謀者の紅魔館の奴等も来るといいぜ!拒否権は無い!!』……らしいです」

 まずその言葉に、少し眉を潜めたレミリア。
 次に、あからさまに面倒だという表情を見せたパチュリー。
 次に、即座に眼を輝かせたフラン。
 次に、完全無表情の咲夜。

 フラン以外の全員、『別に嫌ではないが……』という、少し複雑そうな表情になっている。
 まあ無理もないか。異変を起こして10日しか経ってないのに、そこで今度は皆の前で酒を飲み合うなんて……おぉ、俺も行きたくなくなってきた。
 よし、ここは……

「やっぱ無理に行く必要は無いですよね。私から断って……」

「えー……フラン行きたーい!」

「行きましょうお嬢様。何でしたら俺とフラン様だけでも……」

「とりあえず落ち着きなさい。なんなの?貴方のそのフラン限定の忠誠心の高さ」

 レミリアは立ち上がったフランに座るように指示すると、少し考え込むようなポーズを取った。
 何を考えているのか……いや、宴会に行くか行かないか、だろうけど。

「……断ってもいいんだけどねぇ……異変首謀者である私達が行かなかったら、まるで逃げたみたいになるし……」

 少し考え込んだ後、レミリアは深いため息を付いた。

「……しょうがないわね、行きましょ。逃げたと思われるのも釈だし」

 その言葉にフランは飛び上がった。文字通りに。
 でも俺は行きたくねェ……。
 理由?今朝に鴉天狗が不幸を配りにいかなければ問題はなかったんだよ。

「でもお嬢様。宴会というと人は沢山来るわけです。もし今朝の新聞の件が広まっていたら……」

「それは俺も、正直不安しかありません。あの取材答えたの俺ですし、一番注目されるじゃないですか」

「自分の保身しか考えてないのね、貴方」

 そりゃまあ、やっぱ自分が一番可愛いよね。
 ……あ、そういえば俺は行かなくていいのか。俺は紅魔館の正式な一員じゃないだろうし、宴会に行くのはレミリア達だけで……。

「まあ俺には関係ないですね。では行ってらっしゃいま」

「あんたも来るのよ。あんたはどう考えても関係者でしょうよ」

 なん……だと?
 あ、いや……そうか。レミリア側に付いた時点で、もはや俺も当事者なのか……。
 うぐっ……やべ、吐きそう……。

「お、お嬢様。少し吐き気がするので、宴会は行けそうになく」

「……フランが一緒に行きたそうよ?」

「ん?んー……有波も一緒に行こうよー!」

 よし、吐き気は収まった。
 行くしかあるまい。フランが誘ってくれているのだ。
 レミリアが言ってからフランが言うまでに、少し間が空いた事は気にしない。
 とりあえず、あの鴉天狗も宴会には来るだろう。
 焼き鳥にして……いや、まだ死にたくないし、改稿した新聞を再度作ってもらうか。

「分かりましたフラン様。この有波、防御力100になってフラン様の絶対鎧として護衛を……」

「あんたの中の宴会ってなに?殺し合い?」

 レミリアは呆れた感じで言うと、席を立った。
 いつの間にか昼食は食い終わったらしい。空になった食器が置かれっぱなしになっている。
 レミリアは俺達に背を向けて、自室の方へと歩き始めた。

「ま、宴会ってあれでしょ?夜でしょ?なら私は一休みさせてもらうわね」

「いえ、『宴会は五時』からスタートらしいです。更に、首謀者の俺達は準備をしないといけないらしく……移動、準備の為に二時間ほど早く出なければなりませんね」

 その言葉に反応を示したのは、メイド長の咲夜だった。

「なっ……いま何時よ?」

「はあ……12時55分ですね」

「あと二時間から三時間ちょっと……?ちょっと待って?それって料理とか酒とかは」

「ん?えーと……」

 そんなこと書いてあったかなぁ?どれどれ……。
 あー、書いてあった。
 こんな重要なもんを紙の端なんかに書くんじゃねぇよ……ふむ。

「食料関係は彼方が揃えるみたいです。ですので、俺達は酒を持っていく係に……」

「……まずい」

 え?まずい?
 なんだろう、嫌な予感が……。

「どうしたの咲夜?お酒なら酒蔵庫にあったと思うけど」

 様子のおかしな咲夜に、レミリアが首を傾げて尋ねる。
 酒蔵庫か……この館なんでもあるなぁ。
 ……デスソースとかないかな?俺の立派な武器になるのになぁ。
 そんな事はともかく、様子のおかしな咲夜は顔を青くしながら、言った。

「それが……異変の時に……ですね……部屋ごと消し飛んでしまったらしく……」

 その言葉に全員が固まった。
 消し飛んだ……?
 酒蔵庫が?
 どうやって?
 弾幕ごっこは図書館と紅魔館の庭でしか行われていない筈。部屋ごと消し飛ぶなんて……。

「近くにクレーターがありました、まるで『隕石が直撃した後』みたいに……」

「あ」

 それって……まさか、あれか?
 俺が高速移動中に墜落した時の、あのクレーターか?
 なるほど。あの近くに酒蔵庫があったのなら、衝撃波で全部粉々になるよな。
 はっはっは。

 ……嘘だろ……。

 フランも気付いたのか、少し咲夜から目線を逸らしている。
 よしフラン、そのまま黙っていてくれ。バレたら串刺しに……。

「……そういえば、二日前にフランが言ってたわね」

と、唐突に口を開いたのはパチュリーだった。

「『戦闘中に有波が急に落ちて、すっごい大穴が開いた!!』って……あんまり良く分かんない説明だったから聞き流していたけれど、いま、何となく分かった気がするわ」

 全員の視線が俺に集中した。
 レミリアからの冷たい目、咲夜からの険しい目、フランからの同情の目、パチュリーからの……あ、本読んでる。
 とにかくだ、あれは不可抗力だったのだ。
 そう、説明すれば分かってくれ……。

「また貴方なのね……ふぅ」

「ナイフじゃ、もう物足らないみたいね。足と床を釘で固定してあげようかしら」

「えーと……有波ごめんね?」

 俺が必死に上げてきた好感度の下がりを感じる。
 待て、待ってくれ!

「で、でもほら、俺もあの時は必死だったわけですし、不可抗力で」

「でも、あんたが原因だって事は変わんないでしょ?」

 レミリアの容赦ない言葉が突き刺さる。
 そして咲夜が一言。

「有波?」

「はい」

「買ってきなさい」

「……はい」

 俺はその場から逃げるように、二階の窓から飛び出した。
 ……理不尽だ。





ーーーーーーーーーー


 紅と黒の入り混じる空間の中、それは動いた。
 キシキシと、硬い何かが擦れる音を、それは奏でる。

『……ふひっ』

 音は笑い、細い細い腕を外へと伸ばす。
 そして『また』、誰かの足を引っ張った。 
 

 
後書き
射命丸さん降誕。
思ったんですが、フランヒロインって難しい気しかしない。
子供っぽく第三者として付き纏う、の方がキャラ的に合ってる気がしますわ。
ということは、ヒロインは咲夜さん……?でも私、咲夜さんの設定、あんまり知らないんですよね。
……wiki様に力を借りるか。(←ダブルヒロインも考えてる私) 
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